●WiMAXルーターとWiMAXパソコンの共存
この記事を読んでいる多くの方は、すでになんらかの通信事業者によるブロードバンドを自宅に引き込んでいると思う。自宅でPCを使う個人ユーザーはもちろん、SOHOレベルのオフィスにおいても同じことができる。ブロードバンド接続は、光ファイバーによるものかもしれないし、ADSLかもしれない。そして、当たり前のことだが、そのためには、しかるべきコストを支払う必要がある。
モバイルでのインターネット接続は、これまで、こうした既存のブロードバンド接続に追加で導入するものだと考えられてきた。つまり、月額数千円の自宅ブロードバンド費用に加えて、外出先で使うための数千円がプラスされるわけだ。あわせて1万円近い出費は、よほどヘビーなユーザーでもない限り、インターネット接続に対して出せる金額の限度を超えている。それ以外に携帯電話料金も支払わなければならない。通信費にそんなに予算は割り振れない。だからPCでのモバイル通信はまだまだニッチだとされてきた。
自宅のブロードバンドを外に持ち出すことはできない。でも発想を変えてみてほしい。モバイルインターネットは自宅で使うことができるのだ。とはいうものの既存のモバイルインターンネットサービスの多くは、自宅で快適にインターネットを活用するためには、どうしても帯域幅の点で不満が残る。外出先でちょっとメールをダウンロードしたり、ブラウザで情報を収集するといった用途には十分でも、動画のオンデマンドサービスを楽しんだり、家族が別のPCで、個々にインターネットを楽しむには帯域幅が足りない。だから、自宅では固定ブロードバンド接続が必要だとされてきた。
ところが、WiMAXのように、比較的広い帯域で接続ができるのであれば、既存のブロードバンド接続を置き換えることも十分に視野に入ってくる。10Mbpsを超える帯域が得られるのなら、たいていの用は足りるはずだ。
アイ・オー・データ機器製のWiMAXルーター「WMX-GW02A」。自宅でもWiMAXを用いて、複数のPCをインターネットに接続できる
もちろん、複数台のPCで回線を共有するのであれば、WiMAX対応ルーターの導入を考えた方がいい。ただ、その場合もWiMAX搭載PCとの併用が有利だ。自宅では、個々のPCからルーターにWiFiで接続してWiMAXを使い、出先ではそのPCをそのまま持ち出して追加オプションで接続すればいい。予算も最低限ですむ。現状の機器追加サービスで複数同時接続はかなわないが(※くわしくは前回連載参照)、どうせ昼間は自宅にいないのだから、ルーターの接続は切れてもかまわないという割り切りができるのなら、これは、かなりのコスト軽減になる。
実際、一人暮らしのマンション住まいといったケースでは、留守の間に自宅のPCがインターネットに接続している必要はない。人によっては外出用と自宅用のPCは同じノートPCですむかもしれない。その場合はWiMAXルーターも必要ない。近未来まで視野にいれれば、自宅にある家電機器の遠隔操作や、自宅PCに置いたデータの取り出しなど、留守中の自宅内の各デバイスがインターネットに接続していなければならないさまざまなニーズが出てくるかもしれないが、そのときはそのときで、方法を考えればいいし、WiMAXも、そうした時代に応じて新たなサービスを提供するようになるだろう。
●帯域を生かせるPCのパフォーマンス
インターネットの接続帯域幅は、PCの見かけのパフォーマンスに大きな影響を与える。PCがインテル® Core™ i7 プロセッサーやインテル® Core™ i5 プロセッサーなどの高性能CPUを搭載していたとしても、インターネット接続が高速でなければ、Webブラウジング程度の作業でさえ不満を感じる場合がある。そして、逆に、帯域幅が広くても、PCの性能が低ければ、やはり同じように、その帯域幅が生かせない。たとえば、どこかのサイトを開くといった日常的な行為でも、十分な帯域幅でデータが送られてきているのに、ブラウザがページのレンダリングでもたつくようでは、快適なインターネット体験はできないということだ。
WiMAXルーターを電波条件のよい場所に設置し、高性能なPCをWiFiで接続してみるとわかるが、インターネット体験の体感速度はネットブックなどで接続した場合に比べると格段に上だ。PCが要求する速度でデータを受け取ることができ、さらに、そのデータをPCが十二分の性能で処理するという、双方の条件が整ったときに、WiMAXは単なるモバイル通信サービスではなく、人間のみならず、街そのものを包み込む広域無線LANのサービスであることを実感できるだろう。
画面解像度、プロセッサーの性能、携帯性をバランスよく盛り込んだモバイルサブノート。ある意味、モバイルブロードバンド時代の要請に応えたプラットホームといえる
QVGA程度の解像度しか持たないスマートフォンや携帯電話でのインターネット体験とは異なり、PCでのインターネット体験は、すでに、モバイルサブノートでさえWXGAは当たり前、自宅に据え置かれたPCではフルHDのスクリーンを駆使するようなインターネット体験も珍しくない。当然、それに伴って、携帯端末とは比較にならないほどの量のデータがやりとりされる。
ネットブックの登場により、PCを携帯し、外出先でも高解像度な画面でインターネットを楽しむニーズが、確かに存在することが証明された。これは、ネットブックの果たした大きな功績だ。さらに、その性能に不満を感じたユーザーのために、CULVプロセッサーを搭載したモバイルサブノートも登場するなど、これまでのスキマを埋める製品群が着実に登場してきている。これらの新世代PCを快適に使うためには、いつでもどこでも、そして広い帯域幅でインターネットを利用できる環境が必要だ。そして、WiMAXは、そのための条件をすべて備えているといえるだろう。未来のことはわからないが、今、手に入るテクノロジーとして、そして、その将来性を考えたときに、現状もっとも現実的な解として、選ぶにふさわしいサービスだといえるのではないか。
[Text by 山田 祥平]