●通信がPCの体験を塗り替える
個人的には、PCを使い始めてからすでに四半世紀を過ぎてしまっているのだが、そのあいだ、こりゃ世の中が変わるかもしれない、と思ったことが何度かある。そういう瞬間に何度か立ち会えてきたことは自分でも幸運だと思う。
最初は1985年で、300bpsのモデムを電話回線につなぎ、ピーギャーという音のあとにパソコン通信サービスのlogin: というプロンプトが表示されたときだった。この日から、目の前のPCは、電話と同じようにコミュニケーションのための通信機になった。
その次は、パソコン通信サービスの体験からずいぶん時間がたった1997年のこと。この年、PHSによるPIAFSで32Kbpsの高速(!!)インターネット接続サービスが始まった。それを体験したときにも似たような感動を覚えた。さらにその次は2000年で、この年、自宅にADSLが開通した。
2003年には、インテル®がノートPC向けプラットフォーム「インテル® Centrino® プロセッサー テクノロジー」を提唱し、それを受けて各PCベンダーが、インテル®の内蔵無線LANチップを搭載したノートPCをこぞって発売した。つまるところは、ここから無線LANを内蔵したPCの一般化が始まったのだ。確か、東芝のdynabook SS S7が個人的に常用した最初のインテル® Centrino® プロセッサー テクノロジー機だったと思うが、それで外部機器を接続しなくても、自動的にネットワークにつながってしまう便利さを知った。それまでは、PCカードを使い、スロットからニョキっと飛び出すモジュールで無線LANを使っていたのだから、手軽さという点では大きな進化だった。
インテル® Centrino® プロセッサー テクノロジーによって、PCの多くが無線LAN機能を内蔵するようになり、もはや、そうでないノートPCは探す方が難しいくらいだ。例に挙げるのは失礼かもしれないが、今や、南方の宮古島のリゾートホテルに泊まったって、ロビーには無料で使える無線LANスポットが解放され、コンパクトなノートPCを持った若い女の子が翌日のレジャー情報を調べたりしている。ちょっと前なら若い女の子がリゾートにPCを持参なんて考えられなかったはずだし、インターネットなど夢のまた夢だったと思う。そのくらい、インテル® Centrino® プロセッサー テクノロジーは世の中を変えたということだ。
●通信の概念を変えるWiMAX
思い返すとなぜか通信に関することばかりなのだが、直近に感じたパラダイムシフトは、やはり、WiMAX内蔵PCを使ったときだった。
ご存じの通りWiMAXは、日本ではUQコミュニケーションズが2009年初頭から一般公募モニターによるサービス提供を開始、7月から有料の本サービスを開始した無線ブロードバンド通信サービスだ。早い話が広域無線LANといえばわかりやすいだろうか。当初は外付けのUSB端末等を使っての接続だったが、この夏以降、続々とWiMAXモジュールの内蔵PCが登場している。かつてのインテル® Centrino® プロセッサー テクノロジー登場のときと同じようなパラダイムシフトを起こしそうな勢いだ。
現在、入手が可能なWiMAX内蔵PCは、「Echo Peak」のコードネームで呼ばれていたインテル®の通信モジュール「Intel® WiMAX/WiFi Link 5050」を搭載している。このモジュールのサポートは「インテル® Centrino® プロセッサー テクノロジー」改め「インテル® Centrino® 2 プロセッサー テクノロジー」のオプション条件であり、インテル®の強力なプッシュ施策だ。
WiMAXの規格は世界標準であり、また、Wi-FiモジュールとピンコンパチブルなWiMAX通信モジュールは、ノートPCへの実装も比較的容易なため、今後は、モバイルPCの標準装備として採用されていく可能性が見えてきた。つまり、インテル® Centrino® プロセッサー テクノロジーによって無線LANが爆発的に普及したように、インテル® Centrino® 2 プロセッサー テクノロジーが、WiMAXを爆発的な普及に導くかもしれないのだ。
●液晶を開けばすでにインターネットにつながっている
おそらく、外付けのUSB端末を使っての接続体験では、WiMAXと、その他の3G通信手段等の違いを実感として感じることは少ないかもしれない。もちろん、平気で10Mbpsを超えるような帯域の広さは3G通信を大きく上回るが、接続の手間という点では、あまり変わらない。USB端末を接続しっぱなしにしておけばすむ話だが、やはり、その出っ張りは気になるだろう。
ところが、WiMAXモジュールを内蔵していれば、この「接続」ということを考える必要がなくなる。それまでは、通信をしたいと思ったら、カバンから端末を取り出し、それをPCのUSB端子に装着し、認識されるのを待つという手続きが必要だった。でも、内蔵されていれば、おそらくは、液晶ディスプレイを起こしてPCをスリープから復帰させ、Windowsへのログオン画面でパスワードを打ち込んでロックを解除するころには、すでにインターネットにつながっている。端末を装着するとか、接続を確立させるとか、そういうことはいっさい考えなくてもいいのだ。
無線LAN機能付きルータを使っているユーザーのほとんどは、自宅に戻って、PCをスリープから復帰させれば、そのまま自動的に宅内のアクセスポイントにつながり、インターネットが利用できるように設定しているだろう。WiMAX内蔵PCでは、外出先の任意の地点で、さらには移動中に、ノートPCを開けば勝手にインターネットにつながってしまうという画期的な環境を実現できる。これまでの通信は「つなぐ」という行為と不可分だったが、WiMAX内蔵PCは、その概念を大きく塗り替える。「インターネットにつながっているPCがスリープから復帰する」というイメージは、まさに、パラダイムシフトだ。この体験をぜひ、多くの人に味わってほしいと思う。
[Text by 山田 祥平]