NUCだろうが拡張できてナンボだ!

自作PCの“小さくて新しい”世界

 自作パソコンの人気が下降線なんていう悲しい話も出ているが、そんなところに「喝」を入れるのが「NUC(Next Unit of Computing)」だ。インテルが直々に投入した新たなフォームファクタのベアボーンキットとマザーボードで、これまでにない小さなサイズにPCとしての機能がギュッと詰まっている。ここでは、AKIBA PC Hotline代表として私なりのNUCの使い方を考えて実行してみた。

NUCは素直に組んでも十分にイケるんだな

ベアボーン版:素組みシステム
ベアボーン版NUC「DC3217IYE」を自分が使うなら……15.6型マルチタッチ液晶のOn-Lap「1502I」と組み合わせて、液晶まで含めたトータルコンパクトを提案したい。なにせこのサイズの液晶ならサブPC用途として平置きができるし、なんなら膝の上に載せてでっかいタブレット風にも使える

 NUCには、ベアボーン版とマザーボード版があるわけだが、それぞれの特徴をまず確認しておこう。まずベアボーン版では、マザーボードがケースに組み込まれ、ACアダプタがバンドルされている。そして、とにかく簡単に「PCが組めてしまう」ところが面白い。いや、ベアボーン自体が本来、簡単に組めることを目的としているのだが、NUCベアボーンの場合は簡単すぎる。底面のネジ4本に、mSATA、PCIe mini スロットそれぞれ1本ずつのネジを止め、あとはメモリスロットにDDR3 SO-DIMMを挿すだけで終わりという間違えようのない工程でハードウェアとしてのPCは完成してしまう。だから、子供の夏休みの工作や、PCの苦手な方にプレゼントするPCとしてはピッタリだと思う。

 別途必要となるものも、液晶ディスプレイにキーボード・マウス、3ピン端子の電源ケーブル(※なぜかバンドルされていないので注意!)、OS、そして内部に組み込むパーツとしては、DDR3 SO-DIMM×2本とmSATA SSD、必要に応じて無線LANカード(電波法の関係で、ショップがバンドルしているものを同時購入するのがオススメ)だ。

AKIBA PC Hotline!としてはマザーボード版ベースにカスタマイズ

ケースとACアダプタ
今回用いたケースのアビー「NE04」とACアダプタのアビー「FSP065-REB」(3ピン端子電源ケーブル付属)。NE04は約12cm立方のNUC対応ケース。ベアボーン版NUCと比べると高さ方向が3倍ほどあるが、この内部スペースがNUCの可能性を広げる

 まあ、このベアボーンキット版をベースにソフトウェアで個性を出しても良いのだが、秋葉原に集うユーザー向けの企画ということで、マザーボード版をベースにあり得ないハードウェアを動かしてこそAKIBA PC Hotline!のページというものだ。

 マザーボード版でまず選ばなければならないのがケースとACアダプタだ。NUC用のケースはまだ数は少ないものの、ケース大手からは10を超える製品が登場しており、案外選択肢はある。ACアダプタは、それより少ないが、NUC用ケースを展開しているメーカーや、ショップが独自に販売していることもある。今回選んだのはアビーのケース「NE04」と、同社のACアダプタ「FSP065-REB」。NE04は、NUC用ケースとしては若干大きめだが、キューブ型でオブジェとしても良いデザイン。それでいてMini-ITXケースと比べればまだはるかに小さいから、場所もとらずに済む。ACアダプタは、とりわけ特徴のあるものではないが、アビー製は比較的入手性がよい。

 さて、ケースとACアダプタ以外にも、ベアボーン版とマザーボード版に違いがあるので、そこを説明しておこう。もうひとつの違い、これは結構重要なポイントで、「USBピンヘッダがあるかないか」だ。USBピンヘッダがあるのがマザーボード版。自由にケースを組み合わせられるため、用意されているものだ。そして、NUCの拡張を考える上で重要な「電源」を確保するためにこれが使える。ただしUSB信号に流れているのは+5Vだ。PCパーツでは一般的に+12Vが用いられており、+5Vで動作するものとなると限られる。動作が期待できるとすれば、「USBバスパワー動作できるもの」だ。

左がベアボーン版「DC3217BY」、右がマザーボード版「DC33217BY」。ボードレイアウトの違いは、メモリスロット上の電源端子と、フロントパネル用ピンヘッダ横のUSBピンヘッダという2点。ほか、ベアボーン版は無線LANカード用のアンテナ端子も装備している
肝心のUSBピンヘッダ部分を拡大。ベアボーン版にはピンヘッダ用のパターンだけが残る。ここにピンヘッダをハンダ付けしても動くとは思うが、そもそもベアボーン版のNUCケースにスペースが無いので何かを拡張するのは難しそうだ

2.5インチSATA SSDが使えたらステキじゃん

NUCに2.5インチSSD/HDDを積みたいならProject M「NUCバルクマザー用mSATA-2.5"SSD変換セット」がオススメ。必要な基板、ケーブルがセットとなっている

 NUCに欲しいもの。それは通常のSATA端子ではないかなと思う。3.5インチドライブは無理でも、2.5インチドライブを接続できるだけで、ストレージの容量やコストといった制約がずいぶん緩くなる。まずはこれを試してみよう。

 NUCのストレージ端子はmSATAだ。マザーボードで、mSATA/SATAが排他仕様となっているものもあるように、信号的にはmSATAもSATAも変わらない。そこで、変換アダプタを介せば簡単に変換できる。そして電源に関しても、多くのポータブルHDDがUSBバスパワー対応しているように、+5Vのみでの動作が期待できる。USBピンヘッダからSATA電源コネクタへの変換ケーブルは、自作するにしても難しいものではないが、都合よく「NUCバルクマザー用mSATA-2.5"SSD変換セット」というものがアユートのProjectMブランドから登場した。これを使えば一発だ。

 この製品は、mSATA→SATA変換基板と、先のUSBピンヘッダ→SATA電源コネクタ変換ケーブルから構成されている。実際に装着してみて気づいたところを紹介しておこう。ひとつ目はSATAケーブル端子の厚みだ。この製品のSATAコネクタは基板と平行に装着されており、SATAケーブルの端子部分に厚みがあると、引っかかって装着できない。手元のSATAケーブルがこれに当てはまり、仕方がないのでやすりで削って対処した。

ただし、SATAケーブルの端子部分が引っかかって装着できない場合もある
そんな場合は、端子部分を削って対処。1mm程度なら削っても大丈夫

 ふたつ目はUSBピンヘッダ→SATA変換ケーブルのUSBコネクタの向きだ。どちらの向きにも装着できてしまうため、正しい向きを指南しておこう。変換ケーブルのUSBコネクタには、2本の信号線が通っているが、コネクタの端に通っている側が+5Vラインだ。一方のマザーボード上のUSBピンヘッダは、切欠きのない方が1番、2番のピンになり、ここが+5Vラインとなる。この+5Vラインを合わせて接続すればOKだ。

USB端子
手前の黒いベースがUSBピンヘッダ。奥は横に5ピン並び、手前は奥寄りで4ピン並んでいるが、ともに奥側が1番ピン、2番ピンになる。NUCバルクマザー用mSATA-2.5"SSD変換セットの電源ケーブルコネクタは、1番と4番にケーブルがあるので、奥の1/2番ピンとコネクタの1番の位置を合わせて接続する
接続イメージ。こうして見ると、2.5インチSSDが大きく見え、NUCマザーの小ささはより際立つ
NE04背面のスリットを利用すれば、うまい具合に2.5インチSSD/HDDを固定できてしまう。ただし、ネジ2コのみなので心許ない

 動作に関してはまったく問題無い。単純にmSATA→SATA変換をしているため、2.5インチSSD化しても、ドライバ不要でそのままOSのインストールできる。むしろ問題となるのは、2.5インチSSDをケースに収める際だろう。NUCケースとして販売されている製品の多くがコンパクトさを追求しているため、2.5インチドライブの搭載スペースを持つものは無い。ただし、今回用いたアビーのNE04は、マザーボードベース上方に大きなスペースがあり、ここに搭載できる。なお、アユートからも専用ステーも登場しているが、NE04の背面にあるスリットに直にSSDをネジを止めすることも可能だ。

PCIe mini スロットにx1カードが繋げられたら夢は無限大だよね

 さて、NUCにはもうひとつ拡張スロットがある。無線LANカード用のPCIe mini スロットだ。PCIe mini スロットは、端子形状が異なるだけで、信号的にはPCI Expressと変わらない。そして、Mini-ITXマザーボード向けとして、事実、PCIe mini スロット→PCI Express x1スロット変換アダプタが販売されている。秋葉原なら、こうした変換アダプタの入手も簡単だ。そこで、ディラックの「DIR-EMLX1-G1C13」を入手した。

 さて、DIR-EMLX1-G1C13だが、実はPCIe mini スロットのフルサイズ形状だったりする。そしてNUCマザーボードのPCIe mini スロットはハーフサイズなので、ハーフ→フルサイズの変換ケーブルも別途必要になる。ただ、これも秋葉原なら入手できる。そこでオリオスペックで販売されている「KZ-B22 mini PCI Express / miniCard 延長ケーブル」を入手し、この2つを繋いで、PCIe mini スロットハーフスロット→フルスロット→PCI Express x1スロットと、変換してみた。
DIR-EMLX1-G1C13
PCIe mini スロットをPCI Express x1スロットに変換するアダプタのディラック「DIR-EMLX1-G1C13」
PCIe mini スロットのハーフサイズからフルサイズに変換するアダプタ「KZ-B22 mini PCI Express / miniCard 延長ケーブル」。この手の変換アダプタは、旬を過ぎると入手が難しくなるので、後先考えずに「出たら買う」のが鉄則。いつか役立つ……多分
2つの変換アダプタをスタックするとこんなイメージ。かなりケーブルが長くなるのでちょっと格好悪いが、NUCケースぎゅうぎゅうに詰め込めばOK

 ただ、ここでも考えなければならないのが電源問題だ。DIR-EMLX1-G1C13にはFDD用4ピン端子を接続しなければならない。SATA電源コネクタ→FDD用4ピン電源コネクタ変換ケーブルは市販されているので、先のNUCバルクマザー用mSATA-2.5"SSD変換セットの電源ケーブルが流用可能だが、予想はしていたものの+5Vでは動作しなかった。やはり+12Vが必要なのだ。でも、ここであきらめたらもったいない。少々強引だが、外部から電源を供給すればいいわけで、そこで、HDDを外付けで利用するための4ピンペリフェラル&SATA電源コネクタ対応のACアダプタ(製品によっては+12V/+5Vのどちらかしか結線していないものもあるので注意!)を使って動かしてみた。

 拡張カードにはアイ・オー・データ機器のTVチューナーカード「GV-MVP/XS3」を選んでみた。決め手のひとつは、TVチューナーがUSBバスパワー動作の製品も多いという点だが、これは先のとおり、+5VではPCIe x1スロットが利用できなかったためにボツとなった。そしてもうひとつの決め手は、コンパクトサイズのB-CASカードを採用しているため基板サイズが小さい点だ。このカードサイズなら、もちろん加工は必要としても、アビーのNE04に十分収まる。こうして、石川ひさよしプレゼンツな「録画用NUC」が完成だ。

TVチューナーカードの+5V駆動が無理だったため、急遽ACアダプタを追加投入。……残念だが、これでNUCに拡張カードを接続出来たと思えば満足
組み込むパーツの全体写真。NE04背面にはチューナーカード用、ACアダプタからの電源供給用にそれぞれ穴あけ加工を施した
問題無く全てのパーツの組み込みが完了。チューナーカードは、製品付属のロープロファイル用ブラケットの余分な部分を切断、ネジ止め用に穴をあけた。電源用の穴はテキトーに3ブロックぶん穴をあけた。チューナーカードの下がSSD。このレイアウトになったのはケーブル長の制限のため。ここまで詰め込んでもまだスペースには余裕がある
完成した「録画用NUC」。別にUSB HDDとUSBチューナーで組んでも良いけれど……こっちのほうがキュートでしょ?

拡張したもん勝ち!というのが秋葉原スタイルじゃん

「DC3217BY」「DC33217CK」のThunderboltを活用すれば大容量HDDの接続も拡張カードの接続ももっとスマートなんだけど、それは今後の製品に期待だ!

 このように、ベアボーンキット版NUCと比べるとやや大きくなってしまったものの、リビングや子供部屋にちょうどいいテレビパソコンNUCが完成したわけだが、「2.5インチSSD/HDDならUSBでもつなげるよ」とか、「USB接続のTVチューナー使えばいいじゃん」とか無粋なことは言っちゃいけない。どっぷり秋葉原に浸ったユーザーならば、「拡張カードスロットは埋めてなんぼ」が正しい姿勢だろう。そして、ここまでやるからこそ唯一無二のNUCができ上がるのだ。今回、+12V用にACアダプタを追加したのは「禁じ手」に近いが、今後、ハックが進めばもっとスマートな方法が見つかるかもしれない。制約があれば、その制約を打ち破ってこそ可能性が見えてくる。みなさんも、私の使い方をはるかに超えるアイデアでNUCを遊びつくしてほしい!