筆者の生まれは、日本有数の豪雪地帯、富山県だ。子どもの頃は、冬になるとスパイクタイヤを履かせたり、チェーンを巻いたりしてクルマを走らせていた。まだ運転免許は持っていなかったものの、親の手伝いで家のクルマにチェーンを巻かされることも多かったが、これがけっこう大変な作業で、上手く巻けていないと走ったときにチェーンがガツンガツンとタイヤハウスに当たってしまうから、もう一度やり直し。いくら雪国生まれとは言えこの作業は大変で、チェーンを巻かずに冬の道を走ることができればどんなにラクだろうかと子どもながらに感じていた。そんな面倒なチェーンの装着も、やがてスタッドレスタイヤが普及すると、やる機会が減っていった。


J.D.パワー アジア・パシフィックによる「日本冬用タイヤ顧客満足度調査」は、積雪路面での走行性能、凍結路面での走行性能、耐久性/信頼性、ドライ/ウェット路面での乗り心地/静粛性、ドライ/ウェット路面でのハンドリング/グリップ性能、見栄えの6つのファクターで構成される。ミシュランはその総合評価でトップを獲得

 筆者が運転免許を取得したのは上京してからなので、免許取得後に冬のフルシーズンを富山で過ごしたことはない。だが、年末年始にはもっとずっと雪深い新潟や長野の豪雪地帯を通って帰省するし、ウインタースポーツもたしなむので、やはり雪道を走る機会は少なくないほうだと思う。そんなことを知ってか知らずか、Car Watch編集部から、ミシュランのNewスタッドレス「X-ICE XI3(エックスアイス エックスアイスリー)」(以下XI3)のレビューの話が舞い込んできた。

 都内在住ながら、雪道を走る機会も多い筆者が、どんなスタッドレスタイヤが欲しいかと聞かれたら、それはもちろん、雪道や氷った路面でしっかりグリップしてくれるタイヤだ。とはいえ圧倒的に舗装された路面を走る時間が多いので、スタッドレスタイヤにありがちな「腰砕け」にはできるだけなって欲しくない。

 とまあ、おそらく多くのみなさんが思っているのと同じことを思っているわけだが、聞けば第三者機関であるJ.D.パワーアジア・パシフィックによる「日本冬用タイヤ顧客満足度調査」の総合評価で、ミシュランがナンバーワンの総合評価を獲得している。しかも2004年から9年連続というから驚きだ。

 

日本に初めてスタッドレスタイヤを持ち込んだミシュラン

 ミシュランが世界で初めてラジアルタイヤを製品化したことは有名だが、調べてみると、1982年に日本で初めてスタッドレスタイヤを発売したのもミシュランだった。

 それは筆者が免許を取るずっと前のことだが、スパイクタイヤによる粉塵公害が社会問題となっていたのを覚えている。筆者が住んでいた富山でも、晴れた日には路上に黒い粉が舞い、残っている雪の表面が真っ黒になったりしていたものだが、それほど粉塵が酷かったということに違いない。

 ミシュランは1980年代にはすでに開発チームを日本に送り、北海道でのスタッドレスタイヤ開発をスタートさせていた。1991年、ちょうど日本でスパイクタイヤの使用が禁止された頃には、日本及びアジア諸国においてタイヤの研究、開発、テストを行うR&Dセンター「ミシュランリサーチアジア」を設立。ミシュランにおけるスタッドレスタイヤの開発が、本格的にここ日本で行なわれることになった。


北海道の士別にあるテストコースなどを使ってミシュランのスタッドレスタイヤは開発される

 「ミシュランはフランスのメーカーだから、日本の冬の道には合わない」という声を聞くことがある。確かに世界をターゲットにしているミシュランにとって、この狭い日本を中心にタイヤを開発するというのは非合理的に感じる。しかし実際には、現在もなお、ミシュランのスタッドレスタイヤは、日本を中心に研究され、そこで開発された製品が世界の多くの地域にデリバリーされている。日本人としてはうれしいことだが、その理由はどこにあるのだろうか? そんな疑問を、日本ミシュランタイヤのPC/LTタイヤ事業部 プロダクトマーケティングマネージャー大江一孝氏にぶつけてみた。

 

フランスのミシュランが日本でタイヤを開発する理由

日本ミシュランタイヤ PC/LTタイヤ事業部 プロダクトマーケティングマネージャー 大江一孝氏
日本ミシュランタイヤ PC/LTタイヤ事業部 プロダクトマーケティングマネージャー 大江一孝氏

 「ミシュランでは、かねてから日本を重要なマーケットと位置づけてきました。スタッドレスタイヤについては、今年でちょうど発売してから30年目を迎えます。早い段階から日本の冬の厳しい路面状況に着目し、開発の一部を日本で行なうとともに、日本市場のお客様の声に積極的に耳を傾けてきました」と大江氏は語る。

 とはいえ、北欧やロシアなど、北海道よりももっと条件の厳しそうな場所はいくらでもありそうだ。「確かに世界にはもっと寒い場所はありますが、実はどんなに寒くても、コンディションが一定であれば、その条件に合わせこめばよいのでむしろずっと簡単なんです。そういう意味では、スタッドレスタイヤにとっては、日本の冬の道が世界でもっとも厳しい条件といえます」と大江氏は断言する。

 「ウィンター性能で問題となるのは温度の低さではなく、温度の変化です。日本の冬の場合、凍った状態もあれば、溶けて水になったり、少し溶け出してシャーベット状になったりと状況が変化します。もっとも難しいのは、水と氷が混在する0℃付近です。また、ある日は凍っているけど、別の日には溶けていたり、1日のうちで凍ったり溶けたり、少し移動するとまた状況がまったく変わったりと。そんな難しい状況が、市街地の中でも頻繁に出てくるのは世界でも日本ぐらいのものです。さらにスノーやアイスだけ走るのであれば、他の性能よりもそれを優先させればよいのですが、都市部の乾燥路や高速道路、ウェットといった、非常にさまざまな条件の道を走る機会が多いのも日本の特徴です。そこで、スタッドレスタイヤにとってそんなもっともシビアな場所で開発したほうがよいと考え、現在では日本の研究開発チームを中心に開発を進めています。日本で求められる性能を満たせれば、多くの国で求められてる性能項目をカバーしていくことができます。(大江氏)」。
そして今年、最新のX-ICE XI3が発売された。もちろん前述のとおり日本をメインに開発されたもので、日本のユーザーの声を大いに反映したものだ。

  • ミシュランX-ICE XI3。サイズのラインアップは、執筆時点で175/65R14から215/45R18までの計32サイズで今後もサイズラインアップを拡大予定
  • ミシュランX-ICE XI3。サイズのラインアップは、執筆時点で175/65R14から215/45R18までの計32サイズで今後もサイズラインアップを拡大予定
ミシュランX-ICE XI3。サイズのラインアップは、執筆時点で175/65R14から215/45R18までの計32サイズで今後もサイズラインアップを拡大予定

 「日本のユーザーは、とくにアイス性能を求めています。スタッドレスタイヤが使われるようになってから、ミラーバーンが発生しやすくなったという事情もあるので、アイス性能というのは常に重視されるポイントです。既存モデルの「X-ICE XI2(エックスアイス エックスアイツー)」(以下XI2)でも、アイス性能には大いに力を入れて開発し、日本のお客様からも高い評価をいただいていると理解しています。しかし、新たにXI3を開発するにあたっては、さらにアイス性能を向上し、アイスブレーキ性能ではXI2から約9%向上しています。ただし、タイヤの性能というのは、一般的にどこかひとつの性能を上げるとほかのどこかがスポイルされてしまいがちです。我々には、前提として前身のXI2が非常によいものに仕上がったという自負があります。せっかく描いたXI2のきれいなバランスを崩すことなく、アイス性能を高め、さらに進化させなければいけないということを考えました(大江氏)」

先代のX-ICE XI2と比べ、氷上での制動距離で約9%向上した
先代のX-ICE XI2と比べ、氷上での制動距離で約9%向上した
〇アイスブレーキ性能:X-ICE XI3/9.58m、X-ICE XI2/10.45m
〇試験条件:士別寒冷地技術研究会自動車試験場における実車制動距離測定(20-0km/h)7回測定を2度試験し許容誤差を超えたものは削除した平均値
〇試験日:2012年1月23日、2012年2月21日 〇タイヤサイズ:205/55R16 〇空気圧:220kPa
〇氷温:-2.4〜-4.1℃ 〇外気温:-2.2〜-4.9℃ 〇試験車両: CIVIC1.8前輪駆動ABS使用

 

世界基準のスタッドレスタイヤはサイプの深さが違う!

トレッドの一番外側のブロックがトリプルエフェクトブロックだ
トレッドの左右両外側のショルダー部分のブロックがトリプルエフェクトブロックだ

 こうして完成したXI3には「第3世代ウインターグリップテクノロジー」と呼ばれる、アイス性能やスノー性能を高めるための数々の要素が盛り込まれている。大江氏によるとこの進化は、何か1つの大きな新技術で成し得たものではなく、いくつもの技術の結集、そして従来からある技術のさらなる進化といった複合的な要素で達成したものだという。その中で、XI2からXI3において特に変化のあった部分を中心に話をうかがった。

 まず、「トリプルエフェクトブロック」。これは従来からある「クロスZサイプ」と「マイクロポンプ」に「ZigZagマイクロエッジ」を加えた3つの複合技で成り立つ新設計のブロックを採用したものだ。

  • 右イラストの黄色のジグザグの線で表されているのがクロスZサイプ、小さい丸で囲まれているピンホールがマイクロポンプ、そして一番上の楕円で囲まれているのがZigZagマイクロエッジだ
  • 右イラストの黄色のジグザグの線で表されているのがクロスZサイプ、小さい丸で囲まれているピンホールがマイクロポンプ、そして一番上の楕円で囲まれているのがZigZagマイクロエッジだ
右イラストの黄色のジグザグの線で表されているのがクロスZサイプ、小さい丸で囲まれているピンホールがマイクロポンプ、
そして一番上の楕円で囲まれているのがZigZagマイクロエッジだ

 クロスZサイプとマイクロポンプは、XI2でも採用している技術を、より発展させてXI3に採用したもの。クロスZサイプは、サイプの断面方向においてもジグザグにサイプを切ったもの。これにより加減速など力が加わった時にもブロック同士が支えあって剛性を確保。ブロックが倒れ込まないので、接地面をワイドに確保することができ、ハンドリングが安定するとともに、アイス、スノー路面で強力なグリップを発揮する。マイクロポンプは、まさに小さなピンホール。氷とタイヤの間にできる水分をスポイトのように取り除くことで接地面効果を高め、アイスグリップの性能を高める。

 ちなみにスタッドレスタイヤには欠かせないこのサイプだが、実はミシュランのスタッドレスタイヤのサイプには1つ大きな特徴がある。それは、サイプが通常のタイヤ溝と同じ深さまで切られているということだ。日本の場合、業界規格によって、溝が50%摩耗した所にプラットフォームと呼ばれるインジケーターがある。これは、このプラットフォームに達したらスタッドレスタイヤとしては使えなくなる事を示すもの。そのためウィンター性能を確保するのはこの50%摩耗のところまでで問題ない。しかし前述したとおり、ミシュランはフランスのメーカーであり、世界でこのXI3を販売する。しかし他の国には日本と同様のルールはないそうで、スリップサインが出るまでしっかりとウィンター性能を確保しなくてはならないのだ。もちろん摩耗すればそれだけ性能は劣化するが、50%摩耗した状態においても、新品時からトレッド面の変化が少ないため、初期性能の効果持続する。

  • トレッド面にジグザグに入れられたクロスZサイプは、断面方向においてもジグザグになっており、この山と谷がかみ合うことで剛性を確保する
  • トレッド面にジグザグに入れられたクロスZサイプは、断面方向においてもジグザグになっており、この山と谷がかみ合うことで剛性を確保する
トレッド面にジグザグに入れられたクロスZサイプは、断面方向においてもジグザグになっており、この山と谷がかみ合うことで剛性を確保する
クロスZサイプをイメージした模型。左のジグザグの切れ込みが入ったものがクロスZサイプをイメージしたものだ
クロスZサイプをイメージした模型。左のジグザグの切れ込みが入ったものがクロスZサイプをイメージしたものだ
  • それぞれの模型に力を加えると、写真左のほうが倒れ込みが少なくしっかりと接地している。一方写真右のストレートサイプのものは、特に一番右側のブロックが倒れ込み、角しか接地していない
  • それぞれの模型に力を加えると、写真左のほうが倒れ込みが少なくしっかりと接地している。一方写真右のストレートサイプのものは、特に一番右側のブロックが倒れ込み、角しか接地していない
それぞれの模型に力を加えると、写真左のほうが倒れ込みが少なくしっかりと接地している。
一方写真右のストレートサイプのものは、特に一番右側のブロックが倒れ込み、角しか接地していない
サイプがスリップサインの深さまでしっかりと切られているのが分かる
サイプが溝底の深さまでしっかりと切られているのが分かる
  • 左が新品時のトレッドデザイン、右が50%摩耗時のトレッドデザイン。スタッドレスタイヤとして使える最後まで新品時とほぼ同じ量のエッジ成分が確保されている
  • 左が新品時のトレッドデザイン、右が50%摩耗時のトレッドデザイン。スタッドレスタイヤとして使える最後まで新品時とほぼ同じ量のエッジ成分が確保されている
左が新品時のトレッドデザイン、右が50%摩耗時のトレッドデザイン。50%摩耗時でも、トレッド面の変化が少なく初期状態を維持できる

 新採用のZigZagマイクロエッジはブロックのエッジ部分にもジグザグのカッティングを施したもの。これは一番外側のトリプルエフェクトブロックだけでなく、一番中心寄りのブロックでも、横方向に向けてカッティングが施されている。これにより縦方向のブレーキや加速だけでなく、横方向のコーナーリングに対しても、よりしっかり噛んでくれる効果があるという。

  • センター寄りのブロックの側面にもZigZagマイクロエッジが刻まれる。水膜を破りアイスグリップにこれまで以上の力強さを与える
  • センター寄りのブロックの側面にもZigZagマイクロエッジが刻まれる。水膜を破りアイスグリップにこれまで以上の力強さを与える
センター寄りのブロックの側面にもZigZagマイクロエッジが刻まれる。水膜を破りアイスグリップにこれまで以上の力強さを与える

 

回転方向だけじゃない、横方向にも効くトレッドパターン

 X-ICEのアイデンティティであるVシェイプデザインも、XI2から踏襲されていて、回転方向指定のタイヤとなる。一見XI2に似たトレッドパターンだが、アイス性能とスノー性能を、よりバランスよく両立すべくVシェイプを見直し、いくぶんセンター付近の角度が浅いデザインに変更されている。そしてもう1つ、ひと目でXI2と違うのが外側から2番目のブロックのサイプの方向だ。

 XI2では、すべてVシェイプのディレクションに沿った形でサイプが配されていたが、XI3では、この外側から2番目のブロックで、Vシェイプの流れに沿わない方向でサイプが刻まれている。これは「バリアブルサイプアングル」と呼ばれるXI3における新たな特徴のひとつで、直進時のトラクションやブレーキはもちろん、ステアリングを切った際の横方向に対するエッジ効果が高まり、レスポンスとグリップ感の向上が期待できるという。このあたりはとくに、冬の道でドライブすると誰でも体感できるのではないかと思う。

  • X-ICEシリーズの特徴であるVシェイプデザインがさらに進化。アイス性能とスノー性能の両立に加え、排水性能にも効果的。とくにシャーベット路面でのパフォーマンス向上に期待ができる
  • X-ICEシリーズの特徴であるVシェイプデザインがさらに進化。アイス性能とスノー性能の両立に加え、排水性能にも効果的。とくにシャーベット路面でのパフォーマンス向上に期待ができる
X-ICEシリーズの特徴であるVシェイプデザインがさらに進化。アイス性能とスノー性能の両立に加え、
排水性能にも効果的。とくにシャーベット路面でのパフォーマンス向上に期待ができる
  • サイプの方向を変化させることで、多方向へのエッジ効果を発揮。縦、横、斜めへのエッジ効果をバランスよく確保し、ブレーキングはもちろん、ストレートやカーブなどさまざまなシチュエーションでのアイスブレーキング性能やアイストラクション性能を向上
  • サイプの方向を変化させることで、多方向へのエッジ効果を発揮。縦、横、斜めへのエッジ効果をバランスよく確保し、ブレーキングはもちろん、ストレートやカーブなどさまざまなシチュエーションでのアイスブレーキング性能やアイストラクション性能を向上
サイプの方向を変化させることで、多方向へのエッジ効果を発揮。縦、横、斜めへのエッジ効果をバランスよく確保し、
ブレーキングはもちろん、ストレートやカーブなどさまざまなシチュエーションでのアイスブレーキング性能やアイストラクション性能を向上

 ついで、アイス性能で大きな効果を発揮するのが「マックスタッチ」だ。アイス路面では、どこか一部分に強い力がかかると滑ってしまうので、より広い面積に、より均等に圧力がかかるのが理想だ。従来からも圧力の均一化には努めていたというが、これはやはり時代の変化によるもの。日々シミュレーション技術が発達しており、より精度の高いシミュレーションができるようになる。開発にあたっては、最新のシミュレーション技術を駆使することで、よりきれいな接地面を確保したという。

最新のシミュレーションツールによって接地圧を均一化。アイス路面での性能向上に貢献する
最新のシミュレーションツールによって接地圧を均一化。アイス路面での性能向上に貢献する

先代のXI2に対してブロック数を15%増やすことで溝とエッジの増加に成功。これにより排水性や雪を掻くスノー性能だけでなく、エッジ効果によるブレーキ性能やトラクション性能も大幅に向上
先代のXI2に対してブロック数を15%増やすことで溝とエッジの増加に成功。これにより排水性や雪を掻くスノー性能だけでなく、エッジ効果によるブレーキ性能やトラクション性能も大幅に向上

 接地圧を最適な状態にすることは、アイス性能だけでなく耐磨耗性にも効果がある。接地面を大きくすると接地形状がどんどんスクエアに近づくが、そうするとショルダー部が偏磨耗を起こしやすくなるので、その分高い精度での接地圧のコントロールが必要になるという。

 ちなみに、XI3では全てのサイズに対してそれぞれシミュレーションを行なっているというのもポイントだ。「非常に手間のかかる作業ではありますが、プロファイルだけではなく、ブロックの剛性や、用いた部材によって微妙に変わってくるし、サイズによって装着される車両の重量も変わってくるので、適正な荷重となるよう、ひいては最適なコンディションで使っていただけるように確認しています(大江氏)」。

 加えて、XI3ではXI2に比べてブロック数を15%増加させている。横方向の溝を増やすことで、よりエッジ効果と雪中せん断効果が高まり、アイス性能とスノー性能の両方の向上を図れる。ただし、「タイヤサイズが同じままブロックの数を増やすと、ひとつひとつのブロックが小さくなり、ブロック剛性が弱くなることが危惧されます。XI3では、サイプの入れ方やブロック形状などを工夫することで、剛性を落とすことなく、ブロック数の増加を実現させることができました」と大江氏は言う。

 

  • 隣り合うブロック同士の倒れ込みを抑制することで、剛性を強化するノブを配置。ハンドリングや高速安定性の向上に加えて、接地面の均一化による偏磨耗の抑制にも効果的。
  • 隣り合うブロック同士の倒れ込みを抑制することで、剛性を強化するノブを配置。ハンドリングや高速安定性の向上に加えて、接地面の均一化による偏磨耗の抑制にも効果的。
隣り合うブロック同士の倒れ込みを抑制することで、剛性を強化するノブを配置。ハンドリングや高速安定性の向上に加えて、接地面の均一化による偏磨耗の抑制にも効果的。

 

ウィンター性能だけじゃない! 高速性能もさらにアップ

クロスZサイプのエンド部分が丸くなっているのが分かるだろう
クロスZサイプのエンド部分が丸くなっているのが分かるだろう

ブロックがゆがんだときの応力を分散することで耐久性を向上。さらに熱が抜けやすくなるというのもメリット
ブロックがゆがんだときの応力を分散することで耐久性を向上。さらに熱が抜けやすくなるというのもメリット

 従来より高速道路など、ドライ路面でもしっかりとしたハンドリングが好評だったX-ICEシリーズだが、アイス性能、スノー性能を向上しながらも、さらに高速性能も向上している。速度レンジが従来のXI2の「T(190km/h)」から「H(210km/h)」へと向上しているのだ。これに貢献しているのが「ティアドロップ」と呼ばれるサイプのエンドの処理だ。これは前述のトリプルエフェクトブロックに刻まれたクロスZサイプに採用されているものだが、サイプの一番奥の部分の形状を丸くすることで、トレッドに力が加わった時のストレスを分散。加えてこの部分には熱がたまりやすいのだが、丸い断面とすることで熱が放出しやすくなり、高速走行時の耐久性を向上している。筆者がウィンター性能に次いで重視している乾燥路での走りについても、もともとX-ICEはかなりよいほうだと感じていたが、さらによくなっているということだろう。

 ミシュランのタイヤというのは、スポーツタイヤであっても意外と静かだったり、コンフォートタイヤでもしっかりしていたりと、どのタイヤにおいてもバランスのよい性能を持っているように感じている。そして話を聞く限り、これはスタッドレスタイヤのXI3においても一貫しているように思える。

 かつてはスタッドレスタイヤというと、サイプがたくさんあるので音がうるさかったり、ゴムが柔らかいため高速安定性が落ちたり、転がり抵抗が大きかったりするのは仕方がないと考えられていたが、アイス性能だけでなく、そうしたほかの性能もレベルアップさせていくことも、XI3では従来よりも重視しているという。

 

  • 溝の多いスタッドレスタイヤは、パターンノイズが大きいといわれるが、XI3では、ノイズ周波数を徹底的にコントロールすることでドライバーに届く不快な音域を抑制。また、溝の形状を変え、縦穴を配置した「サイレントアイ」により、空気の流れ方発生するノイズを低減。さらに、偏磨耗の抑制にも成功し、磨耗後のノイズ軽減にも貢献する
  • 溝の多いスタッドレスタイヤは、パターンノイズが大きいといわれるが、XI3では、ノイズ周波数を徹底的にコントロールすることでドライバーに届く不快な音域を抑制。また、溝の形状を変え、縦穴を配置した「サイレントアイ」により、空気の流れ方発生するノイズを低減。さらに、偏磨耗の抑制にも成功し、磨耗後のノイズ軽減にも貢献する
  • 溝の多いスタッドレスタイヤは、パターンノイズが大きいといわれるが、XI3では、ノイズ周波数を徹底的にコントロールすることでドライバーに届く不快な音域を抑制。また、溝の形状を変え、縦穴を配置した「サイレントアイ」により、空気の流れ方発生するノイズを低減。さらに、偏磨耗の抑制にも成功し、磨耗後のノイズ軽減にも貢献する
溝の多いスタッドレスタイヤは、パターンノイズが大きいといわれるが、XI3では、ノイズ周波数を徹底的にコントロールすることでドライバーに届く不快な音域を抑制。
また、溝の形状を変え、縦穴を配置した「サイレントアイ」により、空気の流れから発生するノイズを低減。
さらに、偏磨耗の抑制にも成功し、磨耗後のノイズ軽減にも貢献する。

 そんなXI3を、大江氏からお話をうかがっただけで、どんどん欲しくなってしまったのだが、いちはやく冬の北海道のテストコースと一般道で一足早く試すことができたので、次回はそのインプレッションをお届けしたい。

岡本幸一郎

 

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