このところのマツダの動向から目が離せないというクルマ好きは少なくないはず。ふだんはエレクトロニクスやIT、オーディオ&ビジュアルを中心に取材をしている僕も、クルマが大好きな人間として、マツダの動向が気になっていたひとりだ。
なにしろ、最近のマツダは目立っている。仕事柄、北米への取材旅行が多いのだが、逆五角形の特徴的なグリルは、どんな街でもよく見かける。特にCX-7の人気は先代モデルから高いようで、オーナーにその理由を尋ねると「だってカッコいいじゃない」と明快な答え。そして実際に手にしてみると、SUVらしくないシャープなハンドリングで「おっ、マツダ。結構よいじゃない」といった空気が醸成されている、と話していたのは、サンフランシスコ在住の知人ジャーナリスト。デザインを入り口に、実際のクルマに触れてもらうことでブランドとしての評価を高めている、という評判だった。
このまま北米での認知度が、どんどん上がってくれるとよいな、と日本人として少し誇らしく思ったりしていたのだが、僕が注目したのも、そのきっかけはデザイン。コンセプトモデルの「TAKERI」に、クルマ好きの血がめっぽう刺激されたのである。
その前身である「SHINARI」の頃は、まだどんな形になるかわからないよね、と静観していたのだけど、TAKERIはまるで市販車のような仕上がり。コンセプトモデルと市販モデルのギャップに気分が萎える、なんて経験は、クルマ好きなら何度も経験してきたけれど、コイツなら期待は裏切らないハズと思ったのは僕だけじゃなかったはずだ。
コンセプトモデル「SHINARI」
コンセプトモデル「TAKERI」
そして決定打となったのが、CX-5と共に投入されたSKYACTIV-D、低圧縮比ディーゼルである。一応、工業系の学校を卒業した身としては、低圧縮ディーゼルなんて言葉を聞いただけで、ああなって、こうなって、きっとこんな風なフィールに違いない! と想像を巡らし、エンジンへのワクワク感だけで一晩を語り明かせそうな気がしたほど。
そんなわけで、市販バージョンとなったTAKERI=アテンザの発表が近付くにつれ、その期待はどんどん大きくなっていったのだった。だからこそ、Car Watchから「アテンザの試乗企画をやるよ〜!」と声をかけられたときも、二つ返事で飛びついたのだった。
さて、こうして憧れのアテンザと対面。そこにあったのはアテンザ・ワゴンのクリーンディーゼルモデル、最上位グレードのXD L Packageだ。セダンが人気と聞いていて、TAKERIのイメージから僕の頭の中はセダンバージョンでいっぱいだったのだけど、試乗することになったアテンザ・ワゴンも、オリジナリティ溢れるラインとプロポーション。
欧州的と言われることがあるアテンザだけど、実際のフォルムは欧州車的テイストに日本的な荒々しさ、猛々しさを感じさせる躍動感溢れる雰囲気が溶け込み、なんともオリジナリティのあるデザインだ。写真を通しても容易に伝わるだろうが、実物を見て、様々な角度から眺めてみると、さらに“深み”を感じざるを得ない。
総合的なデザインフォルムやワゴンとしての使いやすさは後編に譲りたいが、最初の出会いから好印象。新車への興味満々でショールームに行ったら、待ち時間に軽くクルマの周りを歩いているだけで、きっとその気になってくるに違いない。そんな危険(?)に満ちたクルマである。
さて、東京湾アクアラインの海ほたるにて待ち合わせ、アテンザ・ワゴンとの初対面を好印象で迎えた僕は、スタッフから受け取って房総半島へと初春を感じる小旅行へと出かけたのである。初日の目的は、アテンザ・ワゴンの乗り味、そして搭載されている最新技術を確認すること。これだけでも、かなりの盛りだくさん。なにしろ、アテンザには驚くほど多くの、最新テクノロジー大好きな男どもを奮い立たせるシカケが多数盛り込まれているのである。
まずはイグニッションを回す代わりにスタートボタンをワンプッシュ。冷え切った冬の海ほたるの駐車場で軽々と始動するSKYACTIV-D 2.2は、アイドリング時のメカノイズ、その音質を聞いている限り、まぎれもなくディーゼルであることを認識させられる。しかしその音量はかなり控え目で、走り始めてしばらくすると、ディーゼルであることを忘れさせてくれる。
アクアラインからアテンザの試乗をスタート
ディーゼルを全く意識させないと言えば、嘘になるけれど、走り始めてロードノイズが混じり始めれば、優れた遮音・防振設計で気にならなくなる……と言えば正確にこのフィールを伝えることができるだろうか。
もっとも、ディーゼルであることを忘れさせる理由は、しっかりとした遮音・防振だけではない、回転感覚が軽いのだ。ディーゼルエンジンの低速トルクは、それはそれは強大なものではあるけれど、回転が上昇するに従い独特の重さを感じる。これが一般的なイメージだが、SKYACTIV-Dと名付けられた2.2リッター・クリーンディーゼルツーステージターボユニットは、高回転域まで引っ張りたいとは思わせないものの、しかしガソリンとの違いを大きく意識せずにドライブできる軽快感がある。
“4.0リッタークラスのトルク感”とは、この手のディーゼルターボではよく使われるフレーズだが、出だしこそ地面を踏みしめ、次の一歩を踏み出す力強さを感じさせるものの、そこからの回転上昇が重く、力強さと感覚的な速さが頭の中でうまく一致せず戸惑う感覚が、僕の頭の中にあるディーゼルのフィールにはあった。しかし、そんな既成概念は走り始めてものの数10秒で吹き飛んでしまう。
アテンザに搭載されるのは2.2リッターのSKYACTIVディーゼルエンジンだ
エンジン始動時の音などはディーゼルらしいのだが、走り始めるとディーゼルであることを忘れさせる
噂には聞いていたものの、この既存ディーゼルでもない、ガソリンでもない不思議感覚には、しばし驚かされるばかりだった。軽快感は回転の上昇だけでなく、海ほたるから本線へとアプローチするレーンの中でも充分に感じられる。狭いアプローチレーンをすり抜ける際のハンドリング、クルマの挙動は、とても車幅1.8m越えのFFディーゼルワゴンであるとは思えない。重ったるい頭を、よっこらせとターンインさせる意識はゼロ。ホイールベースが長いので、スポーツカーのようにヒラヒラとまではいかないけれど、ハンドリングは意外に軽快なのだ。これも“ディーゼル”というイメージを忘れさせる一要素なのだろう。従来からの高圧縮比ディーゼルならば、頭が重くなって全く異なるハンドリングになったに違いない。
もっとも、軽快だからといって車格に合わない敏感で落ち着かないハンドリングというわけではない。アプローチレーンでの軽く鼻先の向きを変えられる軽快さとは裏腹に、高速道路に入ると、今度はしっかりと粘り強い足腰を感じるようになる。フロントヘビーのFFながら、速度域が上がってからのリアの接地感が失われず、どっしりとした落ち着きあるハンドリングは、高級ワゴンとしての風格をステアリングを通して伝えてくれるのだ。
これがマツダの言うSKYACTIV-BODY、SKYACTIV-CHASSISの効果なのかな?と思いながら、試乗の舞台は館山自動車道、富津館山道路を経て、南房総を巡る房総フラワーラインへと移り変わった。決して「ワインディング」と言えるような曲がりくねった道ではないが、フルサイズのアテンザ・ワゴンにはちょうどよい旅の舞台だ。
週末になれば多くのクルマで賑わうだろうフラワーラインも、平日の空いている時間帯は本当に気持ちよく走ることができる。高速道路からフラワーラインに降りていくと、アテンザ・ワゴンの脚のよさを、さらに強く印象付けられた。
南房総のフラワーライン。ちょうどよい天気と道沿いの菜の花が一足早く春を感じさせてくれる
僕だけでなく、嫁さんも含め、我が家のクルマの好みは「しっかり、カッチリ」。ボディ自体の剛性だけでなく、サスペンションの動き、ハンドル操作の応答などに、明確な節度を感じないと頼りなく感じてしまう。もちろん乗り心地が悪いのはイヤだが、ギャップを越える際の衝撃が丸められているなら、脚は硬めの方がよい、というのが我が家でクルマ選びをするときの基準なのである。
その点、マツダのスポーティなイメージ、そしてアテンザの挑戦的な顔つきから勝手に想像し、これならきっと大丈夫。かなりガッチリ固められた足なのだろうと考えていたら、これはこれがよい意味で裏切られた。
アテンザ・ワゴンの脚は、しなやかさと剛性感で言えば、しなやかさの方が印象としては勝る。ところが剛性感がないかと言えば、しっかりとした剛性を感じ、ステアリング操作の応答に一瞬の間を置くことなく、スッと自然にターンインしていくのだ。
ただひたすらに剛性“感”を追いかけ、スポーティ“感”を演出するために脚下を固めるのではなく、サスペンションの作動性は極めて高く滑らかに追従しながらも、各部の剛性感を高め、ジオメトリー設定の追い込みでクルマの挙動をコントロールしているのだろうか。
海岸沿いを走るフラワーライン。決してタイトではないが、ドライブには心地よいカーブが続く
右に左にとわずかな蛇角に対してリニアに反応してくれるアテンザのハンドリング
試乗車は19インチホイールを標準装備。にもかかわらず、適度なタイト感はあるが角の取れたしなやかな乗り心地だ
こうした乗り味に加え、走りの質を高めていると感じたのがトランスミッション。SKYACTIV-DRIVEと名付けられた6速ATは、ふだんからトルクコンバータを用いないデュアルクラッチ型トランスミッションを使い慣れている僕でも、ほとんど違和感を感じないダイレクトな運転感覚を引き出してくれる。
街中の低速域では、SKYACTIV-Dの生み出す強大な低速トルクと、流体クラッチのよい意味での滑らかな乗り味が運転しやすさを演出し、しかし僅かでも走りが落ち着くと、細かくロックアップされるのでダイレクト感を失わない。
最近のマツダは、クルマの設計に関わるあらゆる要素、エンジン、トランスミッション、シャシー、ボディとあらゆるものが「SKYACTIV」という言葉で集約されているため、実はなんとなく「そんなに全部がSKYACTIVと言われても、どう関連しているの?」と漠然とした疑問を持ってきた。しかし、こうして多様なシチュエーションでSKYACTIV技術をフルに搭載したアテンザ・ワゴンをドライブしていると、なるほど自動車業界の人たちが熱く語る“SKYACTIV”が、各パートごとのバラバラな技術なのではなく、クルマの質を底上げする一本筋の通ったひとつのコンセプトなのだと気付かされる。
自動車業界の外に身を置く僕は、“最近のマツダはいいね”とは感じていても、そこで目に入ってくるのは冒頭でも述べた斬新で躍動感溢れるデザインや、低コストかつ軽量な新世代クリーンディーゼルエンジンといった、いわゆる“キャッチー”な要素ばかり。もちろん、それらもアテンザ・ワゴンを語る上で欠かせない要素ではあるが、それだけでは語りきれない優れたドライブフィールを実現する技術の塊、クルマ作りのコンセプト(=SKYACTIV)こそが、このクルマを魅力的なものにしているのだなと痛感した。
僕がいつも評価で扱っているパソコンやモバイル製品、それにオーディオ、ビジュアル製品、どんな分野にも、物欲のままに製品選びモードに入った消費者を捕まえる一芸に秀でた製品がある。しかし、たとえ顧客を振り向かせる一芸を持っていたとしても、その製品のブランド、メーカー名が定着し、次の買い換え、あるいは買い増し時に選んでもらえるとは限らない。
単純に“この製品がとてもよい”だけなのか、あるいは“よい製品が生まれてくる仕組み”が作り手側に存在するのか。ひとつの製品を買う消費者からすれば、どちらでもよいのかもしれないが、多くの製品を評価してきた身からすると、後者の環境を整えたメーカーの方が信頼できる。ましてや命を預けるクルマである。
マツダのクルマ作りの姿勢に触れて、これからも次々に新世代を感じさせるクルマが登場するのだろうという期待感。アテンザ・ワゴンを通じて、そんなことも感じた試乗だった。
ワインディングにも足を伸ばしたが、レスポンスのよい変速とディーゼルのトルク、そしてしっかりとしたボディにサスペンションのおかげで気持ちよく走ることができた
さて、クルマとしての基本である“走り”に関して、期待以上の満足を感じたが、このアテンザ・ワゴンには、僕のような旧秋葉原世代(無線、オーディオ、そしてパソコン好き)にはたまらない、ワクワクさせる機能、それに定番の省燃費機能も搭載されている。それら機能部分についても順に触れていきたい。
まずi-ELOOPとi-stopについて。前者は減速時に発電した電力を大容量コンデンサ(スーパー・キャパシタ)に蓄積する機能。キャパシタというのは、一般的にバッテリーと比べ充放電特性に優れる。つまり素早く、かつ効率的に充放電ができるということ。ちょうどバッテリーがハードディスクなら、キャパシタはメモリという感じ。ハードディスクがデータをディスクに書き込むように、バッテリーは電解液に電荷をため込む。一方キャパシタは、静電気のように電気をそのまま保持する。この辺りもメモリーに似ていて、出し入れが速く、かつ電気を効率的に扱える。キャパシタならバッテリーより無駄なく減速時のエネルギーを回収し、再利用することができるわけだ。そして、このi-ELOOPとアイドリングストップのi-stopの組み合わせが実にうまくできている。
i-ELOOPによってオルタネータへの負荷を減らして燃費を向上させるが、i-stopでアイドリングストップしている間の電力供給も、i-ELOOPの電力を上手に活用している。実際に使ってみると、i-ELOOPのエネルギーを積極的に使っているようで、走行中はi-ELOOPが空っぽの時が多い。しかしこれが停車しようとすると、減速時にキャパシタが素早くエネルギーを回収し、一気にi-ELOOPがチャージされる。停車後i-stopでエンジンが停止、つまりオルタネータの発電が止まっている間、車体全体への電力供給をキャパシタから行うことで、バッテリーの過放電を防ぎ、負担を軽くするという仕組みだ。容量としてはそれほど大きくないようで、目に見えて残量が減っていくが、ハイブリッド車のバッテリーとは目的が違う。今まで捨てていたエネルギーを効率的に再利用するためには十分な容量と言えるだろう。
通常の車載バッテリーより素早く充電できるキャパシターを搭載。減速エネルギーを効率よく活用する仕組みだ
i-ELOOPの作動状態を表す表示。信号などで減速すると結構素早くチャージされる。決して容量は大きくはないが、i-stop中のオーディオやエアコンなど、効率よく効きそうだ
またi-stopの挙動も、実はなんでもかんでもアイドリングストップはしないようになっている。例えば停車時も少しだけ強めにブレーキを踏まないとアイドリングストップしない。しかしこれが、慣れてくるととても使いやすい。僕の場合、信号で停止する際、車体が完全停止したら、クルマをホールドするために本能的に軽〜くブレーキを踏み増すクセがある。この少しばかりの踏力でi-stopが確実に動作するのだ。一度動作したら、さらに踏み増したとしてもエンジンが始動することはない。逆に一時停止ですぐ発進するような時は、踏み増ししないので、アイドリングストップもしない。ブレーキペダルの踏み込み具合で、アイドリングストップを自分でコントロールできるというのがとても勝手がよい。
一方、アイドリングストップ中に、ほんの少しでもステアリングにトルクを与えると、その時点でブルンっとエンジンが始動する。これは交差点の右折待ちで、対向車が途切れるのを待っているシチュエーションなどを想定したもの。すばやく発進するために、エンジンを始動しておくようになっている。ちなみに操舵中には停止してブレーキを踏み増してもエンジンは止まらないから、ステアリングの切れ角を参考にしているのだろう。2つともマツダだけの技術ではないが、しかしその振る舞いはなかなか賢い。
信号待ちなど、ハンドルをまっすぐのままブレーキを強めに踏むとアイドリングストップする
i-stopの情報画面。なにかしらの理由でアイドリングストップできない場合、その理由も表示される
次に試したのがi-ACTIVSENSE。これは各種センサーを用いることで、より能動的に安全なドライビングをサポートしようという機能だ。
アテンザには4種類のセンサーが埋め込まれている。フロントグリルのエンブレムにはミリ波レーダーが搭載され、前車との距離を測定。ルームミラー根本から前方に照射される近赤外線レーザーはミリ波レーダーより広い範囲で障害物を検出。さらに同じ場所に広角で風景を捉えるカメラを設置している。最後は左右後方に向けた準ミリ波レーダーで、自車に接近するクルマを検出する。
4つのセンサーで安全運転をサポートする
マツダのエンブレムはミリ波レーダーで前方の車両を検知
ルームミラー付け根辺りには、近赤外線レーダーと車線を監視するカメラを搭載
これらセンサーの組み合わせで実現しているドライビングサポート機能の中で、とりわけその具合のよさに驚いたのが、マツダ・レーダー・クルーズ・コントロール(MRCC)である。
使い方は簡単。ステアリング上に配置されたクルーズコントロール操作のボタンで機能をオンにし、順行したい車速(最高115km/hまで設定可能)をセットするだけ。普段は設定した車速でオートクルーズし、渋滞などで先行車との距離が設定した車間距離以下になると、滑らかなブレーキ操作とアクセルコントロールで、先行車との車間距離を保ちつつ追尾する。
今回は試乗ロケだったこともあり先導車がいたため、とにかくMRCCが有効に働いた。30km/hを越えるとMRCCをオンにできるため、高速道路の運転はかなり快適だ。
25km/hを割ると警告音とともにMRCCがオフになるので、渋滞時などは100%気を抜けるわけではないが、再び速度が乗ってきたら“レジューム”ボタンを押すだけでMRCCを復帰可能。あとはハンドル操作に専念すれば、先導車についていくことができる。その振る舞いを把握した上で活用すれば、運転の疲れを大幅に軽減できると感じた。加速・減速時ともにとても滑らかな動作で「これなら俺が運転しているより上手かも?」と思わせる完成度の高さだ。
ミリ波レーダーで先行車を捉え、先行車の速度に合わせて自動で過減速するMRCC。挙動にぎこちなさがなく、とても快適だ
MRCCの操作は全てステアリングのスイッチで可能。一度セットすればキャンセルになってもレジュームボタンで復帰できる
いざというときには自動でブレーキし、事故を防いだり被害を軽減したりする
もちろん、気を抜いてはいけないが、最後の最後、本当に衝突しようかというシチュエーションでは近赤外線レーザーで衝突前に自動ブレーキ。そのまま完全停止はしないものの、軽くブレーキペダルを踏めば、自動的にアシストが効いて最短距離での完全停止へと導かれるスマート・ブレーキ・サポート(SBS)が有効に働いてくれる。
実際に運転してみると、アテンザのドアミラーは大型で縦方向のサイズが大きくとても視認性が高い。しかしこれに加えて、後方車両の存在を知らせてくれるリア・ビークル・モニタリングシステム(RVM)も、ドアミラーと共に安全に寄与してくれる。左右隣接レーンの物体を検出し、ドアミラー内のサインで警告。ドアミラーの死角に入った車両にヒヤっとさせられることはベテランドライバーでもあると思うが、RVMがあるのはとても心強い。RVMが反応している間は、ミラー内に常に警告サインが点くが、それに気がつかずにウィンカーを出すと、今度は警告サインのフラッシュと音で警告し、危険を知らせてくれるという具合だ。
すぐ斜め後ろにクルマがいるとき、ドアミラーの死角に入ってしまってヒヤッとすることがある
そんなとき、ドアミラー内のサインで車両がいることを警告してくれるのがRVMだ
斜め後方に向けたミリ波レーダーで死角の車両を検知する
高速道路での長時間ドライブには、車線逸脱警報システム(LDWS)が役立つだろう。正直、このシステムとの初対面では「少しばかり繊細に警報が鳴りすぎるし、動作する時と動作しない時があって信用できない」と、あまりよい印象を持っていなかったのだが、ドライブするうちに、それが誤解であることがわかってきた。
LDWSはフロントカメラでクルマが左右の車線ラインを監視。“徐々にラインに近付いて踏み越える前”に、ドライバに対して警報が鳴らされる。“徐々にラインに近付く”ところがポイントで、軽くステアリングを切ってラインに近付き、さらに踏み越えたとしても警告は鳴らない。自分の意思でレーンチェンジしていると認識すれば、警告を鳴らさないのだ。その代わり、居眠り運転など無意識のうちに(大きなステアリング操作をすることなく)ラインに近付くと、瞬く間に警告が鳴るというわけ。
当初は機能がオンになったままで、いきなり動作するので面食らったが、LDWSは検出度合いの高さを3段階、警告音も2段階で調整できる。さらにダッシュボードのボタンひとつで機能をオン/オフできるので、必要に応じてカスタマイズ、機能のオン/オフを行うことで使いこなせば安全に寄与することは間違いないだろう。
カメラが車線を監視し、逸脱を警告するLDWS
LDWSなどの装置はオフにすることもできるほか、センサーの感度を調整可能
ライトをAUTOにしてハイビーム側にしておくと、対向車などがいない真っ暗な道では自動的にハイビームになる
今回は夜間走行を行わなかったため、自動的にハイビームを使うハイビーム・コントロール・システム(HBC)やヘッドランプの方向をドライビングに動的に制御するアダプティブ・フロントライティング・システム(AFS)などを試す機会はなかったが、それでも最新の快適・安全機能を感じさせるには充分なものだった。
VIDEO
【動画】ステアリングの蛇角に合わせて、ライトが進行方向を照らすAFSの作動状態
さて、こうしてアテンザ・ワゴンの各種機能を試しながら南房総を回り、房総スカイラインを抜けて富津岬の公園へと到着する頃には、すっかり夕刻になっていた。ここでアテンザ・ワゴンとは、しばしのお別れ。後編では、街乗り、お買い物、そしてBOSEサウンドシステムによるエンターテインメント機能やシートの座り心地と、別の側面からアテンザ・ワゴンを見ていくことにしたい。
しかし初日はまったく掛け値なしの好印象。しかも、これだけの快適装備、安全装備にクリーンディーゼル搭載で340万円という価格。自宅に帰ってから、試乗した豪華装備のXD L Packageの価格を見直して、そのコストパフォーマンスのよさを再認識。明日、二日目の試乗へと、さらに気持ちが盛り上がってきたのだった。
(本田雅一)