最先端のデジタルにアナログの操作感が加わった「DMC-L1」
高貴な赤い薔薇が象徴する、「DMC-L1」の製品グレード
松下電器専務役員の牛丸俊三氏ビジネスユニット長の吉田守氏
拡大するデジタル一眼レフ市場へ、いよいよ参入
6月21日。松下電器は、デジタル一眼レフカメラ、「DMC-L1」を発表した。今回は発表会の模様と、カメラの詳細についてレポートする。といっても、すでにデジカメWatchの報道記事をはじめ、各種媒体で製品概要は伝わっていることだろう。今回は筆者の気になった部分を中心に、解説を加えてお伝えしたい。
ご承知のことと思うが、「DMC-L1」は、松下電器とライカ、オリンパスの協業による合作である。ハイアマチュア層をターゲットとし、従来にない高い付加価値をもつプレミアムなデジタル一眼レフとして登場した。
高貴さの象徴として「DMC-L1」は赤い薔薇をイメージに採用。タイトルバックなど各所に一輪の赤い薔薇が使用されて、発表会は始まった。松下電器専務役員の牛丸俊三氏が、デジタル一眼レフのマーケットや「DMC-L1」のコンセプトについて、ついでビジネスユニット長である吉田守氏が機能について説明を行った。
牛丸氏のプレゼンの中で、日本のデジタル一眼レフの市場規模を70万台以上と予測。そこへ「長く使ってもらえるプレミアムな製品」として「DMC-L1」を投入するという話があった。もちろん「DMC-L1」はPanasonicの製品だから、世界中で販売されるワールドワイドな商品である。だが牛丸氏の発言を聞いていると、月産3千台という生産目標の、メインターゲットは日本にあるように感じられた。それもそうで、なにしろ日本は世界で一番ライカが売れている国なのである。
数カ月前、某メーカーのフィルムカメラ撤退のニュースが流れた。それを取り上げた経済情報番組の中でアメリカ人のキャスターが、「人はカメラが欲しいのではなく写真が欲しいのだ」というコメントを発した。だが、この解説は「世界で一番ライカが売れている国」である日本には当てはまらないだろう。アメリカ人の発想はそういうものらしく、アメリカ市場では「同じ写真が撮れるならより低価格」なカメラが売れるそうで、日本メーカーもそのようなカメラを市場にどんどん投入する。だが、写真を撮るだけならカメラは1台か、多くても2〜3台あればよい。カメラそのものに高い価値観を持ち、カメラを愛でながら使う人たちにとっては、この論理は当てはまらない。
ここが日本が「世界で一番ライカが売れる国」である所以なのだ。「同じ写真が撮れるなら、より質感の高いカメラ」を求めるのが日本の国民性であり、それが日本のカメラ産業を支えてきたのである。より低価格のカメラばかりを日本人が求めてきたのなら、ここまでの発展はあり得なかった。
だが今、日本のカメラ業界は、巨大マーケットを向いてばかりいるような気がしてならない。「より質感の高いカメラ作り」を忘れてしまっている感じがしていたのだ。その中で、シェアの獲得ばかりではなく、日本のカメラ産業を支えてきたカメラ作りの本質、そこへ立ち返ったのが松下であったというわけだ。カメラらしいカメラは出てこないものかと思っていたので、「さすが松下」と溜飲を下げたところでもある。
もう一つ、牛丸氏話の中で注目したのは、うす型テレビの「VIERA(ビエラ)」で写真を楽しむという部分だ。「VIERA(ビエラ)」は15型から65型まで、SDカードスロットを搭載している。「DMC-L1」で撮影した画像をSDカードスロットに挿入すれば、大画面で写真を鑑賞することができる。「DMC-L1」は4:3のアスペクト比が基本サイズだが、3:2や16:9の撮影モードも持っている。これは上下をトリミングするという形での横長フォーマットなのだが、16:9というサイズは大変おもしろい。ちょうど1年前に、LUMIXは、コンパクトタイプでCCDが16:9サイズのLX1という機種を発売した。28mm相当の広角で撮れるということもあったのだけれど、これが撮ってみると実におもしろいのだ。APS-Cサイズの3:2の画面で、28mm相当のレンズで撮影するよりもはるかにワイド感があり、疑似パノラマのような感じで、実に楽しいのである。
筆者はもともと3:2のアスペクト比には否定的だ。撮影アングルとしては横長すぎて左右が余ることが多い。多くの人の写真を見ても余っていることが多い。実際自分で撮影していても、画面を余すところなく構成するには4:3の方が使いやすいと感じている。ちなみに以前見た某カメラメーカーのカタログ写真であるが、もともとはAPS-Cサイズだから3:2なのだけれど、大部分の写真が4:3に近いサイズにトリミングされて使用されていたのは、興味深いところであった。もちろん全メーカーの全カタログをチェックしているわけではない。たまたま見かけて気にしてみたそのカタログは、そのようになっていたという話。
3:2は35mmフイルムと同じと言うけれど、フイルム画面は3:2でもプリントサイズは3:2ではない。ポストカードがもっとも3:2に近いのだけれど、L判はもっとアスペクト比が小さい。六切プリントは約4:5だし、四切にいたっては6:5に近いアスペクト比である。銀塩の時はプリントが基本だし、プリントサイズは3:2ではないのだから、3:2にこだわるのは意味がないと思っている。
ところが、16:9となると話が違う。中途半端を通り越して一気に横長になるため、パノラマ感が出てくるのだ。映画館ではものすごい横長画面で上映されているが、そういう感じなのである。「VIERA(ビエラ)」は、SDカードスロットでもケーブル接続でも、L-1で撮影した4:3、3:2、16:9を自動判別して適切に表示してくれる。またその画質が素晴らしい。SDカードから表示した場合でも、最大でも200万画素程度の表示画素数でしかないのだが、画素数を感じさせないクオリティがある。ポジフイルムを透過光で見るときれいだが、「VIERA(ビエラ)」もいわば透過光での表示になるので、反射光でのプリント鑑賞とは全く違う鮮やかさがあるのだ。
写真はプリントである。現時点ではその通りだと思う。だが、そろそろ時代は変わりつつあるのかもしれない。カメラを買うのでテレビも買い換える。そういう会話も、十分あり得る話である。「DMC-L1」で16:9で撮影し、「VIERA(ビエラ)」で見る。そういう使い方も、これからは増えてゆくはずだ。
さて吉田氏の話に移って、まずはなぜフォーサーズなのか、と言う説明である。VHSとβが有名だが、CDやDVDもプラスにマイナス、RAMもあるし、最近はブルーレイとHD DVDの競争が激化している。家電の歴史は規格の競争でもあり、それに明け暮れてきた中で、ユニバーサルフォーマットであるフォーサーズシステムに注目し、選択したと言うことだ。オリンパス、シグマ、そしてライカレンズと、デジタル専用レンズとしては最多のラインナップを誇ると説明があった。
「DMC-L1」が誇る特長のひとつは、ノンダストシステムである。もちろんデジタル一眼レフの撮像素子ゴミ付着問題については、皆さんご承知であり、悩まれている方も多いだろう。メーカーがなぜこの問題に対して、早いアプローチを行わないのか疑問である。売った製品に付属する必然的問題なのだから、無償、もしくはごく低価格での素早い対応が求められるにもかかわらず、デジタル一眼レフの台数が増加するにつれてサービス窓口は混雑し、拠点の数は減り、有料化が進み、むしろサービスが低下する方向に進行しつつあるのは、極めて残念と言わざるを得ない。松下は「DMC-L1」でノンダストシステムを導入した。これは大いに歓迎されることである。
ゴミ問題については、最近対策を講じるメーカーが現れてきており、好ましいことである。だが一度付いてしまったゴミというものは、なかなか落ちない。それに対して「DMC-L1」のノンダストシステムでは、Z軸方向に秒3万回の振動、つまり前後方向の振動によって付いたゴミを強力にはねとばし、吸着材によってボディ内で再度舞い飛ぶことを防いでいる。これによって初めて一眼レフの意味、安心してレンズ交換ができるというものである。
フォーサーズシステムのメリットとはなんだろうか。デジタル専用とか、そういう話ではなく、撮影における具体的な話だ。撮像素子は大きいほどよいという意見がある。確かに、画素あたりの光を確保するという意味では、その通りである。だが撮像素子が大きいと言うことは、対応する画角に見合うレンズ焦点距離が長くなると言うことを意味する。35mm判サイズで45度近辺の画角を確保するには50mm程度の焦点距離が必要で、これを標準レンズと称した。APS-Cサイズになると30mm〜35mm位のレンズ焦点距離がこのあたりの画角になり、フォーサーズシステムになるとちょうど半分で、25mmがこの画角に当たる。多くの解説はここまでで頭が止まってしまうようなのだが、実はそれだけではない。645サイズ(4:3のアスペクト比だ!)では80mmあたり、66や67(正方と、正方に近い7:6のアスペクト比だ!)なら90mm〜100mmあたり。さらにシノゴ(5:4のアスペクト比)では150mmとか180mmあたりが標準レンズと呼ばれている。50mmレンズを標準レンズとすることを、天下を取ったかのように主張する人たちがいるが、実はローカルな話でしかないわけだ。
これらの中判や大判、あるいは35mmフイルムでも、風景を撮る人たちにとって、一つの常識があった。「三脚に据えて絞り込め」である。すべての写真に当てはまることではないけれど、一般的に言うと風景というような遠景写真では、中途半端なボケがあると違和感が出てくる。もともと人の目はパンフォーカス的だし、まして風景では手前の川がぼけていて奥の山は鮮明、などという見え方はしない。ものすごくぼけていれば、それはそれで良いのだけれど、遠景になるといくら長焦点レンズでもそこまではぼけないので、中途半端にぼけた不自然な風景写真になってしまう。そこで絞り込んで被写界深度を深く撮ることになるわけだけれど、そうなるとスローシャッターになって手ぶれが起きやすくなるので、三脚に乗せましょうという話になってくる。マクロ撮影においても、今度はぼけすぎて困ってくることがある。ピンポイントでピントが来ていれば、それでよい場合もあるのだが、花の雌しべ近辺にもう少しピントが欲しいとか、昆虫の眼でも先端だけではなく、眼の先端から奥まではピントが欲しいとか、そういうことは頻繁にある。そういう場合に35mmフイルム対応レンズではぐっと絞り込む必要があったのだが、そうするとスローシャッターになる。だから、マクロ撮影も三脚必須になってしまっていた。
ところがフォーサーズシステムの場合は、被写界深度が深い。ぼけにくいと言うことは、風景やマクロで絞り込み、ブレとの戦いに明け暮れていた人々にとっては、大きなメリットになる。だいたい2〜3段分程度の絞り値に相当するくらいのものなので、たとえばいままでF16に絞って撮影していた人は、F8〜F5.6程度で同じだけの被写界深度が稼げてしまう。しかも、Leica D Vario-Elmarit 14-50mm F2.8-3.5 ASPHには光学式手ブレ補正ジャイロが付いている。今まで、重い三脚を担いで苦労して撮影していた風景撮影が、身軽なスタイルで撮れるようになってしまうのだ。苦労して撮るからよい写真が撮れるというのも正しい指摘である。だが、楽に撮れるならそのほうがよいという、弱い心を持つ貴方も、私も、存在しているのではないだろうか。
もちろん一般のスナップにおいても被写界深度の深いフォーサーズシステムはメリットを出す。より速いシャッターを切れるから被写体ブレが起きにくく、なおかつピンぼけも起きにくい。子供を楽しく撮影しようと考えている場合でも、フォーサーズシステムは有利なのである。
マクロ撮影の場合でも、ピンぼけを生みやすい前後のブレを、より速いシャッタースピードで解消できる可能性が高い。フォーサーズシステムならば、ピントが来たと思うときにパシッとより速いシャッタースピードで切れば、よりスローシャッターである必要があったり、より被写界深度が浅い大きいサイズの撮像素子対応レンズよりも、ピントが来る率が高い。そしてデジタルだから、10枚、20枚と撮影しておけば、中にはちゃんとしたピントも来ているはずなのだ。三脚に据えることはよいことではあるが、自由度がないので発想が固定化されてしまう。デジタルのメリットを活かして、手持ちで自由に様々な角度からたくさん撮影することも、新しい時代の撮影スタイルといえるだろう。
さらに「DMC-L1」のメリットとして、ライブビュー撮影ができることがある。ミラーアップし、コンパクトデジカメのように、撮像素子で直接光を受けて液晶に表示するもので、視野率100%。オートフォーカスを使用することもできる。これができるのも、ノンダストシステムの威力が大きい。ミラーアップしてしまうとローパスフィルターにゴミが付きやすくなってしまうので、完全なるノンダストシステムがなければ、このようなライブビュー撮影にはゴミの付着が多発してしまうからだ。単にスルー画像を出せる撮像素子ならよいというものではなく、ノンダストシステムあってこそのライブビュー機能なのである。
またライブビューの拡大機能が、4倍と10倍から選択することが可能になったことがある。ライブビュー自体は「DMC-L1」が初搭載というわけではなく、ほかにも可能な機種はある。しかしその拡大表示が10倍のみで、拡大率が大きすぎる。慣れてくると拡大なしでも結構ピントがつかめてくるので、4倍くらいの拡大があると極めて実用的で、利便性の高いライブビュー撮影が行えると考えていたところへ、「DMC-L1」は4倍拡大を実現してくれた。メニューであらかじめ選択しておく必要があるが、それで十分。「DMC-L1」の登場によって、ライブビュー撮影はさらに進化して使いやすくなったと言えるわけだ。
注目は今後のレンズラインナップだが、2007年以降に14-150mmF3.5-5.6OISと25mmF1.4。その後50-150mmF3.5-5.6OISと45mmF2.0OIS Macroの開発が発表された。フォーサーズシステムのユーザーには待ち望まれていた25mmF1.4がラインナップされているのはうれしい話。ライカのファンからしてみれば、25mmF1.4がズミルックスで、45mmF2はズミクロンになるのかどうかが注目点である。一見本数が少ないようだが、フォーサーズシステムのレンズすべてが使えるので問題はまったくない。それより個人的には数よりも、ライカブランドの単焦点レンズを拡充してもらえるとうれしい。単焦点レンズの本数があっても、ノンダストシステムを持たない他社ではレンズ交換を存分に楽しめず、撮影はレンズ交換せずに済むズーム中心になってくるからだ。松下には、アドバンテージを強化するポイントともなる単焦点レンズの拡充を、期待したい
なお、「DMC-L1」はすべて日本国内生産だそうだ。魚津工場でヴィーナスエンジン。砺波工場でLiveMOSセンサー。山形工場でレンズとSDカード、福島工場で本体を生産するという。このあたりも、品質管理を徹底的に高めている姿勢がうかがえてよい。
さて、シャッタースピードダイヤルや絞りリングなど、アナログカメラの操作感と、フォーサーズシステムというデジタルならではのメリット、さらにライカの歴史のなかで初開発のデジタル専用Leica Dレンズの写りなど、次回は使用感と作例をたっぷりお伝えしよう。
■関連情報
・DMC-L1 | デジタルカメラ「LUMIX(ルミックス)」 http://lumix.jp/L1/
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安孫子 卓郎(あびこたくお)
きわめて頻繁に「我孫子」と誤変換されるので、「我孫子ではなく安孫子です」がキャッチフレーズ(^^;。大学を卒業後、医薬品会社に就職。医薬品営業からパソコンシステムの営業を経て脱サラ。デジタルカメラオンリーのカメラマンを目指す。写真展「デジタルカメラの世界」など開催。現在パソコン誌、写真誌等で執筆中。