プロカメラマン安孫子卓郎が撮る プレミアム一眼 LUMIX L1 絞りリングを回して、ぼけ具合を調整する。シャッタースピードダイヤルを回して、適切な露出にする。フィルムカメラで慣れた手順そのままで画づくり マニュアル撮影の醍醐味を心ゆくまで楽しめるデジタルカメラが、ようやく登場。


プレミアム一眼、LUMIX L1


1/3EV刻みのシャッタースピードダイヤル。操作感は往年の高級一眼レフのものだ


確かな操作感の絞りリング。数字などの書体もまさにライカレンズ

 「L1」の操作性、デザインの最大の特徴は、ボディにシャッタースピードダイヤルが付いていることだろう。そしてそのシャッタースピードは、1/3EVの刻みで付いているという部分である。ライカレンズに付けられた絞りリングと共に、絞りとシャッタースピードをマニュアルで操作するためのものである。

 昔のカメラはこれが一般的で、ボディ側でシャッタースピードを決め、レンズ側で絞りを決めた。そうではない機種もあるが、まあ、この方式が多かった。最近はレンズから絞りリングを省略し、ボディ側で絞りも操作するようになりつつある。だがLeica D Vario-Elmarit 14-50mm F2.8-3.5 ASPHは絞りリングを持ち、アナログ的な操作を可能にしている。またシャッタースピードダイヤルだが、昔のカメラは大部分が1EV刻みであった。1/30の次は1/60で、1/125、1/250となっていたわけだが、「L1」ではここに1/3の刻みを入れてある。

 多くの場合、写真は絞りを決めてからそれに見合うシャッタースピードを決めることが多い。絞りは被写界深度を決定するので、ぼけ具合が決まる。どれくらいぼかすか、どこまでピントを合わせるかを決めてから写すことが多いのである。ところが昔のカメラは1EV刻みのシャッタースピードだったので、絞りをF4.0に決めて、内蔵露出計を見ながらシャッタースピードを決めていっても、ピタリの所に納めるために、最後はまた絞りで微調整というのが普通であった。

 まあ、昔の露出計はだいたいの目安にすぎなかったし、プリントするときにもちょっと薄いネガだからコントラストの高い4号の印画紙を使おうとか、濃いネガなのでローコントラストの2号を使うとか、適当に調整していたので問題はなかった。まあ、そういうアバウトさがアナログ感覚だったわけだ。ただ、今現在デジタルになり、露出がシビアに画像に反映されるようになったので、やはり絞り優先でシャッターを決めるのならば、1/3刻みのシャッタースピードダイヤルも必要になってくるわけだ。

 マニュアル露出というのは結構おもしろいので、皆さんも試してみるとよい。実に簡単である。フィルムの時は、結果がその場でわからないから露出は「勘」である。経験値に基づく「勘・露出補正」で露光値を決めるのがマニュアル露出であったが、デジタルはその場で結果を見ることができる。デジタルなら撮ってすぐに背面液晶でプレビューしたり、パソコンに取り込んで確認することも可能だ。さらに「L1」ならライブビュー機能があるので、より気楽にマニュアル露出を楽しめる。まさに百聞は一見にしかず。見て明るければ絞るなどして暗くすればよく、暗ければ明るくすればよい。経験も知識も何もいらない。見て、それに相応する値にするだけなので、実に簡単である。

 よく「フィルム時代の、結果を待つ期待感がなくなった」と言う人がいるが、筆者は逆。「フィルム時代の、結果を待つ不安感がなくなった」のでありがたいと思っている。何の不安もなくマニュアル露出を楽しめるのだから、デジタルこそマニュアルである。ただし、露出のマニュアルは簡単だが、フォーカスのマニュアルは大変なので、フォーカスについてはオートの方がありがたい。


積極的に使いたいフィルムモード

 また「L1」には「フィルムモード」があり、スタンダード、ダイナミック、ネイチャー、スムーズと使い分けができるようになっている。ここまでは最近よくあるのだが、「L1」はフイルムモードの「モノクロ」にもスタンダード、ダイナミック、スムーズという設定がある。ダイナミックはコントラストが高く、スムーズは低いコントラストで階調性重視の設定だ。モノクロモードのトーンがなかなかよくて、これは結構使えると思った。「フィルムモード」には上記の設定のほかに各パラメーターを自分で調節して2種類の設定を保存しておける「マイフィルム」もある。かつて使っていたフィルムの特性を登録しておけば、まさに撮影シーンに合わせてフィルムを換える楽しさを味わえるのだ。

 今回は仕事なのでRAWとの同時期録で撮影してはいるが、基本的に、特にモノクロの場合は、後で調整するのではなく、はじめから決めうちして撮影するのがベストだと思っている。カラーで、あるいはRAWで撮影しておいて、後で変換すればよいというのは便利な考え方だが、モノクロ化するにもレタッチのテクニックがたくさんあり、さらにイメージ作りでかなりの達人でないと、なかなかうまくいかないところがある。

 その典型が、白飛びと黒つぶれである。カラーというのは、中間調の世界である。中間調の世界だから、階調のない白飛びや黒つぶれが嫌われる。ところが白黒写真の世界は、白と黒とグレーの世界だ。白飛びや黒つぶれをなくしてしまったら、白と黒のない、白黒ならぬグレー写真になってしまう。「L1」のモノクロでも、スムーズ設定などを利用して、階調性を重視したグレーの世界を作り出すというのもよいことである。だがそればかりを是とし、白と黒を否としてしまったら、白黒写真は成り立たない。カラーで撮ったら白飛びすると思うところでも、白黒ならばあえて飛ばすことで作品作りに貢献する。そういうイメージを抱ける人ならば、カラーで撮影して後でモノクロに変換してもよいと思うのだが、なかなかそこまでのイメージが撮影前に思い浮かばないことも多い。したがってはじめからモノクロで撮影し、撮った画像を見て、またイメージを作って撮り直すなどするほうが、より簡単に、よいモノクロ写真が撮れるだろうと思うわけだ。


ライカレンズの写りに手ブレ補正が加わって恐いものなし

 Leica D Vario-Elmarit 14-50mm F2.8-3.5 ASPHは、抜群の高画質レンズである。他社製フォーサーズ規格の標準ズームで使い勝手と画質とコンパクトさと低価格を両立させたレンズがあるのだが、画質についてはLeica D Vario-Elmarit 14-50mm F2.8-3.5 ASPHははるかに上をゆく。値段は高いけれども手ブレ補正も付いており、さすがにライカというだけのことはある。デジタル専用であるか、35mm判もカバーするか、という名目的な話ではなく、実際に素晴らしい写りであることは間違いなかった。今後登場してくるのデジタル専用ライカレンズにも、十分な期待を抱かせる描写力である。

 絞りリングを左手の親指と人差し指で回してぼけ具合を想定して絞り値を設定し、シャッタースピードダイヤルを右手人差し指で回して露出を決める。カメラ操作手順の基本中の基本だ。フォーカスはオートにしているが、それ以外はマニュアル操作で撮れるので、「写真を撮っている」実感がわくカメラだ。デジタルになって、十字キーやらボタンやらで心もとない操作が増えてきているが、きっちりかっちりダイヤルを回して設定できる「L1」は、操作の確実性・信頼性が指先から伝わってくる。しかも要所でデジタルの便利さを享受できる。デジタル専用ライカレンズの描写も加わって、松下の本気が詰まっている。他社ではこんなカメラ、つくりたくてもつくれない。

 

 

京王多摩川の駅前にあるangeという小さな花のテーマパーク。小雨の中、傘を差しながらの不安定な撮影になってしまったが、花そのものは濡れている方が風情がある。14-50mmは最短撮影距離が29cmなので、ダリアなどの花ならば撮るに困らない。

1/200 F8.0 50mm ISO100

 

神代植物公園の薔薇。薔薇の名所である神代植物公園は筆者宅から近いので、毎年必ず撮影している。ただしすでに春の薔薇は終盤を迎えており、かろうじて残っている花をやっと撮影したところ。様々な色があるので、色の発色を見るのには好適な花だ。そして「L1」は、イメージに採用されている深紅の薔薇を始め、きれいに心地よく発色をしていることがおわかりになるだろう。

1/800 F3.5 50mm ISO100

1/800 F3.5 50mm ISO100

 

ユネスコ村にあるユリ園。花はたくさん咲いていたが、シーズン終盤を迎えて痛みが目立つ。かろうじて傷んでない花を探しての撮影になったが、テレ側でもワイド側でもきれいなボケを見せてくれて、かなり満足。テレ側できれいにぼけるレンズはたくさんあるが、14mmと言う短い焦点距離で有りながら、ワイド側でこれだけきれいにぼけるレンズは珍しい。

1/200 F2.8 15mm ISO100

1/200 F3.5 50mm ISO100

 

長野県の白樺湖で撮影。 晴れを求めて出かけたのだが、残念ながら日差しはあるものの空は薄曇り。本来だとオリンパスブルーとパナソニックブルーの比較などをしてみたかったのだが、残念ながら梅雨の時期なので無理だった。

1/1600 F3.5 50mm ISO100

1/800 F3.5 50mm ISO100

1/125 F11.0 33mm ISO100

 

上野から谷中まで、散策しながらの撮影。前半はモノクロモードのダイナミック設定、後半はカラーでスタンダード設定で撮影した。カラーも良いのだが、地域性もあるのか、モノクロの出来が大変良かった。このカメラにはモノクロが似合うし、実際に撮影しても良い感じのモノクロを生成してくれる。やっぱりこういうカメラは、モノクロで撮りたいと再認識した。

1/80 F5.0 50mm ISO100
コントラスト:ハード
シャープネス:ハード

1/125 F3.5 50mm ISO100
コントラスト:ハード
シャープネス:ハード

 

1/160 F6.3 19mm ISO100
コントラスト:ハード
シャープネス:ハード

1/125 F5.6 14mm ISO100
コントラスト:ハード
シャープネス:ハード

1/160 F7.1 50mm ISO100
コントラスト:ハード
シャープネス:ハード

1/100 F2.8 14mm ISO100
コントラスト:ハード
シャープネス:ハード

 

1/640 F2.8 14mm ISO100

1/200 F9.0 14mm ISO100

1/200 F7.1 14mm ISO100

1/200 F6.3 14mm ISO100

※今回使用した機材は試作機のため、Exif情報に不完全な部分がある可能性があります。
 

■関連情報
・DMC-L1 | デジタルカメラ「LUMIX(ルミックス)」 http://lumix.jp/L1/

■関連記事
・松下電器、パナソニックセンターに「LUMIX DMC-L1」を先行展示
 http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2006/06/22/4056.html

・松下電器「LUMIX DMC-L1」発表会写真レポート
 http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2006/06/22/4051.html

・松下電器、「LUMIX DMC-L1」発表会を開催
 〜「現状のデジタル一眼レフカメラを不満に思う人に」
 http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2006/06/21/4052.html

・松下電器、LUMIX DMC-L1デビューイベントを開催
 〜22日からはパナソニックセンターに展示
 http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2006/06/21/4050.html

・松下電器、フォーサーズ用標準ズームレンズ「Leica D Vario-Elmarit 14-50mm F2.8-3.5 ASPH.」
 〜発表会ではレンズのロードマップも発表
 http://dc.watch.impress.co.jp/cda/lens/2006/06/21/4049.html

・松下電器、フォーサーズ準拠のデジタル一眼「LUMIX DMC-L1」
 〜質感や操作感にこだわった“プレミアム一眼"
 http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2006/06/21/4047.html

・【速報】松下電器、同社初のデジタル一眼レフ「LUMIX DMC-L1」
 〜手ブレ補正付き交換レンズ「LEICA Dレンズ」とのセットでのみ販売
 http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2006/06/21/4046.html

 

安孫子 卓郎(あびこたくお)
きわめて頻繁に「我孫子」と誤変換されるので、「我孫子ではなく安孫子です」がキャッチフレーズ(^^;。大学を卒業後、医薬品会社に就職。医薬品営業からパソコンシステムの営業を経て脱サラ。デジタルカメラオンリーのカメラマンを目指す。写真展「デジタルカメラの世界」など開催。現在パソコン誌、写真誌等で執筆中。