業務用スキャナー i1860。どんな原稿でも驚きの速度で高品質なスキャンが行われる

 東京都千代田区御茶ノ水のコダック本社ショールーム。そこに設置された一台の巨大なスキャナーがある。

 伝票、書類、カタログなどなど、いろいろなサイズや厚さ、さらにはさまざまな色、文字の濃度の用紙をセット。端末からの操作で、用紙を送り込む部分がゆっくりとリフトしたかと思うと、吸い込まれるようにして用紙が送り込まれていき、瞬く間にクリアにスキャンされていく……。

 企業の伝票処理など、ミッションクリティカルな用途に利用される1,000万円クラスの業務用スキャナーは、サイズもさることながら、1日数万枚スキャンするというその動作している姿はまさに圧巻だ。

 確かに、サイズがばらばらだからスキャンできない、厚さが合わないから用紙が詰まるなどということがあっては話にならないし、カーボン写しでかすれているからといって伝票の文字が見えないほどうすくスキャンされてしまったり、海外の書類などに多いブルーやイエローの背景色の濃い書類だからといって真っ黒にスキャンされてしまったとしたら、これはもはや業務の役に立たない。

 用紙のサイズや厚さ、文字や背景の色、濃度など、瞬時に判断して、次々に、しかも正確にスキャンできなければ、顧客のニーズに応えることはできない。そのためのハードウェア技術、ソフトウェア技術を惜しみなく注ぎ込み、スキャナーとしての性能をとことん突き詰めていった究極の姿がここにあるというわけだ。


コダック株式会社 ドキュメント イメージング アンド ビジネスプロセスサービス事業部 企画・業務部 テクニカル サポート担当の林 武史氏
コダック ScanMate i1120スキャナー

 「業務用スキャナーの先進技術をそのままギュッと凝縮したような製品、それがScanMate i1120です」

 コダックが3月に発売した新製品「ScanMate i1120」を目の前に、そう語るのはコダック株式会社 ドキュメントイメージング アンド ビジネスプロセスサービス事業部 企画・業務部 テクニカルサポート担当の林 武史氏だ。

 ScanMate i1120は、ここ数年、オフィスや家庭での利用が増えてきたドキュメントスキャナーに分類される製品だ。上部のフィーダーに用紙をセットしてスキャンを開始すると、用紙が本体を通って下部のトレイから出てくる。この間に、内部で用紙の文字や図版などがスキャンされ、USB経由でPCに保存されるというイメージだ。

 価格はオープンプライスだが、店頭予想価格は5万円弱が見込まれており、企業内個人や家庭での利用が想定されるパーソナル向けの製品となっている。

 林氏の手によってセットアップされたScanMate i1120を目の前に、まずは製品を眺めてみる。デスクの上にも収まりそうなコンパクトなサイズが印象的だ。

 スキャナーというと、フラットベッド、最近でもインクジェット複合機のイメージがあり、あると便利だが場所を取るというイメージがあったのだが、ScanMate i1120に代表されるドキュメントスキャナーは、これとは対照的になかなかコンパクトだ。

 林氏によると、「オフィスの机の上だけでなく、たとえば病院の受付ですとか、スキャナーを使いたいというニーズがあるものの、設置場所が限られるところ。そんな場所での利用も想定しています」とのことだ。まさに場所をとらないコンパクト設計と言ったところだろう。


外形寸法は、幅300mm×奥行き157m×高さ147mm。机の上に置けるコンパクトなサイズ
実際にスキャンのデモを見せてくれる林氏

 冒頭で紹介した業務用スキャナーと比べると、価格では200分の1足らず、サイズもかなり小さいこの製品に、果たして業務用のどのような技術が凝縮されているのか? 誰もがきっとそう思うことだろう。

 このあたりの疑問を率直に林氏にぶつけてみると、「速度」と「品質」の2点をポイントとして挙げてくれた。「業務用のスキャナーの場合、業務を効率的に遂行するためにスキャナーにも高速な読み取り速度が要求されます。そういった意味では、このScanMate i1120ではA4サイズ、カラー、200dpiで20枚/分というパーソナル向けとしては高速なスキャン速度を実現しています(林氏)」という。

 そして何より印象的だったのは、業務用スキャナーから引き継いだもうひとつの特徴として林氏が挙げた「品質」だ。

 「たとえば、背景色の濃い原稿、そして白紙に黒い文字の普通の原稿、こういった濃度の違う2種類の原稿を一緒に読み込んだ場合……」、そう言って林氏は実際にスキャンのデモを見せてくれた。

 デモの概要はこうだ。レシート、レターサイズ、A4、不定形のばらばらのサイズ、しかも普通の白紙に黒文字のA4文書から、カーボンで複写された伝票、赤い背景に黒い文字の海外でよく見かけるようなカード形式の書類と、まったくばらばらの書類をスキャン面だけそろえて無造作にセット。これを標準設定のままモノクロPDF出力でスキャンした。

 「通常、一方の濃度に合わせてスキャンすると、もう片方が真っ黒になったり、逆に真っ白になったりしますが、この製品では自動的に濃度を判断して、各用紙に最適な設定でスキャンすることができます。つまり、仕事で急いでいるにもかかわらず、いちいち設定を変えるといった手間がなく、おまかせで最適な品質でスキャンできるわけです(林氏)」

 確かに、出力されたスキャン結果は、書類の違いをものともせず、いずれも見やすい濃度に自動的に調整されていた。

 普通では真っ黒になってしまうであろうカラーの用紙も、まるで白紙に黒文字の書類だったかのように、きれいな白い背景とクッキリとした黒い文字で出力されている。

 文字がかすれて見えなくなってしまうことが多い、カーボン複写の伝票もきちんと文字が判別できる。

 文字の上をマーカーでなぞった書類など、普通はマーカー部分が黒くつぶれて文字が判別できないが、ScanMate i1120でスキャンした書類は文字がきちんと判別できる。

 もちろん、通常のスキャナーでも、書類ごとに設定を調整すれば、適切なスキャン結果を得ることは可能だ。しかし、林氏が強調するように、ポイントはいちいち設定を切り替える必要がないことだ。

 しかも、ScanMate i1120には、1000万円クラスのスキャナーと同様の「パーフェクトページ」という機能が採用されており、斜めにスキャンされたような場合でも自動的に傾きを調整できる。いろいろな種類の書類が混在していても、それぞれに最適な品質で自動的にスキャンできる。この手軽さがScanMate i1120ならではの魅力だろう。

スキャン元原稿
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スキャン後PDF
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赤い紙に黒字の原稿も、白紙に黒文字の書類だったかのように、きれいに出力されている。
スキャン結果:300dpi 1bit 白黒
スキャン元原稿
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スキャン後PDF
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カーボン複写の伝票もきちんと文字が判別できる
スキャン結果:300dpi 1bit 白黒
スキャン元原稿
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スキャン後PDF
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マーカーでなぞった書類などでも、マーカー部分の文字がくっきりと出ている
スキャン結果:300dpi 1bit 白黒

 そうは言っても、苦手な書類があるのではないか?

 ということで、トレーシングペーパーに鉛筆書きという少々意地悪な書類を用意してスキャンを依頼してみた。紙質が薄いうえ、半透明の用紙、さらに鉛筆による薄文字と、難度の高い用紙だ。

 しかしながら、林氏は「いいですよ」とこともなげにスキャンしてしまった。結果は、見事と言うしかなく、用紙はスムーズにフィードされ、鉛筆書きの文字がきちんと読み取れる濃度でスキャンされていた。この薄さの紙が大丈夫なら、新聞の切り抜きのスキャンなどにも対応できそうだ。

スキャン元原稿
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スキャン後PDF
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このような意地悪な書類でも全然問題なし
スキャン結果:300dpi 1bit 白黒

 ひと昔前のスキャナーなら、この手の書類をスキャンする場合、まず最初に標準設定でスキャン、うすくて文字が読めないので濃度を上げてもう一度スキャン……、とトライアンドエラーを繰り返す必要があった。

 一枚の用紙に、薄い部分と濃い部分が混在するような書類はもっと手間がかかり、濃度の調整をそれこそイヤになるまで繰り返して、それでも納得できずに、最後は妥協するという場合も少なくなかった。

 しかし、ScanMate i1120では、こんな苦労は必要ない。林氏によると「ScanMate i1120には、『iThresholding』(アイ・スレッショルディング)という技術が採用されています。これにより、書類の色や状態を認識し、コントラストやしきい値を用紙ごとに最適に設定することができる」という。

 試しにということで、林氏がiThresholdingをオフにした状態で、さきほどのテストと同じ書類をスキャンしてみせてくれたが、通常ではうまくスキャンできていた書類が、真っ黒になったり、文字が判別できなくなったりと、とたんに品質が低下してしまった。それほどまでに、iThresholdingの効果が大きいというわけだ。

iThresholdingオン
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iThresholdingオフ
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その差は歴然。iThresholdingオフにすると、さきほどの赤い紙に黒字の原稿が、真っ黒になってしまった

 経験とカン、これまでスキャンは言わば職人ワザとも呼べる側面さえあったが、このような暗黙的な知識に頼る必要はもはやない。箱を開けてセットアップすれば、誰でも最高のクオリティでのスキャンがすぐに利用できるわけだ。

 「このような性能や品質が、自分のデスクで実現する。わざわざ業務用のスキャナーがあるところまで行かなくても手軽に利用できる。これが最大の魅力ではないでしょうか」と、林氏が言うように、まさに業務用スキャナーのクオリティが身近に使える貴重な製品と言えそうだ。

このボタンとインジケーターが使いやすさのポイント

 これまで、ScanMate i1120の品質について主に紹介してきたが、この製品は実はもうひとつ重要な特徴を備えている。それは、使いやすさだ。

 本体の前面に注目すると、そこにはボタンとインジケーターが存在する。これが使いやすさのポイントだ。インジケーターに表示されている数字には、カラーJPEG、カラーPDF、モノクロPDFなど、スキャンの設定がそれぞれ割り当てられている。

 このため、極端な話、スキャナーの使い方をあまり知らない人にスキャンを頼んだとしても、「1番でスキャンしておいて」などと頼めば、好みの設定、好みの出力形式で、手軽に書類をスキャンできることになる。これはとても便利で、一度スキャンの設定をしておけば、スキャナー本体の矢印ボタンで番号を選択し、スタートボタンを押せば、PCからの操作不要で自動でスキャンができる。

 しかも、林氏によると、この番号を応用的に利用することも可能で、「たとえば、スキャナーを接続したPCにネットワークドライブを割り当てておき、プリセットの1番はAさんのPCのネットワークドライブに出力、2番はBさん、といったようにしておけば社内のネットワークで共有することもできます」という。

 さらに、プリンタに出力するようにプリセットしておくことも可能なため、「スキャナーを東京のオフィスに設置し、大阪のネットワークプリンタに出力する設定にしておけば、簡易FAX的な使い方もできる(林氏)」という。

 通常のFAXの場合、スキャナーの性能が悪く、送った書類が見えないなどということもあるが、ScanMate i1120ならスキャンの品質は折り紙付き。もちろん、メールで送信してもかまわないが、通常のFAXとはくらべものにならないほどクリアな状態で書類を送信することが可能だ。しかも、スキャナーなのでもちろんカラーで送信することも可能。赤や青など色の付いた文字や、カラーのカタログなどもそのまま送信できるのだ。

 このクオリティと使いやすさを応用すれば、工夫次第でいろいろな使い方ができそうだ。

 このように、コダックのScanMate i1120を実際に使いながら、製品の特徴や技術的なポイントについて話をうかがったが、とにかく業務用機器の世界で鍛え抜かれてきただけあって、同社自らが製品に対して要求しているレベルが非常に高い印象を受けた。

 しかも、通常、技術にばかり注力してしまうと、使いやすさがおろそかになるケースも少なくないのだが、ScanMate i1120はむしろパーソナルユースでの使いやすさが際だっている商品だ。

 デスクにたまっている未処理の書類をScanMate i1120にドサッと載せ、ピッとボタンを押せば、さまざまな書類を自動的に最適な品質でスキャンできる。ユーザーはボタンを押すだけ、つまり積極的に使いこなそうとしなくても、誰もが高性能を享受できる。この発想はすばらしい。

 もちろん、両面スキャンにも対応しており、一定のデータ量(標準では1KBだが調整可能)以下の用紙は白紙と認識して自動的に破棄することができたり、スキャンした文書のPDF化、ユーティリティに搭載されたOCR機能による透明テキスト(テキストレイヤー)付きPDF出力にも対応する。

スキャン元原稿
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スキャン後PDF
(画像クリックでPDFを表示します)

サイズ違い、白黒・カラー混合の書類群を、OCR機能によるテキストレイヤー付きPDFでスキャン
スキャン結果:300dpi 1bit 白黒 マルチページPDF(OCR)

 実は、このOCR機能によるPDF化は非常に便利で、パンフレットや資料などをこの形式でどんどんスキャンしておけば、後から見出しなどの文字で資料を検索することが可能となる。

 実際に使ってみた印象としても、カラーはもちろんだが、特にモノクロの品質はまさに他に類を見ないほど高く、パーソナルユースの製品としては群を抜く存在と言っても過言ではない。

 既存のスキャナーで、トライアンドエラーを繰り返している、特定の書類が思ったようにスキャンできないと悩んでいる人はぜひ使ってみて欲しい製品だ。


清水理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるブロードバンドインターネット Windows XP対応」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ

関連リンク
 ■コダック ScanMate i1120スキャナー
 http://www.kodak.co.jp/go/getyourScanMate/
 ■コダック オフィススキャナー特設サイト(ScanMateの他、小型スキャナーの動画や使い方が見られるサイト)
 http://www.kodak.co.jp/go/OfficeScanners
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 ■コダック、実売5万円を切るドキュメントスキャナ「ScanMate i1120」
 http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0304/kodak.htm
 ■コダック、スキャン品質にこだわった5万円を切るドキュメントスキャナ
 http://enterprise.watch.impress.co.jp/cda/hardware/2008/03/04/12395.html