それは突然、やってきた。というかCar Watchからの電話は、いつも意表を突くようにかかってくる。編集さん曰く「高橋さん、ブリヂストンのタイヤで・・・」。もう、ここまで聞いて私は全てを理解した。そこはそれ、勘が鋭く勘違いの激しいライターとして、ちょっとは名の知れた私である。ブリヂストンと聞いてピンと来た。ああ、例の依頼が舞い込んだのだ。私は迷わず答える「不肖・高橋、リトレッド食いには自信があります! 見事なリトレッド食いをご覧に入れましょう!」。
しばしの沈黙が流れた後、編集さんがキッパリと言う。「いえ、リトレッド食いは関係ありません。高橋さん、タイヤを交換して“ラク”になりませんか?」。タイヤを交換して“ラク”になる? リトレッド食いが関係ないと聞いて多少がっかりしつつも、“ラク”になるとは何事かと、興味津々な高橋であった。まあ、「リトレッド食いは関係ありません」と言われて、はいそうですかと納得などするものか。とりあえずロールケーキを買って、リトレッド食いの練習だけはしておこう、念のため。
高橋敏也、おっさん。主にパソコン関係の記事原稿を書いて生活する、ごく普通のおっさんである。仕事がパソコン関係ということもあって仕事場は秋葉原の近くにあり、自宅は杉並区にある。生活パターンが恐ろしく不規則なため、仕事場と自宅の行き来、すなわち通勤は主にクルマを使用する。愛車は先日マイナーチェンジされた、3代目プリウスだ。
以前はやや大きめのワゴン車に乗っていたのだが、燃費のいいクルマを体験したいと思い、プリウスに乗り換えた。燃費を気にして乗り換えただけに、タイヤやホイールにも気を使っている。ホイールは軽量タイプに交換し、タイヤはブリヂストンのECOPIA EX10に履き替えた。2年前、低燃費タイヤにラベリング制度が導入され、一目でタイヤの大まかな性能が把握できるようになった頃である。ちなみに当時、最新の低燃費タイヤだったECOPIA EX10は、転がり抵抗性能で“A”グレード、ウェットグリップ性能で“b”グレードを達成していた。
最新の低燃費タイヤ、軽量ホイール、そしてプリウス。この3つのお陰で燃費は大幅に向上し、そのまま約2年が経過した。そして今、新たなチャレンジが始まる。Car Watch編集部からの依頼は単純明快、「ブリヂストンの低燃費タイヤ、ECOPIA PZ-Xを履いて“Wですごい”を体験せよ」というのだ。誰だ、リトレッド食いにチャレンジとか言ったのは・・・(私だ)。
来るもの拒まず。来なければこっちから行くというのが、私の基本スタンスである。もともとブリヂストンの低燃費タイヤ、ECOPIA EX10を履いていたという縁もある。ECOPIA PZ-Xにチャレンジするのに、なんのためらいがあろうか。まったく後先考えずに依頼を受け、とりあえず買ってあったロールケーキを食べつつ、私はふと思うのである。“Wですごい”って何だ?
“W(ダブル)”ということらしい。ブリヂストンのECOPIAブランドなのだから、低燃費タイヤなことは間違いない。要するにダブルの一方は「エコ」で決まりだ。問題はもう一方の「すごい」が、いったい何を意味するかである。しかしまあ、そこはそれパソコン関連の仕事をしているおっさんである。インターネット検索で、すぐさま答えにたどり着く。結果“W(ダブル)ですごい”は、発売する1/3のサイズで低燃費の最高グレード「AAA」を獲得するレベルで「すっごいエコ」で、直進安定性が向上するなど「すっごい運転がラク」ということらしい。
ロールケーキをほぼ1本食ったため、多少の胸焼けを感じつつ、おっさんは思うのである。タイヤの性能で低燃費性能が向上するのは、すでにEX10で経験済みだ。そして今回試すPZ-Xはセダン、クーペ専用に開発された低燃費タイヤ。私の履くサイズ(215/45R17)では転がり抵抗性能で“AA”グレード、ウェットグリップ性能で“c”という性能を実現している。転がり抵抗性能を見る限り、低燃費性能は向上しているはずだ。
では「運転ラク」というのは、どういった機能、性能を意味するものなのか? もちろんインターネットではPZ-Xに関して「ナノプロ・テック 微粒径シリカ配合ゴム」とか、「非対称エコ形状」といったキーワードを発見できる。そして「運転ラク」はその言葉どおりで、運転が疲れにくくなり、楽しくなるというのだ。
言葉、知識としては理解できても、それがリアルな世界でどう働くのか、影響するのか? 実はこのあたりが大変重要だと思う。実は試乗用のタイヤを装着してもらうため、ブリヂストンのタイヤ館を訪問した際、一応の説明を受けたのだ。だが「タイヤが新しくなる」というだけで舞い上がってしまい、ほとんど上の空だったのである。
しかし、とりあえず試乗して「Wですごい」を体感した後、ブリヂストンに取材できるという話である。だからこの前半に関してはとにかくPZ-Xを履いて、走って、その性能を体感すればいいということなのだ。低燃費性能の高さはもう分かっていることなので、ポイントは「どのようにPZ-Xがラクなのか?」である。そんなワケで私、すなわち普通のおっさんとブリヂストンECOPIA PZ-Xの、約1,000kmに渡るお付き合いが始まった。
私、すなわちおっさんの通勤路は、東京のど真ん中というワケではないにしても、都心部を通っている。一応、幹線道路なので路面が極端に荒れているとか、とんでもないギャップがあるとか、そういったことはない。だが、よく見てみると、路面にはさまざまな凹凸があり、ドライバーの注意を喚起する。また、年度末という季節柄、さまざまな道路工事に出会う。
それこそ毎日、同じ道を往復する通勤路。特徴的なポイントは、ほとんど記憶している。例えば舗装の剥がれたところ、舗装の補修で進行方向に小さな段差が長く続く場所、決して大きくはないが無視できない段差などなど。そういったポイントごとで、PZ-Xがどう反応するのか? そして運転自体は“ラク”になるのかを体験してみるワケだ。
例えば道路の凹凸、ギャップ、あるいはアスファルト以外の表面がある路面。これらを総合的に持っていると言えば、言うまでもなく踏切だ。私の通勤路には踏切がふたつある。一つは私鉄の踏切、もう一つは路面電車の踏切だ。もちろん踏切は慎重に通過するので、車体が激しく動揺するということはない。だが、細かくショックは伝わってくるし、車体をちゃんとコントロールしようと、無意識に身構える。
確かにPZ-Xは踏切を通過する際、その効果を発揮した。たぶん多くの人が体感できると思うのだが、車体の動揺が小さくなったのだ。これは別のポイント、舗装の剥がれなどで生じた、浅いくぼみでも同じだった。もっと細かく言えば、ギャップを通過する際に、クルマの車体は上下に振動する。それが以前と比較して、抑えられているように感じた。
これは通勤途中にある路面電車の踏切部。レール、鉄板、そして凹凸。これを「路面」として考えるなら、劣悪な環境だ | もう何度渡ったか憶えていない踏切。身体はしっかりいつもの感触を憶えており、PZ-Xの効果か、直進性能が安定し、ショックも小さかったように感じた |
さらに分かりやすかったのが、「左右方向に車体が振動するようなギャップを越える時」である。先ほども書いたが、舗装の継ぎ目が進行方向に走っていて、そのギャップをドライバーがハンドルで感じるような状況だ。そう大きなものではないが、ハンドルが持って行かれそうな感覚と言えばいいだろうか? それがPZ-Xでは、かなり低減したように感じたのである。
これらのほかにも道路の継ぎ目、荒れた路面などなど。普段使い慣れた道だからこそ分かる違いが、PZ-Xで生じたように思う。「新しいタイヤにしたから、気分的なものでは?」と、私も最初は自分自身を疑った。だが、明らかにPZ-Xで違いが出た。もちろんいい方向に、なのだが。車体の動揺が小さくなるということは、クルマに乗っている人間に伝わる振動が小さいということ。ハンドルを持って行かれにくくなるということは、クルマをコントロールしやすくなるということ。
あくまで余談だが、通勤の復路、すなわち帰り道には嫁が助手席に乗っていることが多い。帰宅が遅くなることも多く、そんな時、嫁は助手席で寝ている。そして例えばちょっとハードにブレーキをかけようものなら、目を覚まして「チッ」とか言いつつ、私を非難するのである。もっと静かに、スムーズに運転しろということだ。そんな嫁がPZ-Xに履き替えてから、目を覚ます機会が減ったように感じた(さすがにこれは“気がした”だけ)。
車体の動揺、振動が小さくなり、ドライバーは車体をコントロールしやすくなる。最初、私の頭の中に浮かんだのは「快適」という言葉だった。そうか「快適」というのは、疲れにくく運転が楽しい状況と表現してもいい。すなわち「ラク」ということだ。もっともたかだか往復30kmとちょっとの通勤往復では、疲れにくいかどうかまでは体感できなかった。しかし、コントロールしやすく車体が安定しているというのは、確かに運転していても楽しい。
通勤路で特に感じたのは、進行方向に走る段差でコントロールしやすいということ。さらに小さな凹みを越えるとき、車体の上下方向の動揺が小さくなった。後者はまるで、車体のサスペンションを少しだけグレードアップしたような雰囲気だ。さて、この私のPZ-Xに対する印象は正しいのかどうか。もし正しい場合は、どうしてそうなるのか? そのあたりは後編で、ブリヂストンの人に実際に質問してみようと思う。
おっさん、ちょっと早い春を探して旅に出る。もうね、出だしが「おっさん」というだけで、どうしてこうも全てがぶちこわしになるのか? アルマジロ、ちょっと早い春を探して旅に出る。何か愛くるしい雰囲気、そして小さな冒険の予感がするじゃないか。おっさんというだけで、なぜにアルマジロにまで負けるのか?
まあ、アルマジロはどうでもいい。通勤路での試乗を終えたおっさん、今度はPZ-Xで高速走行の試乗を兼ねた長距離ドライブに出発である。目的地は3月というのにもうサクラが見られると噂の場所、千葉県は鋸南町である。鋸南(きょなん)と言えば水仙の町としても知られた場所であり、おっさんの家から出発すると片道100kmと少しの距離だ。今年一番のサクラ(おっさんにとっては)を求めて、日帰りドライブというストーリーでスタート。
ルートは首都高速で都心部を抜けてレインボーブリッジを通り、東京湾アクアライン経由で千葉県に渡る。さらに館山自動車道を走って鋸南町近くに入り、後は出たとこ勝負である。旅のお供はカメラマンさんと、Car Watchの編集さん。私も含めて、どこに出しても恥ずかしくないおっさんばかりである。このがっかりなメンバーで、とにかく東京をスタート。
今回の目的はPZ-Xを履いて高速走行を体感し、中距離ドライブだとPZ-Xの“ラク”はどのような効果があるかを知ることだ。ただし気分はサクラを探すノンキなドライブ。急がず慌てず、のんびりと。かといって東京に帰ってきてから「ああ楽しかった」だけでは済まされないのである・・・いや、済むのか? PZ-Xは“ラク”なタイヤなんだから。
まず気になったのが、高速走行中の外的要因による車体の動揺に対し、PZ-Xがどのように機能するかである。いや、要するに高速道路の継ぎ目を乗り越えるときはどうか、強い横風を受けたときはどうかとか、隣の車線を大型トラックが走っていたときにはどうかとか、そういった話である。
そんなことを考えつつ走ったのがレインボーブリッジ。結構な横風を受けるポイントとしても知られるレインボーブリッジだが、その日は幸か不幸か、それほど横風は強くなかった。それより気になったのは、大型トラックに追い抜かれるとき。運動神経がかなり鈍ったおっさん、すなわち私でも体感できるほど、車体の揺れは小さくなった。もちろん大きな違いではないのだが、明らかに違う。車体をコントロールしやすいし、神経質になる度合いが低い。
これはいい流れだと思いつつ、アクアラインを通って千葉に入り、鋸南町の近くで昼食に入ったのがハイウェイオアシス富楽里。ここでふと、編集さんに「なぜ高橋にPZ-Xの試乗を任せたのか?」と質問してみた。編集さん曰く「普通のおっさんが、普通にクルマを運転して感じるその感覚が大切なんです。タイヤとかクルマとか、そういったことに関して詳しくない、普通のおっさんということで高橋さんが選ばれました」とか。いや、どう反応していいものやら。
そんなこんなでお土産をゲットし、鋸南町へと入り、本来の目的であるサクラを探してみる。結構な寒さの中、あっちへ行き、こっちへ行き、いろいろ探してみるのだが、サクラはたくさんあれど、開花具合は0.5分咲きぐらい・・・。いや、花開いたサクラは見られたんですけどね。ちなみに散歩中の地元の人に聞いたのだが、今年は気温が低くて開花が遅れているそうだ。
鋸南町、川沿いを行くプリウス。サクラの木はあるのだけど、花はなかなか見つからないねえ。また、こうした道にはギャップも多く、やはりPZ-Xが活躍する | ほどなく見つけた小さな、そしてちょっとだけ早い春。今年は寒さで開花が遅れていると、地元の人に聞いた | 鋸南町は水仙の名所としても有名 |
なんだかんだと鋸南町をドライブし、帰路についたワケだが、平日だったこともあって渋滞にも巻き込まれた。あれこれ走って約250km、横風などにPZ-Xが強いということは分かった。それともう一つPZ-Xでいいなあと思ったのが、凹凸に対する追従性の高さだ。一般道にもあるのだが、前方にある急カーブを知らせるための横方向に入った塗装のライン。この上を走るとクルマは「ガー」と上下に揺れる。
それほど大きなものではないが、気になるのもまた事実(急カーブなどを知らせるためのものなので、それでいい訳だが)。道路の継ぎ目を含めて、こうしたラインの段差にもPZ-Xは強い。強いというか、地に足がついているというか、要するにタイヤが接地しようとする路面追従性のポテンシャルが高い。と、感じた。これまた困ったもので、おっさんが普通に運転して感じたというだけなので、本当にそうなのか、どうなのか? このあたりもブリヂストンの人に聞いてみなくてはならないだろう。
このほか気になったのは、やはりおっさんの超感覚で感じたことだ。というのはこのPZ-X、ちょっとスポーツ寄りのタイヤじゃないかということ。ハンドル操作へスムーズに追従してくれるし、アクセルを踏み込んだ時の加速もいいような気がする。もちろんスポーティな走りを楽しむタイヤでないのは知っている。だが「スポーツ寄り」というところではどうなのだろう? これも聞いてみたいことである。
ラクの本質は、逆に考えると分かりやすい。ラクの逆、すなわち苦労であったり、ストレスのある運転を想像してみて欲しい。クルマを運転している最中、小さなギャップを乗り越える。ドライバーはそれを気にするし、車体には小さなショックが走る。小さなストレスが発生する訳だが、それはまれではなく、頻繁に発生することだ。そうして小さなストレスが次第に蓄積して行き「運転してて疲れた」という状況を生み出す。特殊な状況を除いて、運転疲れの原因は小さなことの積み重ねと言えるだろう。
仕事柄、どうしてもたとえ話が偏ってしまうのを最初にお詫びしておく。例えばパソコンも同じなのだ。いつものパソコンより、ほんの少し高性能なパソコンを使ったときのことを考えて欲しい。ちょっと使っただけでは「ふーん速いんだ」と思うだけ。また「これだったらいつものパソコンで充分」とか思うかも知れない。しかし、そのちょっとだけ速いパソコンで数時間、作業をしてみると違いが分かってくる。ほんの少しだけアプリケーションソフトの起動が速い、ほんの少しだけスクロールが速い、切り換えが速い・・・。その積み重ねが、総合的な快適さにつながるのだ。
PZ-Xを履いて感じる、直進安定性のよさや、ギャップを越えた時の安定感。それらを「信じられないほどの安定感」とか、「驚異の高性能」と言うつもりはない。だが、PZ-Xを履いていつものように運転していて、ふと気づく時がある。いつもの道にある、いつもの舗装剥がれ、それを乗り越えた時。あるいは、進行方向に刻まれた溝を乗り越えたとき。以前とは違って、車体が安定していることに気づくのだ。それも後から。
“ラク”をするのは、いいことだ。運転で“ラク”なら疲れにくく、その分の気力体力をほかのことに回せるじゃないか。“ラク”をしてストレスが軽減されれば、もっと穏やかな気持ちで生活できるかも知れない。穏やかな気持ちで運転すれば、きっと燃費もよくなると思う・・・。
「じゃないか」、「かも知れない」、「思う」。おっさんの感覚的な話がズラリと並んでしまった。もちろん今回は「PZ-Xを体感せよ」が主題なので、実際に体感した私の主観バリバリでもいい。だが、実際にPZ-Xはどのように機能し、そして高性能なのかを私だって知りたい。そんな訳で怒濤の後編はブリヂストンに乗り込み、PZ-Xに関して技術的なことを聞いてみたい。もちろん、おっさんが感じたPZ-Xに関する印象、その是非も聞いてみる。さて、それまでリトレッド食いを、もう少し練習しておこう。
株式会社ブリヂストン
http://www.bridgestone.co.jp/
乗用車用タイヤ
http://www.bridgestone.co.jp/
ECOPIA(低燃費タイヤ)
http://www.bridgestone.co.jp/personal/tire/ecopia/index.html
ブリヂストン、低燃費性能に“ラク”性能を加えた「ECOPIA PZ-X」など3製品
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20120111_503658.html
ブリヂストン、エコとラクを融合させた新低燃費タイヤ「ECOPIA PZ-X」発表試乗会【前編】
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20120112_503924.html
ブリヂストン、エコとラクを融合させた新低燃費タイヤ「ECOPIA PZ-X」発表試乗会【後編】
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20120113_504083.html