前回、愛車のタイヤをブリヂストンのECOPIA PZ-Xに履き替えた。PZ-Xはブリヂストンから発売されたばかりの、“W(ダブル)ですごい”セダン・クーペ専用低燃費タイヤである。まあ、ごく普通の流れとして「何がダブルですごいの?」となるだろう。このあたりは前回も少し触れたが、新しいECOPIA PZシリーズは「すっごい低燃費で、すっごい運転ラク」なのである。だから“Wですごい”という訳だ。

 分かってしまえばシンプルな内容である。だが、理解することと体験することは、これまた別の話。とくに「すっごい運転ラク」というのが、体感的にはどういうものなのか? それを体験、検証するのが前編における私、高橋敏也の使命だったのだ。前回と多少重複するが、まずはその結果をまとめておこう。

確かに運転が“ラク”になったが、“エコ”の方は?

今回装着したブリヂストンECOPIA PZ-X

 運転が“ラク”になることに関しては、前回かなりのスペースを割いて書いた。結論を言ってしまうと、PZ-Xを履く前と後では、後の方が運転は“ラク”になったのである。もっと具体的に言うと荒れた路面を走った時などに生じるクルマの揺れが、小さくなったのである。

 個人的な感想としては、小さなギャップに対してPZ-Xはとくに効果を発揮するように感じた。神経質にクルマが揺れることが少なくなったのを体感できたからだ。さらに言えば進行方向に伸びる段差、あるいは舗装の継ぎ目などで、ハンドルをコントロールしやすくなったように思った。「驚天動地であるっ!(古!)」とか「大山鳴動した!(古古!)とか、そんなことはもちろんない。だが、その快適さに楽しくなったことも事実である。

 「運転がラク」になる秘密に関しては、本編後半でスペシャリストに秘密を聞いている。では“Wですごい”のもう一方、エコに関してはどうだろう? PZ-Xは「すっごい低燃費!」なタイヤであり、低燃費タイヤの性能を示すラベリング制度において、ラインアップ中の1/3のサイズで最高グレードの転がり抵抗性能「AAA」を実現している。

 転がり抵抗が小さくなればクルマの燃費は向上する。それは分かっているのだが、今ひとつイメージが湧かないのもまた事実。だが、データというのは正直だ。実は私、プリウスに乗り始めてからずっと、燃費のデータを記録している。約2年前からのことなので、同時期の燃費データを持っているのだ。その過去データと、PZ-Xを履いてからのデータを比較して驚いた。しっかり燃費が向上しているのだ。

 2010年3月16日、今から約2年前の燃費データを見ると17.8km/L(※注)となっている。この頃のタイヤは、購入した際の標準タイプである。次に昨年2011年3月8日のデータだが、15.9km/Lだ。この後、私はタイヤをECOPIA EX10にした。そして最近の燃費データだが2012年1月27日が15.3km/L、2012年2月23日が16.7km/Lとなっている。

 プリウスの場合、ヒーターを多用すると燃費がかなり落ちる。春、夏、秋の3シーズンなら、18~20km/Lあたりのデータになるのだが、冬は難しい。だが、今年の2月20日にタイヤをPZ-Xに交換してから、かなり燃費が向上したのだ。3月中旬の現在まで、PZ-Xを履いて約700kmを走ったのだが、メーター読みの燃費は20.4km/Lとなっている。

 これには、私が一番驚いた。この700kmの中には、前回早咲きの桜を探しに行った高速走行が約200kmも含まれている。プリウスもほかのクルマと同じで、高速道路を定速走行すると燃費は伸びるのだが、直近の燃費データは高速走行を勘案してもよすぎるのだ。

 私はもう2年以上、現在のプリウスを運転してきた。普段とそれほど変わらない運転をしていれば、燃費データもそれほど変わらない。そんな中に、ECOPIA PZ-Xという、新しい要素を盛り込んでみよう。以前のEX10は、転がり抵抗性能が「A」だった。そして今回装着したPZ-Xは「AA」。タイヤの性能というのは、さまざまなところでダイレクトに影響を及ぼすのだと、実感した次第である。

※注 ここで掲載した燃費データは、プリウスのメーターに表示されたものです。本サイトにある拙著プリウス連載の燃費データは満タン法で計算したもので、上記データとは異なります。

転がり抵抗を体感せよ!

都内某所、ブリヂストンの駐車場に用意された三輪車が2台。異様に太いタイヤに注目

 燃費がよくなったのは、転がり抵抗が小さくなったから。そうなると転がり抵抗に関して、もっと知りたくなってくる。だが、転がり抵抗の差をクルマで条件をそろえて比較するのは難しい。

 さて、どうしたものかと思っていたら、編集部から朗報が届いた。「ブリヂストンに面白いものがあるんで、行って試してみませんか?」。不肖・高橋、お誘いは断らない主義だし、誘われない場合は自ら誘ったりもする(で、断られる)。しかしまあ「面白いもの」が何かは気になる。「何ですか? その面白いものというのは?」。編集さんの答えがふるっていた。「三輪車です!」、「はあ?」。

 まったくもって、どこから見ても大変立派な三輪車である。それも2台。タイヤが3本だから三輪車。実のところ、私も体重が今の1/5ぐらいの頃、お世話になった記憶がかすかにある。といっても40年以上も前なので、ほとんど霞みたいな記憶だが。「三輪車ですねえ」と私が言えば、ブリヂストンの人が「三輪車です!」と答える。ああ、そうか、やっぱり三輪車なのだなあと、しみじみ思う訳だ。

 だがこの三輪車たち(2台ある、ここ重要です)、異様にタイヤが太いのである。普通乗用車用としては小さく見えるが、どう考えたってクルマのタイヤである。ここまで来て、気づかないほど私も鈍感ではない。そう、この三輪車は「転がり抵抗を体感」するためにあるのだと。もし全然違って「三輪車を楽しんでもらおうと用意した」とか言われたら、それはそれで大変な話だが。

緑の三輪車には新ECOPIA PZ-XCが装着されていた。軽・コンパクト用に開発された新製品だ こちらは以前のモデル、Playz。PZ-XCと同じサイズ、同じ空気圧で装着されている。トレッドパターンの違いにも注目して欲しい
アイマスクをしたおっさん、これから何をすればいいか、マーケティング担当の人に説明してもらう。本当に何も見えていない

 はい、正解。一方の三輪車には新しいECOPIA PZシリーズが装着され、もう一方には以前のモデルPlayzが装着されている。当然、新しいECOPIA PZシリーズの方が転がり抵抗は小さいので、それを人力で動かせば、違いを体感できるという仕組みだ。

 ちなみに装着されるのはECOPIA PZ-XC、軽・コンパクト専用のモデルだ(だから小さく見えた)。もちろんPlayzの方も、同じサイズのPlayz PZ-XCが使われていて、空気圧も同じ。三輪車も同じ仕様だし、三輪車だからこそ実現した取り回しのよさ(当たり前か)で、同じ場所を同じように何度も走ることができる。あとはペダルを漕いだ時の違いを、体感すればいいのである。

 百聞は一見にしかず。一見はムービーにしかず。詳細は「おっさん三輪車に乗って大はしゃぎ」なムービーを見て欲しい。とにかくあからさまに違いがある! まず漕ぎ出し、ECOPIAの方が圧倒的に軽い。その後の走りに関してもECOPIAの方が軽く、ペダルを漕ぐのをやめて惰性だけで走っても、停まるまでの距離はECOPIAの方が長い。要するにECOPIAの方が、明らかに転がり抵抗は小さいのである。

【動画】おっさん三輪車に乗って大はしゃぎ

おっさん、ゴー! 三輪車にしては太いタイヤ、車重もあるので漕ぎ出しにパワーが必要だ 三輪車へ変更して、再びおっさんゴー! あ、もう違いが分かりました。こっちが新タイヤです! 漕ぎ出しからして、明らかに違う!
それもそのはず、ECOPIAとPlayzではなんと35%(PZ-XCの場合)も転がり抵抗が違うのだ!
正解に気をよくして、周囲を三輪車で暴走するおっさん。自分で見ても、本当に嬉しそうでちょっと恥ずかしい

 正直な話、この三輪車体験は実に面白かった。ダイレクトに自分の足で、タイヤの違いを体験できるのだから、面白いに決まっている。また、その結果が分かりやすいのもいい。ついつい三輪車を某所のブリヂストン前(もちろん敷地内ですが)で乗り回していたら、通りかかった人から「新製品ですか?」と話しかけられた。もちろん「ええ、新しいタイヤ……」と答えようと思ったら、「いえ、その三輪車は……」という話は、あまり関係ないか。

疑問を感じたら開発者に聞いてみよう!

 さて、私の実体験による「Wですごい」の検証は終了した。PZ-Xを履いた私のプリウスは、確かに「すっごい運転ラク!」で、「すっごい低燃費!」になった。まあ、どこを基準にして「すっごい」とするかは難しいところだが、私個人が以前履いていたEX10と、私の感覚で比較した場合「Wですごい」は確かなものだったということだ。

 ではどのようにして「Wですごい」が実現したのか? 技術的なことに関しては、ブリヂストンのサイトやパンフレットの内容でしか目にしていない。そういった知識を元にして実際に運転し、「こうじゃないか、ああじゃないか」と推論したのが前回の私、すなわち素人のおっさんである。あくまで推論なので、提供された知識に関する解釈が正しいかどうかは、また別の話だ。

PSタイヤ開発第1部のエンジニア、永井 秀さん。タイヤのプロである 高橋敏也というおっさん。クルマやタイヤのど素人、本職はパソコンだったりする

 ならば作った人に聞いてみるのが一番早いじゃないか。そんな流れで向かったのが東京都小平市にある、ブリヂストンの技術センターだ。こんな機会はめったにないので、日頃練習したあのネタも仕込んでみた(結果は最後に発表)。

 お話をうかがったのはPSタイヤ開発第1部に所属するエンジニア、永井 秀さんである。最後の最後にネタをかまされるとは知らず、親切におっさんの質問に答えてくれた永井さん、本当にありがとうございました。さて、ここからは真面目な話が続くぞ。

高橋:本日はお世話になります。まずは「リトレッド食い」の開発秘話に関してお聞きしたいのですが……

すみません、そんなこと聞いてませんのでご安心を。

「すっごい運転ラク!」の秘密を探れ!

 ここからが本物のインタビュー(以下、敬称略)。まず聞きたかったのは、「すっごい運転ラク!」の部分だ。私自身、PZ-Xを履いて運転し、道路上のライン塗装や継ぎ目での安定性を経験した。車体の動揺が小さくなり、運転上コントロールしやすくなったように感じた訳だ。この感覚は正しいと思うのだが、開発者に確認すれば間違いないだろう。実際の体験を元に、質問してみた。

高橋:実際にPZ-Xで走ってみて、路面の白線や舗装の荒れた部分を越えるときのショックが緩和されたように感じました。別な言い方をすると、車体の揺れが収まるのが早いような雰囲気があったんです。これはやはり新しいECOPIA PZシリーズの、特長の一つと考えてよろしいですか?

永井:そうですね。私どもでは非対称エコ形状と呼んでいますが、その分かりやすい特長の一つです。

 ここで登場した「非対称エコ形状」というのは、タイヤを進行方向から見た場合、タイヤのサイドウォール(側面)の形状が、左右で異なっていることだ。車体側、すなわち内側が直線的な形状で、地面からの入力に対し突っ張るような形になっているの対し、外側はカーブのついた形状で、地面からの入力に柔軟に動くような形状となっている。

非対称エコ形状がよく分かる、タイヤのカットモデルというか断面図というか。写真左が車体側(内側)、右が外側になる。カーブが微妙に異なっているのが分かる

高橋:では、非対称エコ形状だと、どうしてそういう効果を発揮するのでしょう?

永井:クルマが段差を乗り越えるときに、タイヤは地面に接地して真っ直ぐ転がり、前後方向に力を出すのは当然ですよね。ですが実は、常に横方向にも力が出ています。一般的に道路はセンターラインから路肩にかけて、傾斜がついています。そこにわずかなハンドルの操舵を加えることで、その横方向の力を打ち消して、クルマは真っ直ぐ進んでいるのです。この横方向の力は、ほぼ一定に出ているので、1回真っ直ぐ走り始めてしまうと、それはもうないように感じられる。ところが段差を乗り越えると、その力が変化する。例えば段差を乗り超える瞬間、その車輪だけが、接地面積が少し減るわけです。そうすると路面とタイヤとの間に働く力が変化し、車両全体としての、力の働き方のバランスが崩れます。それまで釣り合っていたものが崩れるので、力が発生したように感じるわけです。で、非対称形状というのは、車両の外側の方が少し膨らんだような柔らかい形状になっていて、バランスの崩れをいなすという効果があります。段差に乗り上げたときに、接地面積の変化の仕方が若干緩やかなのです。

高橋:そうするとですね、両方のサイドが適度に柔らかい方がいいんじゃないかと思ってしまうんですが……

永井:両方とも柔らかくしてしまうと、実はそれ、エコ形状といって従来のECOPIAで使用した技術になるんです。確かに路面に対していなすという効果は増えていきますが、これも程度問題で、いきすぎるとやや鈍感になってしまう。なので、外側がいなす一方で、内側はある程度しっかりさせてバランスを取っているのが非対称エコ形状なんです。先ほど車体の揺れが収まるのが早いという話があったと思うのですが、いなす一方で、いわゆるダンピングがいい、減衰がよくなるというのは、この内側のしっかり感が出している効果だと思います。

従来のECOPIAで採用していたエコ形状。両側のタイヤサイド部を丸めて発熱を抑制 非対称エコ形状では、外側は従来のエコ形状ながら、内側は直線的な形状でしっかりと支える

高橋:では、非対称エコ形状、その発想の原点はどこにあるのでしょう?

永井:そうですね。昔のタイヤというのは、車両の内側、外側なんて言ってるものはなかったわけですが、それを分けて考えようと。例えばトレッドパターンを非対称にして、内側と外側の機能を分ければ、例えばコーナーリング時は外側が強く接地するので、ここは丈夫にしてやろうとか、内側は耐ハイドロプレーニング性を上げるために溝を多くしてやろうとか、そういう発想ができます。そんな発想と前後してだと思うのですが、どうせ内側と外側の機能を決めて、使い方を決めてしまうのだったら、形も変えていいのではないかと。この発想自体は、決して目新しいものではないと思います。

 非対称エコ形状、これは新しいECOPIA PZシリーズにとって重要なキーワードである。もちろんドライバーは「楽しみ」の一部として、そういった知識を持てばいい。もちろん知らなくても、ECOPIA PZシリーズのメリットは充分に得られるのだが。

 結論、私が感じたことは正しかった。おっさんの感覚もそう捨てたもんじゃない。いやいやたいしたものだと自画自賛するのはいいのだが、こと「運転」に関しては実のところもう一つ、おっさん思っていたことがある。

 そう、前回書いたことだが「このPZ-X、EX10と比べるとちょっとスポーツ寄りのタイヤじゃないか?」という点だ。コントロールがよくなった、すなわちハンドル操作にスムーズに追従してくれる。そして、アクセルを踏み込んだ時の、加速感もいいような気がした。要するにエンジンのパワーがPZ-Xを通して、無駄なく路面に伝わっているような気がしたのだ。

 では果たして本当に、PZ-Xは「スポーツ寄り」のタイヤなのだろうか? 永井さん、教えてください。

永井:確かにPZ-Xは、EX10に比べると若干スポーティな方向に振っていますね。EX10と比較するとタイヤのケース剛性が若干硬めになっています。例えばスポーティというのを、ハンドルの操作に対する応答性の高さ、きびきび動くというようなところで捉えると、一般的にタイヤとしては硬いことが有利なんですね。で、今回のPZ-Xも、トレッドパターンはEX10よりかなりブロックを大きくして溝をちょっと減らして、がっちりと剛性を上げています。ただし、トレッド面の剛性だけを上げて、サイドの部分はそのままだと、逆にバランスが崩れてぐにゃぐにゃしてくるので、サイドも丈夫にしてやらないといけない。そういうことをやるとスポーティ方向にはなるんですが、今度は転がり抵抗性能が落ちるので、普通だったらそこでもう手がなくなるんです。が、今回は新しいコンパウンドで転がり抵抗性能を底上げできたので、すべてのバランスが取れた、そういった話なんです。

従来のECOPIAと比べブロック剛性もアップし、エコでもスポーティな味付けに

 なるほど! やっぱりおっさんは、いつも正しいのである。ちなみに永井さんによると、初代Playzは「運転していて疲れにくい」というのを一番のポイントに。2代目のPlayzで、少しスポーティなチューニングをしたのだという。そして今回のPZ-Xは、その2代目Playzのバランス感覚を狙って開発したのだそうだ。結果、「疲れにくい」という“ラク”を実現しつつ、スポーティな方向性も持っているのだという。

 運転していて疲れにくく、運転していて楽しい。実のところPZ-Xの「すっごい運転ラク!」は、2つの意味を持っていたのである。

「すっごい低燃費!」の秘密を探れ!

 さて、運転がラクの次は当然、「すっごい低燃費!」の方を聞いてみなくては。実際、私のプリウスは燃費が向上した訳だし、その仕組みに関してはかなり興味がある。

高橋:次に低燃費の方なんですけれども、転がり抵抗性能というのをよく耳にします。そして、この転がり抵抗性能が高いと低燃費性能も上がるんだよと。これをもう少し具体的に噛み砕いて教えていただけますか?

永井:そうですね、では転がり抵抗とは何かという話になりますが、要するに車輪が転がるときに、進行方向と逆向きに発生する力ということですね。これは自転車だとペダルが重くなるし、クルマだと当然それだけ余計にエンジンパワーを使うということで、それに打ち勝って駆動力を出すということが走るために必要になってくる。ですので転がり抵抗性能が高ければ、それだけエンジンパワーが小さくて済み、低燃費になるということですね。

高橋:では、どういったことをするとタイヤの転がり抵抗性能は向上するのでしょう?

永井:転がり抵抗性能を向上させる方法ですが、タイヤは変形したときに発熱し、この熱がエネルギーロスになりますので、発熱を下げることが重要です。まず第一に、そもそも発熱しにくい材料を使う。次に材料が変形しにくいようにする。最後に変形して熱を発生する材料の量自体を減らしてしまう。転がり抵抗性能向上の方法は、この3つに分けて考えることができます。これを今回のECOPIAに当てはめて言いますと、まず第一の発生する熱の度合いを下げてやるというのは「ナノプロ・テック微粒径シリカ配合ゴム」、いわゆる新ECOPIAコンパウンドと呼んでいるものをトレッドゴムに使用する技術です。これによって、以前と同じだけ変形しても、発熱が少なくなりました。2つめは非対称エコ形状の、いわゆるエコ形状に由来する部分ですが、タイヤは変形するときに、1ヶ所だけがグッと曲がると、そこが大きく発熱します。エコ形状では全体が均一に変形し、変形の偏りを少なくできます。そうなると熱の出方もトータルでは少なくなります。最後の材料そのものを減らすというのは、これは今回は特別な新技術として訴求はしていないんですが、いわゆる当社のハーフウェイトコンセプトという技術が影響しています。これは今後、長いスパンでタイヤをどんどん軽く、薄くしていこうという技術の総称で、その最新のものが投入されているということになります。

ナノプロ・テック微粒径シリカ配合ゴムでは、シリカを超微粒子化した上に、新シリカ分散性向上剤の配合で、シリカ同士の摩擦による発熱を低減した
転がり抵抗を減らすには、発熱を少なくし、変形を抑制、部材の体積を減らさなくてはならない

 タイヤと、その変形と、熱の関係。言われてみれば「なるほど!」なのだが、私のような素人のおっさんだと、真っ先に考えたのはゴムに関してだった。確かにそこでも新技術が投入されている訳だが、それと並んで重要なのは「変形時に発生する熱の抑制」。そのための新素材であり、新形状であり、重量の低減という訳だ。

 ちなみに雑談の中で、予想以上によくなった私個人の燃費データに関して質問したところ「あり得るのではないか」ということだった(あくまで雑談の中の話です)。というのもメーカーは燃費性能などを、あくまで10・15モードといった規格の中で示す。ところがその規格から離れた走り、例えばリアルな街乗りなどでは、PZ-Xなど低燃費タイヤの転がり抵抗性能が、大きく影響するのだそうだ。

 要するに街乗りではよくある、惰性による走行。前方の状況を確認し、早めにアクセルを戻すような走行をした場合、特に低燃費タイヤは転がり抵抗性能がいいので、スーッと走ってしまうのだという。そういったことが街乗りでは多く発生し、その積み重ねが燃費に反映されるのではないか? ということだった。これはあくまで雑談だが、やっぱりおっさん正しかったと、心の中でガッツポーズ。

こんな機会は滅多にないので、いろいろ聞いてみた

 これで「Wですごい」に関しては、ほぼ把握した。本来ならここで終わってもいいのだが、タイヤの開発者から直に話を聞ける貴重なチャンスである。不肖・高橋、普段から疑問に思っていたことを、いろいろぶつけてみた。

高橋:タイヤのトレッドパターンはどのように作られるのでしょうか? 過去のデータをコンピュータで解析して、デジタル的にデザインされるものなんでしょうか?

永井:社内にトレッドパターンやサイドの部分をデザインするデザイナーがいます。もちろんある程度、タイヤの知識を勉強した上で、商品のイメージ、かっこ良さというものを考えてパターンを作りあげていきます。とはいえそこはデザイナーですから、やっぱり格好いい、きれい、美しいっていうのを最優先するんですね。なので、何十本分も候補としてもらって、それを我々が見ていって、性能面でも良さそうなものを微修正したり、あるいは大変更になることもありますが、手を加えて作っていきます。

高橋:最初に、ある程度技術的な基礎はあるにしても、デザイン優先で候補ができる。そこに開発側としての技術を注ぎ込んでいって、出来上がっていくというイメージでしょうか

永井:そうですね。我々のような純粋に開発設計だけやっている人間は、放っておくと四角いキャラメルが並んだような、性能を予測しやすいパターンにしちゃいますから。そこに商品としての外観の魅力を加えていくって話なんですね

高橋:開発を担当されている方として、あまり表に出てこないんだけれども、タイヤのここ注目すると面白いよ、みたいなところってありますかね。あとは結構苦労したんだけど、表には多分出ないんだよなあ、みたいなことは?

永井:そうですね、目に触れるところから言いますと、トレッドパターンですね。(新ECOPIAシリーズのカットモデルを手にしながら)この溝とか、細い溝、太い溝いろいろありますけれど、普通は多分2次元的に捉えられるんだと思うんです。ですが、この溝をグッと開いてみると、深さが、例えばこの縦溝につながるところはちょっと浅くなっていて、そのちょっと奥は深くなっていたりするんです。そこは我々、非常にこだわっているところです。表面上はデザイン的にかっこいいパターンなんですが、さらに性能を確保するために、溝の深さを工夫することで路面と接する形をきれいに整えているんです。

私のプリウスが履いたPZ-Xのトレッドパターン。取り付けた時は、単純に「格好いいよね」とか思っていたのだが・・・ パターンではそのデザインだけでなく、溝の深さにも注目して欲しい。機能性という点でも、重要な意味を持っている

高橋:溝の奥まで見ると……

タイヤの断面から永井さんは、タイヤの概要を把握できる。プロならではのスキルである「お土産にもらっていっていいですか?」「ダメです」「はい」

永井:次は、多分これはもう最後まで誰も気がつかないことでしょう。要するに中身の話なですね。(やはりカットモデルを手にして)タイヤには、ざっとこんなふうにいろいろな部品が入っていますが、この高さ、幅とか長さの設定ですね。タイヤを開発する際には、大量に試作を繰り返すのですが、その試作内容のほとんどは、こういう中の部品の配置を試行錯誤してるんですね。もちろん操縦性、静粛性に影響しますし、あとはは耐久性というところもありますから、この部品の入り方は本当にこだわっているところです。これは多分、最後まで誰の目にも止まらない

 印象的だったのは、新ECOPIAシリーズのカットモデルを撮影しようとした時のことである。永井さんがちょっとためらったので「社外秘とかですか?」と質問したところ、意外な答えが返ってきた。「いえ、恥ずかしいものを見せたくないっていう意識があって、大丈夫かなって気になったんです」とのこと。

 我々には分からないことだが、開発者にとってタイヤの断面は全てを物語る部分らしい。だからこそ人に見せる際には、例え相手がそれを判別できなくても不安になるのだ。恐らくそれは、愛する我が子を何かの発表会に送り出す、親のような気持ちではないだろうか。ごめんなさい、永井さん。おっさんはタイヤの断面を見ても「はー」と感心するだけで、善し悪しとかちっとも分かりません!

 タイヤももちろんだが、とにかく開発者の話というのは実に面白く、興味深い。普段、自分たちが何気なく使っているものが、どのような技術が投入され、どのように作られていくのか? 純粋に人間としての好奇心を刺激されるのだ。

 さて、最後の最後である。あれこれお話をうかがいつつ、ついに例のネタをかます時がやってきた。実はこのためだけに皿、フォークとナイフ、そしてロールケーキを持参したのだ! 不肖・高橋、ブリヂストン社内で、タイヤ開発者にインタビューしつつ「リトレッド食い」を披露してまいりました!

入魂のおっさん、リトレッド食い! もちろんインタビュー終わってからやりましたがな。机上の「TAIYA CAFE」マグカップにも注目!

 この日、この時のために、仕事そっちのけで「リトレッド食い」の練習をしてきたのである。本番でうまく行くかどうかはなはだ不安ではあったが、そこはそれ、20個以上のロールケーキをリトレッド食いでこなしてきたおっさんである。無事、見事なリトレッド食いを披露することができたし、とりあえずウケは取れたように思う(多少の同情も含まれていたとは思うが)。

 ちなみにこの原稿を読んで、リトレッド食いに興味を持たれた方はブリヂストンのサイト「TAIYA CAFE」を覗いてみて欲しい。なんとここには、リトレッド食いのテレビコマーシャルに登場した「タイヤロールケーキ」のレシピが掲載されているのだ! おっさんは料理をするのが好きなんで、チャレンジしてみます、はい。

仕事場の前で愛車プリウスと記念撮影。おっさんとPZ-Xの旅は続く(笑)

 そんな訳で25日間、約800kmに渡る、私のECOPIA PZ-X体験は終了した。もちろんPZ-Xはそのまま履き続けるので、レポートは終わっても「Wですごい」はそのままである。最後に今回の取材で、一番記憶に残ったことを書いておきたい。それは取材の合間に、マーケティング担当の人が言った言葉だ。「低燃費性能と安全性能、ライフ性能の3つの性能は、ブリヂストンが絶対に妥協しない性能です」。この3つを高次元でバランスし、その上で開発者たちが日夜努力し、優れたタイヤが世に出てくる。

 ECOPIA PZ-Xの次は、どんなタイヤが登場するのだろうか? そんなことを考えつつ、「Wですごい」を履いたおっさんは、今日も仕事場へとPZ-Xを履いたプリウスで向かうのであった。

(高橋 敏也)

前編はこちら

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http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20120111_503658.html

ブリヂストン、エコとラクを融合させた新低燃費タイヤ「ECOPIA PZ-X」発表試乗会【前編】
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20120112_503924.html

ブリヂストン、エコとラクを融合させた新低燃費タイヤ「ECOPIA PZ-X」発表試乗会【後編】
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20120113_504083.html