法林岳之執筆 デザイン、斬新なカラー、そして音楽再生機能。魅力バツグンの804SHに迫る
後編「緊急座談会」 ラウンド状のボディとクリアパネルを使い素材感を前面に押し出した表面パネル。そして斬新なカラーリング。しかし、この804SHはただのデザイン端末、というだけでは片付けられない。そのオシャレなボディの中には、連続10時間再生のSD-Audio対応音楽プレーヤー機能やBluetooth、FeliCaを搭載し、まさに「最強のミドルエンド」と呼ぶにふさわしい仕上がりになっている。この個性的な一台について、シャープ 通信システム事業本部で804SHのデザインを担当した黒川 誠二氏、企画担当の吉高 泰浩氏、技術機構設計の柿木 孝司氏、回路設計担当の上野 卓氏に、ケータイのご意見番 法林岳之氏が直撃した。
デザインとエンターテイメントが804SHのアイデンティティ

法林

実はこの804SHを最初に見たとき、「こう来たか!」と驚いたんです。というのは902SHと802SHの関係を見ると、802SHは902SHから機能を削ったモデル、という印象だったのですが、今回の804SHは全く903SHとは方向性が違うな、と感じたので……。

吉高


企画担当の吉高 泰浩氏

女性を強く意識したデザインで設計された804SH

 確かにおっしゃるとおりで、80xというラインナップは企画が難しいんです。ハイスペックの90xとエントリーの70xに挟まれてしまうので、きちんとした位置づけをしないと、ただスペックが中くらい、というだけのどっちつかずの商品になってしまいます。今回企画するにあたって、804なりの特徴をきちんと出したかった。そして、いろいろ議論した結果、最終的にはエンターテイメントを強化したモデルにしよう、という結論に至ったのです。

 まず、デザインについてですが、企画として一番苦労したのはこのデザインです。シャープといえば、これまでどちらかというと男性向きのデザインが多かったのですが、804SHでは女性を強く意識した形と色にしよう、という冒険です。804の企画はここから始まりました。試作機では、丸みと平面のコントラストが最終的なモデルよりもっと極端で、かなりコンセプチュアルな感じだったのを、ギリギリまでシェイプし、ちょうど良いバランスまでもってこれたと思ってますし、イエローにしても、今までのシャープにはない雰囲気を出せたと思います。もっとも、この色に関しては社内でもかなり抵抗はありましたが……(笑)いずれにしても、ハイエンドにもローエンドにもできないチャレンジだったことは間違いありません。

「素材表現には本当に気持ちを込めています」

黒川


デザインを担当した黒川 誠二氏

 デザイン開発にあたっては、通信機械ではなくファッションアクセサリーを選ぶ、という視点を持ちました。特に重視したのが、ポケットやカバンから取り出したときにアクセントになるような素材表現です。それが表面のきらきらしたテクスチャーであり、その周りを囲っている縁取りであり、底面のラウンド状の底面であるわけです。

法林


法林氏

 写真ではなかなか伝わらないんですけど、底面のこの丸みはすごいですよね。うちの家内も「持つとすごく手になじむ感じがする」と言ってましたから。機械にあまり関心のない女性に、そう言わせるのはすごいことだと思いますよ。僕はすごく気に入っているんですが、業界全体を見ると、最近は直線が基調のカクカク路線が流行っていますよね。

黒川


こだわりぬいて作られた、底面のラウンドシェイプ加工

 そうなんです。やっぱり、技術よりな考え方をすると直線主体の箱のような筐体にすれば実装は楽なので、そういう傾向があるのかもしれません。やっぱり、曲線を使うとどうしても大きくなってしまう。そこは技術系とかなりやりあいましたね(笑)。素材表現には本当に気持ちを込めています。この表現ができるまでに技術部やメーカーさんと試行錯誤を繰り返してきました。デザインチームとしては、とにかく、触ったときのあたたかさとか、心地よさを追求したかったので……。

 しかし、やってみるとこれが予想以上に大変でした。ラウンド状の部分に一カ所でも凹凸があると、デザインとしてぶちこわしになるので、技術的に無理をしてデバイスを押し込んでいかなきゃいけなかったんですね。

法林

 色もまた、個性的ですよね。このライムの黄色も、いいですよね。僕はひとつ選ぶとしたらこれだ、という感じなんですが。

黒川


カラーバリエーションは3色。左からスノー、ライム、マロン

 今まではやはりどうしても赤・青・白・黒と単純に無難な色をそろえる傾向があったわけですが、今回はかなり冒険していると思います。ただ単に3色の中から選ぶ、ということではなく、「この色を買う人はどんなひとなんだろう」と、ユーザーの人物像を思い描いて色を決めました。たとえばどんな服を着ているか、どんな車を持っているか、どんなライフスタイルか……そうやって突き詰めた結果、今回の3色になったんです。スノーはエレガントで上品に、ライムはカジュアルで、スポーティに、マロンはシックでブランド小物のような感じに仕上げてあります。

法林

 703SHfではカラー展開がかなり若者を意識しているなぁ、と思ってたんですが、804SHではバリエーションに富んでますね。個人的にはこのイエローの発色が好きなんですが、大人っぽいマロンもいいなぁと。

黒川

 色は本当に無限ですから一番悩むんです。採用されたカラー以外にも多くの候補色がありましたが、たくさんのサンプルを作り吟味した結果、この3色になりました。

法林

ライムだけマットな質感ですよね。

黒川

 光沢の黄色もかなりの数サンプルを作ってみたのですが、イエローはなかなか難しくて、下手をするとオモチャのような質感になってしまうんです。いくらカジュアルといっても、子供っぽくはしたくなかった。そう考えると、イエロー系で光沢を出すとファッションの領域から外れていくと思い、光沢ではなく、マットな質感で色の強みを出しました。一番色味が難しいのはやっぱり、このイエローでしたね。少し青みがかったイエローなんですが、光源によってかなり見え方が違うので…。

法林

ヒンジの部分の処理、SHシリーズはどれも凝っていて、うまくデザインにとけ込んでいますよね。

柿木


技術機構設計の柿木 孝司氏

 ヒンジって、強度とデザインの兼ね合いが本当に難しい部分なんです。中にケーブルを這わせるのですが、そこを守らないといけない。かといって、がっちり作りすぎても見栄えが悪くなります。今回の804でもなるべく覆い隠すように、目立たないように設計しているんです。

黒川


苦労の末、完成したヒンジ部。柔らかいデザインで機械的なイメージを消している

 デザインの側面から言えば、ヒンジは本当に邪魔な構造体で、パーツのつなぎ目なんて本当に醜い。なくなってしまえばいいといつも思うくらい、やっかいな存在ですね(笑)

 なるべくヒンジの部分は小さくしてくれといつも技術には言っています。804SHではうまく縁の処理をしたことで、機械的なイメージを消していると思います。

法林


法林氏とケータイWatch編集デスク湯野氏

もうひとつ、スペース的な制約と言えば、アンテナ周りの実装なんです。804SHではW-CDMAのアンテナはもちろん、BluetoothやFeliCaのアンテナもいる。さらにモーションコントロールセンサーまで搭載している。アンテナ同士を近づけると、当然悪影響がありますから、そのあたりも難しいのでは、と思っていたのですが、いかがですか?

柿木


FeliCaチップはメインディスプレイ側のVodafoneロゴの下あたりに内蔵されている

 そうですね、それを避けるために、FeliCaがよくある本体底面ではなく、メインディスプレイ側に来ている、という部分もあります。さらにBluetooth、モーションコントロールセンサーがありますから、おっしゃる通り、実装は大変です。実装面では不利な丸みのあるボディにこだわっているデザインチームとはさんざんケンカをしながらまとめた、という感じでしょうか(笑)

リモコンも転送ソフトも入った、オールインワンの音楽再生ケータイ

法林

「ミュージックケータイ」とは謳っていませんが、804SHの音楽再生機能、実はかなり使いやすいですよね。

吉高


企画担当の吉高 泰浩氏

804SHには液晶リモコン付のヘッドホンが同梱されている

 音楽に特化した企画端末というのも頭の中にはあったんですが、特化しすぎるのもどうなんだろうと思いもありました。ただそれだけの端末は作りたくない、という思いですね。それに、80xシリーズは数的にもより多いお客様にお届けしたかったですから。音楽だけを前面に押し出していないのは、そういったバランスを取った結果だと思います。

 とはいいつつ、本当は音楽再生機能、すごくみなさんに使っていただきたいんです(笑)。確かに近年、ケータイで音楽を聴く、というのは騒がれていたのですが、どうも実態を見るとそれほど伸びていなかった。それをシャープとしてどうやって解決するか、というミッションがありました。そこでいろいろ考えた結果、まず「普通のイヤホンだけを同梱しただけでは、音楽が聴けることを印象づけるには弱い」のではないかと考えました。そこでコスト的にはかなり厳しい部分もあったんですが、がんばって液晶リモコン付のヘッドホンを同梱することにしました。転送ソフトも入ってますし、「これで音楽ができるんだ」というのを強く意識付けできたのではないかと思っています

法林

再生時間が10時間というのも、かなり長いですよね。

上野


回路設計担当の上野 卓氏

 回路の担当としては、10時間再生にはとにかくこだわりました。音楽再生に関する基本的な設計は903SHと変わっていないです。903SHは6時間再生でしたから、基本設計を変えずに10時間にするにはもう、消費電力を下げるしか方法がないんですね。イチからやり直せば、もちろんデバイスの見直しやバッテリー容量を上げるという選択肢もあるんですが、それでは面白くないし、またデザインのぶっ壊しになるので、まず、音楽再生中の端末の振る舞いを徹底的に調べ上げました。動作に必要のないよけいなところが動いていないかどうかをひとつずつチェックしていくんです。そして、そういったゼロコンマの単位で電力をセーブしていって、最終的に標準再生モード10時間を実現できました。

吉高

 実は企画段階の途中でライバル商品が出たんです。それが7時間再生だったということで、「10時間再生をなにがなんでも実現してください」とほとんど命令に近い要望を出したのです(笑)。音楽ケータイの基本性能部分では絶対に負けたくなかったので。

法林

なるほど(笑)。しかし、細かい積み上げで6時間が10時間になる、というのはすごいことですよね。

上野

 ハードウェア構成を変えずに、2倍弱まで再生時間を延ばすということで、正直なところ、はじめはちょっと無理なんじゃないかと思っていましたから……。かといって、「バッテリー容量が増えたから、さぁ30時間だ」と言われると、それもちょっと、という感じなんですが(笑)。

「80xは使いやすくて、楽しくて、広く愛される端末を作りたい」

法林

 いろいろ伺いましたが、改めて見ても今回の703、804、903ではきっちり棲み分けができた感じがしますね。3機種とも方向性が全く違いますし。

吉高

 今はハイスペックのモデルが国内では強いですが、いろいろなデバイスが付くことによって全体的な価格も上がって来ています。今後は80xシリーズがメインになっていくのかなという気がしています。

法林

 それでは最後に、今後のSHシリーズの方向性について、お聞かせいただけますか。

吉高

 今後も90xシリーズでハイスペックを追求していくということはもちろん、70xでローエンドとは思えないような機能を積んだコストパフォーマンスの高いモデルを出していく方針は変わりません。80xシリーズは使いやすくて、楽しくて、女性にも男性にも受け入れられる、広く愛される端末を作りたいですね。しかし、それだけではコンセプトのボヤけたモデルになってしまうので、広く受け入れられる要素を持ちながら、企画端末とまでは言いませんが、それに近いような、確固たる個性のあるラインナップとしてこれからも出せればと思っています。

■関連情報
・Vodafone804SH製品サイト(ボーダフォン)
http://www.vodafone.jp/japanese/products/model_3G/v804sh/
・Vodafone804SH製品サイト(シャープ)
http://k-tai.sharp.co.jp/products/v/804sh/


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http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/news_toppage/26633.html

■法林岳之
1963年神奈川県出身。パソコンから携帯電話、PDAに至るまで、幅広い製品の試用レポートや解説記事を執筆。特に、通信関連を得意とする。「できるWindows XP SP2対応 基本編 完全版」や、「できるブロードバンドインターネット Windows XP対応」など、著書も多数。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。(impress TV)も配信中。