現時点では、まだほとんどコンテンツがないものの、とにかく期待が大きいのが3Dテレビだ。すでにこの3Dテレビを購入した人や、近い将来の購入を検討している人も多いと思うが、3D映像を駆使したホームシアター環境を構築するためには、AVアンプの3D対応が必須となる。つまり、プレーヤーからAVアンプへ送られてきた映像を、テレビへと伝送する際、3D映像信号としてパススルーできるHDMI端子が必要となるのだ。
今回ヤマハから発売される新AVアンプ、「RX-V567」および「RX-V467」は、その3D映像のパススルーを実現する製品となっている。ブルーレイで採用されるフレームシーケンシャル方式に加え、各種放送系のサイドバイサイド方式、トップアンドボトム方式にも対応している。さらに、このHDMI端子はオーディオリターンチャンネル(ARC)にも対応しており、地上デジタル放送など、テレビ側の音声出力用に別途光ケーブルなどを利用することなく、HDMIケーブル1本でのシンプルな配線も可能になっている。
今回登場した、このRX-V567とRX-V467は、昨年リリースされたAX-V565、AX-V465の後継となる製品。型番の名称がAXからRXと変化したのと同時にシャーシのデザインも一新されている。
RX-V567とRX-V467の違いはずばりチャンネル数。そうRX-V567が7.1ch対応であり、RX-V467は5.1ch対応となっているのだ。もちろん、双方ステレオ2chのアンプとしても十分に使うことができるが、その場合は、音質的にもまったく同じアンプとして見ることができる。
前モデルであるAX-V565およびAX-V465はHDオーディオに対応したエントリーレベルのAVアンプとして登場したもので、あまりレンジを欲張らず、中域に量感を持たせた誰でも聴きやすいアンプとなっていた。またV565とV465では7.1chか5.1chかというチャンネル数の違いだけでなく、採用されていた部品の違いから音質にも違いがあったが、今回はともにハイグレードな部品を採用したことにより、音質、性能的にも揃ったので、単純に7.1chが必要なのか、5.1chでいいのかで製品を選択すればよさそうだ。
とはいえ、機能的にはチャンネル数のほかにもう1点違いがある。それはRX-V567の場合、HDMIのほかD端子、コンポーネント端子、コンポジット端子を経由して入力されるさまざまな信号をすべてHDMIケーブル1本でテレビへ送信できるアップコンバージョン機能を搭載していること。高性能ビデオスケーラーも備えており、DVDなどのSD画質の映像信号も1080p信号に変換して出力できるようになっている。1万円程度の価格差で、アップコンバージョン機能が手に入るなら、たとえ5.1chでの利用であってもRX-V567を選択したほうが、お買い得という気はする。
前モデルと価格的にもまったく同じなので、音的にも同程度なものなのだろうと想像していたのだが、実際に音を出して驚いた。いわゆるエントリー向けAVアンプというイメージとは明らかに違う本格的なオーディオアンプに仕上がっているのだ。なんで、この価格でこれだけの音が出せるの?というのが最初に感じた印象なのだが、ヤマハのマイスター的なエンジニアがコンデンサや抵抗などの部品を吟味するとともに、電源ケーブルなどもメーカーを変えて作っていったのだとか。ただし、この価格からも想像できるように、超高級部品を使っているわけではなく、あくまでも標準的な部品を組み合わせてチューニングすることで、これだけの音質を実現しているわけだ。
RX-V567の場合、標準価格で61,950円(税込)ということを考えると、普通は安価なスピーカーで揃えるところだろうが、このアンプはもっとハイグレードなスピーカーと組み合わせることで、その真価を発揮する。前機種と比較しても、低域・高域ともにレンジが伸びるとともに、音のフォーカスもクッキリとしてくる。また立ち上がりでのアタック感もキッチリと出てくるため、同じピアノ曲を再生しても、まるで違うピアノで弾いているのでは、と感じさせるほどの差が出てくる。もちろん、AVアンプなのでサラウンドで使うのもいいが、2chのオーディオアンプとしてもかなりの性能を持っているので、せめてフロントの左右のスピーカーだけは、少しグレードを上げたものでの利用をお勧めしたい。
逆にデメリットを挙げるとしたら、やや量感が減ったように思えること。前機種の場合、中域を持ち上げる演出がされていたので、とくにボーカルのある曲などではより迫力もあったのが、それがもっとフラットな感じになっているのだ。もちろん、この辺は好みの問題でもあるが、RX-V567は明らかにレンジが広く、解像度の高いアンプに仕上がっている。

シネマDSPが、HDオーディオに対応した
RX-V567、RX-V467はブルーレイなどが採用するHDオーディオに対応したAVアンプであることも大きな特徴だ。マルチチャンネルのリニアPCMサウンドはもちろん、ドルビーTrueHDやDTS-HD Master Audioなどをサポートしているわけだが、このサウンドに対し、ヤマハ自慢の音場創成技術であるシネマDSPをかけることができるのだ。従来からのシネマDSPをご存知の方ならよく分かるとおり、これは単にリバーブを掛けて音に広がりを持たせる……といったエフェクトとは異なる。非常に自然な感じで音場空間を作り上げてくれる機能なのだ。
たとえば「MusicVideo」というプログラムを選択して、ライブコンサートの作品を鳴らしてみると、オフの状態と比較して、何か部屋の温度が少し上がったような感覚のする、熱のこもった臨場感が得られる。
また、映画作品の場合はMoive系のプログラムをオンにするのがお勧め。このプログラムは別に映画館の音場空間を再現しているというわけではない。映画の作り手が、出したいとしている音にすることを目的にしたプログラムであるため、オフで聴くよりも、明らかに本来そうであるべき音に近い音として再生されるのだ。具体的にはセリフをしゃべっている人の位置を確定し、その周りに効果音があり、さらにその外側にBGMが鳴るといった音作りがされている。そのため、まるで画面の位置から声が出ているような錯覚に陥ってしまうほど。
面白いのはシネマDSPをオンにしても、そうであることにあまり気づかないこと。途中でオフにしてはじめて気づくというほど、自然な音作りとなっているのだ。
最後に省エネ設計であることにも少し触れておこう。
AVアンプの場合、気になるのが待機電力。製品によっては、かなりの電力を消費し、それが大きな熱を発生させているケースも少なくない。それに対し、RX-V567およびRX-V467では通常スタンバイ時の待機時電力は0.2W以下。またスタンバイスルーという機能をオンにすることで、AVアンプがスタンバイ時においても、HDMI接続したレコーダーなどを操作することができ、HDMIだけでも4入力1出力を装備しているので、まさにAV機器セレクターとして機能してくれる。そして、そのスタンバイスルーの場合でも、待機時消費電力は3.0W以下と抑えられているのだ。しかも、長時間使わない場合は自動的に電源が切れるオートパワーダウン機能も搭載するなど、まさに現代のAVアンプとして申し分のない、機能、性能に仕上がっている製品といえるだろう。
藤本健
リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またAll Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto。
■関連情報
□100 emotions -<シネマDSP>でエモーションが沸騰する。-
http://www.yamaha.co.jp/product/av/topics/100emotions/
□ウサンディ Presents 「3D観るなら、ヤマハで聴こう」
http://www.yamaha.co.jp/product/av/topics/3d/
□AVレシーバー RX-V567
http://www.yamaha.co.jp/product/av/prd/rx-v567/
□AVレシーバー RX-V467
http://www.yamaha.co.jp/product/av/prd/rx-v467/
□YAMAHA ホームシアター/オーディオ
http://www.yamaha.co.jp/product/av/
□Yダイレクト
http://ydirect.yamaha-elm.co.jp/
■関連記事
□ヤマハ、新AVアンプ「RX-V567」などの体験会 -「サラウンドの日」記念で東名阪で17日から
http://av.watch.impress.co.jp/docs/news/20100507_365828.html
□ヤマハ、3D/ARC対応のエントリー向けAVアンプ2モデル -61,950円/49,350円。シネマDSPがHDオーディオ対応
http://av.watch.impress.co.jp/docs/news/20100427_363980.html