ゴールデンウィークも明けた5月12日、富士スピードウェイ・ドリフトコースで「ベストカー タイヤ体感試乗会 supported by MICHELIN」が開催された。イベントには、昨年のSUPER GT500クラスでミシュランタイヤを履いたGT-Rでドライバーズタイトルを獲得した柳田真孝選手と、同氏の父でレーシングドライバーの柳田春人氏なども参加。イベント参加者は自らミシュランタイヤを装着した試乗車を運転しつつ、プロドライバーやモータージャーナリストからタイヤパフォーマンスを引き出すためのアドバイスを受けたり、同乗走行でスポーツ性能を体感したりと、クルマを楽しみながらタイヤを知る充実したイベントである。
テストコースの設定は“タイヤのことならこの人!”と業界で知られるモータージャーナリストの斎藤聡氏。ミシュランタイヤのパフォーマンスを体感する様々な“仕掛け”を体感しながら、タイヤに対する知識を深めることができるとか。
ベストカー読者を集めたこのイベントにCar Watchも潜入。なんて噂を聞きつけた筆者は、ちょうどタイヤにひび割れを発見して交換を検討していたところ。一も二もなく、編集部にお願い!とイベント参加を申し出た。ただのクルマ好きで技術ヲタクな僕を参加させてくれて、ホントありがとうございます。
というのも、僕は趣味レベルではあるが、自分の愛車でサーキットを走ることがあって、以前、ミシュランのパイロットスポーツPS2(以下PS2)を履いた知人のクルマとサーキットで乗り比べをする機会があったのだ。自分のクルマじゃないからセーブして走っているとはいえ、より大パワーのクルマでペースが上がったにもかかわらず、PS2はコシがなくならず剛性感を保ったまま走れることに好感を持った。しかも、走り終えたタイヤを見た感じだとライフも決して短くなさそうだ。
そんなパイロットスポーツの新バージョンが出た時から「次はコレにしようかな?」と、なんとなく、ものすごくザックリとしたイメージで目を付けていたというのが本音。
早速、PS3を履いたファミリーカーに乗り込み、まずは試運転。PS3そのもののフィーリングを存分に体験した。
スポーツタイヤというと、ハンドルの手応えが強く、重厚感のある走り味を想像するかもしれない。もちろん、コーナリング時の横剛性の高さなど、軽く走っただけでもスポーツタイヤとしての実力の片鱗は感じるが、それ以上に走り出しの軽さ、ハンドルを切ったときの応答性の素早さを感じ取ることができた。
といっても、これまで体感してきたどのスポーツタイヤとも、フィーリングは異なる。ハンドルがニュートラル位置に近いところでは、神経質さを感じさせず、いい意味でルーズ。ところがスッとステアリングを切って行くと、素直にノーズが内側へと向き始める。ドライバーに対する寛容さと、スポーツタイヤらしい強さ・鋭さを併せ持つ印象だ。
確かにスポーツタイヤと呼ぶべきグリップ力の高さからくる安心感や、強靱な骨格を想起させるところはあるのに、ハンドリングは軽快でゴツゴツとした雰囲気がない。それに意外に静か。まるでコンフォートタイヤのよう……というと言い過ぎかもしれないが、もし、スポーツ走行にも耐えられるコンフォートタイヤなんてものがあるとしたら、こんな感じだろうか? という印象を持った。
加えてウェット時のコントロール性の高さが際立つ。ウェット路面でフルブレーキしながらクルマをコントロールしようとトライしたが、まったく怖さを感じない安定した操舵性能をキープしてくれた。
なぜこんなに万能性が高いの?と思わず言いたくなる、なんとも不思議な感覚。様々な矛盾する要素がうまくバランスをとっていて、今までにないフィーリングに少し戸惑ってしまったというのが正直な印象。ウェット性能の評判は聞いていたものの、実際に体感してみると、心に訴える安心感があった。
僕のパイロットスポーツに対するブランドイメージは、スーパーカーにも採用される高性能タイヤ、というものだ。確かに「パイロット スーパースポーツ(以下PSS)は、フェラーリやポルシェと共同開発したタイヤで、文字どおりスーパースポーツタイヤなのだが、PS3はというと、ドライでもウェットでも高いグリップを持ち合わせながら、加えて静粛性や乗り心地にもこだわったプレミアムスポーツタイヤという位置づけ。なるほど、僕の感じたよい意味での違和感も納得がいく。
しかし同時に、こちらについては後編で紹介するが、実は当日、プライマシーLCに乗る機会も得たのだが、スポーツタイヤであるPS3とコンフォートタイヤであるプライマシーLCと、なんとなく共通する部分を感じたのだ。スポーツタイヤとコンフォートタイヤが共通するとは???な印象だが、この疑問に対する答えは、イベント内のトークショーにあった。斎藤聡氏と柳田真孝選手が話したミシュラン製レーシングタイヤのインプレッションだ。
斉藤氏によると、「ミシュランのタイヤは乗るとすぐに分かる」と言う。「それは個性的だからではない。操縦性、剛性、グリップといった性能のどこかだけが突出しているのではなくコンフォートタイヤでもスポーツタイヤでも、一番欲しいところを中心にバランスよく性能が出ているから」とのこと。
これに対し柳田選手も「レースにおいても、ドライはもちろん雨でも、暑いとき寒いとき、どんな時でも性能を発揮していた。セパンのような高負荷でタレた時でも安定していて運転しやすかったし、ハンデウェイトを82kgも積んだ鈴鹿でポールポジションを取れた。タイヤが冷え切った状態も速くて、アウトラップは岡山の第2スティントでもタイヤを交換していないクルマを除いてトップタイムだった。市販車用タイヤも運転したが、タイヤのしっかり感が高く、レース用タイヤと共通しているものを感じた」と述べていた。コンフォートからレース用まで、一貫したテイストというのは興味深い。
なんていう予備知識を得た上で、今度は柳田(父)氏が運転するPSSを履いたフェアレディZ、斉藤氏がドライブするPS3を履くトヨタ86を使った同乗スポーツ性能体験走行へとプログラムは進んだ。
まずはPSSを履いたフェアレディZ。柳田(父)氏のドライブで感じたのは、とにかく路面に食らい付こうという粘り強さ。スムーズにスライドを許容するのではなく、可能な限り路面を離そうとしない感覚で、まさに“踏ん張る”という表現がピッタリ。
もっとも、それだからこそのスーパースポーツなのだろう。一方のPS3を履いた86は、さすがにPSSに比べると絶対的なグリップ感、踏ん張り感は低い。しかしスポーツ走行中も安定度はとても高い。タイヤのメカニカルな構造が崩れず、コーナリング時であっても接地面の状態も安定しているような印象。もちろん、自分で思い切り振り回したわけではないから、限界近いドライブフィールはわからない。しかし、スポーツ走行という状況下でもシッカリ感をキープしているのだからさすがだ。
僕の場合、タイムを少しでも削るためにタイヤをよくしようとは思わない。スポーツ走行する場合も、あくまでクルマの運転そのものを楽しむのが目的だ。それにクルマに乗っている時間の99%ぐらいは一般道。コンフォート的な性格と、スポーツタイヤとして高い満足感のPS3は、興味の対象として筆頭だ。さらに、他のイベント参加者にもPS3を履いた86の同乗走行でPS3を体感した印象を聞いてみたので参考にしていただきたい。
日本ミシュランタイヤPC/LT事業部の姫野氏は「まずはタイヤに関心を持ってほしい」と話したが、このプログラムを活用すれば、PS3の実力を体感することができる。
60日以内なら返品OKという自信に満ちたキャンペーンをやるのだから、よほど自信があるのだろう。わずかな試乗時間でも参加者の多くがその性能を体感できていたようだ。もうひとつの対象商品、プライマシーLCを履いたトヨタ・クラウンにも乗ってみたが、こちらもまた、あぁなるほど!と腑に落ちる経験があった。こちらについては後編でお伝えしたい。