メモリコントローラをCPUに内蔵することで大幅な性能向上を実現
インテルがまもなくリリースする予定のCore i7の最大の特徴は、新しいマイクロアーキテクチャを採用していることだ。マイクロアーキテクチャとはプロセッサ業界の用語で、そのプロセッサのハードウェア上の仕組みのことを意味している。マイクロアーキテクチャが変わることは、CPUの内部構造が大きく変わったことを意味している。一般的にCPUの性能=クロック周波数と理解されているが、これは正しい認識ではない。実際には、マイクロアーキテクチャの効率×クロック周波数と考えるのが正解で、マイクロアーキテクチャが改良され、プロセッサの内部効率が改善されることで、CPUの性能はクロック周波数以上に向上することになるのだ。
では、具体的に何が異なるのかと言えば、最大の特徴は従来はチップセットのノースブリッジに内蔵されていたメモリコントローラが、プロセッサそのものに統合されていることだ(図1)。メモリコントローラ統合の最大のメリットは、ここ数年のインテルアーキテクチャの課題の1つだった、メモリレイテンシの削減を実現することだ。
メモリレイテンシとは、プロセッサがメモリへアクセスするのに必要な時間のことで、これが短ければ短いほど、データを高速にロードできるため、結果的にCPUの処理能力が向上するのだ。また、Core i7では、メモリのチャネル数がCore 2シリーズの2チャネルから3チャネルに増加されている。それにより、大量のデータをCPUにロードする時の時間が短縮され、やはりCPUの総合的な処理能力が向上するのだ。
こうした改良の結果、同じクロック周波数であってもCore i7の性能は、前世代のCore 2シリーズに比べて大幅に向上している。
来年後半に登場する第2世代のプラットフォームでノートPCにもNehalemのパワーを
まもなくリリースされる予定の第1世代のNehalemとなるCore i7のプラットフォームは、サーバー/ワークステーションにも利用される強力なものが用意されている。LGA1366、業界ではSocket Bと呼ばれるCPUソケットを採用したマザーボードだ。このLGA1366のプラットフォームはデスクトップPCの中でもハイエンドユーザー向けとして利用される。というのも、このプラットフォームはメモリが3チャネルになっているなど、一般的なPC向けとしてはやや強力すぎるからだ。そこで、2009年の後半には第2世代プラットフォームが登場する(図2)。この第2世代プラットフォームでは、メモリは2チャネルになるものの、マザーボードのコストも削減され、さらにGPUをCPUの内部に統合した製品も登場し、本格的にメインストリーム市場へと普及していく。
こうした第2世代プラットフォームがカバーするのは、より低価格なデスクトップPCや、フル機能を備えたノートPCとなる。LGA1366はとにかく処理性能にフォーカスした製品になるので、性能向上は大きいものの、熱設計消費電力と呼ばれるピーク時の消費電力は130W近くに達することになり、ノートPCにそれを入れるのはほぼ不可能だ。
しかし、この第2世代用として登場する開発コードネーム"Clarksfiield"(クラークスフィールド)、"Auburndale"(アーバンデール)と呼ばれる製品は、既存のノートPC用のCore2 Duoと同じ程度の消費電力に収めることが可能になる。このため、現在発売されているようなノートPCにNehalemの技術を利用することができるようになるのだ。これにより、ノートPCは、バッテリー駆動時間を損なうことなく処理能力を向上させることができるようになる。
新しい使い方やソフトウェア登場のトリガーとなる高い処理能力
さて、ここまで筆者は"処理能力の向上"という言葉を盛んに使ってきたが、これをお読みの方の中には、"そこまで性能はいらないよ"という方も少なくないのではないかと思う。また、よくある議論として"もうCPUの性能は充分でこれ以上速いものはいらない"というのもあると思う。確かに、そういう議論は昔からあるし、ある側面からみれば正しい。例えば、10年前から今までほとんど同じようなアプリケーションしか使ってこなかったという人には確かにより性能が高いCPUは必要ないかもしれない。
しかし、振り返って考えてみれば、ずっと同じアプリケーションソフトウェアしか使っていないというユーザーはどれぐらいいるだろうか?おそらく、ここ数年というレンジでもいくつも新しいアプリケーションソフトウェアを使ってきているに違いない。重要なことは、これからも我々が予想してこなかったような新しい使い方がでてきて、それに対応したようなアプリケーションソフトウェアがでてくるかもしれないということだ。しかも、歴史を振り返れば、そういう新しいアプリケーションソフトウェアが登場する時はCPUの処理能力が大きく引き上げられた時なのだ。
つまり、処理能力が増えることがトリガーとなり、より新しい使い方を誰かが発見し、そしてそれに対応したソフトウェアがでてくるのだ。"処理能力の向上"というのは、単に今使っているアプリケーションでの性能が改善されるということだけでなく、これから登場するであろう新しい使い方を含めての"向上"なのだ。
Core i7には、ぜひそうした新しい使い方が実現するためのトリガーとしての役割を期待したい。我々がPCに求めているのは、"今できること"だけでは充分ではなく、"これからできること"を実現することなのだから。
[Reported by 笠原一輝]