やっかいなPCの処分
かつて、まだ、PCがとてつもなく高価だったころ、1年おきに新製品が出るのを待ち、それまで使っていたPCを売却し、それで得た売価に追加投資して新製品を購入するということを繰り返していた。追加投資分を1年で換算すると、だいたいリースしたのと同じくらいの金額になり、常に最新のPCが使えるという点でリーズナブルな運用だったと自分では思っている。
そして今、時代は変わり、PCの価格の下落とともに、新しいPCの購入負担は低くなったが、異なる世代のPC複数台を併行して使うようになり、もっとも古いPCを処分するころには、その価値がゼロに近くなってしまっているようになった。それを中古屋に持ち込んだり、オークションに出品してもいいのだが、その手間に見合うだけの対価を得るのは難しい。
リサイクルマークのついたメーカー製のPCなら、その製造メーカーに引き取ってもらう再資源化が可能だが、やっかいなのは、リサイクルマークのついていない古いメーカー製品や、内容が比較的新しくても、自作PCなどの場合だ。
たとえば、自作PCを処分しようと思うと、メーカーが存在しないため、パソコン3R推進協会に申し込んで回収再資源化料金の振込用紙を送ってもらい、所定の金額(一般的なデスクトップパソコンで税込み4200円、ただし送料込み)を振り込んだのちに、宅配伝票が送付されてくるので、それを使って廃棄処分に出す必要がある。
つまり、捨てるためにコストがかかるし、それ以上に手間がかかる。書類の送付等に要する時間や振り込みの手間などがかかり、思いついたその日に処分するということは事実上不可能だ。手間の点では、リサイクルマークのついた製品だって同じだ。メーカーに申し込んで宅配伝票の送付を受け、それを使って発送する必要がある。
連絡不要で送るだけという驚くほどシンプルなシステム
株式会社ハイブリッジコンピュータが運営する「パソコンファーム」は、こうした消費者の悩みを一手に解決してくれる頼もしい存在だ。自作PCユーザーのみならず、リサイクルマークのない古いメーカー製PC、さらには、ブラウン管テレビや、ビデオデッキ類、オーディオコンポに、ラジカセ、エアコン、ミシンにいたるまで、おおよそ、家電製品と思われるものなら、ほぼ例外なく引き取ってリサイクルしてくれる。もちろん、リサイクルマークのついた比較的新しい製品だって大歓迎だ。そして、驚くのは、そのシステムが実にシンプルである点だ。
何がシンプルか。
処分したい製品を宅配便等で送付するか、同社の回収センターに持ち込むだけでいいのだ。事前の申し込みや連絡は一切不要で、面倒な手続きはゼロだ。しかも料金は無料。送付の場合は送料が必要になるが、それとてパソコン3R推進協会の回収再資源化料金の半額以下で収まるはずだ。首都圏在住で、複数台を処分したいのなら、レンタカー等を借りて持ち込むことで、さらにコストを抑えることができるだろう。これなら思いついたその日に行動を起こせる。ただし、日曜日は持ち込み不可だ。
送られてきた梱包箱も状態が確認されて再利用される |
かつての名器はビンテージ品として取引できるものもある |
処分品の状態に応じて作業指示書が作られる |
ただ、PCの処分でもっとも心配なのは、そのストレージに記録された個人情報等のデータだ。パソコンファームの場合、受け付けられるPCが壊れていてもかまわない。だから、どうしても心配ならハードディスクを取り外して送りつければいい。
とはいえ、デスクトップパソコンならともかく、ノートPCを分解してハードディスクを取り出すのは、スキルがなければ一苦労だし、まだ使える状態なら、リユースしてもらえる可能性を選ぶのがエコというものだ。
消去依頼書などをチェックしながら届いた処分品が分類仕分けされていく |
セラミック等が使われている古いプロセッサは価値が高い |
捨てるところがないからこその無料
手続き不要、連絡不要、しかも料金無料。そんなうまい話には必ずウラがあると思うのが普通だ。そこで、その心配のタネを払拭するべく、パソコンファームを訪ね、ぼくらが送りつけたPCが、どのようなプロセスでリサイクルされていくのかを確認してきた。
同社は、540坪に及ぶ回収センターを埼玉県三郷市に構える。ロケーションとしては武蔵野線の新三郷駅からタクシーで数分の距離にある。クルマで訪れる場合は外環、常磐道、首都高速の三郷ICを降りてすぐだ。中央環状線の開通によって都内西部からのアクセスも都心を抜ける必要がないためスピーディになった。
回収センターには毎日何度となく宅配便のトラックが到着、大量の処分品が配達される。また、直接の持ち込みに乗用車等で乗り付ける一般利用者もいる。
三郷市の回収センター。移転直後でまだカンバンがないので見つけにくいかもしれない |
毎日処分品を満載して何台も到着する宅配業者のトラック |
荷下ろしされたパソコンは、その場で梱包をほどかれ、大まかな分類が行われる。気になるハードディスクだが、容量や状態によって3種類の運命をたどる。ひとつは強磁気ディスクデータ消去機によるデータ消去、もうひとつは物理的ハードディスク破壊機によるデータ消去、そして、専用ソフトによる上書きデータ消去だ。必要ならば消去したことを証明する各種証明書を無料発行してもらえるし、有料となるが作業結果のデジカメ写真を依頼することもできる。
データが消去されたハードディスクはどうなるかというと、再販売可能と判断されたものはオークション出品専門業者に依頼され中古ハードディスクとして売られることになる。また、PCとして機能するものに関しては、そのままPCの内部で第二の人生を歩むことになる。
容量の小さなハードディスクは中古品としての再生は無理だが、別の形でのリサイクルは可能だ |
完動する大容量ハードディスクはデータ消去ののちにオークション出品専門業者に依頼されて中古品として流通する |
ノートパソコンごと内部のハードディスクを磁気破壊できる装置。小型のMRIのような仕組みだという |
ノートパソコン内部のハードディスクはパソコンを分解せずにデータの磁気破壊が可能。 |
株式会社ハイブリッジコンピュータ代表取締役の高橋大介氏はいう。
「ここに集まる処分品は宝の山です。魚で言えば鯛のようなもので、捨てるところがほとんどないんです」
壊れたPCでも、再生可能部品が取り出され、それをリサイクル部品として再利用したリフレッシュPCが再生される。当然、完動するPCもたくさん送られてくる。これら徹底した検査のあとに、リユース製品として専門業者に売却される。
壊れてしまっている部品や、基板等についても、レアメタルが含まれているので、それを取り出すことができる。ケーブル類も雑線として処理され捨てられることはない。それどころか、送付時に使われた段ボール箱や梱包材についても再利用されたり、リサイクル品として活用され、トイレットペーパーやティッシュに替えられ施設等に寄付される。かくして、このセンターからは、ほとんどゴミが出ることがない。
「今は、レアメタルの摘出など、各種専門業者に処分を依頼しているのですが、将来的にはこのセンターでワンストップで完結させたいと考えています。その方が利益率が高くなり、もしかしたら、送料もこちらで負担するようなビジネスモデルに転換できるかもしれません」(高橋氏)。
PCは魚で言えばタイ。捨てるところがまったくないという高橋社長 |
倉庫内に山積みされたデスクトップPCの山は壮観だ |
最終的には送料もこちらで負担できるようにしていきたいという高橋社長 |
われわれ消費者としては、手間のコストに見合う対価が得られるなら、自分で中古業者に売るなり、オークションに出品すればいいし、その手間に見合わないのなら、送料だけを負担して同社に送りつければいい。そうすれば愛機はそこで第二の人生を歩み始める。
パソコンファームでは、データの消去に関しても、きちんと行われていることがこの目で確認できた。訪ねる前に感じていた、ある種の胡散臭さは完全に払拭され、信頼感が芽生えた。高橋社長は、宅配便システムの連動等もプランとして考えていて、送り状の印刷から集荷の依頼までができるようにするのが目標という。
着払いで送りつけるだけという、消費者から見れば夢のようなシステムが稼働するまでには、まだ少し時間がかかりそうだが、信頼に足るリサイクル拠点として、パソコンファームの存在を頭においておきたいと思う。
(2010年2月22日)
[Text by 山田祥平]
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