大画面、タッチパネルによる直感的な操作、自由に追加できるアプリなど、さまざまな魅力を備えたスマートフォン。PCに勝るとも劣らない性能の高さから、今や先進的なITスペシャリストから一般ユーザーまで幅広い人気を集めており、普及ペースも著しい。
スマートフォンの隆盛によって、これまでにない新しいITとの付き合い方も始まっている。平日はPCを使わずにスマートフォンで仕事のメールを送受信し、休日はお出かけ先で撮った写真を即座にネットへアップロード。こういったまったく別の用途を、手のひらサイズの機器たった1台で実現できてしまう。日本におけるTwitterやFacebookといったソーシャルメディアへの注目度の高まりは、スマートフォンの隆盛と無関係ではないだろう。
機能進化を続けるスマートフォンだが、今後の新しいトピックになりそうなのがプリンターとの連携だ。エプソンが展開する「スマートフォンプリント」を使えば、スマートフォン内蔵カメラで撮った友達の写真、友達から教えてもらった美味しい料理店の地図、仕事で読んでおきたい資料などなど、さまざまなデータをPCを起動することなく印刷できる。その仕組みと実力を、本稿で探っていこう。
エプソンの「スマートフォンプリント」とはズバリ、カラリオなどのエプソン製プリンターの一部モデルで利用できるスマートフォン連携機能の総称だ。
その連携には、無線LANが利用される。プリンターを無線LANルーターないしアクセスポイント(親機)へ直接ネットワーク接続。同様に無線LAN接続したスマートフォンやタブレットから、カラリオに印刷データを送ることができる。さらにスマートフォン側からは、専用アプリ、OS標準搭載の機能、あるいはメールを使った方法まで、さまざまな手段で印刷が行える点もポイントだ。
それでは、スマートフォンプリント対応機を実際に見ていこう。今回用意したのは、9月に発売されたばかりの最新モデル「EP-804A」。2011年末商戦向けに発表されたシリーズ製品の中でも、特に機能と価格のバランスがとれた製品として、エプソンみずからおすすめモデルとして「まよったらコレ!」と薦めているイチ押しモデルだ。エプソンダイレクトショップでの販売価格は3万980円。
基本的なスペックもおさらいしておこう。EP-804Aは「複合機」と呼ばれるタイプの製品で、インクジェット式プリンターに加え、画像取り込み用のスキャナーも搭載。この2機能を組み合わせてコピー機としても運用することができる。
プリンターとしての性能も高く、インクは6色。ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの標準4色に加え、ライトシアン、ライトマゼンタの2色が追加されたことで、写真印刷の階調表現、特に肌色や空の色の表現がより豊かになるという利点がある。また、インクそのものも、カラリオでおなじみの「つよインク」を採用。直射日光や空気中のオゾンを原因とする印刷物の色あせを大幅に抑えてくれる。最大出力解像度は5760×1440dpi。
EP-804Aは、凹凸の少ない直方体デザインも魅力の1つ。非常にスッキリとしたシルエットだが、電源をオンにしてもこれはほとんど変わらない。例えば印刷用紙は、本体下部にある引き出し状の用紙カセットの中に最大2種類まで同時に収納しておける。
これにより、普段はA4印刷中心、時たまL判印刷したいという場合でも、用紙をカセットから入れ替えたりする必要がない。印刷する時だけ、排紙トレイ部分のカバーを開ければOKだ。ちなみに、CDやDVDのレーベル部分を印刷するためのトレイも本体内部に収納されている。
このほか、EP-804Aでは3種類の本体カラーバリエーションが用意された。オーソドックスなブラック、ホワイト、そして新色であるレッドが新たに追加。設置場所の雰囲気や家具に合わせて、好みのカラーを選べる。
EP-804Aの概要を確認したところで、次はスマートフォンプリントの準備に取りかかろう。まずは無線LANとの接続だ。
まず前提として別途必要になる機器が、無線LANルーターもしくは無線LANアクセスポイントだ。ノートPCなどとEP-804Aを1対1で無線接続するアドホックモードもサポートされているが、やはりプリンターをネットワーク接続するメリットは、複数の端末から1台のプリンターを共有できることにある。ここはぜひ、ルーターを1台用意しておきたい。標準的なIEEE 802.11b/g/n対応のルーターは、1万円未満で十分に購入できる。また、築年数の浅いマンションなどにお住まいであれば、あらかじめ居室内で無線LANが利用できる(=ルーターが設置されている)場合もあるので、確認してほしい。
さて、ルーターの準備さえできていれば、接続手順は簡単だ。EP-804Aに付属しているCD-ROMをPCにセットし、あとは画面の指示に従って何回かクリックを行えば、PCでの使用、無線LANネットワークへの接続含めて、ほぼ自動的にセットアップが完了する。
この途中、選択によっては、ルーターに内蔵された無線LAN自動設定機能を使ったセットアップが行える。その際は一度PCの前を離れ、EP-804Aのパネルを操作する。メニューから「無線LAN設定」を呼び出し、さらにその下層にある「プッシュボタン自動設定(AOSS/WPS)」を選択しよう。
すると、EP-804Aのディスプレイには「アクセスポイントのプッシュボタンを押してください」というメッセージが表示される。そうしたら、今度はルーターに内蔵されているボタンを押そう。ここ3〜4年内に発売されたルーターであれば、ほぼ確実に「WPS」もしくは「AOSS」と書かれたボタンがあるはずだ。これを押せば、少しの待機時間の後、セキュリティ設定がしっかりなされた無線LAN接続設定が完了する。
この方式は、携帯型ゲーム機や一部のAndroidスマートフォンでおなじみのセットアップ方式のため、一度は経験したことがある人も多いだろう。プリンターの設定であっても、それとほぼ同様に行えるという訳だ。
ここまでで無線LANのセットアップが完了した。スマートフォンの無線LAN接続も同様に済ませたら、いよいよスマートフォンプリントを試していきたい。
スマートフォンプリントにはいくつかの機能があると説明したが、その中でも特に簡単で、すべての人にオススメしたいのが、専用アプリ「Epson iPrint」を使った方法だ。このアプリはiPhone/iPad版、Android版がそれぞれリリースされている。もちろん価格は無料。対応するオンラインアプリマーケットからダウンロードしておこう。
ここではiPhoneでiPrintを使った印刷手順を見ていこう。まずiPrintを起動すると、メインメニューが表示される。基本的には、この画面の指示に従っていくだけだ。ただし、初回だけはプリンターの指定を行う。画面左下の歯車アイコンをタップすると、プリンターの電源がオンになっていれば、程なくしてEP-804Aの名称が表示される。これをもう一度タップすれば事前準備はほぼ完了だ。プリンターの名称が出てこない場合は、スマートフォンの無線LAN機能がオンになっているかも確かめよう。
iPrintからはさまざまな印刷が可能だが、まずは写真印刷を試してみよう。メニューの「写真」を選ぶと、iPhoneのカメラで撮影した写真(カメラロール)、iTunes経由で転送した写真の一覧がサムネイル表示される。印刷したい写真をタップしてチェックマークを付け、「次へ」を押す。
すると、指定した写真がどのように印刷されるかのプレビューが表示される。この段階で、すでに画像の縦・横を判別して、印刷方向(用紙の向き)を自動で変更してくれるのが嬉しい。画像をピンチイン/ピンチアウトして印刷範囲を指定(トリミング)することすら可能だ。
このとき、用紙サイズや部数、印刷品質が設定できる。さらに、カラー写真をあえてモノクロで印刷するとか、日付を同時に印刷するか、用紙によってはフチの余白の有無も選べる。PCからの印刷時とほぼ変わらない、細かな設定にも対応していることが、iPrintの何よりの特徴。なお、画像の対応形式はJPEGとPNGの2種類。
また、Webページの印刷機能も特に便利だ。iPrintにはブラウザーが内蔵されており、ここで表示したWebページの内容を印刷できる。残念ながら、iPhone標準のSafariブラウザーからは、OSの仕様制限もあって印刷できない。もちろんURLをコピー&ペーストして、iPrintに貼り付け直せば、間接的に印刷可能だ。
Webページ印刷も、基本的には前述の写真印刷と手順はほとんど変わらない。しかし、印刷プレビューが見られ、さらに印刷範囲指定できることがここでは大きな武器になる。プリンターを日常的にお使いの方なら、ほんの数行のフッターだけを印刷してもったいないとお感じになったことが1度はあるはず。iPrintなら、これをほぼ100%防げる。
もう1つ、ドキュメントの印刷も覚えておきたい。これは、SafariやiPhone標準のメールアプリなどで開いたPDF、Microsoft Word/Excel/PowerPointの各データファイルを印刷できるという機能だ。
これらのファイルはiPhone上で開く際、サブメニューが表示できるようになっている。このとき「EPSON iPrint」を指定すると、自動的にアプリが起動。あとはiPrintのインターフェイスで印刷が行える。スマートフォンがいくら大画面とはいえ、PCのモニターと比べれば当然ながら小さい。そんなときこそiPrintで手早くドキュメント印刷すれば、PCの前に座ることなく仕事の資料が閲覧できるだろう。
ドキュメント印刷機能とも関わるが、iPrintでは外部クラウドサービスと連携し、オンライン上に保存されたファイルを参照・印刷するという機能も備えている。現在は、Evernote、Google Docs(ドキュメント)、Dropbox、Boxの4種類に対応。いずれもiPrintのメイン画面から「オンラインサービス」を選択し、各サービスのIDでログインすると、該当するファイル一覧が表示される。あとは、ドキュメント印刷機能と手順はほぼ同じだ。
複合機ならではのスキャナーを活かした機能も、iPrintには用意されている。スキャナー操作をiPrintから行うことで、スキャン画像を直接スマートフォン側へ取り込めるのだ。PCにあらかじめ保存した画像をスマートフォンへ転送するのではなく、スキャナーからダイレクトにスマートフォンへと送れる。
操作の考え方は、iPrintとまったく同じだ。スキャナーに目的の紙類をセットし、EP-804Aのパネルではなく、スマートフォン上のiPrintで取り込み実行操作を行う。といっても、操作は基本的に「スキャン」ボタンをタップするだけだ。
取り込み前にはdpiの設定が可能。また、取り込んだ直後に保存、メール、印刷の3種類から実行したい内容を選べる。保存を選んだ場合、さらにiPhoneのカメラロールに保存するか、あるいはiPhone内部のローカルフォルダー領域に保存するか、外部クラウドサービス4種に保存するかも選択可能。さらに保存場所によってはJPEG形式にするかPDF形式にするかも選択できる。スキャン画像の容量もこのとき確認できる。
メモリーカードスロット搭載型の複合機は、これまでもPCレスでスキャン画像の取り込みは可能だった。しかし、iPrintがあれば、メモリーカードすら経ることなく直接画像を保存できる。さらに、スマートフォンからはさまざまな画像加工アプリが利用できるので、応用範囲も非常に広い。幼い頃にとった紙焼き写真をスマートフォンに取り込んで、落書きやマークでデコレーションするといった用途も十分考えられるだろう。
ここまで、iPhoneにおけるiPrintの利用感を見てきたが、Android版でも基本的に機能は一緒だ。ただ、写真印刷でのPNG画像非対応、メール添付ファイルの印刷はJPEGのみ対応、スキャン画像のPDF化非対応など、いくつかの制限がある。逆に、ブラウザー利用中にiPrintをシームレスに起動、そのまま印刷できるというメリットがある点は覚えておきたい。
スマートフォンプリントの機能はこれだけではない。インターネット連携による印刷機能「メールプリント」がそれだ。まず「○×△□@epsonconnect.com」という本サービス専用のメールアドレスをプリンターごとに設定。あとはそのアドレスにメールを送るだけで、添付した写真や文書ファイルを自動で印刷してくれる。
このサービスのミソは、スマートフォンとプリンターが同一の無線ネットワーク上に存在しなくても、インターネット経由で連携できるところにある。外出先から3G回線経由で写真付きメールを送り、自宅、あるいは離れて暮らす両親宅のプリンターで印刷ができてしまう。携帯電話各社からネット連携フォトフレームが発売されているが、そのプリンター版と言えばわかりやすいだろうか。
もちろん、送信元の端末はスマートフォンに限らない。ファイル添付できるメール送信環境さえあればOKだ。従来型携帯電話(フィーチャーフォン)にも対応する。
メールプリント機能の設定は、EP-804AをPCと繋げて初期セットアップする際に行える。追加で必要となるドライバーとソフトウェアは、インターネットから自動ダウンロードされる。このほか、ユーザーページ(管理画面)へのログインに必要なメールアドレスとパスワードも同時に登録しておく。
印刷を行うには、基本的にファイルを添付してメールを送るだけ。JPEG、BMP、GIF、PNG、TIFFなどの主要画像フォーマットに加え、PDF、Word/Excel/PowerPointの印刷が可能だ。メール本文にメッセージを記述すれば、送信者情報とともに印刷される。これらから分かるように、FAX的な運用も可能だ。
また、ユーザーページからはさまざまな設定・確認が行える。メールプリント用に登録したプリンターの一覧とその稼働状況、何時何分に送ったメールが印刷されたかどうか、あるいは何らかのエラーを起こしていないかがリモートで把握できる。印刷設定の変更も可能だ。
なお、メールプリントはインターネット経由で大容量データをやりとりするため、最低でもプリンターが接続されている回線の下り通信速度が512Kbps以上でなければならない。アナログ電話回線、ADSLやケーブルテレビによるネット接続サービスのうち極端に低速度なものでは利用できない場合があるので注意しよう。できれば、推奨速度環境である下り1Mbps以上の回線を準備したい。
スマートフォンからの無線LAN印刷に話を戻すと、iPrintを利用する以外にもいくつか方法がある。まずは、iPhone/iPad(iOS 4.2以降)の標準機能である「AirPrint」だ。Safari、OS標準の「メール」「写真」「マップ」など、AirPrint対応アプリから印刷が行える。
利用にあたっても、EP-804Aでは事前の難しい準備は必要ない。プリンターの電源が入っていて、iPhoneと同じ無線LANネットワークに属していれば、「プリント」実行時に、自動的にEP-804Aを見つけてくれる。もちろん、PCには依存しない機能なので、PCの電源がオンでもオフでも関係なく使える。
もう1つは「Google クラウド プリント」だ。厳密にはスマートフォン専用の機能ではなく、Google クラウド プリントに対応したWebアプリケーション全般から利用できる。具体的にはGmailやGoogleドキュメントが対応しており、それらのWebインターフェイス上で印刷を実行する仕組み。
「Google クラウド プリント」はインターネット接続が必須のサービスということもあり、利用にあたってはGoogle アカウントによる登録が必要。また、EP-804Aを機器登録する際に、「EPSON Printer Finder」というエプソン製ソフトを使う必要がある。とはいえ、これらはEP-804Aセットアップ時にPCへインストールしたソフトがあれば、ネット経由で簡単にインストールできる。
スマートフォンへの対応、ひいてはネット連携機能が非常に充実したEP-804Aだが、単体の複合機としての使いやすさ向上についても決しておろそかにしてはいない。中でも、前年(2010年)モデルと比較してパワーアップした部分に「先読みガイド」がある。
これは、「メモリーカードの挿入」「原稿カバーのオープン」などの状況に応じて、対応したメニューを優先表示する機能。SDカードが挿入されたら写真の印刷、原稿カバーが開いたならコピーか画像スキャンと判断して、ディスプレイにわかりやすいメニューを表示してくれる。その場面に応じて、必要な操作ボタンだけが点灯する「カンタンLEDナビ」も搭載されているため、プリンター操作に不慣れな人でも、迷いなく目的の操作が行える。
「うっかり防止アラート」も新たに搭載された便利機能。印刷前に元データと用紙設定をチェックし、用紙サイズがあっていない(大きな余白が発生する)場合には注意メッセージを表示する。また、コピーやスキャンをした後、原稿を取り忘れていた場合は音で知らせてくれる。
ハードウェアとしての外観部分にも改良が加えられた。排紙トレイ部のカバーが大型化され、電源オフ時にメモリーカードスロットも同時に覆う形式となった。また、電源ケーブルの形状を変更。L字型になったため、ケーブルを接続した状態でも本体背面部がほぼフラットになる。壁面にピッタリとくっつけることが可能になり、よりコンパクトな設置面積で運用できる。
いかがだったろうか。EP-804Aはもはやプリンターの枠を越え、ネットワーク機器としての位置付けを強めている。かつてネットワークプリンターと言えば、業務用高級機だけの機能、あるいは高価なオプションを用意しなければ使えない機能だった。
しかし、それも昔の話。約3万円の家庭用プリンター1台あれば、バリバリPCを使うIT上級者はもちろん、スマートフォンだけしか持っていない人でも、さらにいえばIT機器を一切持っていない人でもコピー機能が使える。コストパフォーマンスはもちろん、あらゆるユーザーのニーズをくみ取った“スーパー汎用機”へと変貌した。
ましてやスマートフォンの普及によって、プリンターの利用範囲は今後ますます広がっていくことだろう。ひとり暮らしの学生、お子さんのいる家庭、そして中小企業のオフィスで、ぜひスマートフォンプリント対応カラリオシリーズの利便性を味わってほしい。
(森田 秀一)