かつて、固定電話が中心だった時代、電話は家庭やオフィスを代表するものだったが、一人ひとりが持つケータイの登場により、電話はパーソナルな持ち物になった。そして、iモードのサービスが開始され、ケータイは単に話すための道具としてだけでなく、メールやコンテンツ閲覧が利用できる「使うためのツール」へと進化を遂げた。しかし、ドコモのイノベーションはiモードだけにとどまらず、さらに幅広いシーンで活用できるように、次々と新しい機能が搭載されていく。
生活を変えたおサイフケータイ
ドコモが1999年からサービスを提供したiモードにより、ユーザーはケータイをメールやインターネットなどに使うようになり、それまで以上にケータイを触れる時間が増えることになった。ただ、その「ケータイを使う」部分の多くは、ほかの人とのコミュニケーションの利用が中心だった。
こうしたケータイの位置付けを大きく変えるきっかけになったのが2004年7月にドコモがサービスを開始した「おサイフケータイ」だ。改めて説明するまでもないが、ケータイに非接触IC「FeliCa」を搭載することで、電子マネーやクレジットカード、会員証、ポイントカード、クーポンなど、さまざまな機能を利用できるようにしたサービスだ。対応端末としてリリースされたのは、パナソニック モバイルコミュニケーションズ製「ムーバ P506iC」、ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ製「ムーバ SO506iC」、シャープ製「ムーバ SH506iC」、富士通製「FOMA F900iC」の4機種だった。
おサイフケータイ対応サービスは電子マネーの「Edy」(現在は「楽天Edy」)などからスタートし、徐々にクレジットカードや航空会社のマイレージ会員、家電量販店のポイントカードなどに拡大していった。おサイフケータイの発表会において、iモード事業本部iモード企画部長(当時)の夏野剛氏は、「iモードを進化させていくとともに、もうひとつ波を起こしたい。それがFeliCaであり、これからケータイは『生活インフラ』になる」と語っていたが、当初は「ケータイを落としたら、心配だ」「機種変更のときはどうする?」「使える場所が少ない」といった声も聞かれ、すぐに普及するには至らなかった。しかし、ドコモは着実にサービス内容を拡充するとともに、実際に利用できる店舗や場所、サービスを拡大し、現在ではケータイに欠かせない機能のひとつとして、定着させることに成功している。ボク自身もおサイフケータイは早くから試していたが、最初は店員に確認しながら使ったり、逆に店員に質問されるようなこともあったが、今やコンビニエンスストアから駅、飲食店、タクシーなど、さまざまなところでケータイを「かざす」ようになっている。ちなみに、ドコモの登録商標である「おサイフケータイ」を他事業者のサービス名でも利用できるようにしていて、今ではどこでも利用できるようになったが、これもドコモの「おサイフケータイをインフラとして定着させたい」という思いが表われたものと言えるだろう。
ムーバを続けるか、FOMAに行くべきか
おサイフケータイの最初のモデルとして登場した4機種を見てもわかるように、2003年から2004年頃にかけてのドコモのラインアップは、FOMAとムーバが並び、ユーザーとしてもどちらを使おうか迷っていた時期でもあった。
FOMAについては、前回も触れたように、2001年にサービスを開始したものの、初期のFOMA端末はモデルを重ねて完成度を高めてきたムーバ端末に比べ、今では考えられないほどボディサイズが大きかったり、連続使用時間が短いなど、なかなか乗り換えにくい印象があったのも事実だ。そのため、テレビ電話が利用できるようになったことなど、FOMAの先進性は認めるものの、実際に移行したのは最新のものを求める筆者や本誌読者のようなユーザーが中心だった。
これに対し、ムーバ端末のラインアップは加藤あいが起用されたテレビCMの「ごーまるごぉ、あいっ!」という掛け声を覚えている人も多いだろうが、2003年4月に発表された「505iシリーズ」がFlash対応やiアプリDXなど、これまでのiモード端末をさらに超える多彩な機能を搭載し、ユーザーの関心をひきつけた。ちなみに、このFlashとiアプリDXの対応は、ユーザーがさまざまなエンターテインメントコンテンツを楽しめるようになっただけでなく、コンテンツプロバイダにとってもさらに表現力豊かなコンテンツの提供が可能になったという側面もある。ユーザーのニーズを応えていくだけでなく、iモードにおいて、コンテンツプロバイダも牽引してきたドコモならではのアプローチと言えるだろう。
また、505iシリーズのようなハイスペックモデルのほかに、ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ製「premini(プレミニ)」やパナソニック モバイルコミュニケーションズ製「P252iS」のように、手のひらにすっぽり収まってしまうほど、コンパクトなモデルも登場し、話題になった。なかでもpreminiは非常に人気が高く、2004年11月の「premini-S」、2005年2月の「premini-II」、2005年5月の「premini-II S」など、後継モデルも数多く登場した。ボク自身もpreminiは購入したが、それまでのケータイと違い、凝った専用パッケージに収められていて、非常にカッコ良かった。サイズも「ケータイのサイズもここまで来たか」と驚かされるほどのコンパクトさだったが、スロープキーと呼ばれる独特の階段状のキーで、しっかりと押しやすさを確保していたのも気に入った点だ。
「FOMAもいいけど、まだしばらくはムーバでいいかな」というユーザーの気持ちを一気に吹き飛ばしてくれたのが2003年12月に発表され、2004年2月から順次発売された「FOMA 900iシリーズ」だ。当時の発表会で、「FOMA 900iは世界最強」とアピールされていたが、着せ替え可能な「カスタムジャケット」を採用したパナソニック モバイルコミュニケーションズ製「P900i」、指紋センサーを搭載した富士通製「F900i」、美しいアークラインでデザインされたNEC製「N900i」、当時としてはもっともハイスペックな200万画素カメラを搭載したシャープ製「SH900i」など、いずれもスペックや個性、デザインなど、さまざまな面でワクワクさせてくれるモデルだった。世界的に見ても当時のフィーチャーフォンでここまで高機能かつ多様なサービスに対応した端末はほとんどなく、FOMAの先進性を強くアピールする結果となった。このFOMA 900iシリーズを機に、ボクの周りでもムーバからFOMAに乗り換える人が少しずつ増え、「どれがおすすめ?」といった相談もよく受けるようになった。
当時、個人的にはカメラ機能に注目していたこともあり、SH900iがお気に入りだったが、P900iのカスタムジャケットもかなり気に入り、同時発売のカスタムジャケットを全部揃えたり、限定品を集めようとするなど、かなり楽しんだ。このP900iの派生モデルである2004年6月発売「P900iV」もムービースタイルが斬新で、旅行先などでビデオを撮ってみるなど、楽しく使うことができた一台だ。
使う楽しさを加速させたパケ・ホーダイ
FOMA 900iシリーズが発売された2004年は、FOMAサービスにとって、もうひとつ大きな出来事があった。それは2004年6月にサービスを開始したパケット通信料定額サービス「パケ・ホーダイ」だ。
メールやさまざまなコンテンツ閲覧が楽しめるiモードは、転送したデータ量に応じて、パケット通信料が課金されるが、ユーザーとしては通話と違い、どれくらいパケット通信を使ったのかが把握しにくかったうえ、パケット通信料の上限が決まっていなかったため、なかなか思いきりコンテンツを楽しんだり、サービスを利用しにくい印象があった。そこで、ドコモはFOMAの契約者を対象に、毎月一定額を支払うことで、パケット通信を使い放題にするパケット通信料定額サービス「パケ・ホーダイ」を開始する。当初は対象となる料金プランが限られていたため、どちらかと言えば、FOMAをたくさん使うユーザー向けだったが、2006年3月からはすべての新料金プランでパケ・ホーダイが契約できるようになり、一気にムーバからFOMAへのマイグレーションが進んだ。同時に、着うたフル®などのサービスも利用できるようになり、FOMAを使う楽しさを大きく加速させた。
もちろん、ボク自身もいち早くパケ・ホーダイを契約したが、これは元々、記事作成でiモードサイトなどにたくさんアクセスするため、パケット通信料が多かったからという意味合いだけでなく、実利用の面でもプロバイダーのメールを送受信できるiアプリを使いはじめるなど、「せっかくだから、たくさん使わないと」とばかりに、積極的に使おうとした印象が残っている。
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こうした料金面でユーザーをサポートした施策としては、2004年10月から提供された、「ファミリー割引」適用時に家族間でiモードメールが無料になることを喜ぶ人が多かった。これに加え、月々の基本使用料が50%OFFになる「ファミ割MAX50」や「ひとりでも割50」が2007年にスタートし、多くのユーザーがリーズナブルな料金で契約できるようになった。ボクの周囲では一連の家族向けの料金施策をきっかけに、家族揃って、ドコモと契約する人が増え、中高年向けには「らくらくホンシリーズ」が高い人気を得た。
進化を続けるFOMA
FOMA 900iシリーズの登場以降、ドコモはFOMAを主力サービスに据え、端末やサービスの拡充を図っていく。
900iシリーズ以降のFOMAは、ディスプレイの大型化やボディの小型軽量化、カメラの画素数UPといった基本スペックの向上が図られる一方、デザインを重視し、手頃な価格で購入できる「FOMA 70Xiシリーズ」がラインアップに加わっている。なかでも2006年2月に発表された702iシリーズは、佐藤可士和氏のデザインによるNEC製「N702iD」をはじめ、著名なデザイナーやクリエイターとのコラボレーションを実現し、それまでになかった独特の個性を持つFOMA端末がラインアップに加わった。
FOMA 90Xiシリーズにもデザインや機能面で特徴を持ったバリエーションモデルが登場する。人工皮革でボディ表面を加工したシャープ製「DOLCE(ドルチェ)」「DOLCE SL」、コンパクトで防水対応を可能にしたソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ製「SO902iWP+」などは、702iシリーズにも負けない個性で、幅広いユーザー層にFOMAが普及する後押しとなった。
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70Xiシリーズではデザインを重視したコラボレーションモデルを展開。佐藤可士和氏デザインのモデルは人気が高かった。写真は2007年発売のNEC製「N703iD」 | 人工皮革で外装をカバーしたシャープ製「DOLCE」(左)、防水対応のソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ製「SO902iWP+」 |
FOMAの進化は端末だけでなく、ネットワークでも大きく進化を続けている。2006年8月にはW-CDMA方式の上位互換となるHSDPA方式を採用した「FOMAハイスピード」の提供を開始し、高速パケット通信サービス時代への扉を開ける。FOMAハイスピード対応端末の第1号機として登場したNEC製「N902iX HIGH-SPEED」は近未来的なデザインが印象的なモデルで、2007年には富士通製「F903iX HIGH-SPEED」、パナソニック モバイルコミュニケーションズ製「P903iX HIGH-SPEED」もラインアップに加わった。いずれのモデルも機能的にもデザイン的にも特徴的だったが、それ以上に、一度FOMAハイスピードのサクサク使えるiモードを体験してしまうと、元の環境に戻る気が起きなかったのをよく覚えている。
ところで、FOMAハイスピードというと、音声端末のことばかりを連想してしまうが、ドコモはFOMAハイスピードのサービス開始後、パソコン向けの定額データ料金プラン「定額データプラン HIGH-SPEED」の提供を開始し、各パソコンメーカーからはFOMA通信モジュールを内蔵した「HIGH-SPEED対応PC」が発売された。個人的にもHIGH-SPEED対応のPCを購入し、外出先でも内蔵通信モジュールでのデータ通信を利用するようになったが、非常に快適に使うことができた。データ通信アダプタなどを接続する必要がなく、パソコン上で動作するダイヤラーで接続ボタンを押せば、すぐにインターネットにつながるという手軽さも魅力だったが、やはり、2007年3月の段階で人口カバー率100%を達成していたFOMAのエリアは強力で、東京近郊の取材先だけでなく、国内の出張先でも随分と重宝した。ボク自身だけでなく、編集スタッフも含め、外出先で頻繁にパソコンを利用するが、どこでも安定してつながるFOMAハイスピードのモバイルデータ通信は、それを支える心強い存在だった。
ひとつの完成形を実現したFOMA 905iシリーズ
ドコモの主力サービスに位置付けられ、ネットワークも充実してきたFOMAだが、端末ラインアップでひとつの節目となったのは、2007年11月に一気に23機種が発表された「FOMA 905i/705iシリーズ」だろう。iモードケータイの高機能化やハイスペック化は、着実に進んでいたが、「ALL IN 世界ケータイ」と銘打たれたFOMA 905iシリーズは、全10機種が国際ローミングに対応し、ディスプレイがフルワイドVGA、データ通信はHSDPA方式によるFOMAハイスピード対応と、その時点で考え得る最高のスペックを実現し、他社のラインアップを数的にも内容的にも圧倒した。
携帯電話事業者を評価する指標には、さまざまなものがある。ユーザーの目から見れば、まず最初に目につくのは端末ということになるが、ドコモは完成度の高い端末ラインアップを揃えるだけでなく、それらの端末で利用できるおサイフケータイやDCMX、iチャネル、2in1といった生活に密着したサービスを提供しつつ、ビジネスにも活用したいユーザー向けにパソコンで利用する高速モバイルデータ通信サービスなどのサービスも提供してきた。そして、現在では当たり前となったパケット定額サービスや家族で利用するユーザー向けの割引サービスなどの料金面で支えながら、モバイルの可能性を大きく拡げ、より多くの人、そして社会全体にモバイルの利便性を広めてきた。こうした積極的かつバランスの良い取り組みがあり、そこに高い信頼性があったからこそ、ドコモは広くユーザーに支持されてきたと言えるだろう。
※ 掲載の内容は2012年8月6日現在の情報です。
※ 「FeliCa」は、ソニー株式会社が開発した非接触ICカードの技術方式です。
※ 「FeliCa」は、ソニー株式会社の登録商標です。
※ 「楽天Edy(ラクテンエディ)」は、楽天グループのプリペイド型電子マネーサービスです。
※ 「着うたフル」は株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントの登録商標です。
---第4回(最終回 8月10日掲載予定)は、
Xiの登場、スマートフォンへの移行などに迫っていきます。

1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 7」、「できるポケット docomo AQUOS PHONE SH-01D スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」、「できるポケット+ GALAXY S III」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。Impress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。
- ■URL
- ドコモthanksキャンペーン/DOCOMO 20YEARS COLLECTION
http://walkwithyou.jp/thanks/PC/#collection - 【特別企画】法林岳之が語る「これまでも、これからも。みんなといっしょに歩み続けたドコモの20年」
第1回 デジタル化、そしてパケット通信へ
http://ad.impress.co.jp/special/docomo20th/01/ - 【特別企画】法林岳之が語る「これまでも、これからも。みんなといっしょに歩み続けたドコモの20年」
第2回 iモードの成功、FOMAへの挑戦
http://ad.impress.co.jp/special/docomo20th/02/ - 【特別企画】法林岳之が語る「これまでも、これからも。みんなといっしょに歩み続けたドコモの20年」
第4回 スマートフォン&Xiでもっと楽しく、もっと便利に
http://ad.impress.co.jp/special/docomo20th/04/