「今ここにある」6コア AMD Opteron(TM) プロセッサプラットフォーム

 AMDは2006年に、Socket Fと呼ばれる第2世代のサーバー向けプラットフォームをリリース、以後4年に渡りこのSocket Fに対応した製品をリリースしてきた。当初リリースされたのはDual-Core、x86-CPUとしては初めて1つのCPU、シリコンに2つのCPUコアが統合された製品であった。Socket Fは1Pから8Pまでの構成が可能であり、CPUコア数で言えば2〜16個までのスケールが利用できた。次いで2007年10月にはQuad-Core、つまりCPUコアが4つに増強され、更に2008年11月には同じQuad-Coreながら最新の45nm SOIプロセスを使った製品に交代、2009年6月には45nm SOIプロセスを使いながら6-Core、つまりCPUコアが6つに増強された製品が投入されている。この最新の6コア AMD Opteron(TM) プロセッサ(以下、6コアOpteronと言う)を使うと、6〜48個までのスケールを利用することが可能である。4年前の製品に比べて、コアの数は3倍に増えたわけだ。

 通常こうした形でCPU性能を向上させると、マザーボード・プラットフォームを変更せざるを得ないことが多い。理由は2つあり、1つは性能が上がることで消費電力が増え、これに対応する必要があること。もう1つは半導体の微細化に伴い、供給電圧を下げつつ供給電流を増やす必要が出るため、これに対応する必要があることだ。

 ところがSocket FのOpteronでは、こうした配慮は一切不要である。消費電力は第1世代から第4世代までほぼ同じ範囲に納まっており、また電圧も第一世代のSocket F用Dual Core Opteronの定める範囲に収まっている。このため、従来のSocket Fプラットフォームを運用しているユーザーは、ファームウェアのアップデートで最新CPUを導入できるばかりか、サーバーの数、あるいはCPUの数を考慮しておくだけでサーバールームのキャパシティプランニングが済んでしまうというのは非常に大きなメリットだ。

 逆に新規ユーザーにとっても、安定運用という点では4年に渡る実績は大きな強みとなる。コンシューマ向けの製品と異なり、最新の機能が取り入れられていることは必ずしも必須ではなく、それよりもいかにダウンタイムを減らして安定運用するか、あるいはいかに無駄なバックアップ機材の必要を減らすかの方が大きなポイントである。この観点で見ると、主要なベンダーは既にSocket Fプラットフォームを使っての運用に十分な実績と経験を積んでおり、ノウハウの蓄積も済んでいる。こうしたノウハウが、Socket Fプラットフォームの最大のメリットといっても良いかもしれない。

6コアAMD Opteron(TM) プロセッサ(コードネーム: Istanbul)

 6コアOpteronは、単にコンパチビリティに優れているだけではなく、最新のテクノロジも積極的に取り込んでいる。最も注目すべきポイントは、仮想化技術である。以前と異なり、最近はデータセンターやエンタープライズで、積極的に仮想化を取り入れていることが多い。負荷に応じてマシンリソースを配分することが容易だし、物理的な障害があっても代替環境にただちに移行も可能だ。また、他の仮想環境がエラーや障害、侵入などにより破壊されても、それが自分の環境に影響を及ぼすことがないなど、非常に優れた特徴を持っている。特に最近、本格的に活用が始まったクラウド環境では、負荷に応じたリソース配分や環境の移行といった機能は必須であり、今後は仮想化なしの環境で使う方が珍しくなってくるだろうと予測されている。

 こうした優れた特徴を持つ仮想環境ではあるが、どうしてもオーバーヘッドが大きくなることは免れない。特に複数の仮想環境を同時に実行する場合、「仮想環境同士の切り替え」や、「仮想環境で使われるメモリと実際の物理メモリの間のアドレス変換」が煩雑になるため、ここでのオーバーヘッドが非常に大きい。

 こうしたことに対応し、Opteronは以前からAMD Virtualization(AMD-V)と呼ばれる独自拡張を実装しており、特に第2世代にあたるQuad Core Opteronから実装されたRVI(Rapid Virtualization Indexing)は仮想環境の切り替えオーバーヘッドを低減し、またTagged TLBは仮想環境のメモリと物理メモリ間のアドレス変換をハードウェアで行うことを可能にする。 もっとも、こうした拡張は当然OSやハイパーバイザの対応が必要になってくる。以前は特にハイバーバイザが未対応な部分が多かったが、最近は主要なハイパーバイザが相次いでOpteronのAMD-Vに対応を行っており、これによって仮想環境における性能が大きく伸びている。例えばMicrosoftはWindows Server 2008と共にHyper-Vという仮想環境を提供しているが、Windows Server 2008 R2の出荷にあわせてHyper-V 2.0がリリースされた。このHyper-V 2.0はAMD-Vのもつ拡張機能をフルにサポートしており、実際ベンチマークではわずか10%のオーバーヘッドで仮想環境が動作することが示されている。最初にリリースされたHyper-V 1.0では40%近いオーバーヘッドだったことを考えると、いかにAMD-Vが仮想環境に効果的かが実感できるだろう。

ベンチマーク結果 (出典元[PDF])

 こうした結果は単にHyper-Vだけではない。やはりハイパーバイザとして有名なVMWare上でのテスト結果や、CitrixのXenServerでのテスト結果でも、特に6コアOpteronが優秀な性能を出していることが確認できる。

 

仮想化環境における性能検証

 先に「コアの数は3倍になった」と説明したが、では性能はどうか?という話が次に出てくるだろう。下のグラフは、Socket Fの第1世代であるDual-CoreのOpteron 2218と、同じく2.6GHzで動作する第3世代のQuad-Core Opteron 2382、それと最新の6コアOpteron 2435の3製品を比較したものだ。ちなみに消費電力はOpteron 2218が68Wもしくは95W、Opteron 2382/2435はどちらも75W品である。つまりフルロード時の消費電力はほぼ同じであり、待機電力もグラフからわかるとおりほぼ同じである。それでいて性能は圧倒的に高いことがお判りいただけよう。科学技術計算で多用される浮動小数点演算性能ですら3倍、エンタープライズ向けのJava性能では7倍もの性能改善が、同じ消費電力で実現していることになる。

6コアAMD Opteron(TM) プロセッサを搭載したサーバーは従来のデュアルコア・クアッドコアOpteronを搭載した
サーバーを大きく上回る性能を同一の消費電力で実現

 もちろんこうした性能改善は、単にコアの数を増やしただけでは実現できない。細かくは触れないが、SIMD演算エンジンの大幅強化やキャッシュ構造の見直し、メモリコントローラの改善やHyperTrasnport Linkの改良など、非常に多岐に渡る性能改善の積み重ねが、この結果となって現れているわけだ。

 用途に応じて様々な構成が用意されているのも、6コアOpteronの柔軟性の高さを示している。下の表でお判りの通り、下は40Wから上は105Wまでラインナップが用意されており、ユーザーの望む構成やマシン環境に柔軟に対応しやすい。特にデータセンターなどでは、絶対的な消費電力を低く抑えることが望まれており、こうしたニーズにはHEあるいはEEといった低消費電力なモデルが効果的である。一方、HPCなど絶対的な計算能力がとにかく必要とされる用途には、SEモデルが用意されている。しかもこれらの製品はいずれも、消費電力と動作周波数以外は完全に同一スペックとなっている。例えば低消費電力モデルではメモリの速度や容量が抑えられたり、何かしらの機能が削られたりと言ったことは一切ないから、ユーザーとしてもマイグレーションが行いやすいだろう。

Series Model Cores Freq NB Wattage L2 Cache L3 Cache
8000 8435 6 2.6GHz 2.2GHz 75W 512K/core 6MB
8000 8431 2.4GHz
2000 2435 2.6GHz
2000 2431 2.4GHz
2000 2427 2.2GHz
8000 8425 HE 6 2.1GHz 2.2GHz 55W 512K/core 6MB
2000 2425 HE 2.1GHz
2000 2423 HE 2GHz
8000 8439 SE 6 2.8GHz 2.2GHz 105W 512K/core 6MB
2000 2439 SE 2.8GHz
2000 2419EE 6 1.8GHz 2.0GHz 40W 512K/core 6MB

6コアOpteronのラインアップ

 言ってみればこの6コアOpteronは、Socket F世代の集大成とも言うべきトップエンドモデルである。「安定した性能のハイエンド製品が今すぐ欲しい」というニーズをお持ちのユーザーには、6コアOpteronを搭載したサーバーの検討を強くお勧めしたい。


(2010年3月15日)
[Text by 大原 雄介]

<関連情報>
■日本AMD株式会社
http://www.amd.co.jp/

<関連記事>
■AMD、6コアOpteronの低消費電力版と性能最適化版
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/20090715_302397.html
■【仮想化道場】AMDの最新CPU「6コアOpteron」の仮想化性能を見る
http://enterprise.watch.impress.co.jp/docs/series/virtual/20090608_212618.html
■日本AMD、“Istanbul”こと「6コアOpteron」を発表
http://enterprise.watch.impress.co.jp/docs/news/20090603_212301.html
■AMD、6コアのOpteron 2400/8400シリーズ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/20090602_212146.html
■【後藤弘茂のWeekly海外ニュース】 AMDが6コアOpteronのIstanbulを正式発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/kaigai/20090602_212130.html