緊急指令ケータイ進化論の枠を越えた、V602SHの技術面を解明せよ!

V602SHを支える技術と進化したカメラ部分のヒミツを明らかにする。

2メガピクセルのデジタルカメラにケータイ初の光学2倍ズームを搭載し、さらに液晶画面がターンする「SWIVEL STYLE(スウィーベルスタイル)」の採用で、ケータイとしてもデジカメとしても一層の進化を遂げた「V602SH」。シャープの開発現場から、その先進のコンセプトや技術の詳細をお届けしよう。

V602SHに凝縮された技術

 

新しいデザインを実現するためにクリアすべき技術面が多かったと語る山下氏

 
 

ヒンジの部分に見えるのが、新たに採用された細線同軸ケーブル

 V602SHは従来機(V601SH)とは大きく異なった“スウィーベルスタイル”を採用している。この新しいデザインを採用するにあたっての技術的な精緻も多方面に渡る。
 「まず苦労したのはボタン側と液晶側を電気的につなぐことです。スウィーベルスタイルは二つの回転軸がありますが、三十本の配線を直径4.4mmの軸に通せるよう、コネクタなども新規に開発しました。これまでのケータイでは薄いテープ状のフレキケーブルを使っていましたが、V602SHでは断面が丸い細線同軸ケーブルを使っています。強度に関しては、たたむ方向に20万回、ひねる方向にも20万回と、これまでと同等の強度を想定しています
(通信システム事業本部 パーソナル通信第二事業部 第1技術部 部長 山下 晃司氏)。」

 また、アンテナの搭載にも苦心の結果がある。V602SHは、ボタン部裏に一つと、メイン液晶裏部分に二つのアンテナを搭載している。メイン液晶裏のアンテナは、たたみ方によってどちらが機能するかが変わり、ボタン側のアンテナがダイバーシティアンテナとして補助的に機能するというものだ。基本検討の段階では閉じたときにも位置が変わらないヒンジ部にアンテナを搭載することも考えられたのだが、それだと手に持って通話するときに感度が落ちてしまう。その結果、設計途中に前述のようなアンテナ配置に変更したのだ。

 また、カメラの構成部品が増えたことで、壊れやすくなるという側面も生まれる。これにはカメラユニットの設計と実装方法の両面から、どんな落とし方をしても壊れないよう、実地検証とともに対応している。また、今回のV602SHでは、マルチメディア系のLSIも新規に搭載し、ベースバンドチップも低電圧で動くよう新しくしている。処理系統の高速化により発熱量も増えているが、これの放熱処理も技術でカバーした大きな側面である。

ヒンジ部にフラット方式レンズレイアウトのカメラを配し、厚みを押さえた。

 

シーンにあった使い方によって、アンテナも最適化が求められた。

デジタルカメラ機能の強化としての光学ズームという選択

 

画素数は、必ずしもユーザーメリットにはならないと語る井之村氏

 前機種V601SHのカメラでは、2メガとオートフォーカスを搭載した。その次のステップということで言えば、V602SHには3メガか光学ズームかの二つの選択肢があったのだと言う。
 「デジタルカメラにより近付いたときに、画素を取るのかズームを取るのかは悩ましいところです。しかし、高画素での撮影ではデジタルズームは画質が劣化します。そこでシャープとしては光学ズームが必要だと判断しました(通信システム事業本部 パーソナル通信第二事業部 第1商品企画部 部長 植松 丈夫氏)。」
 200万画素のカメラで200万画素の画像を撮ると、デジタルズームは使えない。2倍のズームをしたいとき、デジタルズームで画質を落とさず200万画素の画像を撮影するには、4倍の800万画素が必要になる。一方、普通に撮影した200万画素と300万画素の画像の画質の差は、ケータイ上では見えてこないレベルでもある。
 「当然300万画素の方が画質は綺麗なのですが、その差が分かる形で出てくるのは2Lサイズでプリントアウトしたときです。利用頻度の高いLサイズのプリントでは、その差ははっきりと出ません。こうしたデジタルカメラとしての使い勝手の面で、ユーザーの方々に与えるインパクトの大きさを考え、300万画素ではなく光学ズームを選択しました(通信システム事業本部 パーソナル通信第二事業部 第1商品企画部 主事 井之村 憲一氏)。」

 

ケータイのカメラでもスタイリッシュな撮影が可能となった

 カメラの撮り方の問題だが、カメラのように横に構えて撮るときと、従来のケータイ的に縦に持って撮るときで、距離感は感覚的にも違うはずである。カメラ的な構え方は、撮影者の顔はよりカメラに近付き、カメラと被写体の距離は離れる。ケータイ的なカメラの構え方だと、撮影者の顔とカメラの距離は長くなり、カメラと被写体の距離が短くなる。ここまで画質が上がってくると、好きな撮り方・構え方ではなく、“ちゃんと撮りますよ”という構えが必要になるだろう。V602SHではそうしたカメラ然とした作法も意識してデザインしているのだ。カメラ的に構えて撮るときは、被写体と距離を置きたいところ。こうしたカメラの作法の中で、ズームが活きてくるのである。
 「撮影時にケータイ的に構えるのは、被写体に失礼なのかも知れませんが、写メールする、という点では撮影後にメールと連動するなど、あの構え方がむしろ自然です。しかしV602SHでは、カメラ的に構えられるデザインと、被写体との距離が取りやすい光学ズームが、同時に実現されているわけです(植松 丈夫氏)。」

 J-SH53でメガピクセルカメラを搭載したシャープは、ツールとしてのポテンシャルを感じ、新機種では都度新しい技術を取り入れ続けてきた。“カメラの進化”として捕らえた場合、高画質(画素)化だけでなく、光学ズームも避けては通れないが、シャープとして選択した“次”は光学ズームだったのである。
 ケータイとしての使い方を損ねず、デジタルカメラとしてのベースのスタイルを加味する。そんなトータルデザイン=スタイルの答えが、このV602SHなのだ。

次回は、いよいよ法林氏によるV602SHの実機レビューがスタートする。楽しみにして欲しい。(2004.7.16)

■関連情報
・V602SH製品情報(ボーダフォン)
  http://www.vodafone.jp/japanese/products/kisyu/v602sh/
・V602SH製品情報(シャープ)
  http://www.sharp.co.jp/products/v602sh/

 

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前編 「スウィーベルスタイル」を中心としたデザインコンセプトを明らかにする。