いやー、びっくりしたのはその外観。弟子のスタパ齋藤氏も叫んだとおり、スタイルが一新されていて驚いた。スタパ氏は写真の腕でも定評があるが、実は私は彼のストロボの師匠なのだ。(笑)
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これなら本棚に収まる! |
箱から取りだしてみると、プリンタらしからぬ黒い箱が出てくるではないですか。さて、これでどのようにプリントするのか……。iP8600のウリのひとつに「2Way給紙」があり、プリンタ上部と前面の2通りの給紙が可能なのだ。とくに私が気に入ったのは、前面からの給紙。なぜかというと、排紙も前面なので、プリンタ本体を壁にほとんどぴったり寄せて設置できるからだ。
本体サイズは、453mm(横幅)×293mm(奥行き)×170mm(高さ)と実にコンパクト。前面給排紙で使うと前面以外は突起物がなくて(電源やUSBコネクターも出っ張らない)まさに「箱」お洒落に言えば「キューブ」格好よくいえば「ブラックボックス」。本棚の中段に設置して使うこともできてスッキリ収まり「格好いいじゃん!」と大いに喜んでいる私であった。本体重量は約7.3kgと、移動させるにも苦にならない重さだ。
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外観の美しさとコンパクトさ、設置のよさで満足している場合じゃない。私は写真家だった!さっそくそのプリント性能に迫っていこう。一部の作例では同社の990iと比較して見ることにした。
同社他社の数あるインクジェットプリンタのなかでiP8600のユニークな点は、全8色からなる新染料インク「BCI-7シリーズ」の採用だ。マゼンタとシアンの濃淡にブラックとイエロー、特色としてレッドとグリーンが備わった。これにより、従来では草木の緑はシアンとイエロー等で表現していたが、特色のグリーンの効果で色域がGreen方向の彩度で従来の1.2倍広がり、より鮮やかかつ深みのある緑を表現できるようになった。
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ふたつの特色インク |
緑に深みが加わった
(赤枠内CLICKで拡大) |
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マゼンタにもイエローにも
寄らず、赤を鮮やかに再現
(赤枠内CLICKで拡大) |
特色の採用で色空間の高彩度領域の表現が可能になり、AdobeRGBなどsRGBよりも広い色空間をもっているプロスペックデジカメやハイエンドデジカメユーザーにはかなり期待できる色再現性といえる。
向上したのは彩度だけではない。コントラストと階調性も格段によくなっている。新染料ブラックインクは濃度が8%増え、これがコントラスト向上に貢献しているのだろう。コントラストが高くなるとともに暗部の階調性が豊かになった。作例を見比べてほしいが、モデルさんの黒い服やバックの布がつぶれずに表現できているのを見てほしい。次は鳥の背景に注目してほしい。望遠でボカした背景だが、コントラストの差が歴然としているのがわかると思う。さらにこれでもかというくらいお見せしよう。グレースケールの最暗部でも階調がはっきりと出ているのがおわかりだろう。
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コントラストが向上
して階調性が豊かに
(赤枠内CLICKで拡大) |
iP8600
(赤枠内CLICKで拡大) |
990i
(赤枠内CLICKで拡大) |
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微妙な色調もみごとに再現
(赤枠内CLICKで拡大) |
デジカメでの撮影では、現場でデジカメ背面の液晶モニターで確認したにもかかわらず、パソコンに取り込んだりプリントしたときに、「あれ、こんな色だっけ?」ということが少なからずある。原因はいろいろあるのだが、まず第一に現場で実際に自分の目で見た色とデータの色が違うのだ。プリンタも各製品で違って見えるし色の傾向も癖がある。もちろんモニターも色が違って見えてしまう。これらの溝を埋めるには、記憶を頼りにレタッチソフトで調整するわけだが、これがかなり大変な作業である。しかしiP8600なら、面倒な調整は一切不要で、あなたの記憶の色を再現しつつ、よりドラマチックな画にしてくれる。
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動物の毛並みもくっきりと
(赤枠内CLICKで拡大) |
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粒状感が感じられないなめらかさ
(赤枠内CLICKで拡大〜原寸200%) |
解像度は、ひと言で表現すると、「鮮鋭」。世界最高密度1,200dpiの高解像度ヘッドを採用し、総ノズル数は768×8色=6,144、最高印刷解像度は4,800×2,400dpiとなっている。直径10ミクロンのノズルから2plの極小インク滴を噴射し、高精度かつ高速に着弾させることで、高度な安定性を達成。膨大な数の極小インク滴を高精度に配置していき、繊細な画像の出力を可能にした。
ハイスペックデジカメで撮影した高解像度画像も、いざプリントすると細部に不満が残りがちだった。しかしキヤノンが「FINE(ファイン)」と呼ぶ上記の技術により、従来ならつぶれてしまったディテールも再現可能となったのだ。800万画素のデジカメ写真を、その解像力を保ったままプリントできるのは驚きのひとことだ。
右の作例を見てほしい。EOS 20Dで撮影、プリントしたものを200%に拡大してみたが、粒状感やノイズ感は感じられない。「FINE」によりざらつきのない精細で鮮鋭に出力されているのがわかるはずだ。
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さて、次は全般的な色合いである。同社の990iと比べてみると、やや強めに表現されるようになったと思う。下記の作例で比較してみよう。
モデルの肌の色に注目してほしい。とくに顔色と腕に表れている。やや傾いた日差しを浴びているモデルの肌の輝きに違いがある。肌には健康的な赤みが増え、さらにコントラストが大きくなり、立体感も出ている。彩度が上がっており、より臨場感を持たせられた。空の青さも抜けるようになり、写真としての美しさが全般的に向上している。
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iP8600
(赤枠内CLICKで拡大) |
990i
(赤枠内CLICKで拡大) |
従来のプリンタでは、「写真」というよりも「プリントアウトした画像」という感じが残っていた。キヤノンは「キヤノンデジタルフォトカラー」と称してプリント写真としての「好ましさ」を重視し、ニュートラルなグレー階調、高コントラスト、高彩度、レッド・グリーンの特色で、好ましい写真を手軽にプリントできるよう、各性能を向上させてきた。
デジカメで撮影した画像データを「写真」にするのは意外にむずかしいものだ。データに忠実に出力すると、どうしても「写真」というよりもプリントアウトという感じがしていたのは、仕上がりが写真として好ましくなかったからである。この補正は思ったより大変で、デジカメはプリントに向いていないと思ったこともあったくらいだ。
デジカメの普及は急速に進み、さらに高解像度化も著しい。そしてデジタルといえどもカメラなのだから、モニターだけで完結せずに、やはりプリントしたいもの。そのプリントが写真らしくないのなら、カメラとしても魅力が減ってしまうだろう。しかもレタッチソフトで色調補正などやりはじめたら、こんな面倒なら銀塩フィルムとDPEショップに戻っちゃえ……。
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そこでiP8600の登場! 面倒な操作は一切不要で、高解像度で撮ったものを「写真」として出力できる。しかもプリンタの外観は美しいし、設置性も抜群。従来のプリンタは、いかにもプリンタという外観だったし、設置性も収納性もよくなかった。ここでいうのもなんだけど、プリンタってやはり脇役で、写真趣味の主役はやっぱりカメラ。なので、脇役には存在をあまり主張してほしくないというのが本音だ。でも準主役の脇役ではあってほしい。ふだんは部屋に溶け込んでいて目立たないけど、撮影から戻ったらがぜん活躍してくれる、そんな存在になりうるiP8600なのだ。
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保存を考慮して純正写真用紙を使おう |
でもいままでアナタがいってきたのはプリンタの話でしょ、出力した「写真」の話はどうなのよという人、説明しよう。キヤノンの「ChromaLife100」という新システムで、アルバム保存100年を新開発インク「BCI-7」と純正写真用紙の組み合わせで、銀塩写真を超える耐ガス性10年、光に強い耐光性30年、色がにじまない耐湿性を、新開発インク「BCI-7」とプロフェッショナルフォトペーパーの組み合わせで実現している。
プリンタでの印刷というと、どうしてもワープロなどの文書印刷のイメージを引きずりがちで、「色が変わっちゃうんじゃ……」とか「にじんじゃうんじゃ……」という不安がどこかに残っている人が多いのでは。でも心配は無用。しつこいようだけど、これはプリントアウトではなくて、「写真」なのだ。いや、従来のDPEショップで焼いてくれる写真以上の保存性をもっている。きれいな写真をきれいに印刷してきれいなまま長期間保存できるというわけだ。
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速くなったカメラダイレクトプリント |
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銀塩フィルム資産を活用しよう |
あと、キヤノンのプリンタは画質のよさもさることながら、プリントの速さでも定評がある。ではこのiP8600はどうなのか。試したところ、L判フチなしでは約19秒と、990iの約1.5倍の高速化が実現できているのを確認できた。A4判でも1分40秒位と待たされ感が非常に少なく、プリントしている間に他の作業をしようという気にならないくらい。自動両面プリントも可能で、同梱ソフトの使ってスーパーフォトペーパー両面にプリントすると、両面フォトアルバムのでき上がりだ。
さらに、カメラダイレクトの業界標準規格「PictBridge」にも対応しており、撮ってつないですぐ写真にできる。iP8600はパソコンに専用ソフトをインストールし、そこで操作するのが基本だが、「PictBridge」対応で、ケーブル一本でデジカメとiP8600を直結し、ダイレクトプリントすることが可能だ。「PictBridge」は手軽だけどけっこう時間がかかっていたもの。それがL判フチなしで1分14秒と2003年モデル990iの2分19秒から大幅にスピードアップしている。ちなみにA4フチなしではiP8600が3分24秒、990iが5分08秒だった(IXY DIGITAL 500でテスト)。
筆者のおすすめの使いかたとして、キヤノンのスキャナ「CanoScan 9950F」との組み合わせがある。これがあると、フィルムからの30コマ連続プリントやインデックスプリント、フィルムからのアルバム製作まで手軽にできるのだ。銀塩フィルムが大量に眠っているのなら、ぜひお試しあれ。
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このように、プリンタとは思えないスタイリッシュな外観、写真としての表現力を高め、抜群の保存性を実現した「写真力」、プリントスピードを含めた操作性など、従来のプリンタに対するイメージを一新させたiP8600は、アナタのもつ高解像度デジカメのベストパートナーになってくれることうけあいだ。圧巻の性能と手軽な操作性をそのスタイリッシュなボディに秘め、部屋のインテリアに溶け込んで、さりげなくパワフルに、あなたのデジカメライフをサポートしてくれるはずだ。
※サンプル写真はプリントしたものをスキャニングしているため、ご使用のモニターの種類や色調整によって見えかたが異なる可能性があります。
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■URL
Canon PIXUS ホームページ
http://canon.jp/pixus/
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若林 直樹(STUDIO海童)
アフリカゾウから半導体まで手がけるカメラマン。インプレスのDOS/V POWER REPORTなどで活躍中。デジタルカメラマガジンではカラープリンタ、スキャナー等のレビューも担当。 |
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