■オキシライド乾電池とは?
「オキシライド」と聞いてピンと来ない人も、「金とブルーのボディカラーの乾電池」といえば、「ああ!最近、コンビニとかでよく見かけるヤツね」とうなずいてもらえるだろう。
もはや、身近な存在になったオキシライド乾電池。アルカリ乾電池の登場から40年を経て、今年4月、パナソニックが満を持して世に送り出した次世代型乾電池である。発売とともに急速に普及しはじめ、これまで“金と黒”のイメージだったアルカリ乾電池の売場を、華やかな“金とブルー”のカラーに塗り替えようとしている。
オキシライドの最大の特徴は、アルカリに比べて大きな電流が取り出せることだ。それを可能にしたのは、乾電池を構成する材料の見直しと、徹底した効率化の追求である。
従来のアルカリ乾電池は、正極(+)に二酸化マンガンと黒鉛を、負極(−)に亜鉛を使用していた。
それに対し、オキシライド乾電池は、正極に新二酸化マンガン+新黒鉛+オキシ水酸化ニッケルという新材料を採用。新二酸化マンガンは高負荷の放電に耐えることを可能にし、黒鉛は粒子を従来比2分の1以下に細かくして表面積を増やすことで、電導性アップを実現した。オキシ水酸化ニッケルは、二次電池(充電式電池)であるニッケル水素電池の正極として使われているものだ。
さらに、材料の充填度合いを上げ、電解液を増量させる工法を確立、粒子間のすきまなどの無駄を徹底的に減らしている。
とにかく、反応効率を最大限に引き出すために、技術の粋を惜しみなくつぎ込んだ乾電池なのだ。その結果、初期電圧がアルカリの1.6Vに対し、オキシライドは1.7Vにアップ。パワフルで、しかも長持ちできる次世代型の乾電池が誕生したのである。
■アルカリ乾電池対応のデジカメにオキシライド乾電池は使えるのか?
オキシライドは、これまでにない圧倒的なパワーを引っさげて、乾電池の歴史の表舞台に登場してきた。たとえるなら、幕末に現れた黒船。アルカリ時代生まれの機器にとってみれば、思ってもみない革命児の登場だったわけだ。
そのため、アルカリやマンガン乾電池に合わせて設計された機器の一部で、適切に動作しない例が報告されているようだ。原因はオキシライドの初期電圧が1.7Vと高いことにあるらしい。既存の機器の開発時点ではオキシライド乾電池は存在しなかったわけだから、その一部がオキシライド乾電池に対応し切れていないのも無理のない話である。
では、実際のところ、最もオキシライドの使用ニーズが高いと考えられるデジカメの対応状況はどうなのだろうか。現在店頭発売されている「アルカリ乾電池対応」デジカメは、オキシライドを使えるのか、使えないのか、各デジカメメーカーのサポートセンターに聞いてみた。
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動作確認 |
カシオ |
○(QV-R61、QV-R51) |
リコー |
○(Caplio R1、GX) |
キヤノン |
○(PowerShot A400、A85、A95) |
ペンタックス |
○(Optio S50、S30) |
富士フイルム |
○(FinePix E550、E510、A340、A330、S5000、S7000、S2pro) |
コニカミノルタ |
×(DiMAGE Z3、X31) |
サンヨー |
○(DSC-S4 Xacti、DSC-S3 Xacti) |
ニコン |
○(COOLPIX 4100、3200) |
パナソニック |
○(LUMIX LC70) |
オリンパス |
△(CAMEDIA X-350) |
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〔凡例〕
○……動作確認済み。使用できる。
△……基本的には使えるが、動作確認していないので保証はできない
×……動作確認していない。使用しないでほしい |
このように、ウェブサイトでは「オキシライド乾電池対応」と明記していなくても、実際問い合わせてみると「動作確認済みです」と、ほとんどのメーカーから回答が得られた。(ただ、後述するが、バッテリーの残量表示には注意してほしいとの声もあった)
今後発売される機器については、オキシライドへの対応を進めて行こうという動きがみられつつある。ニコンの最新機種では、オキシライド乾電池が使用可能であることを仕様に明記している。
●COOLPIX 4110(ニコン)
http://www.nikon-image.com/jpn/products/camera/digital/coolpix/4100/spec.htm
基本的には、アルカリ乾電池で使用していた機器は、オキシライド乾電池でも使えると考えてよいだろう。
コストパフォーマンスを考慮するなら、中〜大電流が必要な機器(デジカメ、ストロボ、携帯液晶テレビ、シェーバー・電動歯ブラシ、携帯MD・CDプレーヤーなど)にはオキシライド乾電池を、小電流の機器(豆球式ライトや懐中電灯、時計、リモコンなど)にはアルカリ乾電池やマンガン乾電池を、というように使い分ければいい
。
ただし、一部の豆球式懐中電灯や、豆球を利用した玩具で、豆球が切れやすくなる例があるようだ。オキシライドはパワフルで大電流が流れるため、照度も明るくなるが、その利点とのトレードオフといえる。また、一部のストロボ(カメラ外付タイプ)で発光しないか、アルカリ乾電池の使用時に比べ熱くなることがあるという。
パナソニックでは、これらの現象が出た場合は、オキシライドの使用を中止して、アルカリ乾電池を使用するよう呼びかけている。
実は、アルカリ乾電池がこの世に登場した40年前も、既存の豆球が切れる現象が起きたという。そこで豆球はアルカリ乾電池でも切れないように改良が加えられ、現在に至っている。
そういえば、オーディオの世界でも、アナログからデジタルに移行したときに、同様の混乱がみられた。アンプやスピーカーがデジタルの激しい振幅に追従できるかが問題になったのだ。今となっては昔話だが、「デジタル対応」が音響機器の売り文句になった一時期があったのである。今ではことさらに「デジタル対応」を謳うまでもなく、当たり前のこととして受け入れられている。
つまり、一部機器がオキシライドに対応できていないのは、今だけの過渡期の現象といえる。メーカーは、今後のデジタル機器開発にあたって、大電流に強いオキシライドを念頭に置いてくるだろう。オキシライドが持てるパワーをフルに発揮できる場面が広がっていくことは間違いない。こうした特長を理解して、一足お先にその高性能を享受しよう。
■アルカリ乾電池をはるかに超える性能を確認
パナソニックの「アルカリ乾電池(愛称:金パナ)」と、日立マクセルのアルカリ乾電池「イプシアルファ」、そして「オキシライド」──これら3製品の差を、デジカメとストロボを用いてテストした。
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今回ベンチマークに使用したデジカメとストロボ |
まず、暗めの室内でデジカメの撮影を行った。機種はペンタックスの「Optio S50」。プログラムモード、記録画素数は640×480で、SDカードに保存。ストロボはオート発光とし、撮影10枚ごとにチャージアップ時間を測定した結果が、次のグラフだ。
まず、アルカリの“金パナ”だが、1枚目のチャージアップが5秒28で、以降なかなか減衰しない。ずっと5秒台半ばから6秒超をキープしていて、これはこれでなかなか優秀じゃないか、と見直してしまった。
バッテリー残量表示が黄点灯したのが87枚目、赤点灯が137枚目、「残量なし」表示が出て電源が落ちたのが211枚目という結果だ。最初からチャージアップ時間は長めだが、それ以上にはなかなか落ちない。粘りのある特性といえるだろう。
次に「イプシアルファ」。1枚目のチャージアップが4秒50と早い。その後は次第に消耗してゆき、150枚目あたりで5秒台まで落ち、138枚目で黄点灯、168枚目で赤点灯。そして、最後223枚で「残量なし」表示が出て電源がオフになった。最初のチャージアップが早いが、撮影枚数が増えるとともにリニアに消耗していくのが特徴だ。
最後に「オキシライド」。140枚目まではチャージアップがイプシアルファとほとんど変わらず4秒台をキープしている。ところが、140枚を過ぎたあたりから、少しずつ差が開き始める。ライバルが5秒台に落ちても、オキシライドは4秒台がえんえん続くのだ。金パナがダウンした211枚、イプシアルファがギブアップした233枚を抜き去っても、まだバッテリー残量表示が黄色にならない! いったいどこまで続くのか!?
356枚目になってようやく黄点灯。そして赤点灯になったのは実に392枚目だった。そして393枚目のシャッターを切ろうとしたその瞬間に、「残量なし」表示が出て電源が落ちた。実に金パナの1.86倍!
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オキシライド乾電池 |
アルカリ乾電池の定番“金パナ” |
日立マクセルのイプシアルファ |
オキシライド乾電池の特徴は、アルカリ乾電池に比べてバッテリー残量表示がなかなか点灯しないことだ。アルカリの場合は、黄点灯で「あ、半分消耗したな」、赤点灯で「残りは3分の1ぐらいだな」と、前々から心の準備をすることができる。しかし、オキシライドは最後の最後まで電流が減衰しない特性を持つために、黄・赤の残量表示とも土壇場にならないと点灯しないのだ。
しかしこれは、表示だけの問題であり、使いこなしで解決できる範囲内だ。ユーザーがいつでも交換できるよう新しい乾電池を早めに用意しておけば、実用上支障はない。
それよりも、アルカリよりも常に約1秒早いチャージアップ時間、アルカリのほぼ倍の驚異的な長寿命はメリットが大きい。この結果を知ってしまえば、誰の目にも「デジカメにはオキシライド」という結論は明らかだ。
次にストロボで連続フル発光テストを400回行った。それ以上の回数を発光させることもできたが、実際チャージアップ時間が10秒を超えると、撮影現場でシャッターチャンスを確保するのは難しいだろうという判断から、多めに400回まで測定した。機種はパナソニックの「PE20-ST」。こちらも、結果のグラフを見ていただければ一目瞭然だ。チャージアップ時間の早さ・持続力とも、全回数においてオキシライドが優っている。
たとえば、チャージアップ時間が10秒まで落ちるのは、金パナが100回目、イプシアルファが110回目であるのに対し、オキシライドはなんと310回目まで粘るのだ。その差、約3倍!!! それにしてもイプシアルファはオキシライドの対抗馬との声があるものの、金パナも肉迫するほど健闘した。オキシライドはブッちぎりの勝利だ。アルカリ乾電池では結婚披露宴どまりだったストロボ撮影も、オキシライドなら二次会のカラオケも、三次会のスナックまでもパシャパシャ撮れてしまう! 予想をはるかに超えた違いが出る結果となった。う〜ん、おそるべし、オキシライド……。
とにかくオキシライドは、最後の最後まで安定した電流を保つ。そして、持てるパワーを使い切ったら、一気にゼロまで減衰する特性をもっている。だから、ゆるやかに減衰するマンガンやアルカリ乾電池などに比べて、換え時・捨て時も見切りがつきやすい。チャージアップに時間がかかり始めたら、パワーを使い切ったとみて、ためらうことなく即交換すればよいからだ。まさにデジタル機器を駆動するのにふさわしい特性である。
デジタル時代の申し子であるオキシライド乾電池は、来るべきユビキタス社会を見越して、ますます活躍のシーンを広げていきそうだ。
( 峯村 創一 )
2004/11/08
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