「GUARDEX(ガーデックス)」から数えて5世代目にあたるYOKOHAMAの最高傑作「iceGUARD5」。現役ラリードライバーはどのように感じるのだろうか

 都内はもちろん、夏の間はほとんどクルマに乗らない。旅行に行っても海外、国内含めて、ほとんど現地でレンタカーを調達するので、自分のクルマよりも、レンタカーでの走行距離のほうが長いくらいだ。

 唯一の例外が、やはり荷物が多い冬のスキー行きだ。いまは、志賀高原と野沢温泉と八方尾根を往来する程度で、未知の積雪路をドライブすることは少なくなったが、やはりシーズンや、その日の天候、時間帯などで、雪道は刻々と変化する。油断は禁物だ。

  前編ではぼくの愛車にYOKOHAMAのスタッドレスタイヤiceGUARD5(アイスガードファイブ)を装着し、そのファーストインプレッションをお届けしたが、今回の取材は、1泊2日の志賀高原への走行での模様をお伝えする。初日は時折雪交じりの曇天、翌日はいわゆる雲ひとつないドピーカンで絶好のスキー日和と、スタッドレスタイヤのテストをするには、まるで積雪路のデモショーケースといった感じで、ありとあらゆる路面でiceGUARD5の性能を試すことができた。今回の取材には、現役ラリードライバーで、PWRCの世界チャンピオンにもなったことがある新井敏弘選手にも同行していただき、悪路のドラテクも披露していただくことができた。iceGUARD5の実走行インプレッションとともに紹介しよう。

志賀高原の道路は路面状況のデモショーケース

 スキーによくでかけるにもかかわらず、クルマにスキーキャリアはつけない。スキーが泥にまみれてしまうのがいやだからだ。特にビンディング部分が泥だらけになってしまうと、その安全性にも不安を感じてしまう。そこで、後部座席の背もたれを内側に倒し、トランク側からスキーを車内に積み込んでしまう。だから、セダンであるにもかかわらず、スキー行では3人しか乗り込めない。このスタイルをずっと通しているが、スキーリゾートを走っていても、スキーに来たようには見えないのがよい。それに、キャリアがなければ夜間に積雪があってクルマが雪に埋もれてしまっても、除雪がラクだというオマケもある。

iceGUARD5を装着した愛車で志賀高原を目指す。新しいタイヤの慣らし運転にはちょうどよい距離だ

  さて、取材当日、関越道のSA(サービスエリア)で編集部のスタッフと待ち合わせ、一路、志賀高原に向かう。関越道から上信越自動車道を経て長野自動車道を使い、志賀高原最寄りのIC(インターチェンジ)である信州中野まで200kmちょっとのドライブだ。

 新しいタイヤは、最初、80km/h以内で乾燥路100km程度を走って慣らしてやるとよいと言われている。状況によっては、言われなくても、高速道路の制限速度を守っている限り、目的のICに到着するころには自動的に慣らし運転が終了していることになる。

 信州中野ICを降りて、一路志賀高原に向かう。麓の湯田中温泉郷からは志賀草津道路に入ることになるが、長野県の志賀高原と群馬県の草津を結ぶこの道路は、熊ノ湯から先、冬季通行止めとなっている。つまり、行き止まりだ。

 長野オリンピックを機に、この道路は実によくなった。つづら折れのヘアピンに近いコーナーが連続していた部分はループ橋になり、志賀高原へのアプローチは容易になった。だが、気温が下がってツルツルの路面となる朝夕の時間帯は、このループ橋がかえって怖い。

 さて、志賀高原は戦前から開発が進められた日本屈指のスキーエリアであり、複数のスキー場によって構成されている。日本で最初のスキーリフトが架けられたエリアでもある。各スキー場の経営はまちまちだが、リフト券は共通だ。

 志賀草津道路を登っていくと、最初に目の前に飛び込んでくるゲレンデがサンバレースキー場だ。それを横目に進むとすぐに蓮池スキー場がある。ここで志賀草津道路を東方向に向かえば熊ノ湯スキー場、横手山スキー場、渋峠スキー場を経て、群馬に向かうことができる。ただし冬季は横手山スキー場より先は通行止めだ。映画「私をスキーに連れてって」の名台詞「(万座まで)直線なら2km、クルマだと菅平をまわって5時間近くかかる」というのは、この志賀草津道路が冬季閉鎖になっているからだ。

志賀高原のスキー場を結ぶ道路は、さまざまな路面を経験できる雪道のデモショーケースだ

 一方、蓮池スキー場から西に向かうと、高天ケ原スキー場、一ノ瀬スキー場、ダイヤモンドスキー場などを経て奥志賀高原スキー場に至る。蓮池を拠点に奥志賀高原と横手山を結ぶ道路を何往復かすれば、凍結路から圧雪、ザクザクのシャーベット、乾燥路にいたるまで、ありとあらゆる路面を経験することができる。まさに、路面のデモショーケースだ。

 志賀高原では、サンバレースキー場から奥志賀高原までを、スキーだけで移動できる。しかも、リフトに乗っている時間が半分以上ある。慣れてくると、これだけの距離をリフトとスキーだけで移動するのに1時間はかからない。クルマでこの道程を走るのとそんなに時間は変わらないのだ。

日夜研究を続けるラボが、テクノロジーで進化させるタイヤ

 省燃費性能の向上を目指すために、iceGUARD5ではタイヤサイドの形状を見直し、転がり抵抗を低減した結果、その副作用としてロードノイズもまた低減されている。これは、乗って走り始めたとたんにわかった。いままで履いていたスタッドレスタイヤよりも圧倒的に静かなのだ。

 また、乾燥路を走っているときも、スタッドレスタイヤ特有のグニャッとした感覚がない。これなら、非降雪地域に住んでいて、もっぱら乾燥路の走行が多い人にとっても、特に問題がないんじゃないかと思う。以前履いていたスタッドレスタイヤは、そのあたりで、多少のガマンを強いられていた。

 さて、高速道を降りて、湯田中温泉郷から志賀草津道路を登り始める。雪道を登るのは簡単だ。クルマが限界に達しても登れなくなるだけだからだ。やっぱり下り坂が一番怖い。運転にも気を遣う。

iceGUARD5はタイヤサイドの形状を見直し、ころがり抵抗を低減しているのが特徴だ 何度走っても、雪道は登り坂よりも下り坂のほうがやっぱり怖い

 ぼくとしては圧雪路はキライじゃない。雪道でのクルマは止まらなくて当然と思って走っているので、車間距離も必要以上に取るように心がけているし、無理な追い越しなどもしない。ちゃんとしたタイヤを履いていれば、それなりの速度で巡航することができる。信頼できるタイヤであればちっとも怖くないし、iceGUARD5は、新品ということもあり期待も大きい。

 いやなのは、圧雪されていると思って安心していたら、カーブを曲がってみると、雪が除雪されて解けた雪がまた凍っているような路面状況だ。さらに、暖かい日の翌日などは、クルマの通ったあとが轍となってまた凍り、その部分がよく滑る。いつどんな路面状況が出てくるのか予想もつかないから、運転に気を抜けない。そんなもんだから、スピードもガクンと落ちてしまう。

安全運転を心がけていれば、圧雪路なら比較的安心してドライブすることができる 雪がないと思って油断していると、カーブを曲がった先に恐怖が待っていることも多い

 iceGUARD5では、こうした路面でも、安定した走りができた。もちろん油断は禁物だが安心して運転ができるのだ。5年目のタイヤではこうはいかなかっただろう。たとえ物理的には大丈夫だったとしても、疑心暗鬼になってしまい、臆病な運転になっているにちがいない。ちなみに、スタッドレスタイヤは、一般的には3シーズン使ったら履き替えるのが安心だそうだが、iceGUARD5は4年目以降でもある程度は高レベルで性能を維持しているということだ。これが3つの「効く」のうち「永く効く」である。こうした目安がスペックとしてきちんと提示されているのはよいことだと思う。

 iceGUARD5は「氷に効く」もセールスポイントだ。ラボでは1年中、新しい素材のテストをしながらゴムの改良を続けているそうだが、吸水ホワイトゲルと呼ばれる新たな構造のコンパウンドが性能に貢献することがわかったと言う。ラボでよい素材を見つけたとしても、タイヤの形にしてみたときには当たり外れもあり、テストが繰り返される。夏期はアイススケートリンクを借り切り、また、ニュージーランドにも遠征することもあると言う。

 実は、氷上のブレーキ性能ばかりを重視すると乾燥路で不利になるというジレンマもある。冬季とはいえ、ドライブ行程の8割から9割は乾燥路を通るため、そのときにも安全でなければならないので、調整は悩みどころも多い。

 世界的に寒い地方ではタイヤは長持ちするのだそうだが、いまの日本はそうでもない。ただ、日本は雪や氷が特に多い路面が特徴的だ。舗装路を雪が覆って圧雪路になっているパターンだ。北海道などの雪の多いエリアでは、頻繁にドカンと降雪があるため除雪が行き届かないところもあり、路面状況が厳しい。北海道では街中がこの状態だが、本州でもこうした路面は、ゲレンデへのアプローチでよくお目にかかる。ワールドワイドのマーケットにタイヤを供給しているYOKOHAMAでは、使用環境に応じて、他の国に供給するタイヤと、日本で販売されるタイヤとで、そのトレッドパターンや構造を変えることもあり、日本における凍った道路など、それぞれの地域での安心感を優先していると言う。

ひと言に「アイスバーン」と言っても、その種類はさまざまだ。iceGUARD5は、日本の冬のさまざまなアイスバーンを走り、その走行データをもとに開発されている

滑るのではなく滑らせてクルマをコントロールする

 ラリードライバーの新井敏弘氏に運転を代わってもらい、助手席に座ってそのドライビングテクニックを見せてもらった。初めて乗ったクルマなのに、まるで運転し慣れた自分のクルマのように扱うなあと、妙なことに感心しながら、その様子を観察する。

 ちなみに新井氏の愛車にもiceGUARD5を装着しているそうで、その印象を聞いてみると、とにかくタイヤの剛性が上がっていて、ドライ路面や高速道路などでグニャグニャした印象がなくなっているとのこと。確かにそれはぼくも乗り始めてすぐに強く感じた印象だ。また特に氷上でのグリップがアップしているとのこと。どうもプロというのはタイヤを縦方向のグリップと横方向のグリップで分けて考えるそうなのだが、その縦も横も満足できる性能が出ていると言う。

新井敏弘氏の愛車もiceGUARD5を装着している   プロはタイヤのグリップをを縦と横方向に分けて考えるという   アイスガードファイブはコントロール性が高くて扱いやすいと新井氏

 さて、そんな新井氏の運転だが、やはりプロフェッショナル、ぼくとは走らせ方がまったく違う。ぼくは、雪道ではあまりフットブレーキを使わず、エンジンブレーキで多用するために、頻繁にギアチェンジをするが、新井氏の運転では、いっさいギアをチェンジせず、アクセルとブレーキだけでクルマの挙動をコントロールしていた。なんだか、ハンドルもあまり使っていない感じがする。そこにあるのは、雪道が滑らないはずがないという考え方だ。

 大事なことは、滑るのが当たり前のクルマの挙動を、いかに自分のコントロール下におくかだ。ハンドルを切った状態でブレーキを踏むなど言語道断だと思っていたが、見ているとそうでもなさそうだ。聞いてみると、ハンドルがどの位置にあろうと、クルマがどちらの方向に進んでいるか、ベクトルを計算すればわかるのだと言う。それを瞬時に判断できるのがプロフェッショナルの運転だ。

新井氏と運転を交代すると、ぼくが運転しているときと違うクルマのようだ 世界チャンピオンの運転を観察する。プロのテクニックはさすがだ

 そのスピードは速い。しかも、車間距離はそれほど長くない。前のクルマが突然予期せぬ動きをしたとしても、必ずスキマがあるから、そこを抜ければ大丈夫と新井氏。特にiceGUARD5は氷上でもちゃんと向きが変わるから大丈夫だと言う。思いどおりにクルマの挙動をコントロールできるからこその運転スタイルだ。

 また、見ていると、車線内でのクルマの位置が、ちょっと中央寄りだ。これでは対向車がきたときに怖い。でも、新井氏が言うには、路肩側に逃げるスペースをあけておくことは重要だという。ただし、その場合、路肩側の左輪と右輪の路面状況が極端に異なる場合があるので注意が必要だということだった。

 これでは普段の運転の参考になりにくいなあと思っているうちに、新井氏はクルマを道路沿いの広場に停めた。ここで、クルマを滑らせる感覚を体験してみろと言う。運転を交替し、ドライバーズシートに座った。助手席には新井氏が座る。

 ハンドルをいっぱいに切りきった状態で、アクセルを踏んでみろと言う。言われたとおりにすると、前輪を軸に後輪が滑り出し、クルマが方向を変える。ハンドルはいっぱいに切っているので滑るにまかせるままだ。このとき、後輪が滑るということを、怖いという感覚なしで、初めて味わった。滑るのではなく、滑らせているという点で、クルマの挙動は完全に自分のコントロール下にある。適当なところでハンドルを逆にきれば、そのままクルマはまっすぐ走り出す。通常の方法で切りかえして方向転換をするほぼ半分のスペース、半分以下の時間でクルマの方向を変えられた。そして、このクルマの挙動をコントロールできるという感覚と自信、そしてテクニックが雪道での安全な走行につながるんだなと感心したわけだ。

クルマの挙動をコントロールすることが重要だという新井氏   助手席の新井氏のアドバイスを受け、ハンドルを切ったままアクセルを踏み、タイヤを滑らせてみる   どんな状況下でも自分のコントロール下に置くことが大事だと実感した

頼もしきスタッドレスタイヤとしてのiceGUARD5

 iceGUARD5は、前モデルからのフルモデルチェンジということもあり、従来製品から飛躍的に性能が向上している。まして、4シーズン使ったいままでのスタッドレスタイヤとは、世代も大きく違っていることを実感できた。まるで別物だ。安い買い物ではないし、毎年買い替えるわけにもいかないが、さすがに3シーズンくらいで新しくしなければ、テクノロジーの進化を実感できないなと反省した次第だ。もっとも「永く効く」がモットーのiceGUARD5、また、4シーズン履いてしまいそうだ。そんなことを思いながら、これからやってくるウィンターシーズンに向けて、定宿の確保に奔走するのだった。

 どんなに優れたタイヤでも過信は禁物だ。路上は必ず滑るということを念頭におかなければならない。でも、技術に裏付けられた数々の改良点は、意図どおりにクルマの挙動をコントロールできるという自信につながり、そのことが安全なドライブにも貢献する。これまで、タイヤを頼もしく思うことなどなかったが、今回は、それを実感として感じることができたのは、貴重な体験だったと思う。ただ、ドピーカンのゲレンデを横目に、タイヤのテストというのは、スキー好きには酷な仕事ではあったと記しておきたい。

おまけその1。新井氏は運転は当然だが、スキーもうまい! 群馬県出身なのと、実はクルマの運転とスキーは似ている部分が多いのだとか おまけその2。最後にゲレンデで記念のツーショット

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