ヨコハマ 第5世代のスタッドレスタイヤ「iceGUARD5」。最高傑作と言われる、その実力はいかに?

 昨年フルモデルチェンジしたYOKOHAMAのスタッドレスタイヤiceGUARD5(アイスガードファイブ)。ITの進化と同様に、スタッドレスタイヤの世界でも、テクノロジーの進化は著しく、数年の間に、信じられないような改善を遂げているという。そんなiceGUARD5を、普段はIT系を中心に執筆している山田祥平が体験してみた。自動車評論家とはちょっと違った観点から、新テクノロジー満載のこのスタッドレスタイヤをひもといてみることにしよう。

ほとんど冬にしか使わないクルマはスタッドレスを履きっぱなし

 すでに12年も乗っているうちのクルマだが、その走行距離はまだ4万kmをちょっと超えた程度。来年は消費税増税の話もあり、いまはクルマの買い替えのチャンスなんだそうだが、内装はさすがに疲れてきてはいるものの、走行性能に不満もなく、買い換えのモチベーションがわかないまま乗り続けている。いままでに乗ったクルマで、もっとも長期間乗り続けていることになる。IT的にも、カーナビゲーションやオーディオなどはレガシーなものから、世代の新しいものへの過渡期となっていて、いま、買い替えたら負け、くらいにも思っている。

これまで乗ったクルマの中でも、歴代最長の12年乗っている愛車。走行距離も少なく、まだまだ数年は乗れそうだ

 どうして走行距離が少ないかというと、多くの移動を公共交通機関にたよっているからだ。都心でいえば、ほとんど環七の内側に入ることはない。都心にクルマで入ってしまうと、首都高速や駐車料金等で費用がかかり、駐車場探しや渋滞で時間もかかってしまう。

 しかも、この20年で都心での移動に携行する荷物は激減した。というのも、ほぼ必ず持ち歩いているパソコンの重量が、1Kg切りが当たり前になったからだ。バッテリも必要十分にもつようになったため電源アダプタを携行することもなくなった。だから、電車での移動はちっとも苦痛ではないのだ。スマホやタブレットを使って移動中に情報収集ができる点でも有利だ。

 そんなわけで、クルマはウィンターシーズンの移動専用のようになってしまっている。なにしろ、新車が納車されたその日、すぐにカーショップに赴き、ホイールとスタッドレスタイヤを購入して履き替え、デフォルトのタイヤは倉庫に片付けてしまって、そのまんまだ。13年間放置だ。たぶん、もう使えないだろう。以来、夏の間もスタッドレスタイヤを履きっぱなしというありさまだ。

 雪山に目覚めたのはかなり遅い。1989年、つまり、平成元年、まさに日本はバブルまっさかり。映画「私をスキーに連れてって」がヒットした年だ。当時、パソコン通信に熱中していたぼくは、そこで知り合った仲間に、うまい酒と蕎麦があると誘惑され、初めてのスキーにチャレンジすることになったのだ。

 初めてスキーを履いた年が平成元年なので、スキー歴が数えやすい。それを機にやみつきになって、翌シーズンは72日間ゲレンデに立った。後にも先にも、この記録は、ありえない日数として、ぼくのスキー史に刻まれている。

 さらに、長野市に部屋を借りて、冬の間はそこを仕事場にしてゲレンデに通ったりもした。昼はスキー、夕方戻ってきて原稿を書くという毎日だ。ちょうど、インターネットの普及がちょっとずつ始まったころで、都心にいなくても、通信だけで仕事ができるかどうかを試したいという言い訳もあった。

 こうして頻繁に雪山にでかけるようになると、いちいちタイヤチェーンを脱着するようなことなど考えられない。チェーンで十分と思っていたが、すぐにスタッドレスタイヤを購入して夏タイヤを履き替えた。雪降る中でチェーンを脱着するつらさもなく、あまりの快適さに、いきなりポリシー変更だ。

興味深い3つの「効く」は、にわかには信じられないけれど

 最初に書いたように、いま乗っているクルマは買ったその日にスタッドレスタイヤに履き替えた。以来、13年間、雪山にはいつもこのクルマででかけていた。近年はかつてほど頻繁に行かなくなったが、それでも1シーズンに3回くらいはゲレンデにでかける。

 とりあえず、自分で決めた方針として、走行距離には関係なく3シーズン履いたら新しいタイヤに履き替えるというようにしていた。走行距離はわずかなので、見た目ではまったく摩耗していなくても、ゴムの劣化は事故に直結すると思われるからだ。その劣化が数値的に確認できないのがもどかしいのだが、念には念を入れた方がよい。

 だが、数シーズン、その履き替えを怠り、履いているスタッドレスタイヤは5年目に突入しようとしていた。さすがに履き替えを決めた。そんなときに、この仕事が舞い込んだ。新しいスタッドレスタイヤを試してみないかという。まさに渡りに船だ。

 YOKOHAMAの iceGUARD5 は、同社の従来製品に対して、氷上性能をさらに向上させた傑作だという。スタッドレスタイヤの進化が、この4年間にどのくらいのレベルに到達しているのかを知りたいという気持ちもあった。

 そんなわけで、編集長と一緒に、YOKOHAMA独自の研修を修了したスタッドレスアドバイザーのいるヨコハマのコンセプトショップ「タイヤガーデン」に赴き、アドバイスを受けながらタイヤを履き替えた。こうしたショップは、全国にあるという。

 説明によれば、iceGUARD5は、最先端のテクノロジーによって、3つの「効く」をかなえたタイヤだという。「効く」は、

・氷に効く
・永く効く
・燃費に効く

という3点だ。まさに雪道ドライバーにとって夢のような話だ。スタッドレスタイヤなんて、何でも同じだくらいに思っていたけれど、ここは、その言い分を信じることにした。

ゲレンデまでのドライブはほとんどが高速道路の乾燥路だ。そこでの性能も気になるところだ トンネルの中だけ凍結しているようなこともある。刻々と変わる路面状況でiceGUARD5はどのような性能を見せるのか?

スタッドレスタイヤのテクノロジーは秒進分歩で進化していた

 まず「氷に効く」。雪道の運転は、常に滑ることを前提にしなければならない。雪国のドライバーは、危ないと思ったときにはブレーキじゃなくてアクセルを踏むこともあるのだそうだ。つまり、タイヤが駆動力を失ってしまうと、コントロールが効かなくなってしまうことを体感として知っているわけだ。

 ぼく自身も、そのことは四半世紀近く雪道を経験していれば、なんとなくわかっていたつもりだ。それでも止まらなければならないときにはブレーキを踏む。その際の制動距離は短い方がよいに決まっている。iceGUARD5は、スーパー吸水ゴムと非対称パターンの相乗効果で、氷上制動テストデータとして、従来製品より8%短く止まるのだそうだ。距離にしてクルマの全長の約半分程度。ここには大きな期待を持った。だが、過信してはならないのは言うまでもない。常に滑ることを前提にするという原則は変わらない。

IN側(写真右側)は接地面積が大きくサイプ密度が高く、凍結路面でのブレーキ性能が向上。OUT側(写真左側)は溝面積を大きくしブロック剛性が高い。この非対称パターンが様々な路面に対応する
「スーパー吸水ゴム」 「新マイクロ吸水バルーン」 「吸水ホワイトゲル」
30倍の顕微鏡写真で見るiceGUARD5が採用した「スーパー吸水ゴム」。いくつも見える多数の空洞」が「新マイクロ吸水バルーン」で、その間に「吸水ホワイトゲル」が散りばめられている 200倍の顕微鏡写真で見る「新マイクロ吸水バルーン」。空洞が水膜をしっかり吸い込み、バルーンの硬いカラが凍結路面でエッジの効果に貢献する 2500倍の顕微鏡写真で見る「吸水ホワイトゲル」。除去しきれない水膜を取り除く。「新マイクロ吸水バルーン」との相乗効果で、吸水効果が従来モデルよりも21%向上している

 次に「永く効く」。タイヤはゴムでできている。夏もスタッドレスタイヤのままという人もいると思うが、暗所で空気を遮断したような状態で保存してあれば、4年くらいでの劣化はわずかだそうだが、青空駐車場に夏の間置きっ放しというのは、ゴムの劣化を加速させるという。

 それでも、iceGUARD5は、摩擦係数の経時劣化シミュレーションの実験によって、約4年後の氷上摩耗指数の低下割合は、従来製品の1/3に達しているという。タイヤは「ゴムの柔らかさ」を保つためのオイルが成分として含まれるのだそうで、それが抜けてしまうと硬くなり、グリップ力が低下する。だが、ブラックポリマーIIや、吸水ホワイトゲルと呼ばれる新成分の配合により、低温時のゴムの柔らかさを維持する性能が長期間持続するようになったのだという。

iceGUARD5の氷上摩擦指数は約3年後でも高レベルを維持する結果が。低下の割合はiceGUARD3の約1/3程度だ

 最後に「燃費に効く」。ぼくの愛車の移動距離はほとんどスタッドレスタイヤで消化されるので、この「効く」はけっこう興味深い。実際に毎年通うスキー場までiceGUARD5で走ってみたが、その省燃費性能はウソじゃなかった。

 雪山行きのドライブは、そのほとんどを乾燥路の高速道路を走り、最後の十数kmだけを、さまざまな北国特有の悪条件路を走ることになる。たとえば、自宅から志賀高原までは往復で500kmちょっとのドライブだが、これまで履いていたスタッドレスタイヤだと、高速道路に乗る前にガソリンを満タンにして、志賀高原でスキーを楽しみ、自宅に到着する直前に警告の赤ランプが点くというイメージだった。この時点でガソリンの残りは約10L。このクルマでも何十回と通った行程だが判を押したように同じ結果だ。

 ところが、iceGURAD5でのスキー行では、この赤ランプが点く気配がない。数値的には10%以上燃費がよくなっている。タイヤサイドの形状を見直してころがり抵抗を従来製品比5%低減し、さらにたわみを適正化したことが燃費の向上に貢献しているそうだが、まさに、これはサイフに直結するテーマであるだけにありがたい。

走行状態でのショルダー部での発熱量の比較データ。赤に近ければ発熱量が大きく、青に近ければ発熱量が低く、iceGUARD5(右写真)がiceGUARD3(左写真)に比べ発熱量が低下していることがわかる   発熱量を大幅に抑えて、ころがり抵抗を低減するので省燃費にも貢献する

 ちなみに、乾燥路のドライブでも、スタッドレスタイヤにありがちな不安定さ、そしてロードノイズといった点でも、これまで履いていたタイヤとは比べものにならないことは、ハンドルを握って少し走っただけで体感できた。

 4年前のパソコンと現行製品が比べものにならないなどと、普段からわかっていても、タイヤのテクノロジーに無頓着だった自分がちょっと恥ずかしい。技術は日進月歩、秒進分歩という点ではITとまったく同じだということだ。特に、iceGUARD5は2012年にフルモデルチェンジした製品で、最新の技術が導入されているという。

 というわけで、真新しいスタッドレスタイヤを履いての志賀高原スキー行。しかもWRCのラリードライバー新井敏弘氏が同行して雪道ドラテクを伝授してくださるという。次回は、その体験と、iceGUARD5の実走行インプレッションについてお届けしたい。

スペック性能どおりの実力を発揮するiceGUARD5。ゲレンデまでの雪道や凍結路でも安心して運転できる。
後編ではWRCラリードライバーの新井敏弘も登場するのでお楽しみに!

関連情報

関連記事