音を鍛える、練る、磨く 機種ごとの“音質マイスター”が生み出す個性 新採用ESS DACの威力はいかに? 本田雅一が、3機種を試聴 ヤマハ AVENTAGEシリーズ 2013年モデル

ESSテクノロジ製DACを新採用

ヤマハが発表したRX-A1030、RX-A2030、RX-A3030は、一昨年、新ブランドとして立ち上げられた同社製AVアンプの中核製品だ。最新のネットワークオーディオや映像アップコンバートなどの機能に対応しながら、同時にオーディオアンプとしての完成度も高めようという意欲的なプロジェクトは今年で第三世代目となる。

AVENTAGEシリーズ2013年モデルのフラッグシップは、A3030

昨年はネットワーク経由のオーディオ再生機能が充実し、アップルのAirPlayに対応。スマートフォン向けアプリも強化されるなど、機能面での飛躍が目立った年だった。もちろん、192kHz/24ビットのFLAC再生といったハイレゾオーディオファイルの再生にも対応している。元よりHDMI周りのノイズ対策が秀逸で、ブルーレイの音に関しては定評のあるヤマハの中核AVアンプだけに安定した実力が魅力だが、そこに機能性が加わることで、より魅力が際立ってきた。

筆者はこの一連のAVENTAGEシリーズを高く評価しているのだが、その理由のひとつはYPAO-R.S.C.と呼ばれる独自の音場補正機能である。この機能は初代モデルから導入されたもので、従来の音場補正機能よりも積極的に反射音対策を取っているため、まるで壁がなくなったかのようなスッキリとしたバランスの良い音場ができあがる。

三機種をそれぞれ試聴する筆者

複数ポイント測定でスピーカーの設置角度検出やCinemaDSPのエフェクト量も、この測定の中で微調整される。測定にはそれなりの時間はかかるものの、その効果は抜群だ。音場補正の機能や性能が争われたのは5年ぐらい前のことだが、現時点ではこのYPAO-R.S.C.がもっとも進んでいると思う。YPAO-R.S.C.が存在するおかげで、ヤマハ独自のCinemaDSPも活きてくる。音場が崩れたままエフェクトをかけても、その効果は限定的だからである。

もっとも、ここまで書いてきた特徴は昨年のAVENTAGEにも共通する特徴。では今年のモデルは、どんな機能が追加されたのだろう?という視点で見ると、実はあまり大きな違いはない。HDMIのバージョンやコンテンツフォーマットに大きな変動がないことが主な理由だが、一方で音質を練り直す良いチャンスになったようだ。

第三世代AVENTAGEでは、過去10数年に渡って使い続けてきたバーブラウンのD/Aコンバーターをやめ、音質面での優れた評価が高品位オーディオ機器の世界ではすっかり定着しているESSテクノロジ製に切り替わった。

DACのブランドが変化すると、その使いこなしには時間がかかるものだが、ESS製のD/Aコンバータが持つ情報量の多さを引き出しながら、しっかりとヤマハの音としてモノにしている印象。ヤマハは今年、2chオーディオも含めて、一斉にESSへとD/Aコンバータを切り替えたが、その際のノウハウ共有がうまく行っているのだろう。

ESS初採用にして使いこなしが進んでいる理由のひとつは、あるいは今年から開発体制が変化したからかもしれない。これまでのAVENTAGEは、ひとりの音質マイスターが全製品のチューニングを担当し、それぞれのモデルの性格を決めていたが、今年からは三人の音質マイスターが別々のモデルを担当してチューニングを行った。

この音質マイスターの違いは、同じ基本設計ながらも部品の質やメカ構造の違いからくる音質差と絡み合い、それぞれのモデルに価格差だけではないキャラクターの違いを生んでいる。どれもがヤマハの音であるのに、しかし、そのどれもが個性的な魅力を放っているのである。

三人の“音質マイスター”による音づくり

さて、ではどのような個性が与えられているのか。ちょうど中間に位置するRX-A2030から話を進めよう。ヤマハによると、A2030の設計が基本として存在し、これに対して物量、部品の質といった面でグレードアップを図ったのがA3030、コストダウンして低価格を狙ったのがA1030ということだ。

ヤマハの音質に対する基本的な姿勢は「ナチュラル」。楽器メーカーらしく、演奏される楽器音が自然な印象でリスナーに伝わるよう聴き疲れのないクリアで自然なイメージの音だが、AVENTAGEはこの基本理念に対し、ダイナミックで躍動感溢れる音と、心に染みるような温もりを伝える余韻、空気感を再現することを音質キーワードにしている。

このキーワードを、三人のマイスターがどう解釈し、それぞれ異なる価格帯のなかでまとめ上げたのか。

まずA2030の担当マイスターのコメントを紹介しよう。

「音像を不自然に広げることなく、各帯域の情報をストレートに再現することで、音楽再生では個々の楽器の持つ質量が質感までもが見えてくるように、映画再生では場面ごとの空間に視聴者が入り込めるような素直な音作りを目指しました。コンテンツに対しての純粋な感動を覚えることを目指しています」

濁りのない音がジャズに向く、A2030

と、このようなコメントだが、筆者が想起したのはジャズ。S/N感がよく音像に濁りがないため、少ない楽器パートのニュアンスがキレイに伝わってくるのはもちろんだが、それらの間に漂う空気の風合いが感じられるようになる。過剰な演出はないが、しかしそこにパッションを感じられるエッセンスが振り掛けられている、なかなか気持ちの良い音だ。

A2030の背面

映画再生において、ここ数年のリファレンスにしている「9<ナイン>」のチャプター2。廃墟のシーンでは静かな廃墟を包み込む空気の流れ、その後の丁寧な素材感を感じさせる効果音や敵が現れた時の緊張感。ダイナミックレンジが広く、壁の奥まで拡がるような空間の広さを感じる。

では、価格がグッと下がるA1030ではコストダウンしながら、どのような音にまとめたのか。部品コストを抑えねばならない低価格機だからこそ、音質マイスターの仕事が活きてくる。

ポップスに最適なメリハリある音、それがA1030

「メリハリのあるエネルギッシュな音を意識してチューニングしました。特に低音はボリュームがありながら芯と勢いのある音を目指しました。荒々しいウッドベースのあるジャズや迫力あるアクション映画にも合う、聴いていてスカッとする音を狙いました」

A1030の背面

これに対して実際の音を聴いて想起したのはポップス。特に昨今の打ち込み系の音とは相性が良さそうだ。低音は最低域というよりも、100Hz周辺のミッドバスに特徴があり、腰の入った力感溢れるベースやキックの音が愉しめる。この価格クラスではローエンドまで低域を伸ばすことが困難なため、どこかに演出を加えることになるが、ほどよい低域の調教のおかげで高域に変なクセを付けなくともバランスが取れている。

スカッと抜けよく天井の高い音場は、映画再生でも大いにプラスとなる。特にアクション系映画では湿度感を感じさせない、抜けのいい音が愉しめるだろう。

一方、最上位のA3030はというと、これはもう別格と言っていい。機能やデザインの面では一貫しているAVENTAGEだが、音に関してはA2030からA3030へのジャンプアップが大きいのだ。

A3030は回路に使われている部品グレードが異なるだけでなく、インシュレータの素材(A3030のみ鉄製)、ダブルボトム構造などメカニカルな面でも強化。さらには今年最大の変更点であるESSのD/Aコンバータが、32ビットの最上位版に変更されているところが大きな違いだ(7.1チャンネル部分のみ。エフェクト用の4チャンネル分は24ビット)。

A3030の構造。インシュレータやシャーシを強化

A3030の背面

まずはこの32ビットD/Aコンバータの質が違う。もともと、上位クラスのDAC ICのため音質には優れているのだが、さらにヤマハ独自の内蔵デジタルフィルタを組み込んで、S/N比と情報量を積み増している。

A3030の担当マイスターは、「透明感を重視してチューニングしています。クリアでさっぱり、明るくのびのびしたサウンドに仕上がっていると思います。特に、DACをESS製に変えたことで、高域の情報量、S/N比の良さが大幅に改善されています。この高域特性を活かすことで、オーケストラのヴァイオリンが気持ちよく伸びやかに鳴るようチューニングすることができました」と話した。

このコメントからすると、いかにもクラシック向きの上質だがおとなしい音をイメージするだろう。しかし、筆者がイメージしたのは万能性。S/N比の良さ、帯域の広さが圧倒的だ。低域はパッと聴いただけだと、“出ている感”はあまり感じないと思う。しかし、それは実際にはしっかりとローエンドまで帯域が伸びているからだ。

ローエンドまで質の高い音が出ているがゆえに、高域もバランス良く情報が引き出されている。音の芯の周囲にまとわりつく、ほんの僅かのニュアンスがキレイに出てくる。A2030に比べると明らかに味付けは薄く、素材であるCDの情報が自然に表現される。自然でさりげないからといって、情報量が少ないわけではない。

さりげなさの中に、ギッシリ詰まった密度の濃さを思わせる。アナログ入力と内蔵D/Aコンバータの違いを、同社のハイエンドCDプレーヤであるCD-S3000を用いて聴き比べたが、基本的な音の傾向は同じ。深みという点で及ばないものの、近いイメージの音を出せている。

このあたりは、同じESSのD/Aコンバータでも32ビット版を採用していることが効いているのだろう。下位2製品とはまったく異なるレベルの音だ。

映画再生においても、この長所は活かされており、前述した「9<ナイン>」のシーンではさらに音数が増えてくる。さらにCinemaDSPをオンにした際の音の付き方にも違いがあり、静かに拡がる廃墟の中に、しかし多くのものがうごめく怪しい雰囲気が克明に伝わってくるのだ。

ボルトで殴る際の金属音、マッチを擦る際の擦過音など個々の音はA2030でも再現できているが、A3030になるとBGMのコントラバスが響かせる胴鳴りの震えや、腹の底から出てくるような敵の遠吠えなどで、まったく異なるダイナミックで躍動的な世界を描き始める。

ぜひ聴き比べてみよう

さて、どのモデルがいいか?と言えば、質の面では圧倒的にA3030である。すべての製品を聴き比べた筆者としては、A2030との差は大きく、これ以外は選べないと思えてしまうほどA3030の音作りは本格的だ。音楽のジャンルを選ばず、映画に音楽にと万能的に使える。とはいえ、実勢価格の面で言えばA1030の約2倍の価格となれば、当然、そこには悩みも出てくる。

筆者の好みは、A3030だ

若々しくエネルギッシュな音を出すA1030に対し、A2030はもっと大人の音。質の高さではなく音のタイプで選ぶべきだろう。ウェットな表現も含むボキャブラリの豊富さならA2030に及ばないが、ガッツのある元気の良い音ならば、低価格のA1030にも魅力が見えてくる

機会があるならば、ぜひとも同じAVENTAGE同士の聴き比べにトライしてほしい。なるほど、音というのはこうやって整えられるものなのかと合点が行くはずだ。今年のAVENTAGEでは、同じ基本設計の製品を異なる価格レンジで別々のマイスターが作るという、過去にあまり例のない作り方をしたおかげで、価格だけではな個性をそれぞれの製品が身に纏っている。そしてシリーズ内の切磋琢磨が、互いの製品レベルを上げていることも見逃せないところだ。

(本田 雅一)

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■ ヤマハ、DACをESSに刷新したAVアンプ「AVENTAGE」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/news/20130612_602736.html

 
 
 

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