本格HiFi調に成長した高音質 基礎体力が向上、緻密なチューニング 本田雅一が聴くAVENTAGE RX-A2020

 ヤマハは昨年、デジタル信号処理でシアターライクなサラウンド空間を作り出し、その後、AVアンプの技術トレンドを生み出した「シネマDSP」技術25周年を契機に、“AVENTAGE”というブランドを立ち上げた。AVENTAGEは、ミドルクラスの価格帯ながら、アナログ部の電源、部品を吟味し、最新のデジタル処理技術、機構構造を盛り込むことにより、上位モデルが備える設計思想を手頃な価格で提供する。

 現在のシリーズは、ハイエンドモデルDSP-Z11で開発された機構構造、基板レイアウト、アンプ回路、音場プログラム、音場補正などに改良を加え、発展的に低価格モデルへ利用できる形へと拡げてきたものだ。その系譜にはエネルギッシュなサウンドで人気を博したDSP-Z7も含まれる。現在のミドルクラスに展開し始めたのは一昨年のこと。AVENTAGEのブランド立ち上げに際して、より贅沢にコストパフォーマンスの良さが追求されたのが昨年だ。

 その間、Z11から一貫して同じチームが開発を担当し、製品としての熟成を極めてきた。ミドルクラスに技術を降ろしてから3年目の今年は、機能面でのドラスティックな変化はない。しかしその分、AVアンプに本質的に求められる“音質”、サラウンドアンプとしての“音場を整える”という点に関して、長足の進歩を遂げている。

 そのAVENTAGEの中でも、昨年モデルから大きな進歩という意味で、とりわけその位置付け、役割が変化したのが「RX-A2020」だ。価格19万9500円は昨年からの据え置きであるが、その内容、音の品位は上位のRX-A3020に近付いた。

今年の“AVENTAGE”3モデル。左からRX-A1020、RX-A2020、RX-A3020

本格HiFi調に成長した音質

本体底面中央に用意された“5番目の脚”

 今年のAVENTAGEは、機能面ではドラスティックな変化はない……と書いたが、実際の音質チューニングは大幅に進歩した。AVENTAGEシリーズの特徴である、制震に対する考え方を反映させた“5番目の脚”(本体中央下部に設けられたシャーシを支える脚)や、Z11から引き継ぐ左右対称構造+端子部が集中する後部に信号経路を集中させ、最短経路で入力から出力までの信号動線を作る設計思想などは同じ。

 しかし、5番目の脚も含め全体の音のバランスを吟味し、しっかりとした(まさに脚が地に着いた)コシのある音へと変化している。電源部、アナログ信号部にある部品の選定も、もちろん昨年より検討が進んでいる。

 ヤマハによると、「DAC ON PURE GROUND」思想を進化させ、DAC回路部のアースポイントを再設計。それに合わせ、各コンデンサの質など再選定したという。

 実に細かなローテクチューニングと思うなかれ。アナログアンプ、特に9チャンネルものアンプがひとつの筐体に収められるAVアンプの場合、作り手の高い設計力と音質チューニングがなければ、良い音を望むことはできない。そうした意味では昨年も今年も同じなのだが、アナログ部の検討が一段進み、実力がシリーズ全体で底上げされたことで、ミドルクラスの2000番台があるしきい値を超えた。そのことによって、昨年のRX-A2010とは、明らかに音作りの方向が異なってきている。

 昨期最上位モデルのA3010は、情報量をグッと引き出して音場に漂う空気感をグッと引き出していた。低域はローエンドを伸ばして全体を支える基盤となり、その上にピラミッドバランスの音を積み重ねる。これに対し、A2010はシャープな音像やミッドバスのハリ、高域の抜けの良さを演出し、ナチュラルさよりも気持ちよさ、やや演出的でも切れの良さで勝負するタイプだ。

AVENTAGE RX-A2020

 それゆえ、キャラクターの違いが引き立ち、価格クラスの上下だけでなく、音のキャラクターの違いとして両モデルの位置づけが明確になっていたとも言える。しかし、A2020は基礎体力が向上したことで、“演出”による音作りの色がかなり後退。素材の良さを活かす音へと変貌している。

 その背景にはヤマハ自身のラインナップに対する考え方の変化もあるようだ。演出的に元気の良さを引き出した製品にするなら、下位モデルの1000番でやってもいい。上位は本格的なハイファイ調にするとするなら、2000番の役割とは何なのか。

 まずは女性ヴォーカル。メロディ・ガルドーのアルバム「Absence」から“Mira”を選曲。爽やかなラテン調のリズムが気持ちいい曲だが、ギターを弾く音の風合いや抜けよく天井へと抜けていくような伸びやかなヴォーカルに対し、ベースの胴鳴りを伴う低音がしっかりと楽曲全体を支える。低域がしっかりと出ているので、ワイドレンジに高域が伸びていてもアンバランスさを感じない。

 さらに出色は、音の芯の周囲にフワッとした雰囲気と半円球に拡がる音場のグラデーション。揺るぎない低域が音場全体を支える本格的な音の方向に。色々と色付けが濃い前モデルに比べると、落ち着きのある大人の音に仕上がった。

 ディスクをドミニク・ミラー「第四の壁」に収録の“London, Paris, Cardiff”へと切り替える。ナイロン弦を弾く際の鋭い音の立ち上がり、その周囲を取り巻く空気感。前モデルは一聴するとスチール弦に聞こえてしまうが、A2020は情報をしっかりと出しているため、ナイロン特有の柔らかさを感じる。音場のボリュームも大きく、天井も高い。弦に指が掛かる時の微かなノイズが聞こえてくるようだ。

 以上はアナログ音声とSPDIF入力、両方を聴いたが、SPDIFを通した内蔵DACによる音のバランスがとてもいい。2チャンネル音声の完成度の高さはなかなかのものだ。

AirPlayをサポートしながら高音質をキープ

HDMI入力は「6」がもっとも質が良いという

A2020は、AirPlayに対応した

 SACDのマルチチャンネルソースをHDMIで……と言われて聴いてみたが、HDMI入力の音も良くなっているようだ。低域の表情が豊かである。HDMI入力の質は以前は5番が良かったが、今回は6番がもっともS/N、情報ともに出てくる。ヤマハによるとHDMI回路を刷新したため、とのことなので、このあたりで良い音の端子が変化しているのだろう。

 最後にDLNAサーバから音楽ファイルをイーサネット経由で読み込んで再生する、ネットワークオーディオ機能の音質を確認した。機能面でのトピックは、アップルのAirPlayを新たにサポートしたことだ。しかし、AirPlayは便利ではあるのだが、音質面ではプラスにならない。

 ネットワークオーディオ機能を実現するためのコントローラLSIは数種類あり、これまでは各社音質も評価して選んでいたが、現状AirPlayをサポートするにはBridgeCo(ブリジコ)社のLSIが唯一の選択肢のようで、AirPlay対応機器はすべてこのLSIだ。ところが、筆者の経験上このブリジコのチップは決して音質が良くない。中域が薄く、低域のシッカリ感もないので軽い音がしてしまう。

 ヤマハの場合は、昨年まではこれを回避するために他社のLSIを採用。AirPlay対応への是非も含めて検討を進めてきたが、AirPlay機能を搭載するという方針となった今年のモデルではAirPlayに対応しつつも、いかにして昨年までのネットワークオーディオの音質を維持・改善できるかに注力し取り組んだようだ。

 昨年モデルと聴き比べると、確かにDLNA対応LSIのメーカー違いによる音のキャラクターの変化はある。昨年モデルの方が中低域のハリと中域の厚みがある。ところが、当然ながらアンプ自身の音がここに加わるため、今年モデルの方が情報量や、低域の表情の豊かさはずっと上なのだ。Z11以降、ヤマハがデジタル入力の音質を高めるべく取り組んできた「Ultra Low Jitter PLL回路」の効果と、アナログ部の地道な音質の改善努力が実を結んでいると感じさせられる。ネットワークオーディオでの音楽的な表情の豊かさは、トータルで昨年モデルの方が上だろうが、しかしAirPlay対応のブリジコで、ここまで質を高めてきたのは立派だと思う。

 NP-S2000を含め、音の良いネットワークオーディオを作ってきたヤマハの、音質向上の経験と技術・ノウハウを持って、ブリジコLSIに真摯に取り組んだ結果かもしれない。

デジタル音場処理を“絶対にやった方がいい”と感じさせる「YPAO-R.S.C.」

 このようにオーディオ機器としての実力を大幅に高めたA2020だが、筆者がもっとも強い印象を持ったのは、室内の初期反射音をより積極的に制御する音場補正プログラムの「YPAO-R.S.C.(Reflected Sound Control)」だ。

 YPAO-R.S.C.は昨年、AVENTAGE上位モデルのA3010、A2010に採用されたのが最初だが、今年はAVENTAGEの全モデルに採用機種を展開。当然、A2020にも入ってくる。しかも昨年のYPAO-R.S.C.に比べ、より積極的に効果が現れるよう改良を加えた進化版になっている。さらに、その効果を高めるため高性能化した新型測定マイクを添付(A3020、A2020)。その成果は、ハッキリ言って従来の音場補正の常識を突き崩すものだと思う。

 YPAO-R.S.C.にはシネマDSP効果を最適化する「DSPエフェクトレベルノーマライズ」機能、最大8地点での計測結果を総合的に判断・評価する「マルチポイント計測」、これに視聴ポイントから見た各スピーカーの位置関係を把握して音場調整に反映させる「スピーカー角度計測」(A3020に採用)、それに一次反射を積極的に抑え込むReflected Sound Controlが統合されている。更には実際の部屋の音量を計測し、Adaptive DRCの効果最適化にも活用されている。

 マルチポイントの測定は面倒と思うかもしれないが、やってみるとその苦労が見事に報われることを、誰もが実感できると思う。中でもR.S.C.の効果は抜群だ。

高性能化した新型測定マイク

YPAO-R.S.C.の計測イメージ。測定は面倒と思うかもしれないが、その効果は抜群

 周波数特性は壁からの反射音に影響を受け、大きくうねるような特性になってしまう。YPAO-R.S.C.では、測定結果から一次反射音を検出し、それによる特性変化を抑え込む。どんなに音質調整したシアタールームでも壁は必ず存在する。理想的な配置、特性ではない部屋での特性を補正するだけでなく、音質評価用に設計された専用室でも、YPAO-R.S.C.をかけるとスッキリとした、ディスク本来が持つサラウンド空間が浮かび上がる。

 音場補正に関しては、そこにデジタル演算処理が入るため、部屋の音響特性を追い込んでおき、無補正で聞く方が良いという考え方も従来はあった。演算による情報の喪失は免れないからだ。しかし、反射音による音のマスク(=情報の喪失)を積極的にYPAO-R.S.C.が抑えるため、トータルでの質は補正した方が高くなると感じた。

 「9<ナイン>」のチャプター2では、荒廃した街中を漂う音の数、密度がYPAO-R.S.C.オフの場合と大幅に違う。あらゆる効果音の表情が深くなるのだ。マッチを擦る音、それを消す音、風が街中を駆け抜ける音、それぞれのサウンドエフェクトが持つ表情が高い鮮度で描かれる。音質チューンを徹底して行った試聴室でさえこうなのだから、家庭のシアターでは明らかに使った方がいい。他製品にはここまでの効果を持つものはなく、アンプ本来の実力をきちんと引き出す武器と言えよう。

 とりわけ昨年のYPAO-R.S.C.と比べて良くなったのが低域の補正。R.S.C.は壁からの反射の影響を抑える働きをすることから、初代はやや低域の量感が減る傾向であったが、今年のモデルでは反射影響を減らしながら補正前の低域の量感を維持する技術が採用された。

 さらに音楽ソフトで「HITMAN2」から数曲を試したが、音楽ソフトにおいてもYPAO-R.S.C.は入った方が良いと結論付けたい。オフの方が響きが加わり、ホール感を感じる事ができるが、これは聴いている部屋の特性だ。YPAO-R.S.C.を入れると部屋の響きが消え、ソースにうっすらと含まれる収録会場のホールトーンが聞こえてくる。これはYPAO-R.S.C.を有効にしなければ聞こえてこないものだ。

 その結果、ヴォーカルが明瞭になり、楽器音がひとつひとつ明瞭になり、ダイナミックレンジも拡がって聞こえる。ある意味、アンプ本体の音の質を一段引き上げる(実際には聴いている部屋をグレードアップした感覚に近い)。

 部屋なりに響きを調整し、“好みの響き”を作っていくことで、音全体をマネージするというマニアックな楽しみ方もあるだろうが、その世界は2チャンネルまで。マルチチャンネルではスピーカー間の干渉が複雑で限界がある。まずはYPAO-R.S.C.で音を整えた上で、シネマDSP 3Dで劇場や音楽ホールのような音響効果を楽しむのが良いのではないだろうか。

 DSPの処理能力は毎年、大きく向上している。現代の高速DSP処理で音場補正能力の上がったAVアンプならではの、新しい使い方。A2020を使えば、その世界観を手頃な価格帯で獲得できる。

 

本田雅一
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。
 個人メディアサービス「MAGon」では「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を毎月第2・4週木曜日に配信中。

 

■関連情報
□AVレシーバー RX-A2020
 http://jp.yamaha.com/products/audio-visual/av-amplifiers/rx-a2020_black__j/?mode=model
□AVENTAGEスペシャルサイト
 http://jp.yamaha.com/products/audio-visual/special/aventage/
□YAMAHA ホームシアター/オーディオ
 http://www.yamaha.co.jp/product/av/
□Yダイレクト
 http://ydirect.yamaha-elm.co.jp/

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□ヤマハ、「RX-A3020」などAVアンプ・AVENTAGE 3種
 −FLAC/PCMを高音質再生。環境測定マイクも改良  http://av.watch.impress.co.jp/docs/news/20120712_546236.html

 
 

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