価格はエントリーでも、音は本格派 AirPlay&AV CONTROLLER対応 低価格AVアンプの新基準 ヤマハ RX-V473〜本田雅一がその実力に迫る

 AVアンプは毎年、春になるとエントリークラスの製品が花盛りとなる。特にここ数年は、HDMIのバージョンやビデオアップコンバージョン機能、サラウンド機能などの規格が落ち着いてきたこともあり、上位モデルだけに装備されていた要素が、徐々に低価格帯に落ちてきた。こうしたトレンドとともに、このところ充実度が格段に上がっていたのが、ちょうど10万円を切る価格帯の製品だった。

 オーディオ製品の価格というのは正直なもので、同じぐらいの価格帯をターゲットに商品を作ると、どのメーカーも同じような音の作り方をしてくる。これが何10万円、何100万円という高級オーディオなら話は別だが、筐体、電源、回路に使う部品などのグレードが限られる中で、なんとか音を整えようと思うと、何らかの色付けが必要になってくる。

 素地が良ければ、その風合いを活かしてもいいが、荒れているならペンキで塗りつぶしてアラを隠した方がマシ。というと極端だが、メーカーごとのポリシーに従って、濃い目のキャラクターで鳴らさなければ、基礎体力の低さを露呈してしまうことになりかねない。厚化粧と言えば聞こえは悪いが、そこはプロのチューニングした“作り込み”の世界である。

 今年はどんな味付けか? というのが、低価格AVアンプの聞きどころだったのだが、ここ数年は評価の基準も様変わりしてきている。

フル機能、フルディスクリート。低価格でも音の作りは本格派

 一昨年ぐらいまで「最近の10万円クラスは、なかなか本格的な音作りをするようになってきた」と感じていた。本格的というのは、色を黄色や青や赤に塗りつぶさないということ。しっかりと素材の表情を見せながら、整った音調を作るには、それなりにコストが必要だからだ。新しい規格に対応するため、より高速なDSPを、もっと複雑なファームウェアで新しい機能を、と機能が追加されると音質的にはどんどん不利になるが、このところは新機能追加も一段落し、熟成の余地が出てきたと言えるかも知れない。

 そんなわけで、7〜8年前の主流価格帯だった16万8000円クラスの音作りは、今では10万円クラスのAVアンプで実現されるようになってきた……というのが、業界全体のトレンドだ。しかしヤマハの場合、こうした低価格モデルの躍進が著しく、昨年の段階でRX-V571にも、音楽的な表現力を持たせようとの意図が見えた。

 その甲斐あって、今年の新製品となったRX-V573はかなりの本格派に仕上がり、上位モデルのRX-V773はミドルクラスに匹敵する骨太のダイナミックな音と、YPAO-R.S.C.搭載による優れた音場補正を実現していたのだ。なんと低価格にまで本格派機能が拡がってきたものかと呆れつつ、しかし消費者にとっては確実に良いものが安く買える時代になってきている。

RX-V573。希望小売価格は63,000円(税込)

上位モデルのRX-V773。希望小売価格は92,400円(税込)

今回紹介するRX-V473。希望小売価格は52,500円(税込)だ

 このように今年のヤマハ製AVアンプ、エントリークラスのラインナップは実に充実しているのだが、こうした、“低価格機でも本格オーディオの風合い”をという流れを、さらに一歩押し進めたのが、今回紹介する5万円クラスの「RX-V473」である。

 この5万円クラス、昨年までは「この価格なら致し方ない」と音調は整えられていても、やっぱり物足りなさの残る音だった。特に静かなシーンから、ガツーンと大きな効果音が出てくるシーンなどでは、どうしてもエネルギッシュさに欠ける。

 コストの制約がある中、7ch分のアンプを搭載するため、パワーアンプ部にディスクリート回路を用いず、パワーICをを採用していたことが主因だろう。これはヤマハだけの話ではない。Dolby TrueHDやDTS-HD Master Audioといった新世代のサラウンドフォーマットが使われるようになり、7.1ch対応ソフトが登場し始めたことで、低価格AVアンプにも7ch分のパワーアンプを内蔵してほしいというニーズが高まり、結果的にパワーIC化が業界全体で進んだ。

 RX-V473は、こうしたスペック指向の流れから一歩退き、内蔵パワーアンプを5chに減らした。ch数を減らした分、アンプ回路をディスクリート化。ヤマハが培ってきたノウハウを活かした、回路設計を実装している。

“9”<ナイン>のダイナミックな表現に感嘆

 まずはCDの音から確認してみた。使ったのは二枚の女性ヴォーカル。アルバム冒頭の曲がドライな音調でダイレクト感のあるDido Armstrongの「Safe Trip Home」に、こってりとした音場感とエコーを感じさせるShelby Lynneの「Just a little Lovin'」。

 それぞれ高品位なオーディオCDプレーヤーからのアナログ入力と同軸デジタルケーブルからの入力を聴き比べてみる。

 さすがにこのクラスになると、内蔵DACのグレードは若干落ちるようで、デジタル入力の音は、繊細な女性ヴォーカルの表現が得意とは言えない。特にウェットなShelby Lynneのアルバムは、ほんのりと乗ったエア感がややサッパリ気味に。全体の音調は整い、嫌な音は抑えられているものの、場を埋める音の粒度が粗い。とはいえ、価格クラスを考えるとかなり調教が進んでいる印象だ。

 ところがアナログ入力になると印象は一変する。プレーヤーからのアナログ音声入力に切り替え、Directモードをオンにすると、格段にS/Nが改善される。ダイナミックレンジが拡がり、二つのアルバムの録音の違いが明瞭になってくる。Didoの無垢の声を拾ったダイレクトな音と、コシのあるベース音。対してShelby Lynneのしっとりと心に響き渡るような心地良い音の広がり。

 すなわち、アンプとしての素性、ベース部分の仕上がりがとても良いということ。音楽という素材を、高品位なモニター系スピーカーで聴いているからこそ、内蔵DACにおける若干の粗さは感じるといったところで、さほど大きな問題というわけではない。アンプとしての基礎ができていること、アナログ入力時の品位が高いというだけでも、十分に魅力的じゃないだろうか。

 加えてAVアンプの本領であるサラウンド音。ここでは音楽ソフトも聴いてみたが、もっとも感心したのはアニメーション映画の「“9”<ナイン>」だ。このチャプター2。廃墟をナインが彷徨うところだが、荒廃した街中における様々な“音の演出”は、アンプ自身のS/Nと瞬発力がなければうまく表現できない。

 中位以上のアンプでも、なかなかこのシーンにおける心臓の鼓動、ガツンという殴られた音や、敵が襲い来る中での緊迫したBGM、それにところどころに配されたマッチを擦る(あるいは消す)音などの効果音などを、ダイナミックに、生々しく表現してくれる製品は多くない。キレイに、サラリと表現してしまうものもあるのだ。

 しかしこの場面、本来は誰もいない寂しく寒い街中、暖かい友人との出会い、そして冷徹な敵との熱い戦いと、音の表情をダイナミックに変えながら、短時間に多様な表現を行わなければならない。サラリと表現、なんてさりげないものではなく、熱さと冷たさ、寂しさを描き分ける語彙の多さがなければならないが、この5万円クラスのアンプであるRX-V473が、きちんと表現してしまうのである。

  

RX-V473の前面。iPhone/iPod/iPadのデジタル接続に対応したUSB端子や、映像ソースや音場プログラムなどの組み合わせを登録し、ワンタッチで呼び出せる「SCENE」ボタンが用意されている

RX-V473の背面。HDMI入力は4系統で、3D映像やARC(オーディオリターンチャンネル)に対応するほか、4K映像の入出力にも対応する

本格的なネットワークオーディオ機能も

 さて、このように従来からの評価基準で見ても、なかなかの実力を持つRX-V473だが、加えてアップルのAirPlayにも対応している。iPhoneなどiOS搭載製品やiTunesからの音声を、RX-V473で簡単に再生できるのは大変便利だ。

 便利なのだが、もし音の良いネットワーク再生を……というのであれば、DLNAのオーディオプレーヤーとして使う方がいい。DMRに対応しているので、iOSやAndroidなどで用意しているコントローラーソフトを用い、パソコンやNASに溜めてある音楽を自在にネットワーク再生できる。iOS版、Android版が用意されているヤマハのコントロールアプリ「AV CONTROLLER」を用いると、単にリモコンとして動作するだけでなく、DLNAのコントローラーとしても利用可能だ。

 もちろん、24ビット/96kHzの高品位オーディオ形式にも対応し、ロスレス圧縮のFLACを使った音楽ファイルも再生できる。なかなか本格的なネットワークオーディオ機能だ。

AirPlayにも対応

AVアンプをコントロールするアプリ「AV CONTROLLER」を利用することで、電源ON/OFFやボリューム調整、入力ソースの切替など、スマートフォンやタブレットをアンプのリモコンのように使える

コントロールアプリ「AV CONTROLLER」。入力選択の画面

サーバー内の選曲画面

シーン選択

端末内の選曲画面

オプション画面

縦表示

 昨今はここをきちんと抑えておかないと、顧客ニーズを満たせないというのは確かにその通りなのだが、驚くべき柔軟性を発揮して、ヤマハはこのクラスまで満足できるレベルのネットワークオーディオ機能を搭載した。音質に関しても、ネットワークオーディオ再生時のみ音質が悪くなる、なんていう製品もあるのだが、本機はきちんと他の入力と同じような音になるよう整えられている。

 ちょっと頑張りすぎ? いやいや、これが新しいスタンダードなのだろう。音楽も映画も楽しめる。エントリークラスに相応しい、AVの愉しさをきちんと伝えてくれる。そんな音のRX-V473は、本当に僕を驚かせてくれた。もちろん、上位モデルとの差はあるが、ここで言いたいのは“安心してね”ということ。上を取れば上なりに、でもエントリークラスでもきちんと本格派の楽しめる音がする。しかも機能の不足があるわけでもない。

 パワーアンプのch数を減らし、その分、シッカリと音を作ってきたヤマハに思い切り大きな拍手を送りたい。初めてAVアンプに触れるとき、お買い得だからとこの製品を選んだなら、きっとAVアンプという製品を好きになってくれるだろう。しっかり、顧客の方向を見て、スペック指向ではないものづくりを行った結果がここにある。

(本田雅一)

AVアンプコントロールアプリ「AV CONTROLLER」Ver.3.20公開中!

 ヤマハのAVアンプコントロールアプリ「AV CONTROLLER」が、iOS版、Android版ともに5月18日にバージョン3.20にアップデート。iOS版は第3世代iPadのRetinaディスプレイに表示を最適化。Android版はハードウェアアクセラレーションに対応し、アニメーションやスクロール動作の高速化が行われた。
 主な更新内容は、iOS版では「端末内の音楽再生」機能でのサーチ機能や、FM/AMマニュアルチューニング機能を追加。Android版では、「端末内の音楽再生」機能で再生不可となるファイルのフィルタリングや、チューナーのマニュアル入力機能を追加している。
 また、iOS版、Android版ともにiPhone/iPod touchやスマートフォンでのアイコン順序並び替えや、HDMIスタンバイスルー時の入力切替に対応。動作安定性の改善も行われている。

 

本田雅一
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。
 個人メディアサービス「MAGon」では「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を毎月第2・4週木曜日に配信中。

 

■関連情報
□AVレシーバー RX-V473
 http://jp.yamaha.com/products/audio-visual/av-amplifiers/rx-v473_black__j/?mode=model
□YAMAHA ホームシアター/オーディオ
 http://www.yamaha.co.jp/product/av/
□Yダイレクト
 http://ydirect.yamaha-elm.co.jp/

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□ヤマハ、AirPlay/FLAC再生対応AVアンプ2機種-iPhone/iPadで制御。消費電力を約20%削減
 http://av.watch.impress.co.jp/docs/news/20120412_525516.html

 
 

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