POLYPHONY
スタイルを追求すると「良い音」が生まれる  音響メーカー・ヤマハの提案するシアターラック  「POLYPHONY YRS-1000」の魅力とは?
このところ、テレビと一緒にスピーカーセットを購入する人が増えている。テレビがハイビジョンで高画質化するのだから、音の方もきちんとクオリティを上げてやりたい……。そう考える人が多いのは当然のことだ。   だが、その時の「選び方」は本当に正しいのだろうか? 「テレビと組み合わせるスピーカー」の条件とはなんなのか、ヤマハの新機種、「POLYPHONY YRS-1000」を通じて考えていこう。

シアターラック、大ヒットの理由は「3つ」ある

 このところ売れているスピーカーセットは、俗に「シアターラック」と呼ばれているタイプのものだ。テレビ台の中にスピーカーシステムを一体化し、シンプルに設置できるよう配慮したモデル、といってもいい。今年には、国内だけでも30万台以上の市場規模が見込まれており、急速に立ち上がっているジャンルの一つである。

 このタイプの製品が売れるには、主に以下の三つの理由がある。

  • 1)設置性
  • 2)音へのこだわり
  • 3)簡単さ

 一つ目は設置性だ。テレビを大型化したのにあわせ、テレビ台を買い換えたい、というニーズが出てくる。どうせ買い換えるなら、ただのテレビ台ではなく、よりデザインが良く、機能的にもプラスになるものを、と考えるのは当然である。

 二つ目は音へのこだわり。画が良くなったのだから音も良くしたい、というのは当然の欲求である。

 だが、それだけでは一般化を促すにはまだ弱い、シアターラックがいまヒットしているのが、「第三の要素」の生み出す効果である。

 三つ目の要素は「簡単さ」だ。

 以前はケーブルが多く、接続が複雑になりがちであったが、HDMIの登場により、ケーブルは一気に「1本」まで減った。テレビとシアターラック、そしてBDレコーダーなどの付加機器の接続がHDMIだけで行えるようになったのは、大きな進歩といえる。それに加え、さらに大きな利便性を生み出したのが「リンク機能」である。

 現在テレビメーカーのほとんどが、HDMIを使ったリンク機能による、「テレビとの自動連携」をウリにして、シアターラックの拡販に務めている。従来は複数のリモコンを使い、テレビとシアターラック、レコーダーをそれぞれ別に動かす必要があった。だが、HDMIによるリンク機能を使えば、テレビのリモコンだけを使い、それらの機器を連携して操作ができる。

 これらのHDMI連動機能を使い、各社のテレビブランドと連動した名称をつけ、テレビとのセット販売を強化する、というのが、現在の各メーカーの基本戦略であり、シアターラックがヒットする背景となっている。

 いわば、「デザインと機能と簡単さ」のバランスこそが、シアターラック評価のポイントとなっているわけだ。

POLYPHONY YRS-1000

 だが、「テレビとセット販売されるもの」だけが、本当に良いシアターラックの条件といえるだろうか? 「POLYPHONY(ポリフォニー)」の新ブランドとともに、ヤマハの提案する「YRS-1000」からは、“新しいシアターラックの形”が見えてくる。

 「POLYPHONY」とは元々クラシック音楽用語のひとつで、「多声音楽」という意味をもつ。ルネッサンスやバロック期に隆盛を極めた、バッハに代表される、複数の旋律とパートが響き合いつつも、それぞれが独立した音として聞こえてくるよう組み立てられた楽曲の手法を指す。いかにも楽器メーカーらしいネーミングである。詳しくは後述するが、その技術的な特徴を知ると、「多声音楽」というモチーフの意味はさらに興味深いものとなる。

「HDMIリンク」は本来「メーカーをまたぐ」もの   主要メーカーをカバーするPOLYPHONYの実力

 そもそもシアターラックにおいて、「テレビと同じメーカーのもの」という意識が浸透している理由はなんだろう? それはもちろん、各社がHDMIリンク機能を、自社テレビと同じブランドで強く拡販しているためだ。そのせいもあって、「HDMIリンク機能は、同じメーカーの製品同士でないと、うまく働かないもの」というイメージが定着しつつある。

 確かにそれには一理ある。各メーカーが独自の工夫を盛り込むことで、リンク機能を高度なものに高めてきたのも事実ではあるからだ。だが、連携できない、と考えるのは間違いである。

 もともと、俗に言う「HDMIリンク機能」は、HDMIの規格内で「Consumer Electoronics Control」(CEC)機能として規格化されているものだ。そのため本来は、メーカーの敷居を超え、機器同士での連携を可能にするものであった。だが現在は、テレビメーカー側の販売戦略の問題もあって、「同じメーカー間の機器を連携するもの」というイメージが強くなっているのが実状である。

 そんな中で活きてくるのが、ヤマハの立ち位置である。同社は音響機器メーカーとして、各メーカーの間を中立的に「つなぐ」ことができる立場にある。だから、YRS-1000は、CECが本来持っている理想を、きちんと活かせるような商品となっているわけだ。

主要なテレビメーカー6社のテレビ(パナソニック、東芝、日立製作所、シャープ、三菱電機、ソニー)や、レコーダーに対応している
※YRS-1000からテレビ音声を出力するには、HDMIケーブルのほか、光デジタルケーブルでの接続が必要です。

 YRS-1000は、主要なテレビメーカー6社のテレビ、ほぼ全てとHDMIで接続し、CECを使った連動機能を活かすことができるようになっている。レコーダーに関しても、一部の機器を除き連動が可能だ。これほど広い連携が実現されている機器は、現状オンリーワンの存在といえる。

 とはいえ、CEC対応の広さは「買っても問題ない」ことを保証するものでしかない。むしろ、YRS-1000の持つ独自の魅力こそが、一般的なシアターラックとの違いといっていいだろう。

薄型化で生まれる「テレビ台」のジレンマ   「壁寄せ」と「デザイン」を一台で実現

オプションの壁寄せ金具(YTS-V1000)を使い、VESA規格に対応ている薄型テレビを壁寄せにして設置することができる

 すでに述べたように、シアターラックは「テレビ台」として働くように作られている。だが皮肉なことに、現在の薄型テレビのトレンドにおいては、「テレビ台」という存在そのものが、古くさく、否定されるものになり始めている。理由は「薄型化」にある。

 テレビの薄型化、特に液晶テレビの薄型化は、昨年以降大きなトレンドになっている。特に、価格の高い高付加価値モデルでは、厚さ3cm以内での攻防が激化しているほどだ。

 薄くなると同時に、各社が打ち出しているのが「壁掛け」「壁寄せ」という形態だ。薄型になったということは、それだけ部屋を広く使えるということでもある。薄型化とともに実現した「軽量化」を活かし、より部屋を広く使えるようにするならば、当然の流れともいえる。

 だがそうなると微妙になるのが「テレビ台」である。台の上に置くだけでは、空間をうまく使うのが難しい。もちろん、「置く」というのは一番手軽な設置方法であり、その有用性と自由さは今後も有効だ。だが、せっかく買った薄型テレビを活かすなら、従来のテレビ台的なアプローチではもったいない、というのもまた事実。そのため、多くのテレビメーカーは、薄型にこだわったテレビの場合には、シアターラックではなく「壁寄せ型スタンド」をセットにして訴求する場合が多いのである。

 YRS-1000もシアターラックである以上、ラック部分の「面積」は必要だ。だが、あるオプションと組み合わせることで、薄型テレビの「薄さ」をスポイルすることなく利用できるのがポイントである。

 そのオプションとは「壁寄せ金具(YTS-V1000)」である。ラックの背面から金属の金具を出し、そこに設置されたアダプターを使ってテレビとつなげることで、薄型テレビそのものは「壁寄せ」にして設置することが可能だ。壁寄せ金具で使われているのは、薄型テレビで一般的に使われているVESA規格のもの。だから、多くのテレビが接続可能である。なお、こちらのページで取付可能な薄型テレビの一覧が見られるので、導入の際には事前にチェックしておくことをおすすめする。

(左画像)設置高さ「下」、 (中央画像)設置高さ「中」、 (右画像)設置高さ「上」
壁寄せ金具による設置では、上のように100mmピッチで3段階の高さ調整ができる

 そもそも、壁寄せ・壁掛けが主流になったからといって、ラックが不要になるわけではない。テレビには、BDレコーダーやゲーム機をつなぐのが当たり前である。となれば、それらの設置スペースは必ず必要となる。そのためのスペースを確保しつつ、壁寄せのスマートな外観も得られるというYRS-1000の考え方は、非常に当を得たものである。

 ちなみに、YRS-1000のラック部のスペースは、一般的なBDレコーダーや、プレイステーション3のサイズを想定して作られたものだという。棚板の奥行きは33cmあり、スペースは必要にして十分(底板の奥行きは40cm)。設置操作にも十分な余裕がある。仕上げは、ヤマハのピアノを思わせる艶やかな黒で、シアター志向のBDレコーダーやPS3との親和性も高い。天板は厚さ5mmの強化ガラスであり、仮に「壁寄せ金具」を使わず、上に設置する場合でも、もちろん強度には問題ない。壁寄せにした場合でも、テレビの前にスペースがある、という状況は、再生中の各種ディスクやゲームのコントローラなどを一時的に置く場所として、非常に重宝しそうである。

棚板の奥行きは33cm、底板の奥行きは40cmあり、一般的なBDレコーダーや、プレイステーション3のサイズを想定して作られた

天板は厚さ5mmの強化ガラス。耐加重50kgで、薄型テレビの46型まで対応している

シアターラックの本質は「音」だ!   サブウーファー内蔵で生まれた「音楽重視」のシアターラック

 そしてなにより、シアターラックにとって本質と言えるのは「音」。ここが良くなければ、製品としての価値がない。

 結論からいえばYRS-1000は、特に「音楽の心地よさ」において、同価格帯のシアターラックを凌駕するポテンシャルを持っているといっていい。

 AVファンならば、ヤマハのシアターシステムというと、「YSPシリーズ」の名を思い出すのではないだろうか。YSPシリーズは、フロントスピーカーによる音響システムでありながら、ビーム状に音声を出力、壁などの反射を使ってリアル5.1chサラウンドを実現する「デジタル・サウンド・プロジェクター・テクノロジー」を使ったシステムとして人気だ。シアタールームを用意しにくい一般家庭にて、リアスピーカーなしで5.1chを実現し、しかも設置が簡単である、という点が支持されている。

 フロントスピーカーのみでリアル5.1chサラウンドを再現する、という意味では、YRS-1000のスピーカー部は、YSPシリーズの血を十二分に受け継いだ存在といっていい。だがYRS-1000は純粋な「シアターラック」。YSPシリーズの設計思想を受け継ぎながらも、より音質を「最適化」する方向で設計がなされたという。

 特に注力したのが、ウーファーを中心とした低音部の再現性だ。

 YRS-1000は、コンパクトなスピーカーシステムとしてでなく、「シアターラック」として設計された。両者の最大の違いは「サイズ」である。テレビの薄型化はいいことばかりではない。内蔵スピーカーに割ける物理的な空間はなくなり、「テレビだけ」で得られる音の質はやせていくからだ。物理的に音を鳴らすものであるだけに、スピーカーはやはり「物理的サイズ」が必要なのだ。

 YRS-1000は、シアターラックという形をとることで、その「物理的サイズ」を得ることができた。特に大きいのがウーファー部の構成だ。YRS-1000は、内部にしっかりとしたサイズのウーファーが内蔵されている。外からは目立たないようなデザインになっているが、その実力はあなどれない。5.1chらしい定位感を持ちながらも、「びびり」のない、しっかりした低音が味わえる。

本体右奥部にウーファーが内蔵されている

 しかも、ウーファー部の音響設計にあわせ、全体のチューニングを行うことで、音響全体でのバランスが向上した。このことは、特に「音楽」において高い効果を生む。BDなどでは、マルチチャンネルを生かした音楽タイトルが多く発売されている。それらのタイトルでは、YRS-1000の「トータルチューニング」が効いてくる。「シアターラックに特化したデザインと設計」が行われたことで、音楽にも強いスピーカーシステムができあがった。いわば、「シアターラックとしてのデザインを追求したら、スピーカーとしての本質が向上した」わけである。コンパクト・高機能型であるYSPシリーズとは、また別の美点が生まれたといっていいのではないだろうか。

 YRS-1000に対するヤマハの自信のほどは、その「標準セッティング」からも見て取れる。多くのシアターラックは、映画やスポーツでの迫力を重視している。そのため、標準セッティングは、テレビのドラマや映画向けのものになっている、という場合がほとんどだ。

 だがYRS-1000では、あえてミュージックビデオを指向したセッティングが行われている。ウーファーの出力は、標準値からプラスマイナス10dBの範囲で調整が可能なのだが、その「標準設定」は、まさにミュージックビデオを想定したものなのである。

 シアターラックの良さは、生活の中で使える「気楽さ」にある。そこで、しっかりとした音質の音楽も楽しめるということは、非常に大きな武器といえるだろう。

 しかも、YRS-1000は安い。

 店頭では、本体だけで10万円を切り、別売の壁寄せ金具とセットでも12、3万円程度で販売されている。エクステリアの美しさと音質のバランスを考えると、非常にお買い得な商品である。日常のテレビからより良い「音体験」をするならば、見逃せない存在といえそうだ。

 

西田宗千佳
 1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、月刊宝島、週刊朝日、週刊東洋経済、 PCfan(毎日コミュニケーションズ)、家電情報サイト「教えて!家電」(ALBELT社)などに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。