DVDビデオを中心とするサラウンドオーディオに対する反応というのは、いつの間に大きく二分化していったのだろうと思う。映画やゲームなど、映像コンテンツが好きという点では変わらないが、ストーリーを重視するタイプは、ハイビジョンにも興味がないし、2chダウンミックスでも構わないという人もいる。 一方ですでにサラウンドの虜になっている人は、もはや2chダウンミックスの世界には戻れなくなっている。かく言う筆者もその一人だ。普段プライベートで再生するDVDソースは、映画よりも音楽ライブものが多いのだが、昔から聞き慣れていた音楽がサラウンドになる衝撃というのは、筆舌に尽くしがたい感動があるものだ。
さて、そんなサラウンドを日常化する製品の筆頭としてこれまで上げられてきたのが、YAMAHAのYSPシリーズである。フラットなスピーカーユニット1つで、バーチャルではない本物のサラウンドを提供してくれる魔法の製品として君臨してきたわけだが、今回新たに音質重視設計となったフラッグシップモデル、YSP-4000が発売された。
新設計となったフラッグシップモデル、YSP-4000。本体はブラックのほかにシルバーも選べる
今まさに筆者の目の前にそれがある。2004年に初めて発売された伝説の名器「YSP-1」から3年、ついにそれを超えるモデルが登場したことになる。今回はYSP-4000の魅力を、じっくりご紹介しよう。
YAMAHA YSPシリーズのデザインポリシーとして、過度にその姿を主張しないというのは以前から感じてきたことである。今回もその基本姿勢は変わらず、シンプルでスマートなデザインとなっており、リビングのトーンを壊さないよう、入念に配慮されている。
ワンポイントでリアルサラウンドのヒミツが、ボディに埋め込まれた40個の小型スピーカーだ。これ全体を使って音のビームを形成し、部屋の反射を利用して本物のサラウンドを実現してしまうわけだが、今回はベーシックな部分から変更が加えられている。 まず40個すべてのスピーカーのマグネットを大型化したほか、左右のウーファ部を内部で独立させた。中高域と低域の音をエンクロージャ内でミックスしないことで、よりサウンドの分解能を高めている。
YSP-4000のスピーカー部。マグネットを大型化するなど、細かい改良が加えられた
電源部も従来のものに比べて、容量を20%をアップさせている。またキャビネットも1ランク上の素材を採用し、剛性を高めるなど、いわゆるスピーカーとして当然あるべき方向の進化を遂げた。
YSPの顔となるパンチンググリル部も、今回新たに設計しなおされている。グリルが存在することの影響を極限まで抑えるため、厚みを増し、穴のサイズを小さくする替わりに、数を多くした。これにより、剛性の向上と開口面積の拡大という矛盾した命題をクリアする。 型番が大幅に増えたことからわかるようにYSP-4000は、従来シリーズからのマイナーチェンジではなく、本体構造から大きく違っていることがわかる。
YSP-4000は、機能面でも大きな変化を見せている。これまでのYSPシリーズでは、設定画面表示のための映像出力を備えていた。ただこれだと、テレビの外部映像入力を一つ消費してしまう。また再生機器を切り替えるときは、テレビの入力を切り替えたあと、YSPの音声入力もそれに合わせて切り替える必要があった。
だが今回のYSP-4000では、HDMI入力端子を2系統、同出力を1系統装備した。つまりYSPを映像と音声の同時切り替え器として、使えるようになったわけである。
接続方法としては、まずBlu-rayやHD DVDなどのプレーヤ/レコーダ出力を、YSP-4000のHDMI入力に接続。さらにYSP-4000のHDMI出力を、テレビのHDMI入力に接続。つまりデッキとテレビの間にYSPが挟まる格好だ。これにより、テレビ側のHDMI入力端子が節約できるだけでなく、YSPの入力切り替えでデッキ2台の映像と音声を同時に切り替えることができる。
また最近のデジタルテレビでは、HDMIのCEC(Consumer Electronics Control)機能を使ったリンク機能が充実してきている。具体的にはPanasonicのビエラリンクや、東芝のレグザリンクといった機能だ。
YSP-4000は、これらCEC機能にも対応している。テレビのリモコンで一緒に電源のON・OFFができたり、ボリューム調整や入力切り替えができるのだ。これまではテレビにサラウンドシステムを組み込むと、リモコンを持ち替えてあっちこっちのデバイスを切り替える必要があり煩雑だったが、CEC対応で使い勝手が大きく進歩した。現在市場に出回っているオーディオシステム製品の中で、2メーカーのCEC機能に対応しているのはYSP-4000だけであり、パナソニックの「ビエラリンク」と東芝の「レグザリンク」に対応している。
またYSP-4000のHDMI回路には、映像のスケーラーも組み込まれている。SD画質の映像も、ハイビジョン画角にアップコンバートして表示させることが可能だ。
さらに音質向上に合わせた新機能もある。あまり目立たないが、パネル正面に外部音声入力を備えているのだ。ここにiPodなどの音源を接続すれば、音楽スピーカーとしても使用できるようになっている。いやいや、もちろんYAMAHAの製品で、単に「外部入力が付きました」だけで終わるはずがない。
内部には圧縮によって失われた高域やステレオセパレーションを補完する、「ミュージックエンハンサ」も搭載した。効果はなし・小・大の3つから選択する。小でも十分な補正効果が得られるが、サラウンド化してBGM的に楽しむには、大のほうが面白いだろう。
では実際に音を聞いてみよう。視聴した部屋は右側が全面窓ガラスだが、ブラインドがかかっている。それ以外は比較的ライブな壁で囲まれており、環境としては左右が不均衡だ。しかしマイクを立てて自動で音場を調整する「インテリビーム」機能を使えば、音質のムラや左右のばらつきがなく、正確なサラウンド効果が得られた。
音質の向上は、映画の中の音楽シーンで存分に発揮される。効果音に紛れて濁らず、きちんと分離しているあたりは、やはりエンクロージャをウーファと分けた効果だろう。
またYSPの威力がもっとも発揮できる「5ビームモード」では、以前に比べるとサウンドフィールドの懐が深くなる感じだ。手前に来るというよりも、部屋の壁を突き抜けて奥に向かって空間ができると言えばいいだろうか。
低音に関しては、SRS TruBassを使えば不足感はない。だが音楽的な低音を楽しみたい場合は、先行して発売されているサブウーファ「YST-FSW150/050」との組み合わせをお勧めしたい。
従来のサブウーファのイメージとは異なる平形で、DVDレコーダ程度のサイズになっている。ラック内にも綺麗に収まるため、YSP最大の特徴である「部屋がごちゃごちゃしない」というメリットを壊さない。また縦置きも可能なため、ラック脇にさりげなく置くこともできるだろう。付属のシステム接続ケーブルを使うと、YSPと電源の入り切りを連動させることもできる。
低音の出方も、海外製品でありがちなズビンズビンした大げさ感がなく、非常に上品だ。効果音としての低音ではなく、音楽的な低域が綺麗に締まると、それだけサウンドフィールド全体にまとまりが出る。音楽ライブものが好きな方は、あったほうがいい。
新搭載のサラウンドモード、「マイサラウンド」を試してみた。これは狭い部屋やニアフィールドでも十分なサラウンド感を得るためのモードだ。サラウンドを楽しむためには、もちろん物理的に部屋が広い方がいいわけだが、なかなか住宅事情がそれを許さない。
必然的に、画面近くで視聴せざるを得ないケースもあるだろう。こういう場合に「マイサラウンド」を使えば、スピーカーの近くで小音量でも十分なサラウンド感を得ることができる。空間的な広がりという意味では「5ビームモード」には敵わないが、至近距離での音の説得力という切り口ではマイサラウンドに軍配が上がる。
AVライフは、TPOが重要だ。いつでも大音量で楽しめるわけではない。そういうニーズにもYSPが対応できるようになったということは、いよいよ庶民の味方という存在になってきた証拠かもしれない。
これまでサラウンド用オーディオセットでは、どちらかと言えば、サウンドエフェクトとして効果があるかどうかに重点が置かれていたと思う。音質そのものが問われたことは、あまりなかったかもしれない。
音というのは、高域に行くほど直進性が高いため、高音域のほうが方向感が出しやすい。したがって多くのサラウンドシステムは、中高域の再生がメインとなっており、それにプラスして重低音をサブウーファーで乗せていくという商品設計となっている。
YSP-4000が面白いのは、効果としての音の世界に、改めて「音質」という価値観を持ち込んだところだ。オーディオ製品である限り、音質を問うのは当然のようだが、サラウンドの世界では案外これができていなかったわけである。
もちろん真剣に音楽CDやSACDなどを聴きたいのなら、オーディオ専用セットをお勧めする。だが日常的にBGMとして楽しむような用途であれば、テレビセットの中にあるYSP-4000が活用できる。テレビセットで音楽を楽しむなどということは、たとえBGMレベルでも、これまではやろうと思わなかったことだろう。
そしてすでにYSPではおなじみになりつつあるラックシステムも、ラインナップされている。大型テレビを設置しても首が上を向かない、高さ43cmのローボード設計である。大型テレビが置けて、高さが低いラックというのは、案外探してみるとないのだ。
YSP史上最高音質設計、そしてHDMI装備と、サラウンドシステムとしての完成度を高めたYSP-4000。リビングルームの音は、これ一台あればいい。
小寺信良
テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。
■関連情報
□デジタル・サウンド・プロジェクター 特設ページ
http://www.yamaha.co.jp/product/av/prd/ysp/index.html
□YAMAHA Audio & Visusl
http://www.yamaha.co.jp/audio/
□Digital Sound Projector
YSP-4000
http://www.yamaha.co.jp/product/av/prd/ysp/ysp-4000/index.html
□YSP Theater Rack System YSP-LC4000
http://www.yamaha.co.jp/audio/prd/ysp/ysp-lc4000/index.html
□Subwoofer System YST-FSW150
http://www.yamaha.co.jp/audio/prd/woofer/yst-fsw150/index.html
□Yダイレクト
http://ydirect.yamaha-elm.co.jp/
□東芝 REGZALINK <レグザリンク>
http://www.toshiba.co.jp/digital/regzalink/
■関連記事
□ヤマハ、レグザリンク対応「サウンド・プロジェクター」
−HDMI装備。サブウーファやラック一体型モデルも用意 (AV Watch)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20070820/yamaha.htm