空間表現力を高めた 新しいシネマDSP  YAMAHA AVアンプ DSP-AX2700
AVアンプの用途として大きな役割のひとつとしてあげられるのがDSPによる音響効果だ。なかでもヤマハの「シネマDSP」は、その臨場感の豊かさ、音質の良さから定評があるが、ヤマハホームシアター20周年を期にシネマDSPのプログラムが全面的に見直された。さまざまなチューニングの結果、より音場感が増すとともに高音質化されている。中でも注目すべきがDramaというプログラム。映画サウンドにかけたとき、音の広がりが増したにも関わらず、セリフはボヤけず、しっかりしているのだ。この大きく生まれ変わったシネマDSPを搭載したヤマハのAVアンプの新モデル、DSP-AX2700とその兄弟モデルであるDSP-AX1700について紹介しよう。

新シネマDSPを搭載した今年のモデルは2ラインナップに集約された

DSP-AX2700
希望小売価格252,000円(税込)

DSP-AX1700
希望小売価格168,000円(税込)

 DSP-Z9を頂点とするヤマハのDSP AVアンプシリーズ。15万円以上の価格設定であるハイグレードのDSP-AXの4桁品番の昨年のモデルはDSP-AX4600、DSP-AX2600、DSP-AX1600の3ラインナップだったのが、今年はDSP-AX2700とDSP-AX1700の2ラインナップに集約された。型番からも想像できるように、DSP-AX1700はDSP-AX1600の後継という位置づけだが、DSP-AX2700はDSP-AX2600の後継であるとともに、DSP-AX4600の後継を兼ねる形となっている。AVアンプのトレンドとして、今年はとくに大きなトピックスがなかったことから、2ラインナップに集約されたようだが、機能、性能的には大幅に向上している。その目玉となるのが、シネマDSPのプログラムを全面刷新したこと。詳細については後述するが、同じ名前のプログラムも、より音に広がりが増し、クリアなサウンドとなっている。

 筐体構造を全面的に変更したことで、ハイパワー化に加え、音質の向上も実現している。また、DSDの受けを可能にするHDMI 1.2a対応や、iPodとの接続を可能にする専用ドック端子の装備、圧縮サウンドの音質補正機能であるミュージックエンハンサーのブラッシュアップなどが両機種共通の特徴である。さらに、DSP-AX2700においては、DSP-N600と同様のNetwork、USB機能も搭載されている。

筐体構造を全面的に見直し、振動を防いで高音質化を図った

エンボス処理された高剛性トップカバー

底面

 今回のDSP-AX2700/1700を見て気づいた方も多いと思うが、シーリングパネルを閉じた状態では、従来モデルとのデザインの違いはわからない。そのため新鮮味に欠ける印象を持つ人も少なくないだろうが、実はその中身は大きく変わっている。

 信号入力部とSP出力部の間の経路を極力短くするために、Double Box Construction(ダブルボックス構造)を採用し、筐体内部の回路系が最大限集約するように設計されている。さらに、DSP-AX2700においては、Center Frame(センターフレーム)を追加して、シャーシの前後とヒートシンクを固定し、全体の剛性を上げている。

ダブルボックス構造

大容量ブロックケミコン

 もうひとつ特徴的なのがArched Top Large Heatsink(アーチ型大型ヒートシンク)の採用だ。横置きにしたこのヒートシンクの放熱フィンを見てみると分かるとおり、それぞれのフィンの大きさが異なっている。こうすることにより放熱フィン同士の共振を防いでいるのだ。しかもアーチ型にすることで、外観上の美しさも表現している。DSP-AX2700では、これに全面黒色アルマイト仕上げを施す事で、放熱特性を高めるとともに、更なる質感の向上も図っているのだ。

 このセンターフレームと横置ヒートシンクとで、筐体の前後および左右方向の剛性を高め、繊細な音質チューニングをより安定させることに成功しているのである。

 なお、こうしたボディー側の大幅な構造変更により、内部に配置される基板類の位置も見直され、結果としてリアパネルでの端子の位置が従来機種とは異なっている。この点は買い替えユーザーはちょっと注意が必要となりそうだ。

あえてTHX非対応にしたことで、ハイパワー化、ファンレスを実現

 今回のモデルは、THXへの対応をやめた。THXはAV再生機器のクオリティチェックの認定規格ではあるが、とくに国内においては重要視しているユーザーがあまり多くないのはご存知のとおりだ。

 ユーザーにはあまり知られていないが、THX認証の基準は厳しく、機器設計にさまざまな制限を与えている。その最大のものが発熱基準だ。THXはそもそもホームシアター用の規格ではなく業務用の規格であるため、長時間安定して動作するよう、発熱に対して厳しい制限がある。これをクリアするためには、パワーを抑えるだけでなく、空冷ファンの実装も重要な条件となる。

 このモデルはTHX非対応とする事で、アンプのハイパワー化と空冷ファンの省略を同時に実現した。またスピーカーコンフィグのデフォルト設定の制限もなくなるため、従来のDSP-AX2600/1600では全chがSmall、BASSOUT SWであったものを、新モデルではフロントをLarge、他chをSmall、BASSOUT Bothと変更し、ユーザーの設定ミスによる低音不足を回避しようとしている。

シネマDSPプログラムにおける反射音の取り込み優先順位を変更

Hall in Vienna(改良前)

Hall in Vienna(改良後)

 さて、今回の新機種、DSP-AX2700/1700の最大の特徴はシネマDSPプログラムの全面的な見直しだ。ご存知のとおり、ヤマハのシネマDSPは様々なコンテンツに相応しい仮想的な音場空間を創造するためのDSPプログラムであり、例えば狭い部屋での再生でも、非常に豊かな音に仕上げることが可能だ。ヤマハはこれまでに数多くのコンサートホールなどのインパルス応答データを蓄積し、音場再生と音場創造の両面からDSPプログラムに応用してきたが、今回はそのデータの処理方法を見直しているのだ。

The Bottom Line(改良前)

The Bottom Line(改良後)

 最上位機種であるDSP-Z9は測定データをほぼそのまま再生できるほどの能力を持っているが、DSP-AX2700/1700クラスではある程度、インパルス応答データを間引く必要がある。その間引き方に関し、従来のこのクラスでは主に反射音の時間順で制限して取り込んでいたのに対して、今回は個々の反射音のレベルの大きさを重視するように変更したのだ。また、反射音のバランスの再調整とともに、高次反射音のフィルタリング特性の見直しを図ったことで、同じホールを再現しても、さらに自然なものとなった。実際に、DSP-AX4600とDSP-AX2700で同じプログラムを聴き比べてみたところ、DSP-AX2700のほうが、より広がり感が大きく、さらにクッキリとしたサウンドに仕上がっていた。

 中でも新しいコンセプトの元で入念なチューニングを施したことにより、大きな効果を上げたのが映画再生用のプログラムであったGeneral。ここでは、派手な効果音より会話を中心としたストーリー性の高い映画やドラマをターゲットとして空間の広さやバランスなどの再調整を行い、セリフの音質を変えずに臨場感を増す効果を出しているのだ。従来、臨場感は出るけれどセリフが聴きづらくなっていたこのDSPプログラムは、再調整により音の反射が少ない和室や狭い部屋での映画再生にとって最高のプログラムになったといえるだろう。なお、この調整によって、名称もGeneralからDramaへと変更されている。

HDMI 1.2aへの対応で、DSDの信号伝送に対応

HDMI端子を装備

 規格自体がまだ発展途上であるHDMIだが、その規格の進化に合わせてヤマハのAVアンプも進化してきている。従来機のDSP-AX4600/2600/1600ではVer1.1であったのに対して、最新のDSP-AX2700/1700ではHDMI Ver1.2aに対応し、DSD(Direct Stream Digital)信号の伝送、つまり1ビットオーディオへの対応を実現したのだ。

 平たく言えばSACDとのデジタル接続が可能になったというわけだ。ただし、残念ながら現在のところ、その恩恵を受けることはできない。というのは、規格はできあがっているものの、現時点においてDSDのHDMI出力に対応したSACDのプレイヤーが存在しないからだ。将来そうしたプレイヤーが登場してくれば、接続が可能になるので、ここは将来のための予約機能と考えておけばいいだろう。

 この辺が規格自体が定まっていないHDMIの難しいところなのかもしれない。

iPod接続やUSB、ネットワーク接続にも対応

 DSP-AX2700においては、先に発売になったネットワーク対応AVアンプDSP-N600と同様に、iPodとの接続やネットワーク接続機能などを装備した。

 iPodとの接続はDSP-N600、DSP-AX559などと同じように、YDS-10という別売りのiPod Dockを専用端子に接続して行う。DSP-AX2700に搭載された圧縮オーディオの音質補正機能、ミュージックエンハンサーを利用することで、より聴き心地のいいサウンドにすることができる。従来機種のミュージックエンハンサーにさらに改善が加えられ、ハッキリとした音の変化というよりは、より自然な音に感じられるようになった。

 また、日本語対応のGUIを装備したことで、日本語の曲名なども含め、iPodの画面とほぼ同じ内容を、DSP-AX2700と接続したディスプレイ上に表示させることができる。これは現在あるAVアンプとしては初のことだろう。

 iPod接続のほかに、USB端子、LAN端子も装備した。USB端子に接続されたUSBフラッシュメモリーやLANで接続されたPCに保存されている、MP3、WMA、WAVファイルをそのまま再生することができる。また、LANを経由してインターネットラジオの再生もできるようになっている。

ハイコストパフォーマンスのDSP-AX1700はまったく同じシネマDSPを搭載

 最後に、弟分であるDSP-AX1700について紹介しておこう。DSP-AX2700よりかなり低い価格設定になっているものの、全面見直ししたシネマDSPもプログラム数を減らすことなくすべて搭載されており、非常にコストパフォーマンスの高いモデルに仕上がっている。機能的に見た主な違いは出力がDSP-AX2700が140Wなのに対して130Wであること、OSDがGUIではなくキャラクターであること、USB接続やネットワーク接続に対応していないことくらいだ。

 AVアンプとしての基本機能はほぼDSP-AX2700と同様なので、かなりお買い得なモデルといえるだろう。もちろん、使用している部品などに違いがあるため、音質チューニングも異なっている。実際聴いてみた感じでは、DSP-AX2700がまさに高音質なHi-Fiサウンドであるのに対して、こちらは、たっぷり感のあるとても豊かな音になっているのだ。比較的狭い部屋で小型のスピーカーを接続して再生するのであれば、かえってDSP-AX1700のほうがいい感じで聴こえるかもしれない。

 というように、DSP-AX1700も大変魅力のあるモデルになっており、筆者としてもどちらを選ぶべきか、ぜいたくな悩みを抱えている。

[Text: 藤本健]


■関連リンク
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