YAMAHA NS-525F
真のナチュラルサウンドを実現する、NS-525F誕生 「スピーカーのYAMAHA」、ついに復活!
ヤマハと歩んだ音楽人生

 音楽が好きで、およそ日本に暮らしている限り、ヤマハというメーカーを避けて生きていくことはできない。ギターやピアノは言うに及ばず、多くの人が小中学校で親しんだハーモニカやリコーダーも、ほとんどヤマハ製だったことだろう。ちなみに小学生のときによく使った「ピアニカ」や「エレクトーン」は、ヤマハの登録商標なのをご存じだろうか。

 一方オーディオの世界に目を転じれば、昔はヤマハと言えばスピーカーだった。さすがにNS-1000Mは貧乏学生であった筆者には高嶺の花であったが、仕事場のスタジオでも、次第に入手困難になっていった「AURATONE 5C」に変わって、ニアフィールドモニタとしてヤマハの「NS-10M」が徐々に浸透していった時代が、懐かしく思い出される。

 もちろんそれ以降も、ヤマハはいいスピーカーを作り続けているのだが、ここ数年はホームシアターに注力してきた関係で、スピーカーよりもむしろAVアンプのメーカーとして知られるようになってきている。ヤマハのスピーカーに憧れて育った世代の人間にとっては、それが頼もしくもあり、また残念でもあった。

 だがこの秋、いよいよヤマハが伝統のNSシリーズを復活させる。かといって、NS-10Mのようなものをもう一度作るわけではない。これまでもNSシリーズは、シアタースピーカーとしてトールボーイ中心のラインナップで展開してきたのだ。

 だが今年9月に発売されたNS-325、そして11月に発売される上位モデルのNS-525は、これまでのラインナップとは一線を画す。NS本来の意味、すなわちNatural Soundをもう一度、その言葉本来の意味まで立ち返って、HiFiオーディオとして聴けるホームシアタースピーカーに仕上げたという。これはオーディオファンとしては、聞き捨てならない話である。

 そういうことなら、こちらもそのつもりで真剣に聴いてみたい、というわけで、生まれ変わったNSシリーズのトールボーイ型、NS-525Fをオーディオ用として試聴してみることにした。

325Fとは似て非なる525F

 エントリーモデルの325Fと今回の525Fとは、一見するとサイズ違いの兄弟機のように見える。325Fは13cmウーファ、525Fは16cmウーファということで、それに見合ったキャビネットサイズになっているのは事実だ。

325Fは、ツィータ+2ウーファの2WAY
一見同じに見える525Fだが、実は3WAY

 だが構成は全然違う。325Fがツィータ+2ウーファの2WAYに対して、525Fはツィータ、ミッドレンジ、ウーファの3WAYとなっている。さらに325Fのほうは、キャビネット全体ぶち抜きのバスレフになっているのに対し、525Fのほうはミッドレンジとウーファの間にパーティションを入れて、上部は密閉型、下部のウーファ部のみバスレフという二段構造になっている。このパーティションも、斜めに配置することで定在波を無くすという、念の入れようである。

パーティションで区切って上を密閉型、下をバスレフに


木の質感までしっかり残すセミオープンポア塗装
 キャビネットに関して、もう少し詳しくみていこう。525FはMDFの芯材をベースに、マホガニー・リアルウッドで表面を仕上げている。塗装はセミオープンポア塗装といって、木の目地や導管の質感までもそのまま残す、非常に薄いタイプのものだ。同社の高級ピアノ塗装(http://www.yamaha.co.jp/product/pi/grand_piano/index-002.html#color)と同じ手法だという。表面は滑らかだが、ピカピカに反射するわけでもなく、木目のしっとりした質感が美しい。

 トールボーイ型はキャビネットの容積も大きいわけだが、525Fではユニットの音をストレートに出すために、共振を徹底して押さえ込んでいるのが特徴だ。内部は一枚板からくりぬいたラダー状の補強桟を組み込む「スラント&パーティション構造」となっている。補強桟のありなしでキャビネットの振動をシミュレーションした結果があるので、その効果のほどをご覧いただきたい。


左が補強なし、右が補強ありの低域での振動状態シミュレーション。補強によってかなり振動が抑えられている

 次にスピーカーユニットを見ていこう。NSシリーズ伝統とも言える白いコーンは、樹脂系の素材である。今回採用されたAdvanced PMDという新素材は、以前から採用してきたPMDという素材を一新したものだ。

 以前のPMDはポリプロピレンがベースだったが、今回のAdvanced PMDはポリメチルペンテン(Polymethylpemtene)という比重の軽い樹脂に、タルク(含水珪酸マグネシウム)やパールマイカ(雲母)の粉末を混ぜたものだという。これによって従来よりも15%軽量化し、紙の素直さと強靱さ、樹脂のしなやかさを併せ持つ、新しい振動板ができあがった。

伝統の白いコーンも新素材を採用
 525Fのユニットはこの新素材を使った、同口径のミッドレンジとウーファとなっているわけだが、もちろん同じ作りになっているわけはない。ミッドレンジのほうは、コーンの厚みが0.35mm、一方ウーファのほうは、1.0mm厚となっている。厚みの違いはコーンの微妙な色味にも現れており、ミッドレンジの方が薄いため透明感のあるパールホワイト、ウーファの方は素材の厚みからクリームホワイトといったトーンになっている。

 またコーンの形状も違う。ミッドレンジは、コーンがゆるく反り返ったカーブドコーンを採用。これはそのカーブの取り方で、固有のピークを抑えることができる。ユニット特有のクセを殺して、極力フラットな周波数特性にしてあるわけだ。

 一方ウーファの方は、コーンがまっすぐ円錐状になった、ストレートコーンとなっている。再生レンジが狭く、ストロークが大きなウーファに対しては、剛性を上げてそれに耐えられるようにしてあるわけだ。またよく見るとウーファのほうが、エッジ巾が若干広い。これも長年大きなストロークに耐えるための工夫だろう。

ミッドレンジにはカーブドコーン
ウーファはストレートコーン

ダイヤフラムはコイルボビンまで一体成形
 ツィーターも見てみよう。ダイヤフラムはアルミマグネシウム合金を30ミクロンまで薄くのばした、ハードドーム型である。ホームシアター用スピーカーではソフトドーム型が多いが、525Fは音楽にも対応ということで、高域の伸びと解像感にこだわった結果だろう。またボイスコイルボビンもダイヤフラムと一体成形されたダイレクトカップリング(DC)構造となっているため、接合によるクセや濁りのないサウンドが得られるのも特徴だ。
前後左右にきっちり定位する解像感

 さあもういい加減に、どんな音がするのか気になってきたことだろう。では実際に音楽CDを試聴してみよう。

 まず一聴してすぐに気がつくのが、音の前後の立体感だ。ギターが右奥、その少し手前にピアノ、といった具合に、方向だけでなく「少し手前」がちゃんとわかる。同時にサスティンの短いスプラッシュシンバルなどは、その減衰の最後、どこまで鳴って収束するのかも、他の楽器にマスクされずはっきり分離して聞こえる。音の解像感というのだろうか、分解能がすばらしい。

 筆者はどんなソースでもうまく響いてくれるリスニング用スピーカーというのは、あまり好まない。それよりもむしろ、ソースに対して正直に鳴るモニタスピーカータイプのものを好む。NS-525Fは、筆者のそういう好みに実によくマッチしている。

 実は下位モデルの325Fとも聞き比べてみたのだが、さすがにここまでの分解能の高さは、325Fにはない。編成の少ないジャズやボーカル、あるいはシンプルなロックといったソースは、325Fでも十分説得力があるのだが、オーケストラやビッグバンドのような大編成の音楽、あるいは西洋楽器にはない倍音を持つワールドミュージックといったソースを隅々まで聴くには、525Fの分解能が必要だ。

 普通スピーカーの評価はクラシックなどを持ち出すところだが、ここは筆者の得意なロック系で、いくつか印象的だったものを列挙してみよう。

 525Fで聴いて楽しめたのが、ブラスロック時代の名盤、シカゴの「シカゴXI」だ。1977年という古い録音だが、アナログ全盛期の高水準なサウンドが楽しめる。とくにこのアルバムが最後の作品となった、故テリー・キャスのギターカッティングの生々しさは、手を伸ばせばギターのネックが掴めそうな立体感だ。その一方、ピークに弱かったアナログ時代を象徴して、スネアがきっちりリミッターで制御されている様子も手に取るようにわかる。エンジニアとの対話が楽しめるスピーカーというのは、なかなか楽しい。

 95人編成というオーケストレーションを組み込んだ大作、アラン・パーソンズ・プロジェクトの「静寂と私」、そして「オールド アンド ワイズ」では、バンドサウンドの背景に、緻密に配置された管弦楽の絶妙なバランスが目前に広がる。ダイナミックレンジという観点からすれば、フォルテッシモで破綻しないのはもちろんだが、ピアニッシモの繊細な余韻まできれいに聴かせてくれる。おそらくこのあたりの繊細さが、Advanced PMDの威力だろう。

 ちょっと変わったソースとしては、テクノ系としてUnderworldの「Beaucoup Fish」も面白かった。アコースティック楽器が全くないサウンドだが、それだからこそ525Fの定位感のすごさがよくわかる。かつて英BBCのオフィシャルモニタとして知られたRogers LS3/5Aは、左右の位相を揃えるために、いちいちエンジニアが耳で聞いて左右のセットを組み合わせていたという。逆に考えればそれだけ、位相特性を合わせて製造するのは大変ということでもある。だが525Fの粒のそろった位相は、ドセンターにかっちり位置するキックのスピード感に現れている。それだけヤマハの製造技術にバラツキがないということでもある。

 525Fの威力を端的に語るならば、「目を開けて聴けるスピーカー」ということだ。多くのスピーカーは、目を閉じて集中しなければ細かなニュアンスを聞き取ることができない。だが525は目を開けていても、その能力の高さが十分に伝わってくる。そしてこれはホームシアターユースとして、ある意味非常に適切で、重要な要素でもある。

それだけではない525Fの魅力

プリント基板を使わない、ダイレクトコネクションによるネットワーク
 525Fの音へのこだわりは、ネットワーク回路の設計にも表われている。パーツには自作オーディオ派にはお馴染みの、仏Solen社製メタライズド・ポリプロピレンコンデンサや、巻線径1mmの大型空芯コイルを採用し、さらにそれらのパーツを直接ハンダで繋ぐという、ダイレクトコネクションになっている。

 多くのスピーカーのネットワークは、プリント基盤上に部品を配置していくわけだが、やはり薄っぺらい導線上を音楽の信号が通ることや、接点が倍になってしまうことから、音響的には良くないことはよく知られている。だが量産するということを考えたら、機械生産できる基盤のほうがコストが下げられるため、やむなくそうせざるを得ないメーカーも多い。

 一方ダイレクトコネクションは、人間が一個一個ハンダ付けしていかなければ製造できないわけだから、コストも手間も非常にかかる。だがそれを敢えて売れ筋のスピーカーに採用したというところからも、ヤマハの本気度が伝わってくる。

金メッキのジョイントを外せば、バイワイヤリングも楽しめる
 スピーカーターミナルも、525Fは金メッキ真鍮削り出しで、バナナプラグにも対応する。それだけではなく、バイワイヤリングにも対応できるのだ。シングルワイヤリング用として、上下のターミナルを金メッキのパーツが繋いでいるが、これを外せばバイワイヤリングできる。高音域と中低音域でスピーカーケーブルを選ぶもよし、またアンプをそれぞれの帯域に特徴のあるものを繋ぐなど、オーディオを楽しむための仕掛けが装備されている。

 さてこんなにいいスピーカーなら、値段が気になるところだ。NS-525Fは、1本6万3千円、2本で12万6千円。これでも高いと思われるかもしれないが、この音を聴いたら、2本で60万円と言われてもうーむそうかもしれないと思ってしまうだろう。

 一方エントリーモデルの325Fは、1本4万2千円、2本で8万4千円だ。税抜きで考えれば1本2万円の差なのだが、525Fのスピーカーユニットは、フレームが非磁性体のアルミダイキャスト製になっており、325Fの鉄板プレスフレームとは音のクリアさが違う。

 またキャビネットの取り付けも、525Fが6点留め、325Fは4点留めで、接着性が全然違う。またツィーターはDC-ダイヤフラムそのものは同じだが、525Fがバックキャビティ付きなのに対し、325Fはバックキャビティなしだ。さらにキャビネットも、325Fが板厚19mmに対して、525Fは26mm。

 これでそんなに音が違うのかと思われるかもしれないが、双方の音の差は、2万円では済まない。さらに2WAYと3WAYの表現力の差まで考えると、もう圧倒的に525Fなのである。いや、325Fもいいスピーカーですよ。これも値段を考えたら破格にイイんだけど、525Fを一度聴いてしまったら、もう値段が問題じゃなくなってしまうのである。

買いやすく、アップグレードしやすい構成

 だがそこはヤマハさんの上手いところだ。このスピーカーはピュアオーディオではなく、ホームシアター用として販売されるため、多くの量販店も積極的に取り扱うことだろう。ということは、だ。大型量販店に行けばだいたい20%OFFなあげく、さらに20%のポイント還元もあって…、と考えていくと、買う店を上手く選べば、325Fを買うつもりの予算で525Fが買えてしまうのである。

525シリーズのサラウンドシステム
 さらに525Fは、同シリーズのブックシェルフとセンタースピーカー、サブウーファの組み合わせで、サラウンドのシステムとして構築できる。筆者もヤマハの試聴ルームで、サラウンド用にセットアップした525シリーズを試聴してきた。

 いやぁ、これはゼイタクすぎるよ。サラウンドではその恐るべき分解能がさらに強化されるため、DVD AudioやSACDのようなソースならまだしも、正直言ってDVDの音ソースでは、ドルビーデジタルの音の悪さにまずガックリしてしまう。普通は映像が付いてサラウンドであれば、それだけで誤魔化されて勢いで聴けてしまうのだが、それだけ525シリーズがいかに正直に鳴っているかの証明と言えるのではないだろうか。

 あるいは映画のサラウンドは、次世代DVDの非圧縮サラウンド音源まで楽しみにしておくという手もある。今回のシリーズは、スピーカー1本単位でバラバラでも購入できるため、先に2ch購入しておいて、あとからサテライトを買い足してサラウンドシステムにアップグレードという方法も採れるのだ。

 新しく生まれ変わったNSシリーズは、ある意味ホームシアターのラインナップに上手く載せた製品なのであるが、2chオーディオ用としてしっかりしたスピーカーが欲しかった人には、実にねらい目だ。スピーカーの前方後方に各楽器が定位する立体感、1つ1つの音が減衰する過程までしっかり聴かせる表現力。ヤマハが提唱する新ナチュラルサウンドとは、まさにこの「現場感」だ。

 今2chステレオ音楽は、「圧縮の危機」にさらされている。音楽CDから不要とされた部分を捨ててしまって、イヤホンで聴ければそれでいいのだろうか。音楽CDはもはやレガシーなメディアになりつつあるが、そこに込められた2chステレオ音楽のすべてをちゃんと聴ける装置が、今だからこそ必要なのだ。

 価格を抑えながらもここまでの音を提供してくれる新NSシリーズは、「もう一度、音楽をちゃんと聴いてみないか?」というヤマハからのメッセージなのかもしれない。

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プロフィール
小寺信良

テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、94年にフリーランスとして独立。映像、音楽を軸に、AV機器からパソコン、放送機器まで幅広く執筆活動を行なう。
関連リンク
■ヤマハのホームページ
http://www.yamaha.co.jp/

■スーピーカーシステムのページ
http://www.yamaha.co.jp/product/av/prd/speaker/

■NS-525F製品情報ページ
http://www.yamaha.co.jp/product/av/prd/speaker/ns-525f/index.html

■NS-325F製品情報ページ
http://www.yamaha.co.jp/product/av/prd/speaker/ns-325f/index.html

■Yダイレクト
http://ydirect.yamaha-elm.co.jp/
関連ニュース
■A&Vフェスタ2005【ヤマハ/ビクター編】
ヤマハは新スピーカー/プロジェクタ、AM/FMチューナなど
−ビクターはバイアンプ駆動のウッドコーンコンポを出展
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20050921/avf05.htm

■ヤマハ、「ピュア志向」の新ユニット採用スピーカー
−「欧州チューニングでナチュラルサウンドを実現」
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20050921/yamaha.htm

■ヤマハ、新開発ユニット採用のホームシアタースピーカー
−サブウーファはシリーズ専用にチューニング
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20050805/yamaha1.htm

■ヤマハ、マルチchオーディオ向けの新スピーカー「MCIIシリーズ」
--ホームシアターのほか、DVDオーディオ/SACD向けに最適化
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20021113/yamaha.htm

■ヤマハ、新低音再生機構を搭載したサブウーファ
−「A-YST」を改良した「A-YST II」を搭載
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20040915/yamaha.htm
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