前面設置だけでサラウンドが楽しめる  
 

 今年の年末商戦で売れるといわれているのが、大型の薄型テレビだ。とくに32型は20万円を切ると予想されていることから、需要が爆発しそうだが、せっかく大きい映像を手に入れるならサウンドのほうも充実させたいと考えている人は少なくないだろう。大画面に負けない臨場感あるサウンドとなるとサラウンドシステムが必須。ただ、その設置スペースやケーブルの引き回しなどを考えると、難しいと考えてしまうのではないだろうか?

 そんな悩みを持つ多くの人にターゲットを絞った製品が、9月に発売されたヤマハのデジタル・サウンド・プロジェクター「YSP-800」だ。これは横幅80cmと32型テレビと同サイズ。ラックに収まりやすいコンパクトサイズになっている。そして、そのスピーカーはセンターに設置するこれひとつだけ。左右のスピーカーはもちろん、リアのスピーカーも不要。オプションのサブウーファーを使えば、重低音が効くようにはなるが、なくてもそれなりの迫力を味わえるというものだ。


デジタル・サウンド・プロジェクター「YSP-800」

床置き時はオプションのスタンドが有効

ジャストフィットの専用ラック

115mmと、とてもコンパクトな奥行き

 この手の製品を見たことない人には、信じられないかもしれないが、前面に設置しただけで、後方からも音が聞こえるのが最大の特徴。スピーカーがひとつだけだから、ケーブルの引き回しに苦労することはないし、掃除もらくらく。日本の住環境を考えれば、これほどいいものはない。

 ただ、従来のバーチャルサラウンドのスピーカーにはいろいろと難点もあった。確かに音に広がりは出るものの、前からしか音は出ていないものや、後ろから音は出しているが、故意に音を出したという感じで、長時間聞いていると、目が回り、疲れてしまうようなもの、また音質が劣悪なもの……といった具合いだ。そんな中で、とても評判がよかったYSP-1がよりコンパクトになって再登場したのだ。

 
   
  部屋に合わせた調整を自動で行うインテリビーム機能  
 

2つのウーファーと21個のビームスピーカーによるリアルサラウンド
 
ワンボディでリアルサラウンドをこのように実現

 YSP-800は構造的にはユニットの左右に2つの10cmコーンのウーファーが、そしてその間には21個の4cmコーンのビームスピーカーが2列にずらりとならんでいる。これらのスピーカーそれぞれを個別にコントロールし、部屋の壁からの反射音を利用してサラウンドを実現しているのだ。

 とはいえ、部屋の形状は、個々に異なる。そこで、登場してくるのが「インテリビーム」という自動システム調整機能だ。製品にはマイクがひとつと、それを耳の高さに設置するためのダンボールでできた台がセットとして入っている。これを部屋の中央のリスニングポイントに設置した上で、調整を行う。調整のための操作はOSD画面を使って行うが、とても簡単だから、迷うこともないだろう。実際に調整を開始すると、無機質ないろいろな信号音が発せられ、テストが行われる。ここでは反射音をマイクで広い、その周波数特性や時間的なズレを検知しているのだ。このテストは約3分で終了するが、その3分後に改めてサラウンド対応のDVDなどを再生させてみると、かなり驚く世界が広がる。そう、まさに後ろにスピーカーがあるように錯覚する音が聞こえてくるのだ。また仮想的な左右のスピーカー位置なども調整できるので、もっと広げたいとか、狭めたいといったことが自由に行えるのだ。

 今回テストした部屋は後ろの奥行きが短かったために、比較的すぐ後ろにスピーカーがあるような感じで聞こえたが、リスニングポイントと壁の位置が離れると、もっと広い空間を演出できるとのことだ。

 また実際に聞いてみて感じるのが、リアの右、フロントの左というように個別のスピーカー位置が誇張されないこと。リアル5.1chのサラウンスピーカーだとスピーカーのある場所から音が聞こえてくるという感じが強くするが、YSP-800ではシームレスにつながっているため、やわらかく自然なサラウンド感が味わえる。その意味では、リアル5.1chのスピーカーよりもいいといっても過言ではないだろう。

 
   
  深夜でも迷惑にならない音を絞り込むターゲットモード  
 

 もうひとつ、よかったのがリスニングポイントが広いということ。バーチャルであれ、リアルであれサラウンドスピーカーは部屋の空間を広く使うわりに、リスニングポイントが狭いということ。ちょっとズレると音のバランスが崩れてサラウンド感を失ってしまうが、YSP-800はそのリスニングポイントがかなり広い。もちろん、部屋の端まで行ってはダメだが、中央部にいると、多少歩き回ってもサラウンド感が保てるのだ。

 またちょっと面白いのがYSP-800で新搭載されたターゲットモード。これはあえてリスニングポイントでないと音が聞こえないようにビームを絞り込んだモード。サラウンド感もステレオ感もあまりないのだが、夜間でのリスニングなど、他に音が漏れないように音の方向を絞り込むことができるのだ。実際、このモードで、中央からはずれた部分へ行ってみると、音は一気に小さくなる。もちろん、聞こえないということはないのだが、明らかに音圧が低いのが実感できる。

 ほかにもビームモードを変更することにより、よりリスニングポイントを広げることができる3ビームモード、テレビのステレオ番組再生用のステレオモード、ライブDVDなどで使えるステレオ+3ビームモードなどがある。


オプションのサブウーファーはスリムで設置しやすい

 試しに普通の音楽CDを再生してみたところ、かなり聞きやすいサウンドだった。まあ、いわゆるハイファイサウンドではないが、サラウンドスピーカーにありがちなドンシャリ音ではない。中域もしっかり出ていて、落ち着いた疲れのこない音なのだ。

 なお低音が弱いと感じた場合に利用可能なSRSのTruBassという機能がある。これをオンにすると、低域が強調され、かなり迫力があるサウンドとなる。もちろん、10cmコーンのウーファーから出している音なので、それなりの限界はあるが、だいぶ違った雰囲気になる。もっともTureBassをオンにすると中域の音色が多少変わってしまうので、好き嫌いは分かれるところではあるが……。もちろん、より迫力を味わいたいのであれば、別途サブウーファーをつけたほうがいい。オプション扱いではあるが、YST-FSW100というものを利用すれば色、デザイン的にもマッチする。これによって、かなり安定したサウンドを楽しめる。

 
   
  シネマDSPも活用できる  
 

シンプルだが十分な端子群

 ちなみに入出力端子はいたってシンプル。入力としてはアナログのステレオ入力が2系統、デジタルは光が2系統に同軸が1系統あり、それらを切り替えて使う。また操作はリモコンを使いOSDで行うがそのOSD用の映像出力がひとつと、サブウーファー用の出力がひとつあるだけだ。光デジタル入力については、ドルビーデジタルやDTSデコーダーが内蔵されているので、そのまま出力することが可能だ。

 ところで、ヤマハのオーディオ機器といえば、必ず登場する便利な機能がシネマDSPだ。さまざまなモードでいろいろな音響効果を演出してくれる機能だが、もちろんYSP-800にも搭載されている。具体的にはムービー、ミュージック、スポーツの3モード。ソースに合わせて設定することで、効果的に利用できる。実際に試してみたところ、とくに映画ではかなり臨場感が増し、音に包み込まれるような感じで後ろまでの広がりを感じる。また、音楽でも広がりはあるが、音色がにごりリアルさが欠けてしまうように感じるのが多少気になった。とはいえ、部屋によっても違いがあるそうで、和室での再生ではかえって、シネマDSPを使ったほうがいい音に聞こえるケースもあるとのことだ。


YSP-1000はシルバーとブラックの2色展開

 以上、YSP-800についてみてきたが、10月にはこれの上位モデルであるYSP-1000も発売される。これは形状、デザイン的には前モデルのYSP-1と同じで、42型テレビの横幅とピッタリ合う1,030mm。11cmコーンのウーファー2つと4cmコーンのビームスピーカー40個が3列に並ぶ構成で、出力120Wを実現している。ただし、機能的にはYSP-1からは大幅に向上し、YSP-800とほぼ同様のものとなっている。具体的には、自動ビーム調整機能が搭載されたこと、サブウーファーなしでも重低音が出せるTruBassを搭載したこと、ビームモードにターゲットビームを追加したことに加え、YSP-1000はコンポーネント×2とコンポジット×2の映像入力端子も装備している。なお、色のバリエーションとして従来のシルバーにブラックのモデルも加わった。42型の薄型テレビにブラック基調のモデルが多いことから追加したとのことだ。42型テレビとともに使うのであれば、選択肢は間違いなくYSP-1000だ。

Text: 藤本健

 
   
 

■関連情報
・ヤマハサイト http://www.yamaha.co.jp/audio/
・製品サイト http://www.yamaha.co.jp/product/av/prd/ysp/
・Yダイレクト http://ydirect.yamaha-elm.co.jp/

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 http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20050914/yamaha.htm