高音質・高性能志向ユーザーのための高級7.1ch DSP AVアンプHDMIとi.Linkに対応した「DSP-AX4600」CDはもちろん、DVDビデオにSACD、DVD-Audio、BSデジタル放送に地上デジタル放送とデジタルでのオーディオメディアはどんどんと登場してきており、そのコンテンツもよりハイグレードなものになってきている。しかし、そうしたデジタルメディアを鑑賞するための環境がなかなかないのが実情だ。よい音を、最高の環境で再現させたい、そんな思いを持つユーザーだけのために、ヤマハが税込み231,000円という価格での高級AVアンプ、DSP-AX4600をリリースしてきた。これがいったいどんなもので、既存のAVアンプとどう違うのか、そして実際どんな音なのかを確かめてみた。
HDMIとi.Link Audioへの対応で高品位デジタルオーディオを実現

徹底的な音質向上のための設計をしたDSP-AX4600


高品位デジタルオーディオに欠くことのできないHDMI&i.Linkインターフェイスボード
「力強さと繊細さ」これをコンセプトに設計したというDSP-AX4600は、これまでヤマハのラインナップにはなかった価格帯の製品だ。ご存知のとおり、フラグシップモデルとして50万円台のDSP-Z9が存在している一方、下のモデルは15万円台のDSP-AX2500、さらにその下のDSP-AX1500、DSP-AX757……という展開で、DSP-Z9の次という製品が存在していなかった。そこに今回投入したのがDSP-AX4600という位置づけなのだが、当然新モデルだけに機能面をさらに拡充させる一方、徹底的な音質向上のための設計を行っているのだ。

 その目玉ともいえるのが、HDMI(High-Definition Multimedia Interface) ver1.1とi.Link Audioという2つの最新デジタルインターフェイスの高品位オーディオ入力に対応したことだ。まあ、まだ一般に広く普及している規格とはいえないが、これからのキーとなるデジタルインターフェイスであり、デジタルオーディオを高品位に聴く上で欠くことのできない規格である。これらにより、SACDのDSD信号やDVD-AudioのPCM信号を完全な形で捕捉できるようになり、高性能なプレイヤーをすでに持っている人にとっては、それらの実力を存分に発揮できるようになるのだ。

 とくにHDMIは新しい規格であるために、まだ対応しているアンプそのものが少ないが、DSP-AX4600では、マルチチャンネルPCMにも対応したVer1.1仕様になっているので、デジタル音声信号をダイレクトに再生できるほか、ヤマハ得意のシネマDSP処理をデジタルのまま処理することができたり、デジタル映像信号のセレクトやディスプレイ機器への再送出もできるようになっている。

徹底的に厳選した部品を用い、昔ながらの設計手法も用いる

大容量低インピーダンスの電源用トランスは、余裕あるパワーを生み出す


電源用コンデンサに大容量のカーボンシース高品質ケミコンを採用


厳選されたアナログ部品を採用し、音の高品質化を徹底
 こうしたデジタル信号を劣化無く忠実に受けることができる一方、実際のオーディオ機器として音を出すためのアナログ的なこだわりも徹底している。まさに昔ながらの設計というオーディオの原点に返ったような感じではあるが、電源を強化したり、高品位パーツを積極的に取り入れることで、音質を向上させているのだ。基本的にはDSP-AX2500をベースにした設計になっているそうだが、電源用のトランスは一回り大きく大容量低インピーダンスのものを使用、コンデンサに18,000μFのカーボンシース高音質ケミコンを採用することで、余裕のあるパワーを生み出している。またDSPボード用コンデンサにも、普通は16Vの耐圧で十分だが、100Vのものが使われており、電気的にいえば完全なオーバースペック。ただ、そのようにすべてに余裕を持たせたことが結果として、「力強さと繊細さ」を実現する音を生み出しているのだ。また、こうした部品を選択する上で、また構造設計上で徹底されているのが、「振動を抑える」ということ。つまり、パーツが共振すると結果として、音に悪影響を与えるため、「パーツ鳴り」しないようにしているのだ。確かに、実際に音を聴いてみると、低域は思い切り出るけれど、ぼやけずに締まっているという感じなのは、こうした昔ながらの設計手法の結果なのかもしれない。
 
高音質を求めるならHDMIよりi.Link Audioがオススメ

少し丸みを持ったフロントパネル


i.Link2系統とHDMI3系統(入力2、出力1)を含む豊富な入力端子を備える
 ところで、このDSP-AX4600、フロントのデザインはスッキリしていてDSP-Z9っぽいけれど、少し丸みを持った新しい顔になっていてカッコイイ。一方、リアを見てみるとさまざまな入力に対応した端子がところ狭しとズラリと並ぶ。とくにチェックしたいのが左側2列目で、ここに前述のデジタル入力がある。具体的には上にi.Linkが2つ、下にHDMIが3つあるのが確認できるだろう。これらの入力を自由に切り替えながら映像と音声をフルデジタルで伝送できるのだ。

 ここで誤解のないように解説すると、HDMIは1本のケーブルで音も映像も両方流せる形になっている。それに対し、i.Linkはi.Link Audioであるため、あくまでも音声のみで映像は通すことができない。i.Link自体はIEEE1394なのでビデオ信号でもコンピュータ信号でもさまざまな信号を通すことが可能な規格だが、ここで対応しているプロトコルはオーディオだけであるというのがポイントとなっている。実は、この辺が最新デジタル機材の活用法としてちょっと面白いところでもあり、それをDSP-AX4600で体感することができた。そう、同じデジタル信号ではあるが、HDMIでの出音とi.Linkでの出音に差があるのだ。

 結論から言ってしまうと、よりよい音で聴きたいのなら、i.Linkを用いるのが絶対にいい。同じソースを、それぞれの伝送路で聴き比べてみると違いが出てくる。i.Linkのほうが、音像がよりしっかりし、音の空気感がハッキリと描きだされるのだ。逆にいうと、HDMIのほうは、まだ改良の余地があるのかもしれないが、現状においては、明らかな差が出てしまうのだ。やはり映像と音声を1つのデジタル信号として流すためジッターが発生してしまっているのが原因なのではないだろうか。もっともこうした音の違いが分かるということ自体がDSP-AX4600の高音質性を物語っているわけだが……。

 もちろん映像はHDMIで完全フルデジタルで送ることにより、鮮明な画像を描写できる。そのため、プレイヤー側の対応状況にもよるが、ベストは映像はHDMIで送り、音声はi.Linkで送り、HDMIの音声は捨ててしまうという方法。もちろん、DSP-AX4600なら、音声と映像を別ルーティングさせることが可能だから、こうした最高の環境での再生が可能となるのだ。

ピュアダイレクトモードで素材を生かした透明感のある音を
 さて、もうひとつヤマハのアンプの特徴といえる機能がピュアダイレクトモードの搭載であり、DSP-AX4600も当然これに対応している。このピュアダイレクトモードというのは、DSP回路をスルーさせ、映像回路、ディスプレイやRAMアクセスの休止によってソース信号をそのままの状態で再生させるというモードだ。DSP-AX4600では、2chのデジタル(PCM)およびアナログ信号に加え、DSDやマルチチャンネルPCM信号もピュアダイレクトモードに対応させている。実際このモードで再生させると、録音した状況そのものが再現される、非常に透明感のある音で、奥行きのある、しっかりとした音場ができあがる。もちろん、DSPを通して加工するべきか、ピュアダイレクトモードを使うべきかは、そのソースによっても異なってくる。DVDビデオにおける映画のDTSの5.1chソースなどの場合、シネマDSPを使った場合のほうが、より臨場感ある音場が作られるケースも少なくない。とくにセリフの定位を上に上げることができるので、内容をしっかり聴き取ることができる一方で、空間が広がるという効果はなかなかのものだ。まあ、CDなどのソースの場合は、ピュアダイレクトモードを使うのがいいことがほとんどのようではあるが……。

 なお、最高音質の世界とはちょっと異なるが、結構便利なのが手持ちのヘッドフォンで5.1chが楽しめるサイレントシネマというモード。HRTF(頭部伝達係数)理論を応用したヤマハ独自のアルゴリズムにより、普通のヘッドフォンでシネマDSP効果を生かした5.1chサラウンドを実現できるのだ。実際に聞いてみても、かなりリアルなサラウンドで音を聴くことができるため、深夜の再生や周囲の騒音が気になる環境でもシアター鑑賞を楽しむことができる。

 以上、DSP-AX4600の音を中心に見てきたが、使い勝手・操作感という面でも非常に優れている。搭載のFL表示部はなかなか大きく見やすいのが第1のポイント。また基本的には付属のリモコンを使って操作するわけだが、このリモコンはLCD表示やTV専用キーを装備したマクロ/ラーニング/プリセットリモコンとなっているため、自分の持っている各種プレイヤーやテレビもコントロール可能だ。また音場プログラムの選択や各種設定機能をオンスクリーン画面で快適に操作できるようになっており、この画面はDSP-Z9と共通の日本語対応アシストGUIとなっており、なかなか使いやすい。

 こうした面を見ても、DSP-AX4600は高音質・高性能志向ユーザーに絶対的にお勧めできるAVアンプといえるだろう。

■関連情報
・ヤマハサイト http://www.yamaha.co.jp/audio/
・製品サイト http://www.yamaha.co.jp/product/av/prd/dspav/dsp-ax4600/index.html


■関連記事
・ヤマハ、HDMI/i.LINK搭載の7.1ch AVアンプ
 http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20050516/yamaha.htm


■プロフィール
藤本 健
リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。