いまこそ“本物”のアンプを!デジタル時代に求められるアンプの理想型ヤマハ DSP AVアンプ DSP-AX757/DSP-AX557/DSP-AX457
デジタル時代になって、アンプの存在感が小さくなってきたように思う。それぞれのAV機器の性能も使い勝手も大幅に向上しているのに、みんなアンプを軽視しているように思えてならない。しかし、アンプは音の源だ。長年オーディオに関わってきたユーザーなら、往年の専用アンプのごとく、圧倒的な存在感でリスニング環境に鎮座していてほしいと思うはず。そこで筆者が注目したのが、ヤマハのDSP AVアンプ DSP-AX757/DSP-AX557/DSP-AX457の3機種だ。これらがなぜ気になるのか、じっくり説明しよう。
デジタルAV時代だから求められる専用アンプ

 普段、専用のアンプを使っているという人はどのくらいいるだろうか?一昔前ならば、オーディオを再生するのに専用アンプは必須のアイテムであり、多少なりともオーディオにこだわりを持っていれば専用のアンプを持っていたはずだ。しかし、オーディオのデジタル化が進むとともに、ミニコンポなどの性能が向上したことにより、専用アンプの存在感は小さくなっていったように思える。

 ところが、最近になってまた状況が変わってきた。それは、DVDビデオや、BSデジタル、地上デジタルなどのオーディオとビデオが一体化したソースが数多く出てきたことと大きく関連する。実際、私自身がそうだが、手元には旧型のテレビがある一方、DVDビデオ/オーディオプレイヤー、DVD/HDDレコーダー、地上デジタル/BSデジタルチューナー、VHSビデオデッキ、そしてDVカメラがあり、これを切り替えて使っている。ただ、使っていての不満は非常に大きい。すべてをテレビの入力に突っ込むには、入力数的に限界があるし、テレビのオーディオ性能が陳腐なものなので、音質的には期待できない。その一方で、サラウンドスピーカーは持っているけれど、DVDビデオデッキとS/PDIF接続されているだけなので、現時点ほかのソースで使えないなど制約が大きく、かといってつなぎ変えるのが面倒なので、活用できていないのが実情なのだ。

 人によって持っている機材は違い、状況はそれぞれだとは思うが、似たような感覚を持っている人は多いのではないだろうか?そんな問題を一気に解決してくれるのが、ホームシアター向けのAVアンプなのだ。

ホームシアター向けAVアンプが3機種登場

 そのホームシアター向けAVアンプとしてヤマハが発表したのが、

   
DSP-AX757
高い音楽性を備えたDSP-AX757
  DSP-AX557
バランスのとれたDSP-AX557
  DSP-AX457
手軽でいますぐ使えるDSP-AX457

の3機種。その名称からも分かるとおり、これらはDSPを搭載したAVアンプ。具体的には、世界最大のDSP LSIメーカーであるテキサス・インスツルメンツ社とヤマハが共同開発した32/64ビット浮動小数点演算処理NewシネマDSPエンジン「TMS320DA60Y」が全機種に搭載されているというシリーズラインナップだ。以前の機種においては2つのDSPチップで構成されていたものを高速なワンチップにまとめあげたことから、DSP処理する基板を非常に小型化できたのも今回のモデルの特徴。もちろん、処理能力自体も大幅に向上しているので、機能、性能も大きくアップしているのだ。

  32/64ビット浮動小数点演算処理NewシネマDSPエンジン「TMS320DA60Y」
 
  「TMS320DA60Y」採用で格段に小型化したDSP基板

 実際手元に3機種が届いたので見てみたら、かなり高級感漂う製品だ。もっとも昔のステレオアンプのような重さはなく、扱いは楽である。そして、リアパネルと見ると、その端子の数の多さには圧倒される。最上位機種のDSP-AX757の場合、アナログ入力がPHONO, CD, MD/CD-R, DVD, DTV/CBL, VCR1, DVR/VCR2, VIDEO AUXとステレオ8系統に8chのMULTI CH入力が1系統。さらにデジタルでは光が4系統に同軸が2系統、そして、コンポジット映像信号が5系統、S端子が5系統、コンポーネントビデオが2系統、さらにD4ビデオが2系統と本当に数多くの端子があるのだ。

 さぞかし高価なアンプなんだろうなと思っていたが、価格を聞いてさらに驚いた。そう、この中でもっとも上位機種であるDSP-AX757の標準価格が78,750円、DSP-AX557で、66,150円、さらにDSP-AX457となると47,250円。実売価格を考えればDSP-AX757でも手軽に買える価格といえそうだ。

7.1ch再生まで可能なサラウンド対応アンプ

 では、実際これらのAVアンプを使うことでどんなことができるのだろうか?

 まず、その前提となるのは、これらがサラウンド対応のアンプであるということ。DSP-AX757なら7.1ch、DSP-AX557やDSP-AX457でも6.1chにまで対応している。

 今回はDSP-AX757をメインに使ってみたが、確かに非常に便利だ。各機器のS/PDIFを直接このアンプに接続しておけば、DolbyDigitalやDTSなどのデコードもここで行ってくれるので、面倒な配線や切換などせずに、簡単にサラウンドでの再生ができてしまう。もっと具体的にあげれば、

  • Dolby DigitalEX
  • Dolby PrologicIIx
  • DTS-ESマトリクス
  • DTS-ESディスクリート
  • DTS 96/24
  • DTS Neo:6
  • MPEG-2 AAC

とあらゆるフォーマットのデコーダを内蔵しているので、これさえあればOKという感じだ。
 また、この7.1chというのも2つのモードがある。つまり一般のサラウンドバックスピーカーを使用した7.1ch再生と、ヤマハ独自のシネマDSP音場効果を高いレベルで実現できる、プレゼンス(フロントエフェクト)スピーカー左右を含む7.1chシネマDSP効果の2つのモードで、プレゼンススピーカー、サラウンドバックスピーカーを含む計9台までのスピーカーを接続できようになっているのだ。もちろん、9つすべてから同時に音を出すことはえきないが、必要に応じてモードを切り替えて使うことになる。

最新のDSPを使った多彩な機能を搭載

 ところで、この搭載された最新のDSPによってどんなことが実現できるのだろうか?

 前述の各サラウンドフォーマットのデコードに利用できるだけでなく、31種類の豊富なサラウンドプログラムを搭載しているのが大きな特徴だ。その中でも大きな意味を持つのがヤマハ独自の音場創成技術で、映画館をも超えるリアルな臨場感を再現するシネマDSPというプログラムだ。

 これはモノラル、2chステレオから最新の6.1chまで、既存のあらゆる音声フォーマットを最適な臨場感で再現するという技術。実際に聞いてみて本当に実感したが、普通のサラウンドと異なり、本当に映画館やコンサートホールにいるかのような雰囲気を味わえるのだ。これは、映画館などと一般家庭との音響特性との違いを計算した上で、シミュレーションするもので、かなりのリアリティーを味わうことができる。

 “CONCERT HALL”や“MOVIE THEATER”など、作品に合わせて31種類の効果を得ることができるのだ。

 さらに面白いのは、このシネマDSPとDolby PrologicIIxやDTS Neo:6を組み合わせて利用することができるということだ。つまり、ゲームやwebコンテンツ、ビデオテープなどのステレオ2chソースでもシネマDSPを使うことで豊かな臨場感あるサラウンドサウンドに仕立てて楽しむことができるのだ。

深夜に便利なナイトリスニングモード、サイレントシネマ

 ただ、いくらサラウンド対応とはいえ、大迫力なサウンドをいつでも楽しむというのはなかなか難しいところ。とくに深夜に大きい音を出すのは難しいし、深夜でなくても家族や近所に迷惑をかけるわけにはいかない。

 そんなときでも、このDSP-AX757は威力を発揮してくれる。まずは、ナイトリスニングモードという機能だ。これは音量を絞った状態でもシアターサウンドの迫力やセリフの聴き取りやすさをキープして、迷惑となりやすい突発的な大音量を抑えるというモードだ。ナイトリスニングという名称だが、深夜でなくてもマンションやアパートなどの集合住宅では大きな威力を発揮してくれそうだ。

  ヘッドフォンを差し込むと「SILENT CINEMA」表示が

 さらにサイレントシネマという機能もかなり便利。これは、ステレオの普通のヘッドフォンで5.1chのサラウンドを実現するという機能だ。さすがに、ディスクリートの5.1chサラウンドほどの立体感は得られなかったが、それでもヘッドフォンだけでかなりの音の広がりを楽しむことができた。

 このように、DSP-AX757はサラウンド機能を中心としたオーディオアンプで、単にオーディオ信号だけでなく、ビデオ信号とセットで扱えるのが大きな特徴だ。しかも、単にセットで扱えるというだけでなく、リップシンクという機能があるのも見逃せない。おそらく、これは他社のAVアンプなどにもない機能だが、要するに画像の唇の動きと、実際の音をピッタリに合わせるという機能だ。つまり、音に関するディレイ効果を与えるもので、最大160msecまでズラすことができるのだ。ちょっと昔のビデオなどでは、この時間差が非常に気になるものが結構あるが、そんな問題も解決できてしまうのだ。

 ナイトリスニングモード、サイレントシネマ、リップシンクといった注目の機能は、最上位機種であるDSP-AX757だけでなく、DSP-AX557とDSP-AX457にも搭載されているところがいい。

2chのオーディオ専用のピュアダイレクトモードはかなり使える

 DSP-AX757はここまで見てきたとおり、AV機器用のアンプとして非常に便利で高機能である。でも、オーディオ部分だけを抜き出して音質を見てみるとどうなのだろうか?

  オーディオ専用のピュアダイレクトモードをONに

 実際音を聴いてみても非常に高音質という印象。シネマDSPなどを利用した効果ももちろんだが、素の状態で聴いてもなかなかいい。とはいえ、DVDビデオやテレビ放送の音質がそもそも大したことのない音であったりするため、これだけで評価するのは難しい。そこで、CDプレイヤーをアナログ、デジタルそれぞれで接続し、DSP-AX757で鳴らしてみた。その感じからすると、音の抜けもいいし、低音もしっかりでていて悪くない。とくにデジタル経由での音は、なかなかの高音質である。ただ、最高級アンプの雰囲気かといわれると、そこまでではないな……という感じではあった。

 が、このDSP-AX757はこうした通常の入力とは別に2chのオーディオ専用のピュアダイレクトモードというものが用意されている。これを使うことで、まさにHiFiサウンドを楽しむことができるというのだ。さっそく試してみたところ、確かに音のクオリティーがグッと上がる。これなら旧来のステレオアンプの置き換えとしても十分過ぎるほどの音質、迫力となる。実際設計段階において、かなり音質対策を施しているそうで、電源ケミコンにカーボンチューブを採用したり、定電流駆動スピーカーリレーを採用するなど、こだわった回路になっているという。確かにそれだけのことがあるアンプといえるだろう。

 これなら、CDやSACDなどのオーディオ機器をビデオ機器と共存させて使ってもまったく問題ない。まさに現代のハイグレード・アンプといえるだろう。

機器の数と予算との兼ね合いで選択するモデルを決める

 主に、DSP-AX757を見てきたが、下位機種であるDSP-AX457、DSP-AX557も手元に届いたのでいっしょにチェックしてみた。

 サイズ自体は3機種ともまったく同じ。ただ、アナログ系の部品に違いがあるからなのかDSP-AX757のみちょっと重たい感じである。スペック上はDSP-AX757のみが12.5kgで、他の2機種は11.0kgと書かれていた。

 またフロントのデザインは似た感じだが、リアを見ると上位機種になるほど接続端子が増えていくことが一目で分かる。逆に言えば接続する機器が少なければ下位機種でOKということだ。とはいえDSP-AX457でもアナログ入力6系統、光デジタル入力3系統も装備しているのだから、普通はこれで十分ではないだろうか?

アコースティックな音ならDSP-AX757
  DSP-AX757
 
 

同軸デジタル入力2系統に加えてPHONO入力端子も装備

DSP-AX757は前述のピュアダイレクトモードを持っているので、SACDやDVDオーディオなどと接続し、音にこだわった音楽鑑賞をしたいというのであれば、迷わずDSP-AX757を選ぶべきだろう。クラシックやジャズなどのアコースティック楽器を高品質な音で鳴らしてくれる。また、PHONO入力を標準装備しているのもDSP-AX757のみである。アナログレコード資産をたくさん持っているクラシックファンやジャズファンなら、DSP-AX757、1台で充実したリスニングルームとホームシアターを実現できることだろう。印象としてはAVの“A”を重視しているユーザー、映画鑑賞よりも音楽鑑賞が多いユーザー、音楽を聴き込みたいユーザーにおすすめしたい。
バランスのとれたDSP-AX557
  DSP-AX557
 
  同軸デジタル入力1系統とコンポーネントビデオ入力を2系統を備える
 中間の価格帯ということで、やはりDSP-AX557はバランスのとれた製品といえるだろう。パワーアンプとしての出力は定格で90W×6ch。またDSP-AX557には光デジタル入力3系統に加え、同軸デジタル入力も1系統装備されているのは大きな特徴だ。そのほかDSP-AX557には、コンポーネントビデオ入力を2系統装備していたり、C←→S→Dのビデオコンバージョンを装備する。おすすめするユーザー層は、音楽ならロックやダンスミュージックなど、低音を少し強めて聴きたいジャンルを好む人。DSP-AX457と比べて出力が少し大きいので、スピーカーを選べば迫力ある低音を楽しめる。さらに音楽鑑賞と映画鑑賞が半々ぐらいの人になるだろう。どちらを楽しむ場合でも満足できる製品だ。
映像中心ならDSP-AX457
  DSP-AX457
 
  基本的な端子類はすべてそろっている
 最も安いモデルだからといって侮れない。DSP-AX557との違いはパワーアンプとしての出力が定格で85W×6ch、デジタル入力が光デジタル入力3系統のみ、ビデオコンバージョンを装備しないということぐらいだ。逆にデジタル同軸入力やビデオコンバージョンが必要ないということであれば、ひとつ上位の機種のほとんどの機能を備えているのだから、DSP-AX457の47,250円という希望小売価格は大変魅力的なのだ。上記のDSP-AX757とDSP-AX557に関する部分を読んでピンと来なかったり迷ったユーザーすべてにDSP-AX457をおすすめしたい。映画鑑賞がAVアンプ購入の主目的で、ときどきポップスなどの音楽もリラックスしながら聴きたいという人は絶対にDSP-AX457だ。

 以上、ヤマハのDSP AVアンプの新機種3種類を見てきたが、よくこの価格で、これまでの機能性能を持っていると感心する。これがあれば、普段の不便が一挙に解決するし、ピュアダイレクトモードがあれば音質面でも非常に満足できる。外観も非常に風格あるものになっているので、リビングルームで人目につきやすいところに設置したくなってきた。

■関連情報
・ヤマハサイト http://www.yamaha.co.jp/
・ホームシアターサイト http://www.yamaha.co.jp/audio/


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・ヤマハ、音質改善とシネマDSP対応を強化したエントリーAVアンプ
 http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20050224/yamaha.htm


■プロフィール
藤本 健
リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。