普段、専用のアンプを使っているという人はどのくらいいるだろうか?一昔前ならば、オーディオを再生するのに専用アンプは必須のアイテムであり、多少なりともオーディオにこだわりを持っていれば専用のアンプを持っていたはずだ。しかし、オーディオのデジタル化が進むとともに、ミニコンポなどの性能が向上したことにより、専用アンプの存在感は小さくなっていったように思える。 ところが、最近になってまた状況が変わってきた。それは、DVDビデオや、BSデジタル、地上デジタルなどのオーディオとビデオが一体化したソースが数多く出てきたことと大きく関連する。実際、私自身がそうだが、手元には旧型のテレビがある一方、DVDビデオ/オーディオプレイヤー、DVD/HDDレコーダー、地上デジタル/BSデジタルチューナー、VHSビデオデッキ、そしてDVカメラがあり、これを切り替えて使っている。ただ、使っていての不満は非常に大きい。すべてをテレビの入力に突っ込むには、入力数的に限界があるし、テレビのオーディオ性能が陳腐なものなので、音質的には期待できない。その一方で、サラウンドスピーカーは持っているけれど、DVDビデオデッキとS/PDIF接続されているだけなので、現時点ほかのソースで使えないなど制約が大きく、かといってつなぎ変えるのが面倒なので、活用できていないのが実情なのだ。 人によって持っている機材は違い、状況はそれぞれだとは思うが、似たような感覚を持っている人は多いのではないだろうか?そんな問題を一気に解決してくれるのが、ホームシアター向けのAVアンプなのだ。 |
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では、実際これらのAVアンプを使うことでどんなことができるのだろうか? まず、その前提となるのは、これらがサラウンド対応のアンプであるということ。DSP-AX757なら7.1ch、DSP-AX557やDSP-AX457でも6.1chにまで対応している。 今回はDSP-AX757をメインに使ってみたが、確かに非常に便利だ。各機器のS/PDIFを直接このアンプに接続しておけば、DolbyDigitalやDTSなどのデコードもここで行ってくれるので、面倒な配線や切換などせずに、簡単にサラウンドでの再生ができてしまう。もっと具体的にあげれば、
とあらゆるフォーマットのデコーダを内蔵しているので、これさえあればOKという感じだ。 |
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ところで、この搭載された最新のDSPによってどんなことが実現できるのだろうか? 前述の各サラウンドフォーマットのデコードに利用できるだけでなく、31種類の豊富なサラウンドプログラムを搭載しているのが大きな特徴だ。その中でも大きな意味を持つのがヤマハ独自の音場創成技術で、映画館をも超えるリアルな臨場感を再現するシネマDSPというプログラムだ。 これはモノラル、2chステレオから最新の6.1chまで、既存のあらゆる音声フォーマットを最適な臨場感で再現するという技術。実際に聞いてみて本当に実感したが、普通のサラウンドと異なり、本当に映画館やコンサートホールにいるかのような雰囲気を味わえるのだ。これは、映画館などと一般家庭との音響特性との違いを計算した上で、シミュレーションするもので、かなりのリアリティーを味わうことができる。 “CONCERT HALL”や“MOVIE THEATER”など、作品に合わせて31種類の効果を得ることができるのだ。 さらに面白いのは、このシネマDSPとDolby PrologicIIxやDTS Neo:6を組み合わせて利用することができるということだ。つまり、ゲームやwebコンテンツ、ビデオテープなどのステレオ2chソースでもシネマDSPを使うことで豊かな臨場感あるサラウンドサウンドに仕立てて楽しむことができるのだ。 |
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ただ、いくらサラウンド対応とはいえ、大迫力なサウンドをいつでも楽しむというのはなかなか難しいところ。とくに深夜に大きい音を出すのは難しいし、深夜でなくても家族や近所に迷惑をかけるわけにはいかない。 そんなときでも、このDSP-AX757は威力を発揮してくれる。まずは、ナイトリスニングモードという機能だ。これは音量を絞った状態でもシアターサウンドの迫力やセリフの聴き取りやすさをキープして、迷惑となりやすい突発的な大音量を抑えるというモードだ。ナイトリスニングという名称だが、深夜でなくてもマンションやアパートなどの集合住宅では大きな威力を発揮してくれそうだ。
さらにサイレントシネマという機能もかなり便利。これは、ステレオの普通のヘッドフォンで5.1chのサラウンドを実現するという機能だ。さすがに、ディスクリートの5.1chサラウンドほどの立体感は得られなかったが、それでもヘッドフォンだけでかなりの音の広がりを楽しむことができた。 このように、DSP-AX757はサラウンド機能を中心としたオーディオアンプで、単にオーディオ信号だけでなく、ビデオ信号とセットで扱えるのが大きな特徴だ。しかも、単にセットで扱えるというだけでなく、リップシンクという機能があるのも見逃せない。おそらく、これは他社のAVアンプなどにもない機能だが、要するに画像の唇の動きと、実際の音をピッタリに合わせるという機能だ。つまり、音に関するディレイ効果を与えるもので、最大160msecまでズラすことができるのだ。ちょっと昔のビデオなどでは、この時間差が非常に気になるものが結構あるが、そんな問題も解決できてしまうのだ。 ナイトリスニングモード、サイレントシネマ、リップシンクといった注目の機能は、最上位機種であるDSP-AX757だけでなく、DSP-AX557とDSP-AX457にも搭載されているところがいい。 |
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DSP-AX757はここまで見てきたとおり、AV機器用のアンプとして非常に便利で高機能である。でも、オーディオ部分だけを抜き出して音質を見てみるとどうなのだろうか?
実際音を聴いてみても非常に高音質という印象。シネマDSPなどを利用した効果ももちろんだが、素の状態で聴いてもなかなかいい。とはいえ、DVDビデオやテレビ放送の音質がそもそも大したことのない音であったりするため、これだけで評価するのは難しい。そこで、CDプレイヤーをアナログ、デジタルそれぞれで接続し、DSP-AX757で鳴らしてみた。その感じからすると、音の抜けもいいし、低音もしっかりでていて悪くない。とくにデジタル経由での音は、なかなかの高音質である。ただ、最高級アンプの雰囲気かといわれると、そこまでではないな……という感じではあった。 が、このDSP-AX757はこうした通常の入力とは別に2chのオーディオ専用のピュアダイレクトモードというものが用意されている。これを使うことで、まさにHiFiサウンドを楽しむことができるというのだ。さっそく試してみたところ、確かに音のクオリティーがグッと上がる。これなら旧来のステレオアンプの置き換えとしても十分過ぎるほどの音質、迫力となる。実際設計段階において、かなり音質対策を施しているそうで、電源ケミコンにカーボンチューブを採用したり、定電流駆動スピーカーリレーを採用するなど、こだわった回路になっているという。確かにそれだけのことがあるアンプといえるだろう。 これなら、CDやSACDなどのオーディオ機器をビデオ機器と共存させて使ってもまったく問題ない。まさに現代のハイグレード・アンプといえるだろう。 |
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主に、DSP-AX757を見てきたが、下位機種であるDSP-AX457、DSP-AX557も手元に届いたのでいっしょにチェックしてみた。 サイズ自体は3機種ともまったく同じ。ただ、アナログ系の部品に違いがあるからなのかDSP-AX757のみちょっと重たい感じである。スペック上はDSP-AX757のみが12.5kgで、他の2機種は11.0kgと書かれていた。 またフロントのデザインは似た感じだが、リアを見ると上位機種になるほど接続端子が増えていくことが一目で分かる。逆に言えば接続する機器が少なければ下位機種でOKということだ。とはいえDSP-AX457でもアナログ入力6系統、光デジタル入力3系統も装備しているのだから、普通はこれで十分ではないだろうか?
以上、ヤマハのDSP AVアンプの新機種3種類を見てきたが、よくこの価格で、これまでの機能性能を持っていると感心する。これがあれば、普段の不便が一挙に解決するし、ピュアダイレクトモードがあれば音質面でも非常に満足できる。外観も非常に風格あるものになっているので、リビングルームで人目につきやすいところに設置したくなってきた。 |
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■関連情報
■プロフィール 藤本 健 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。 最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
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