プラズマパネル使用のフラッグシップモデルVT60 マイクとタッチパッドを内蔵するタッチパッドリモコン

 前回、パナソニックが考える新しいスマートテレビのコンセプトについて、液晶テレビDT60シリーズを中心に話を進めたが、その後、最新のプラズマパネルを用いたVT60、GT60の各シリーズが発表された。

 この最新シリーズには、DT60シリーズでおなじみの“マイホーム”に、さらに顔認識機能を用いた新しいユーザーインターフェイスと、あらかじめよく使うネットコンテンツが豊富に用意されているなど、機能と使い勝手がさらに高まっている。

 たとえばマイクとタッチパッドを内蔵するタッチパッドリモコンが、従来型リモコンとは別に付属される(VT60のみ)。音声コマンドボタンを押してから「○○の地図を検索」と話しかければ、面倒な操作をすることなく、テレビ画面にGoogle Mapでキーワード検索した結果が表示される。もちろん「○○をウェブで検索」といったように、一般的なキーワードでの検索も行える。

 多くの人が同時に見ながら使える大画面・フルHDのテレビでのインターネット活用が拡がれば、これまでとは違う使い方も拡がるに違いない。

 また、タッチパッドリモコンの使い途としては、従来のテレビやレコーダでは面倒だったキーワード検索も「サッカーを番組表から検索」とやれば、番組表から検索して一覧でき、そのまま目的の番組が見つかれば「予約録画」と発話するだけで録画ができる。

PDPタッチペンで、テレビ画面に自由に書き込める

 また、プラズマ画面に直接書き込めるPDPタッチペンも興味深い。1月のCESにおける基調講演でも紹介されていた機能だが、表示している映像を静止画として取り込み、そこにタッチペンで自由に情報を書き込める。これもまた、パナソニック津賀社長が掲げた「テレビをディスプレイとして活用する」コンセプトの一部だ。

 もちろん、単純に書き込めるだけでは、ちょっと楽しい機能に留まるが、ネット上の多様なサービスとつながるスマートビエラならば、そこに活用の経路も見えてくる。

 このように、ネットワーク機能もプラットフォームを一新した最新のプラズマテレビで進化しているが、今回もっとも伝えたいのが画質面の進歩である。液晶、プラズマともに進歩の跡はみられるが、中でも素晴らしいのがプラズマ最上位となるVT60シリーズだ。

一般ユーザーから映画好き、AVマニアまで勧められるプラズマ最高画質

 世の中のテレビの多くが液晶になり、パナソニックのテレビも液晶のラインナップが徐々に充実してくると、プラズマよりも液晶の方が新しく優れた技術ではないかと思う人も出てくるかもしれない。しかし、それはとんでもない誤解だ。プラズマには液晶では達成できない、多くの優れた特徴がある。

「純赤蛍光体」の威力など、VT60の画質をチェック

 視野角の広さや応答性の高さ、動画解像度の高さ、色再現範囲の広さなどが代表的なものだが、画質でも暗室で見る映画などで液晶には到達し得ない表現力の高さを感じる。しかし、その一方でプラズマが不得手とする絵柄があることも事実だった。たとえば暗部と明部、両方の階調を滑らかに同時に表現することは難しく、対象とする映像をある程度絞り込んだ上で、設計段階から絵作りの方向に合わせた作り込みを行う必要がある。

 簡単に言えば、いくつかの制約の下に、目的ごとの作り込みが必要だった。かつて業界最高画質とうたわれ、販売終了後はプレミア価格で取引までされたパイオニアのKUROシリーズ(現在はパナソニックがその技術を引き継いでいる)は、丁寧な作り込みで他にはない特別な製品を作っていた。

 現在は当時の1/3以下にまで価格が下がり、とてもあのような高級品に匹敵する品質感のテレビは入手できない。そう諦めていた方もいるかもしれない。しかし、VT60で新たに採用されたフルブラックパネルIV Plusは、プラズマ方式のディスプレイにおいて、過去最高の画質を実現しているのはもちろん、従来のプラズマにあった様々な制約を超えた高画質が実現されている。

 パナソニックは昨年、ZT5シリーズでプラズマの発光単位を1/4にできる新技術を導入。階調表現の滑らかさを高めていた。これにより、プラズマ独特の誤差拡散による階調表現が緩和するとともに、細かな階調(特に暗部階調)の表現力が増していた。VT60では、さらにサブフィールド数を増加させ、さらに滑らかな階調と明暗のコントラストも高くなっている。

 サブフィールドとは、プラズマが発光する最小単位のこと。プラズマは同時には「光る」「光らない」の二つの表現(ZT5以降のパナソニック製パネルは「1/4光る」を加えた三つの表現)を短時間に繰り返し、その繰り返しパターンで階調を表現している。パターンの組み合わせは、1枚の映像フィールドを表現するために使うサブフィールドが多いほど増えるため、それにともなって階調表現が豊かになるのだ。

 ZT5の段階でも明らかな進歩が見られたが、パナソニックが自ら「ベルベット画質」と表現するVT60は、もはや“プラズマであること”を意識させるような誤差拡散ノイズや、階調表現のクセは感じられない。従来のパナソニック製プラズマは階調性を重視してか、映画向けのシネマモード、特に日本国内向けモデルでは明暗の表現をやや狭く使う傾向が強かった。しかし、VT60は白の輝きと黒の沈み、各明度領域における滑らかな階調をすべて並び立たせている。

 明所でのダイナミックな表現は、無理をして明るさを演出するようなものではなく、広い色再現域を活かした艶やかでダイナミックな表現だ。これならばプラズマが不得手と言われる明所での画質にも不満は持たないと思う。

 しかし、なにより驚かされるのは、暗所でのシネマプロモードだ。アナログの業務用モニターを彷彿とさせる自然な階調のつながりは、もちろんコンシューマ向けに程よい演出がされている。しかし演出は最小限で、過度の絵作りが映像の作り手の表現を邪魔するように出しゃばることはない。ハイエンドのプロジェクタや、業務用モニターでの「正しい色と階調」を知っている人ならば、本機の画質にきっと驚くことだろう。

 しかも、暗部だけが素晴らしいのではなく、明暗のダイナミックレンジが広い絵柄でも、まったく表現力に不足するところはない。

 このパネル、このシステムならば「昔のお金がかかっていたプラズマが懐かしい」とは誰も言わないだろう。ここ数年、消費電力への配慮などから画質面での進化の速度が衰えていたようにも感じていたプラズマだが、今世代はあらゆる面で前へと進んだと思う。

 また、ビエラには液晶モデルもラインアップされているのはご存知だと思うが、このたび発表されたFT60ではさらに画質に磨きがかかっている印象だ。倍速のIPS+LEDパネルを搭載し、輝度・色・コントラストのトリプルワイド視野角により、 上下左右から見ても正面視とほぼ同じ見え方になっている。中間応答速度がさらに向上したことで、どの色からでも素早く反応し、応答速度の均一化をはかることで、さらなる画質向上に貢献している。

最新世代の映像処理エンジン「ファインリマスターエンジン」が作る新しい画質

 もっとも、プラズマや液晶のパネルだけで新しい画質が実現できているわけではない。

 たとえば超解像技術。昨今は映像パターンのマッチング判別を行い、映像タイプごとに部的に映像処理のタイプや係数を変えていくデータベース型超解像が一般的になっている。パナソニックは最新世代の映像処理エンジンに、このデータベース型超解像を組み込み、約3万パターンのデータベースを用いた超解像処理を行っているという。

 パターン数の多さは、適当する映像タイプの広さに直結している。高画質な映像ソースが多いブルーレイディスクなどの映像ソフトでは、ディテール、すなわち被写体の質感を高め、オリジナルの風合いを表現する方向で作用する。

 一方でパターン数の多さは、映像が圧縮され歪みが発生しているハイビジョン放送に対しても適したデータベースを多数用意できる点で有利だ。地上デジタル放送など、放送時の映像圧縮処理により撮影時の映像信号に比べ高精細な情報が失われた映像に対しても、適したノイズ処理と、処理の度合いに合わせたデータベース超解像で、精細感とノイズ感のバランスが良い映像を実現している。

アプリで画質コントロールが可能に

 「より幅広い品質の映像に対応する」という面では、ネットコンテンツへの対応度を画質面でも高めている点も見逃せないだろう。ネット超解像機能は、映像の特徴、品質を検知してブロックノイズやモスキートノイズへの処理を可変させ、スッキリと見やすい映像にしてくれる。

 これらのノイズ処理は強くかけると、どうしても高品位な映像に悪影響を与えてしまうが、映像の質に合わせて画質調整を行うことで、逆に画質を低下させるなどの弊害なく適切な映像処理を行うようになった。ネット動画はもちろん、CS放送など圧縮ノイズの多い放送、さらにハイビジョン放送と、様々なタイプの映像に対応できる。

 パナソニックが「きらめき効果」と呼んでいる部分も、特に圧縮率の高い放送やネット動画に有効だ。圧縮比率が高い映像は、映像圧縮の影響でコントラストが下がって見えがち。こうした現象に対してもメリハリがしっかりと付けられている。

 また、実際に体験すると、その効果をとりわけ高く感じたのが「クリアフォント」これはインターネット上の字幕やテロップが圧縮ノイズで崩れている際、“それが文字である”ことを検知して、見やすく画像処理とするもの。特に情報番組やバラエティでは、こうしたテロップのキレイさで、全体の映像の印象が大きく変化する。

 ディスプレイとしての性能が上がり、高画質なモニターとしての性能が上がっただけではなく、テレビとして、インターネットコンテンツも表示する万能型のディスプレイとして。あらゆるタイプの映像を、より美しく、見やすく、使いやすくと全方位的に新要素が盛り込まれていることを、今回の取材を通じて強く感じた。

 中でもとりわけ注目すべき点は、やはりVT60のプラズマの常識を越えた新しい画質だろう。これまでの常識を一度頭の中から捨てて、最新の高画質プラズマテレビを確認してみてほしい。数年前の常識を覆すすばらしさを、そこに見ることができるはずだ。

プロフィール

 

本田雅一
PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。
個人メディアサービス「MAGon」では「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を毎月第2・4週木曜日に配信中。

関連情報

関連記事