1月に開催されたInternetional CESで、津賀社長はビエラの「マイホーム」を披露した

 今年1月、世界最大の家電展示会「International CES」。パナソニック社長としてはじめて基調講演を担当した津賀一宏氏は、世の中にあまたある各種コンシューマ産業のトップ企業と協業し、エレクトロニクス企業の立場から、より良い世の中、快適な生活を作っていく企業になっていくと話した。

 エンドユーザーに直接、パナソニックがこれまで蓄積してきた技術、価値を届けるのではなく、たとえば航空機ならば航空機メーカーや航空会社、たとえば自動車ならば自動車メーカーなどと協業することで、直接の消費者向け製品販売を介さなくとも、パナソニックの持つ価値を享受できるというわけだ。

 しかし一方で、これまで消費者とのもっとも濃密な接点であったテレビを、パナソニックがやめるわけではないことも同時に話していた。昨年、社長に就任して以来、津賀氏は一貫して、エンドユーザーに届けるテレビという商品を変えていくと話しており、むしろ新たな価値への接点として、新たな提案を盛り込むことに力を注いでいくと話してきた。

 パナソニックが考える、新しいテレビの形を目指していく際、消費者とのタッチポイントの持ち方として示された最初の一歩が「マイホーム」という機能だった。今回はこのマイホームを紹介するとともに、近未来にどんなホームエンターテインメントを目指しているかを考えてみることにしよう。

映像ソース多様化に対応する最初の一歩

 さてその津賀氏は、自分の言葉でテレビをどう変えていきたいか、繰り返し一本の軸で語っている。それは「従来、メーカーはテレビはより良いテレビとしてしか作れなかった。しかし、これからは違う。ディスプレイとして捉えるなら、もっと心地よい、より便利なライフスタイルを支える役割をテレビが果たせるよう、工夫する余地はまだまだある」というもの。

 もちろん、その目標にいきなり辿り着けるわけではない。何歩か理想へと歩んでいくうちに、全体像が見えてくるというものだろう。その一歩としての「マイホーム」は、インターネットを通じて映像を楽しむ人が増加していることに対する、パナソニックの使い方提案だ。

 昨今、テレビを見ながらネットを検索するといった使い方をする人はとても多くなっているのは、本誌の読者ならば先刻承知のことだろう。スマートフォンやタブレット端末の普及が背景にあるが、テレビを見ながら友人と会話したり、テレビを見ながら関連する情報をチェックしたい。そんなニーズが意外に多いのだと改めて認識させられる。

ビエラ DT60シリーズ マイホームを自分用にカスタマイズ 自分のホームができた

 そこでテレビ画面を見ながらも、興味のある情報を知人・友人とのコミュニケーションをしたり、ユーザーが興味を持つだろうコンテンツを見せる手段として考えられたのがマイホームだ。大画面になったテレビならば、任意の一部分をテレビ画面として、それ以外の部分を”ディスプレイ”として活用できる。ここでは新製品のビエラ DT60シリーズの機能をみながら、そのコンセプトを振り返ってみることにしたい。

 しかし、テレビという製品は基本的に家族で楽しむものだ。同時に同じ番組を家族で見ていなかったとしても、ひとつのテレビをみんなで共有するというのは、ごく普通の使い方。それがリビングに置かれるだろう大画面テレビならなおさらだ。

 そこでマイホームは目的ごと、利用者ごとに異なる画面配置で複数を登録しておくことができる。いくつかはテンプレートとして登録されているが、さらに自分でホーム画面をデザインし、テレビを見ながら他の情報を見ることができるのである。ここに配置できるのは時計やカレンダーなどのツールだけでなく、ビエラ・コネクトで用意されるウェブサービスの画面もある。今後はマイホームの画面デザインに合った、ビエラ・コネクトのアプリも増加していくだろう。

 「ちょっとサービス表示が邪魔じゃない?」と思う方もいるだろうが、もちろん簡単にテレビ全画面に切り替えることができる。テレビに集中したいときはテレビに集中し、”ながら視聴”の時や必要な情報が欲しいときにはホーム画面を呼び出すという使い方になる。

 あらかじめ登録されているホーム画面は、テレビ放送を楽しむための「テレビのホーム」。映像配信サービスや録画一覧を簡単に呼び出す仕掛けが組み込まれ、さらに右端にはミニ番組表が配置される。この番組表で番組にフォーカスを当てると、その番組がサムネイルで表示される仕組みだ。そのほか、メモや天気予報、時計など実用的な道具を並べた「くらしのホーム」、内蔵ウェブブラウザのブックマークやソーシャルネットワークやユーチューブへの接続などを並べた「ネットのホーム」が用意される。


従来以上に、スマホアプリも充実

 上記は「テレビ単体で、テレビを使っている人たちのための機能」だが、もっと複雑なネットワーク連動を求めている方々にも、解決策が用意されている。以前から継続的に取り組んできていたが、今年のパナソニックはアプリ開発にかなり積極的だ。

 たとえばAppランチャー。ビエラ・コネクトのアプリを手元の端末で一覧して一発起動ができる。スマートフォンやタブレットで選択したコンテンツを無線LAN経由で視聴可能なリモートプレイ、指先のジェスチャーで簡単に音量調整やチャンネル操作ができるジェスチャー機能、テレビ画面に表示したソーシャルネットワークに投稿する際に文字入力をスマートフォンで行うキーボード連動機能などが用意され、これらを総称して「パナソニックスマートApp」と呼んでいる。

 それぞれの機能については、すでにiOSとAndroid向けにアプリが公開されているので、自分でダウンロードしてみるのがいいが、こうした一連の機能強化に関して感じるのは、昨年から今年にかけての機能のテイストが変化していることだ。

テレビのネット連携に積極的に対応してきたビエラ 情報の架け橋となっていくテレビ、それがビエラだ

 ネット関連機能に対しては保守的なイメージがあるパナソニックだが、実はAV機能に関しては積極的に対応してきた。過去を振り返ればスカイプ対応、ユーチューブ対応などは業界で先頭を走り、またDLNAとの互換性を取りながら、使いやすさを通常のレコーダと同等レベルにまで高めた「お部屋ジャンプリンク」なども、業界をリードする機能だったと言える(いまだにこの使い勝手に追いついていないメーカーは多い)。サーバ側でウェブサービスとテレビの間をつなぐビエラ・コネクトの考え方も、今から振り返ればとても賢い手法だった。

 しかし機能は揃っていたものの、あくまでも中心はテレビ。それ以外のネット機能は、テレビを見ない時間帯にテレビを活用するためのオマケという位置づけだった。しかし今年のパナソニックは、テレビをディスプレイとして捉え、そこから情報へとつながる架け橋になるよう、各種ネットワーク機能が見えるよう配置しなおしている。

 テレビ自身がより使いやすさ、ユーザーが置かれている状況に合わせた変化を遂げたことで、今後の進化の道筋も変化していくだろう。スマートフォンやビエラ・コネクトなどのアプリは、実際に製品がユーザーの手元に届くことで、新たな枠組みの中で着実に進歩していくと思う。

 津賀社長はテレビの未来に関して、白物家電も含めた家庭内にある多様な家電機器をネットワークで結び、より心地良い生活を届けることを目指す。そうした未来図の中で、テレビはきちんとディスプレイとして重要な役割を果たすとも話していた。さて、この枠組みがどんな未来を創っていってくれるのか。今回のビエラの進化は、さらに先の未来を想像させるものだ。個人的にも大いに期待して見ていきたい。

プロフィール

 

本田雅一
PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。
個人メディアサービス「MAGon」では「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を毎月第2・4週木曜日に配信中。

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