「タブレット」が、IT機器のメインストリームへと、一気に上り詰めようとしている。各社から様々な製品が登場し、市場は過熱気味だ。 他方、ユーザーとしては、その状況にまだ違和感を感じる、というところもあるかも知れない。「なぜタブレットなのか」「メーカーによって違いが出るのか」そんな疑問が出てくるのも当然だ。
 家電メーカーがタブレットに注力することには、もちろん大きな意味がある。特に東芝のような、AVとIT、両方の世界で活躍する企業にとっては、タブレットこそが「みずからの強み」を活かせるジャンル。より良いタブレットを作れるだけでなく、AV機器との連携によって、より価値の高い製品を生み出すことができる。東芝のAndroid™搭載タブレット「REGZA Tablet AT700」(以下AT700)から、そんな「連携するIT家電」の姿を探ってみよう。

モノとしての魅力は十分、だけどそれだけじゃ終わらない

REGZA Tablet AT700本体背面。ヘアライン加工が施されており、高級感がある薄さ約7.7mm、軽さ約558gという値は、10.1型タブレットとして世界最薄(※1)・最軽量(※1)

 タブレットは、みなさんもご存じの通り、薄型・板状(スレートタイプ)のデジタルデバイスだ。AT700の場合、OSにはAndroid™ 3.2が搭載されていて、サイズは10.1型ワイド。しかし、薄さは約7.7mmしかなく、重量も約558gしかない。それでいて、高級感があるソリッドなボディは、モノとしての魅力にもあふれている。モバイルPCなどと比較して薄型・軽量であるのはもちろんだが、Android搭載タブレットとして見ても非常に優秀な値で、10.1型タブレットしては、世界最薄(※1)・最軽量(※1)となっている。鞄の中にも収まりがよく、持ち運びにも向くことから、外出先で使うこともできるだろう。「パソコンに負けないモバイルガジェット」。そういった面に注目する人がいるのも事実だ。

(※1)2011年12月、東芝調べ。

 だが、そこだけを見ると、タブレットの本質を見誤る可能性がある。タブレットは「パソコンとは違う関わり方」「スマートフォンとは違う関わり方」をするコンピュータであることが、もっとも大きな価値を持っているのである。

 タブレットの価値は「板状である」ということそのものにある。

 雑誌や紙の書類を読む時、我々は片手でそれらを持つ。特にリラックスタイムには、ソファなどに座り、ゆったりとした姿勢で見る。写真を人に見せる時は、写真そのものを手渡したり、アルバムを皆で囲んで見る。

 いまや、情報も書類もパソコンも、インターネット経由で得ることの方が多い。これまで、その主軸はパソコンだった。パソコンは確かに便利であり、これからもその価値は変わらない。だが、パソコンが便利なのは「キーボードに向かって作業をする姿勢」の時だ。メールで届いた写真を見せるために、他人にノートパソコンを渡した、という体験は多くの人が持っているはず。でも、いかに軽量なものでも、クラムシェル型のパソコンを手渡すのはどこか不自然な体勢だ。

 だが、それが「板」だと変わる。しかも、美しく解像度もハイビジョン(720p対応)で、視野角の問題も少ない高品質なディスプレイを備えたAT700のような製品ならばなおさらだ。机に向かうのでなく、自由な姿勢でネットからのコンテンツを「見る」ためのコンピュータとして使うと、その本質が見えてくる。

 見慣れたはずのウェブや写真も、パソコンとは違った感覚になる。少なからず人間は「体勢」に影響される。感度の良いタッチセンサーで操作しながら読んでいくと、雑誌を読んでいるかのようなイメージになってくる。東芝のREGZA Tabletシリーズには、電子書籍サービス「TOSHIBA BookPlace」を利用するためのアプリもプリインストールされているので、本を読むにも向いている。Google Map™などを使って地図を見る際も「動く地図帳」的な感覚で使えるようになり、スマートフォンなどよりも見やすくなる。特に旅行中など、人と地図を一緒に見る可能性が高い時には、「板」であることの価値が生きてくる。

(*)インターネット接続および無線LANの設定が必要。

 すなわち「見る」ための身体性を備えたコンピュータであることがタブレットの本質であり、そこに新しい技術の方向性と市場が見えるからこそ、家電メーカーはタブレットに注力しているのだ。

タブレットは新しい「映像を見る窓口」だ!

 特にAVメーカーである東芝の立場で見ると、タブレットにはさらなる価値が見えてくる。

 リビングはAV機器にとって主戦場。いうまでもなく、テレビとそれに付随するビデオレコーダーが置かれていて、そこで得られる豊かな映像コンテンツを楽しむ時間の大半を、その場所で過ごすことになるからだ。今後もその点は変わらないだろう。

 だが「見る」機器はテレビだけでいいのだろうか? 自宅には、リビング以外にも様々な部屋がある。リビングにいられないとき、リビングにはいても他の人がテレビを見ているときなど、メインのテレビ以外で映像を楽しみたいときもあるはずだ。

 タブレットはそこでも活躍する。720pクラスの映像が表示できるタブレットは、特に個人にとって、最も身近でパーソナルな「映像を見る窓口」となる。

 そのときに、ネットコンテンツだけでなく「録画番組」「テレビ放送」を見たい、と思うのは人情のはず。そのためには、テレビやビデオレコーダーと連携する「ソフトウエアの力」が必要になる。

 AT700には、東芝が独自に開発した「RZプレーヤー」(※2)「RZライブ」(※2)に対応している。これは、「レグザリンク・シェア」と呼ばれ、同社が展開する「Regza Apps Connect」という計画に基づいて作られたもの。同社のテレビ「レグザ(※3)」シリーズや、ブルーレイレコーダー「レグザブルーレイ(※3)」と連携して働く。

 RZプレーヤー・RZライブでは、AT700との連携に対応したレグザシリーズおよびレグザブルーレイから「テレビ番組」を、無線LANを経由して受け取り、楽しめる。RZライブはその名の通り「ライブ=生放送」を、RZプレーヤーは録画番組を楽しめる。AT700は、宅内で無線LANが届くところであれば、どこへでも持って行ける。テレビが家族に占有されていても、自分は別の番組を見られる。他の部屋に行ってもいいが、その必要すらない。家族のいる空間で、自分が好きな番組を楽しむこともできるわけだ。

 これができるのは、東芝が「テレビを中心としたAV機器」と「薄型で高性能なタブレット」の両方を手がけているからだ。RZプレーヤー・RZライブのように、「映像を無線LAN経由で楽しむ」という機能をもった機器は他にもある。だが「リアルタイムでタブレットに合わせた画質へトランスコードを行った」上で「安定的な通信を行い」「タブレット上で適切な発色で表示する」という要素をすべて満たすものはまだない。対応テレビ・レコーダー内には、AT700への配信時に映像をリアルタイムにトランスコードする機能があり、そこで使うビットレート設定も、テレビ・レコーダー側の開発チームとタブレットのチームがともに検討し、適切なものがあらかじめ組み込まれている。だからこそ、ユーザーに試行錯誤を強いることもなく、「最初から快適」な形になっているのだ。

 そしてその映像は、AT700のもつ「Adaptive Display」「レゾリューションプラス」という高画質化技術によって、より美しく表示される。これらの技術は、テレビの高画質化を行うために開発されたもの。AT700の720p対応パネルに合わせたものが搭載されることで、AT700の画質は「IT機器」から「AV機器」の水準に変わる。映像のコントラスト感・発色の確かさと自然さは、「個人用映像端末」としてみた場合でも、十分満足できるものだ。同様に音質についてもできる限りの高音質化が計られており、音がやせやすい薄型機器ではあるが、しっかりとしたクオリティが維持されている。前出の電子書籍プラットフォーム「TOSHIBA BookPlace」では、購入した電子書籍の「自動読み上げ」にも対応している。音質の良さは、読み上げの聞きやすさにもプラスに働く。

 なお、屋外での視聴に関しては、後日「RZポーター」(※2)というアプリが登場することで解決する。これもAT700連携に対応したレコーダーを使った場合に活躍するアプリなのだが、レコーダーに録画済みの番組を、無線LAN経由でAT700内に「一時コピー」して再生する、というものだ。屋外で長時間映像を楽しみたい場合には、こういったソリューションが必要になるが、東芝はそのための準備も進めているわけだ。

(※2)RZプレーヤー、RZライブ、RZポーターは東芝プレイスよりダウンロードしてください(RZライブは12月中旬、RZポーターは1月下旬配信予定)。対応する情報端末以外ではご利用になれません。複数の情報端末で同時に映像を受信することはできません。著作保護されたコンテンツのみの対応となります。その他詳細については東芝ホームページをご覧ください。
(※3)専用アプリケーション対応のレグザ、レグザブルーレイ。対応機種については、こちらをご覧ください。

コミュニケーション連携で生まれる「新しい映像の楽しみ」

 これらのことでおわかりのように、AT700のおもしろさは、東芝独自のアプリにある。中でも「RZライブ」「RZプレーヤー」は、「Twitter連携」や「タグリスト」といった、外部のネットワークと連携する機能を使ったとき、本領を発揮する。

 RZライブでは、番組視聴中にTwitterが見られる。もちろん単純に見れるだけではない。今見ているチャンネルに関するツイートを、画面の上に重ねる形で見れる。ひとりでテレビを見ていても、日本中のどこかにいる人々と「一緒に見ている」ような感覚になる。RZプレーヤーでは、録画済みの番組に、再生の起点となるポイントと、その場所に関するコメントを書き込んだ情報を見れる。これが「タグリスト」であり、インターネットを使った「プレイリストとその感想の共有」ともいえる。タグリストは、昨年秋に公開された「RZタグラー」で実現されたもので、これはもちろんAT700でも使える。RZタグラーが先陣を切って広げてきた、「映像とネットコミュニケーションを同期・連携させる」という方向性を、タッチで使う機器の上にまとめたのが、AT700におけるRZプレーヤー・RZライブ、といってもいい。

RZプレーヤーのタグリスト利用画面 RZライブのTwitter利用画面

 映像を見るだけならば、すでに20世紀からできていた。高画質になっただけでは、その本質は変わらない。

 しかし、コミュニケーションの要素が追加され、新たな番組との出会い、新たな視点の発見につながれば、映像の世界はもっと楽しくなる。

 東芝のような「AVとITの吃水域」にいる企業にとって、タブレットは、新たな可能性を開く戦略商品だ。AT700は、ハードの面でもソフトの面でも、東芝がいま持つリソースを生かした「総力戦」ともいえる製品に仕上がっている。

 機器単体としてのクオリティも良い。それ以上に「連携させた」時の可能性が大きい。AT700は、そんなタブレットなのだ。

著者プロフィール

西田宗千佳

 1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う?世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ!クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(徳間書店、神尾寿氏との共著)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。

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