タムロンと言えば光学製品に特化したメーカーで、一眼レフカメラの交換レンズメーカーとして知られている。また、高倍率、軽量・コンパクトな大口径ズームでご存じの方も多いだろう。ちょっと古い写真家やアマチュアカメラマンなら中判カメラ「ゼンザブロニカ」のブランド名を知っているだろう(ゼンザブロニカ株式会社。1998年タムロンに吸収合併)。私も先輩カメラマンから借りて使ったことがあり思い出多いカメラでもある。そんなプロフェッショナルな中判カメラのノウハウもある株式会社タムロンは今年60周年を迎えた。その記念モデルとして望遠ズームレンズ「SP 70-300mm F/4-5.6 Di VC USD(Model A005)」が発売された。そんなプレミアモデルとあれば使ってみたくなるというのが人情ってもの。さっそく試し撮りをしてみたので報告しよう。今回はニコン用マウントのレンズをお借りしたので私のD90に装着して撮影した。
※保存はRAW+JPEGで、そのJPEGをサムネイルの先ページにそのまま掲載した。
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 カメラを持ち歩くときは、レンズの選択はその目的によって違う。気楽な旅をしたければできるだけコンパクトなレンズにしたくなる。しかし写真を撮ることも目的の一つなら、それなりの性能が要求されてくる。「A005」はこのクラスでは高性能でコンパクトと望遠系はこの1本で十分そうだ。


70mmから300mmをカバーする望遠ズームレンズで、重量は765gとD90に装着するとほどよいバランスで持つことができる。
ズームに適した花形フードが標準装備だ。
左から70mm、300mm、70mmに花形フード装着

  • D3に装着したところ。
    「A005」はフルサイズのデジタル一眼レフでも使用できるし、APS-Cサイズならもっと望遠域の描写が楽しめる。先々フルサイズのデジタル一眼レフカメラを購入しても使える製品だ。

  • AFとMFの切替えスイッチとVC(手ぶれ補正)スイッチは、カメラを構えながら左手親指で操作できる位置にある。 AFでも超音波モーター(USD)のおかげで、フルタイムマニュアルでスピーディーに意図した位置にピントを合わせることができる。

 

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 この「Model A005」は12群17枚のレンズ構成で、新規開発したレンズ設計と、特殊硝材XLD(Extra Low Dispersion)レンズを導入することで高コントラストでシャープな画質を実現しているという。また、タムロン初の超音波モーター「USD(Ultrasonic Silent Drive)」を搭載して素早いピント合わせが可能だ。70mmから300mmまでピントを合焦するのに手間がかかることはなくスムーズに動作してくれる。

  この二つの特記すべき性能は、レンズ価格が10万円を軽く超す高級レンズに搭載されている性能と同じだ。

  もう一つ忘れてはいけないタムロン独自開発の“手ブレ補正機構「VC(Vibration Compensation)」”を搭載している。この手ぶれ補正機構は、まずレンズ内にあるジャイロがブレを感知しそのブレ幅を駆動コイルに伝える。駆動コイルは3つあり、3つのスチールボールを介して手ブレ補正レンズ(VCレンズ)を電磁的に駆動させるものだ。すでに搭載されている18 -270mm[B003]、28-300mm[A20]、17-50mm[B005] によって実証済みだ。使用してみると「VC」をONにすれば、ファインダー内の被写体は手から伝わる細かい振動によるブレはほとんどなく、望遠での撮影時に被写体があまりブレないのでフレーミングしやすくなる。

 

手ぶれ実験

 では実際に手ぶれの限界を見てみる。室内にある時計を「VC」スイッチをONで3回、OFFで3回ずつ撮影してみた。シャッタースピード1/8、絞りをF8に固定。持つ手は通常通り両手でしっかり構えている。

70mm シャッタースピード 1/8

VC-ON

VC-OFF

 

300mm シャッタースピード 1/8

VC-ON

VC-OFF

 さすがに300mmでの撮影では手ブレ補正ONでもややブレが見られるが、1カットはしっかり止まっている。それに比べOFFでは2枚が酷いブレになってしまっている。また70mmでは手ブレ補正ONは3枚とも止まり、OFFでは3枚ともブレてしまっている。

 このテストを条件を変えて試してみたところ、私は300mmでは1/8、70mmでは1/4でのシャッタースピードで撮影可能だった(限界値に近いシャッタースピードで撮る場合は、しっかり構えて数枚撮れば必ず完璧な写真が撮れる。なお使用者や条件によってシャッタースピードの限界は違うので、いろいろ試して自分の限界を掴んでいると良い作品作りに役立つだろう)。

細かく強く振りながらの撮影実験 シャッタースピード 1/8

 下の写真はまた縦方向や横方向に小さな振動を与えながら撮影したところ、シャッタースピード1/8で「VC」OFFでは酷いブレだが、ONでは微かなブレが止まり、等倍で見ない限りわからない範囲であった。これならば三脚を持ち歩かなくても良さそうだ。


  • ON

  • OFF
縦や横に細かく振りながら「ON]と[OFF」で6回ずつ撮影してみた。「OFF」はもちろん悲惨な大ブレ写真。ONは100%表示しないとブレが確認できない程度であった。正直ここまで止まるとは思っていなかった。実際撮るときにはこれほど揺れることはないので、普通に撮れば完璧な「ブレて無い!写真」が撮れるだろう

 

作例を見ながらレンズの性能を確認してみよう

ズームしても安定した画質

 70mmと300mmでの写る範囲を確認してみる。


  • 70mm 1/500 f5.6

  • 300mm 1/500 f5.6
70mmと300mmで風景を撮影してみた。70mmは広角のような歪みは出ないため、見た目のダイナミックさが失われずに風景を撮ることができる。
そして300mmまでズームできるので、あらゆるシーンで効果を発揮する。

 

動画にも適した「A005」

 デジタル一眼レフカメラにも動画撮影機能が付加されるようになってきた。私のニコンD90やキヤノンEOS 5D Mark2にもあり、使ってみると従来のビデオカメラとも違う感覚で撮れてこれまた楽しい。「A005」を使ってみるとどうであろうか。手ブレ補正「VC」があるから望遠での動画が手持ちでもできそうだ。

※プレイヤーで再生可能な動画は低解像度のダイジェスト版となっています。
フル版の大容量動画は「動画をダウンロード」ボタンからダウンロード可能です

 

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    【ヤマガラとゴジュウカラ】
    いつも小鳥を撮るポイントに餌を仕掛けると、カラ類等の混群がやってくる。「A005」なら少し離れた位置から300mmで狙え、鳥たちが安心して餌を食べられるだけの距離をとれるので、とても便利。
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    【コサギ】
    都心の水辺などでもよく見られ、絵にしやすい鳥だ。夏羽では頭に2本の長い冠羽があるのだが、この時期には無い。絞りはF10で、通り過ぎるカモたちのシルエットも判る範囲のボケで何枚か撮った。その中では一番のお気に入り。
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    【フェレット】
    我が家のフェレット君は気ままな性格。あまり速く動かれると撮るのが大変だが、食事中や顔を洗っている仕草などは可愛く撮れる。D90では「ターゲット追尾AF」は使えないが、これから登場するD7000などでは「ターゲット追尾AF」で動画が撮れるのが当たり前になる。そうなれば、手持ちでも撮れる「A005」が活躍するだろう。

 

「A005」によるシーン別作例

ペットを撮る

  身近な被写体となると家族やペットだろう。「A005」が手元にあると普段の思いがけないシーンを撮ることができる。広角系ズームと合わせて用意するとよいだろう。


  • 110mm 1/500 f6.3
    動きの激しいこの子(犬)を撮るときは、手ブレ補正があっても被写体ブレが起きるのでシャッタースピードはなるべく早めにしている。

  • 95mm 1/125 f4.2
    絞ってピント域を広げたかったがシャッタースピードをこれ以上落としたくなく、絞りが解放になってしまった。こういう時はピントを目に合わせている。視線をもらうために口笛を吹いたり名前を呼んだりしている。

  • 155mm 1/1000 f10
    明るい日差しの中を散策するときのカメラ設定は「絞り優先」だ。70-300mmのズーム幅を持った「A-005」なら、このようなショットを逃さない。猫の毛並みから女性の腕の産毛までしっかり写ってしまっている。

 

高原の花を撮る

  これから写真撮影を学びたい人はまず花で練習するといいだろう。フレーミングでの絵作りから始まり、背景をボカしたり、風による被写体ブレと戦ったりとよい被写体になる。


  • 250mm 1/640 f9
    光を透けさせ花びらのピンクを美しくなるように狙った。花びらの白からピンクのグラデーションや、白い雲はつぶれずに階調があり、緑の葉など見れば豊かな表現力を持つレンズであることを実証している。

  • 300mm 1/640 f5.6
    ピントは花びらに合わせ高速シャッターで被写体ブレを軽減させるべく撮った。花びらは色飽和を起こさず階調を持っている。

  • 92mm 1/500 f6.3
    手前の花の花びらにピントを合わせ、f6.3で背景の花がほどよくぼけている。これ以上ぼかすと形がなくなるのでこの程度が理想かと思う。ピンクの質感や背景の緑から暗部のグラデーションなど良く表現されている。

 

緑を撮る

 今回の撮影は夏の終わりと一番緑が濃すぎて絵にしづらい季節だった。そのため逆光で葉に光が透過して美しく輝いた葉を主に撮ってみた。


  • 300mm 1/250 f6.3
    葉の交差の仕方がおもしろく広角で撮ったような雰囲気もある。逆光で葉の色を黄緑にし、背景の森の切れ目をセンターにすることで、上からの光に向かって伸びる草のイメージにしてみた。

  • 160mm 1/80 f4.8
    手ブレ補正がないと1/80秒でも難しい撮影である。見事に止まり産毛?や最初の2枚葉の下に糸のようなものが見える。

  • 145mm 1/250 f5.6
    トチノキの臨場に広がる大きな葉を、全体でなく1枚を主役にして撮って見た。背景が暗く落ちる角度にしてコントラストを高めた。

  • 102mm 1/80 f10
    ハスが群生しているのを表現するため、ピント域を多少広げて密集している感じにしてみた。手ぶれ補正が優秀な「A005」とはいえ、さすがに被写体ブレしやすいので、シャッタースピードが1/80では、風がやんだその一瞬がシャッターチャンスだ。 

 

水辺の撮影

 海や湖そして小さな池でも季節や天気によっていろいろな表情を見せてくれる。とくに天気が良いと水の色が鮮やかになったり、映り込みが綺麗だったりと撮影が楽しくなる。


  • 300mm 1/250 f5.6 -1/3
    太陽が雲に入ったのでダークなイメージで撮ってみた。ややトリミングした方が絵になりそうだ。

  • 175 1/160 f10 -0.7
    久しぶりに出会ったくちばしに特徴のあるハシビロガモ。とっさの撮影だが、嘴にある藻などを濾すクシ状のものまでよく見える。

 

動物園で動物を撮る

 群馬サファリパークで許可を得て動物を撮ってみた。サファリパークは車の窓は開けられないので、入園前に窓をよく拭いておくことが必要だ。UVカットの窓だとやや色が違ってしまうが、RAW現像時に色補正をしてやるとよい。

※撮影協力:群馬サファリパーク http://www.safari.co.jp/

 

最後に

今回、「A005」を使用しての感想は、初めてファインダーを覗いた時にピタッとすいつくような手ブレ補正「VC」で画面構成がしやすかったのに驚いた。そして、安定したファインダーで被写体を観察しながら撮影できることは新鮮であった。出来上がった作品を見ると、コントラストのしっかりとした絵作りは特殊硝材XLD(Extra Low Dispersion)レンズのおかげかもしれない。

この70-300mmというズーム幅は日常のあらゆるシーンで活躍するだろうし、高性能な手ブレ補正「VC」と容易なピント合わせを実現した超音波モーター「USD」を装備した「A005」はとにかく「便利」で「楽」。そんな感じであった。タムロン創業60周年記念モデルだけあって、そうとう気合が入っているレンズだと感じた。

 

■Photographer 若林 直樹

若林 直樹雑誌、広告等の仕事の傍ら、ライフワークとして自然や癒される空間を求めて国内外を旅している。 撮影対象はICチップからアフリカ象まで幅広い。デジタルカメラは1995年からコンパクトからプロ機までテストレビューに携わる。 自宅ではフェレットをこよなく愛し、我が家で生まれた5匹と暮らす。
いつかフェレットの写真集を出そうと企み中。HPは http://homepage2.nifty.com/nao-w/

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デジタルカメラマガジン2010年11月号(10月20日売)ではタムロンのSP 70-300mm F/4-5.6 Di VC USD (Model A005)で撮影した作例と共にカメラマン製品レビューを行います 。

またGANREF(http://ganref.jp/)では選定されたGANREFユーザー6人によるタムロンのSP 70-300mm F/4-5.6 Di VC USD (Model A005)を使ったモニター企画を10月中旬から実施いたします。詳細についてはGANREFにてご確認ください。