ドライバーのためのデジタルツールである「カーナビゲーション」。 目的地をセットすれば、すぐに最適なルートを探し、道案内をしてくれるなど、快適なカーライフには欠かせないアイテムのひとつだ。そんな定番的な存在のカーナビにも新しい流れが生まれつつある。Panasonicから発売された「Strada(ストラーダ)」は、2011年から全国に展開されている「DSRC」によるITSスポットサービスに対応するほか、これまでの多くのカーナビと違い、フリックやピンチイン/アウト、スワイプといったスマートフォンやタブレットのような感覚で操作できるなど、新しいユーザビリティを実現した革新的なカーナビゲーションシステムだ。実際にクルマに搭載された製品をいち早く試すことができたので、その実力をチェックしてみよう。

発売されたばかりのStrada Rシリーズ「CN-R500WD」で、今どきのカーナビの使い勝手をチェックする

進化を続けるカーナビ

 改めて説明するまでもないが、クルマは移動手段のひとつだ。しかし、単に移動のためだけにクルマを利用しているわけではなく、ドライビングそのものを楽しんだり、同乗者とコミュニケーションを図ったりと、そこにはさまざまな『楽しみ』が存在する。特に、クルマは他の交通手段と違い、基本的には閉じられた空間であるため、快適なドライビングには外部との「つながり」が重要なカギを握ることになる。このつながりは人とのコミュニケーションに加え、刻々と変化する周囲の情報をいかに効率よくやり取りするかも重要になってくる。

 こうしたクルマの環境を大きく左右するのがカーナビの存在だ。おそらく、多くの人が自分や家族のクルマなどでカーナビを愛用しているだろうが、筆者自身も長らくカーナビを愛用し続け、今やカーナビなしではクルマの運転がつまらなくと感じるくらいだ。

 そんなカーナビもこの20年近くの間に、大きな進化を遂げてきた。記録メディアはCD-ROMからDVD-ROM、HDD、SSD(SD)へと様変わりし、地図や情報を表示するディスプレイも徐々に大画面化やワイド化が進んできた。エンターテインメントも音楽からDVDなどの映像コンテンツが再生できるようになり、テレビもアナログからワンセグや地上デジタル放送テレビへと拡がってきた。

 こうしたカーナビのさまざまな進化において、今、注目を集めているのがユーザビリティの部分だ。カーナビは言うまでもなく、ディスプレイに地図や交通情報など、さまざまな情報を表示する。これらを見ながら、ドライバーは運転をするわけだが、目的地の設定や周囲の施設の検索、交通情報のチェックなどのために、カーナビ本体を操作することになる。ひと昔前のカーナビでは、リモコンを使っていたが、現在では画面に直接、タッチして操作する「タッチパネル対応」が圧倒的な主流だ。画面に直接、触れられるようになったことで、直感的な操作ができるようになったが、ここ数年、自分たちの身のまわりにある最新のデジタルツールと比べると、ちょっと違和感を覚えることもある。というのもこれまでの多くのカーナビのタッチ操作は、基本的に「触れる」だけであり、触れたことによって表示されるメニューなどを再び順に触れながら操作している。

 これに対し、ここ数年で私たちの身のまわりに急速に増えてきたデジタルツールは、単純に「触れる」だけでなく、指先の動きによって、新しい操作を実現している。たとえば、スマートフォンやタブレットでよく利用される「フリック」や「ピンチイン/ピンチアウト」「スワイプ」「スライド」といった操作だ。スマートフォンやタブレットの操作に慣れ親しんでしまうと、カーナビを操作しようとしたとき、ついフリックやピンチインなどの操作をしてしまうことはないだろうか。おそらく、多くのユーザーが何度となく、経験しているはずだ。

 また、同時に画面の遷移についても、多くのカーナビでは、操作する機能や項目によって、画面が切り替わる仕様を採用しているが、スマートフォンやタブレットでは機能が並ぶメニューがスクロールする構成を採用しており、スムーズな画面の切り替えと共に、快適な操作感を演出している。

 今回、Panasonicから発売された2013年モデルのStrada Rシリーズは、まさにこうしたスマートフォンやタブレットで採用されている操作を積極的に取り込むことにより、今までのカーナビにはない新しい操作感を実現したモデルだ。操作性の面以外では、2011年から全国展開が開始されているDSRCによるITSスポットサービスにも対応し、広域渋滞情報を活かした最適なルートを探索できるうえ、スマートフォンと連動することにより、アプリで行き先を検索したり、スマートフォンのコンテンツをカーナビでも利用できるなど、一歩進んだ快適なナビゲーション&エンターテインメントの環境を楽しむことができる。

StradaのRシリーズにはDSRC車載器「CY-DSR110D」と、ナビとの接続用ケーブルがセットになったモデル(CN-R500WD-D)がラインアップされる

新しい操作性とクリアな画質

ピンチイン/ピンチアウトによる地図の拡大・縮小にも対応

 スマートフォンやタブレットを利用しているユーザーにとっても気になるPanasonicのStradaだが、実際のユーザビリティはどうなのだろうか。

 まず、カーナビに必須の地図の拡大や縮小についてだが、これまでの多くのカーナビでは画面に表示された拡大や縮小を表わすボタンなどにタッチして、段階的に切り替えていた。これがStradaでは、地図を表示中、ダブルタップで縮尺を詳細に切り替え、2本の指で画面に同時に触れる2点タッチで縮尺を広域に切り替えられる。また、画面に触れた2本の指の間隔を拡げるピンチアウト、逆に指の間隔を狭めるピンチインでも縮尺の切り替えが可能だ。これらの操作は一部を除けば、基本的にiPhoneやiPadのマップなどと同じで、レスポンスも少しゆっくり目に操作すれば、確実に動かすことができる。

【動画】ピンチイン/ピンチアウトのほか、ダブルタップや2点タッチでも地図の拡大・縮小ができる
メニュー画面でもドラッグによる操作が可能で、スマホ感覚で扱うことができる

 また、カーナビではさまざまな機能を利用するとき、メニュー画面を操作するが、Stradaではトップメニューで機能を選ぶとき、次画面への切り替えをドラッグで切り替えたり、一覧表示されているリスト形式のメニューもフリック操作で項目を移動したりすることができる。画面に表示されたスクロールボタンを何度もタッチしていた従来の環境から比べると、直感的で非常に快適に操作することができる。スクロールの速度はスマートフォンやタブレットほどではないものの、十分に実用的な速さで表示されるため、ストレスなく使うことができる。

【動画】ドラッグ操作でスライドするように動くメニュー画面はスマホの操作感そのもの

 そして、Stradaに搭載されているオーディオ&ビジュアルの機能もタッチ操作でコントロールすることができる。たとえば、音楽を再生中、画面上を上下になぞれば、音量を調整でき、左右のフリックで楽曲のスキップやバックが操作できる。デジタルTVの視聴中なら、左右フリックでチャンネルの変更にも対応する。このあたりもスマートフォンやタブレットとほぼ同じ操作体系が割り当てられており、迷わずに操作ができる。

【動画】モーションコントロールのモードを切り替えると、画面をなぞるだけで選局やボリューム調整ができるようになる
ナビの右下にアプローチセンサーがあるので、右席から手を近づけると、反応してランチャーメニューが表示される

 こうしたカーナビに搭載されたオーディオ&ビジュアル関連の機能を利用するには、ほとんどの場合、地図モードから機能の切り替えが必要になるが、Stradaの場合、画面の左右端からスワイプすることで、簡単にオーディオやデジタルTVの画面に切り替えることができる。信号などで停止したとき、再生中の楽曲を変えたかったり、同乗者のためにデジタルTVに切り替えたりしたい場合でも画面をスワイプするだけなので、短時間で操作でき、非常に便利だ。ちなみに、このスワイプインの操作の内、上端からのスワイプインでは案内中のルート前方の渋滞・規制情報を表示し、もう一度、スワイプインの操作をすれば、すぐに消すことができる。メニューを操作したり、地図をスクロールさせなくても簡単に渋滞情報を確認できるわけだ。

 さらに、これらの操作関連でユニークなのが本体右下の部分にアプローチセンサー(近接センサー)が内蔵されていること。手を近づけると、ランチャーメニューが表示されるしくみになっているのだ。使いはじめたときは本体の前に手を近づけることで、画面が変化するため、ちょっと戸惑うが、しくみがわかると、普段は画面にアイコンなどが表示されず、すっきりとした画面で地図を見ることができるため、その存在意義がよくわかってくる。

【動画】手を近づけるとアプローチセンサーが感知しランチャーメニューを表示する。加えて画面をスワイプすると、オーディオソースや地デジに切り替えができる
ランチャーメニューに何を表示するかは、好みに合わせて選ぶことができる
静電容量式のおかげで、スマートフォンのようなフリック操作やピンチ操作を実現できている

 ところで、こうした一連のタッチ操作に関連するユーザーインターフェイスだが、これまでカーナビでは難しかったのだろうか。スマートフォンやタブレットを触ったことがある人ならお気づきだろうが、これまでの多くのカーナビのディスプレイは、基本的に感圧式のタッチパネルを採用しており、画面にタッチするというより、「軽く押す」という操作感だった。そのため、フリックやスワイプなどの操作ができなかったが、Stradaはスマートフォンやタブレットと同じ静電容量式を採用しているため、こうしたユーザビリティを実現しているわけだ。

 そして、この静電容量式タッチパネルを採用していることは、カーナビを使ううえで、もうひとつ大きな違いを生み出している。それはディスプレイの視認性だ。感圧式のタッチパネルは構造上、液晶パネルの上にタッチしたことを検出する抵抗膜を重ねているため、画面が暗くなったり、画面のキズや汚れなどで乱反射が起きたりしてしまうことがあった。これに対し、静電容量式タッチパネルを採用したStradaは、ディスプレイの表示が非常にクリアで、地図も映像コンテンツも非常に見やすい。ちなみに、静電容量式を採用するRシリーズ/Lシリーズ/Hシリーズはいずれもガラス面に空気の層がないクリアパネルを採用しているため、乱反射や映像の拡散を大幅に低減できている。スマートフォンなどと同じように、利用環境が刻々と変化するカーナビのディスプレイだからこそ、こうした視認性を考慮した構造は非常に有意義というわけだ。

表面が平滑で空気の層がないクリアパネルと高輝度のLEDバックライトを組み合わせることで色再現性が約30%アップ

DSRCによるITSスポットサービスに対応

試乗車にはDSRCセットが装着されていた。DSRCはETCとしての機能も果たす

 冒頭でも触れたように、クルマは基本的に閉じられた環境であるため、外部との情報のやり取りが重要になってくる。なかでも渋滞情報をはじめとした道路交通情報は、快適なドライブに欠かせないものだ。

 こうした道路交通情報については、長らくカーナビ向けにVICS(Vehicle Information and Communication System)が提供されてきた。筆者の愛車もそうだが、おそらく多くの人が利用するカーナビは、電波ビーコンや光ビーコンを受信するためのユニットが接続されていて、高速道路や一般道を走行中に受信した情報が、カーナビに渋滞や所要時間、交通規制などの情報として表示される。この電波ビーコンや光ビーコンを利用したVICSは渋滞情報などを知るうえでも有用だが、実際に利用していると、今ひとつ情報量が足りないと感じたり、最近では「助手席の人にスマートフォンで交通情報をチェックしてもらった方が……」といった印象を持ったりしてしまうことが増えている。

 これに対し、StradaのRシリーズには、DSRC車載器セットモデル(CN-R500WD-D)も用意され、DSRCによって提供されるITSスポットサービスやETC(料金収受システム)が利用できる。

 DSRCは「Dedicated Short Range Communication」の略で、ITS(Intelligent Transport Systems/高度道路交通システム)で採用されている狭域無線通信の技術を指す。この無線通信を使い、料金所ではETCとして料金を支払ったり、高速道路などではITSスポットサービスを受けられたりするというわけだ。

 こう書いてしまうと、今までのVICSとあまり変わらないような印象を受けてしまいそうだが、従来の高速道路で使われていたVICS電波ビーコンでは、合計最大200km分の交通情報しか受けられなかったのに対し、DSRCでは最大1~4Mbpsのデータ伝送が可能なため、最大1000km分の交通情報を受信し、この情報を元に最適なルートを導き出すことが可能となる。この1000kmという距離は自分が走行するルート1本分の距離ということではなく、ITSスポット前方に存在する複数の道路網の合計が1000km分ということ。つまり、いくつものルートの選択肢がある都市部の高速道路などで特に力を発揮する。ちなみに、VICS電波ビーコンは設置道路前方の交通情報が中心であったため、渋滞情報を活用したルート変更には情報が不足していたが、DSRCによるITSスポットサービスの広域渋滞情報を活用することにより、最適な渋滞回避ルートへの変更が可能となった。

DSRCを使えば、従来のVICSではキャッチできなかった広範囲での渋滞情報を考慮したルートを選ぶことができる

 DSRCによるITSスポットサービスは、すでに2011年3月に全国展開がスタートしており、全国の高速道路本線状を中心に約1600カ所にITSスポットが設置されている。2012年に開通したばかりの新東名高速道路にもITSスポットが設置されており、今後、開通する高速道路にもITSスポットが設置される。その一方、従来のVICS電波ビーコンは原則として新規には設置されない方針で、今後の道路交通情報はDSRCが主流になると言われている。

 今回は実際に、2013年モデルのStradaを搭載したデモカーに乗り、首都高速や東関東自動車道を走行したが、従来のVICSのみのカーナビを搭載したクルマを運転していたときに比べ、非常に情報量が豊富なうえ、交通情報も音声で読み上げるため、常に安心して運転することができた。

進行方向の渋滞状況を表示するのは従来のVICSと同様だが、DSRCの場合、音声データも提供されるので情報を読み上げてくれる

 また、ITSスポットサービスは単純に渋滞情報を提供するだけでなく、高速道路上の危険な場所の情報を随時、提供してくれるのも非常に心強い。たとえば、前方に急カーブがあるとき、落下物が落ちているとき、事故車が居るときなど、グラフィックと音声によるアナウンスにより、注意を促してくれる。なかには定点カメラからの写真を利用したリアルタイムの情報も提供されるため、渋滞の様子なども早めに知ることができる。

料金所手前で表示された注意警戒情報。音声でも案内される   首都高4号線の新宿IC付近の急カーブ手前では急カーブの注意警戒情報が表示
合流手前の注意警戒情報   工事手前の注意警戒情報
どの車線を工事しているかも表示   渋滞が起きやすいエリアの画像情報も表示される
高速道路上のSA・PA情報も表示   ETCとしても利用でき、支払い料金がカーナビに表示される

 今回は東京の西側から都心を通って成田空港まで行ったり、さらに成田から横浜の八景島を目指したりするようなルートを試してみた。いずれも複数のルートがあるものの、あいにくそれほどひどい渋滞にも会わず、スタート時にセットしたルートが頻繁に変更されることはなかったが、それでも広範囲の渋滞情報を受信し、新しいルートが案内されるシーンには遭遇した。最近は圏央道や新東名など、従来のルートを迂回できるような高速道路が次々登場しているし、おそらく、夏の帰省ラッシュや行楽シーズンの渋滞では、従来のVICSのみによるカーナビに比べ、DSRCによるITSスポットサービスを利用できるカーナビの方がスムーズにドライブできるケースが出てきそうだ。

自宅のある世田谷区から仕事でもよく利用する成田空港を目指す   有料優先や距離優先など5つの推奨ルートから選べる。さらにルートチューンで好みの優先度を選んでおくことも可能
環状線をどう走るか、湾岸線を使うか京葉道を使うかなど、ルートの選択肢が多い成田までの道のり。DSRCを考慮する前は環状線外回りから湾岸線を通るルートを選んだ
渋滞が予想される8時台に首都高に乗ったが、この日は最初に選んだルートが空いていたためリルートは行われなかった
今度は千葉から横浜の八景島を目指すルート   渋滞している湾岸線を通すためわざと距離優先のルートを選択
DSRC情報をつかんで渋滞考慮でリルートがかかる   どうやら30km以上先のゲートブリッジ付近の渋滞を考慮したようだ

新しいユーザビリティとDSRC対応がカーナビを進化させる

 カーナビはその名の通り、クルマの道案内をするためのデジタルツールだが、それは単純にルートを案内するだけではなく、さまざまな交通情報を反映した最適なルートを案内すると同時に、ユーザーにわかりやすく伝えてくれることが望ましい。そして、ユーザー自身もそのカーナビを快適に操作できることが大切になってくるが、Strada Rシリーズは、まさにユーザーが求めるものをしっかりと実現し、今までのカーナビを一歩も二歩も進化させたことを実感させてくれる。

 2013年モデルのStradaにはこれらに加え、スマートフォンとの連携機能も実現されているが、それについては後編でしっかりと解説する予定なので、ご期待いただきたい。

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