カーナビは一度買うとなかなか買い替えないデバイスだ。車を買い替えてもカーナビは次の車に持ち越す…なんていう場合もけっこうよくあることだ。
だからこそ慎重に選びたいもの。
それに、長年、一台のカーナビを使っていて、そろそろ本気で買い換えを検討し始めている人も多いはずだ。そう、テレビのアナログ放送が終わってしまうからだ。テレビ機能のデジタル対応化を想定して買い換えを検討しているユーザーは少なくないはずなのだ。かくいう筆者もその1人。筆者のカーナビは他社の少し前のモデルで、地図データは2006年度版に有償アップデートしたが、テレビチューナーはアナログ放送に対応しているのみ。このモデルに限ったことではないが、カーナビのアナログテレビ放送は、いつもチラチラして見えているし、全くテレビが見られなくなる前に買い替えをしたいと思っていたのだ。
そんな中、たまたま候補に挙げていたパナソニックのStrada CN-HW830Dの評価を依頼され、まさに「渡りに船」状態。しかも、パナソニックのご厚意により、実機の貸し出しがOKとなり、しかもそれを自分の車に搭載して評価してもよいことになったもんだから、筆者のテンションは最絶頂!
そんなわけで、自分の車に搭載して"自分のもの"的なリアルな視点で評価したのが今回のレポートになる。
カーナビは大別すると
(1)起動時に画面がせり出して起き上がるタイプ
(2)2DIN(※)の本体ボディに画面がはめ込まれているタイプ ※DIN:ドイツ規格協会
(3)本体と画面が分離していて画面をダッシュボードに設置するタイプ
…の3タイプに分かれる。
では、どれを選べばいいのか。
前者2つをインダッシュタイプ、最後のものをオンダッシュタイプと呼ぶことがあるが、オンダッシュタイプは画面を特別大きなものを用意したりするような場合や、DINタイプのスロット機構を持っていない車に取り付ける場合に選択するもので、多くの一般ユーザーであれば、前者2つのインダッシュタイプを選択するのが一般的だと思う。
(1)の画面がせり出してくるタイプは、せり出した画面がエアコンの風出口を塞いでしまったり、車の各種操作パネルを遮ってしまったりすることがある。よって搭載する車を選ばないのは画面が2DINボディにはめ込んであるタイプの方だ。筆者の車のRX-7(FD3S)は(1)の画面がせり出すタイプだと、エアコンの操作パネルを画面が塞いでしまうため、画面はめ込みタイプの方が都合がよい。
その意味で、(2)タイプのCN-HW830Dはちょうどよかったのである。
ちなみに、(2)の画面はめ込みタイプは画面が固定と思われがちだが、CN-HW830Dでは画面の角度を変えることができる。RX-7では2DINスロットがセンターコンソールの下の方に位置しているため画面をやや上に傾けた方が、運転者はもちろん、助手席からも見やすい。調整は7段階で行え、調整結果は車のエンジンを切ったあとも保存される。
カーナビは、やはり本質機能のナビゲーションの機能がしっかりしていなければならない。
まず、第一に重要となるのは地図の見やすさだ。
この点、CN-HW830Dの液晶画面は2DINサイズ一杯の7V型ワイド画面で非常に大きく見やすい。しかも、解像度はクラス最高レベルのワイドVGA(800×480ドット)であり、画面描写がとても高精細だ。地図に書き込まれた文字は、まるで印刷された文字のようで、コンピュータ画面特有のカクカク感(ジャギー)がない。地図に挿入されるコンビニ、ファミレス等のロゴマークも簡易記号ではなく本物のロゴが正確に描き出されるので直観的にどのフランチャイズかが分かる。
道路の太さの対比も正確に描き出されているし、都市中心部に多い一方通行を示す矢印も縁取りがしてあって、道路に埋もれずに見やすい。運転席からのチラ見でも情報がスっと頭に入ってくる地図の見やすさはさすが最新世代Stradaと言ったところ。
パースを付けた3D表示モードでは、目立つランドマーク的な建物などは立体的な3Dモデルで表示されるので、実際の運転者視野と、案内地図との対応も把握しやすい。
実際に使ってみて、強く感じたのは、地図が、"映像として美しい"こと。CN-HW830Dではアンチエイリアス処理が適用されていてスムーズで、PCで見るような高精細グラフィックスとして地図表示が表示されるのだ。これは、CN-HW830Dより新搭載されたグラフィックスプロセッサ「GRiTT-2」のアンチエイリアス機能によるものだとのこと。カーナビのグラフィックスもここまで進化したのだ。
住所入力は、県名や市名などの土地名をメニュー表示から選択していく方式になるが、あいうえお順で並んでいる土地名を順繰りにスクロールさせる必要はなく、「あかさたな」タッチキーで一気に希望のひらがなへ飛ばせる機能が搭載されている。
また、実際に使ってみて便利だったのは「提携駐車場検索」機能。これは目的地としてデパート、ホテルなどを設定したときに、その施設と提携している駐車場をリストアップしてくれる機能なのだ。例えば筆者の地元さいたま市には「そごう大宮店」があるが、これを目的地として設定すると周辺の提携駐車場をリストアップしてくれて、目的地をその駐車場に設定できる。これは行き慣れた場所でも、知らなかった提携駐車場を見つけられたりするので意外に便利に使える。
それと、使っていて感心したのが、メニュー画面の動きの速さ。検索をして地図を出しては「戻る」を押して検索画面に戻る…といった操作はよく行われるが、この元の画面に戻る時の動作がキビキビしている。そして検索地点を拡大したり、スクロールしたりするのも、とても高速。CN-HW830Dではゲーム機のような小気味よい速度でスクロールしてくれる。
CN-HW830Dは音声案内の自由度も高い。実際に筆者はいろいろと設定をいじってみたのだが、例えば案内音声を運転手に近いスピーカーからだけ鳴らす設定ができたり、騒音が大きくなる高速走行時にだけ案内音声の音量を自動的に上げる機能がある。また、音声案内時にはテレビや音楽の音声をミュートする機能も備わっており、音楽やテレビに夢中で案内を聞き逃すのを回避する設定もできるのだ。
そして、音声だけでなく、画面の案内も分かりやすい。
側道への誘導図や、角度が変な交差点で曲がる場合にはどう曲がるかのイラストを、道路脇の目印となる有名店舗などのロゴマークと合わせて表示してくれる。さらに都市部に時々ある複雑な交差点や建物の位置関係で曲がる先の道が見えにくい交差点は、その行き方を特別な3Dグラフィックスで表示してくれたりもする。
そして、カーナビに期待したい機能と言えば渋滞回避だ。CN-HW830Dは財団法人道路交通情報システムセンターの過去の渋滞情報を内蔵しており、日時に対応した渋滞を想定したルート案内をしてくれる。また、今回筆者が借りたシステムには別売りの「VICSビーコンユニット」も含まれていたのだが、これがあれば、その時点でのリアルタイムの渋滞情報や交通規制情報を反映したルート案内もしてくれる。
もし、それでも渋滞に遭遇してしまったときには「周辺迂回路探索」機能を活用すれば自車位置から2km以内の迂回路を探索して案内してくれる。過去データ、VICS情報、迂回という渋滞への三段構えの対応力は、初めての場所へのドライブにも頼もしいし心強い。
筆者は「CN-HW830Dはハイコストパフォーマンスモデルである」と聞いていたので、ナビの機能にはあまり期待していなかったのだが、実に優秀。この点についてパナソニック側に突っ込んで聞いてみたところ、カタログに特に記載されていないが、実は、カーナビの本質機能については、上位のハイエンドモデルである「Strada Fクラス」のCN-HW1000D/CN-HX1000Dと同等なのだという。CN-HW830Dはオーディオ機能をはじめとしたAV/エンターテインメント機能ではFクラスには及ばないが、カーナビの本質機能に劣っている部分はないのである。
オーディオ機能に欲張らず、カーナビの本質を重視する人であれば、CN-HW830Dは上位を食うほどの魅力ある製品だというわけなのだ。
カーナビは今や車内エンターテインメントの要。オーディオ&ビジュアル(AV)機能は充実していればいるほど嬉しい。CN-HW830Dでは、2つの広域・高感度アンテナが2つの地デジチューナーに接続され、この2つのチューナーが連携して正しい受信データを再構築する2×2チューナーを搭載している。このため、実際に使用したときも、頭上に別の道路が走っている場所や、周囲にビルが建ち並んだ都市部でも安定した画質でテレビ放送が楽しめた。電波状態によってSD映像のワンセグとハイビジョンの12セグ映像が切り替わるが、その切り替わりは非常にスムーズで、見ていて不快感はなかった。加えて、地デジ放送を視聴中に移動によって受信状態が悪くなり受信が困難になると、自動的に新たな中継局を探しだし、見ていた番組を引き続き楽しむことができる「オート中継局スキャン機能」もついている。
テレビ視聴関連の特殊機能で、使ってみて特に便利だと思ったのは2画面機能。
CN-HW830Dでは、ナビ画面とテレビ/DVD映像の画面を横に並べたり、ナビ画面の中に子画面としてテレビ/DVD映像をはめ込んで表示する2画面機能にも対応しているのだ。まさにVIERA並の高機能。これは安価なカーナビにはない特権的な機能なので、ぜひ活用しよう。
CN-HW830Dは標準でDVDドライブを搭載していて、本体のみのオプションいらずでDVD映像が楽しめてしまう。実際に再生してみたが、さすがはワイドVGA画面。出力映像はとても高品位だし、迫力もある。CN-HW830DではDVDサウンドはバーチャルサラウンド機能のSRS CS Autoを活用して疑似5.1chサラウンドで再生される。筆者の愛車のRX-7はスポーツカーではあるが、標準でちゃんと4スピーカーが搭載されているので、今回の評価ではリアスピーカーもCN-HW830Dに配線した。このため筆者の愛車でも、ちゃんと音像に取り囲まれたような臨場感あるサウンドが楽しめたことを報告しておく。
なお、DVD再生は市販のDVDだけではなく、DVDレコーダ等で録画したVRモードのDVD-R/RWメディアの再生にも対応しているので、録り貯めた録画ビデオをドライブの合間に楽しむこともできる。
メディア | 700シリーズ | 800シリーズ | |
---|---|---|---|
CD | CD-R/RW | ○ | ○ |
オーディオCD | ○ | ○ | |
MP3 CD | ○ | ○ | |
WMA CD | × | ○ | |
DVD | DVD-R/RW | ○ | ○ |
VIDEOフォーマット | ○ | ○ | |
VRフォーマット | × | ○ | |
SD | HDDコピー | MP3のみ | MP3・WMA |
SD-Audio | AACのみ | AAC・MP3 |
「ドライブの合間などに映画を見る気にはならない」という人でも、ミュージックライブのDVDや、音楽番組の録画などを楽しむのはアリなはず。CN-HW830DにはCLUB,STADIUM,THEATER,BARN,HALL,CATHEDRAL,CHURCHなどの音場プログラムも搭載されているので音楽映像プログラムをライブ会場の生音ぽく楽しむことができるのだ。
実際に、使ってみて、さりげなく嬉しかったのは、デジタルカメラで撮影した写真を再生できる機能。CN-HW830DにはSDカードスロットも搭載されているので、パソコンを介さずにデジタルカメラで撮影したまんまの写真入りSDカードを閲覧できるのだ。
高性能なサウンド以外にも、さまざまな映像エンターテインメントが最新機のCN-HW830Dではいとも簡単に、しかも高い自由度を持って楽しめることに、やはりまたまた感激してしまう筆者なのであった。
HDDに音楽を録音できるHDD MUSIC機能ももちろん搭載されている。筆者が使っていたカーナビではCDを最初から最後まで再生し終わらないと録音されたことにならなかったが、CN-HW830DではCDのリアルタイム再生と平行して高速録音が実行されるので、CDを最後まで聞き終わらなくても録音が完了してしまう。パナソニックによれば平均的なCDアルバムであれば約10分ほどで録音を完了できるとのこと。
借りたCDを再生しながらレンタルショップに返しに行けば、聞いている曲は再生途中でも、ショップに着く頃にはCN-HW830D側の録音は完了している…なんてことも普通にあり得るわけだ。これは便利すぎて怖い…。ちなみに、CN-HW830Dの初期状態のハードディスク空き容量は約17GB。CD1枚が100MBと概算しても170枚分のCDは入るはず。なお、CD録音時のコーデックは高音質のAACとなっている。
さてさて、音楽ファンならば自前のPCにMP3やWMAなどで音楽ライブラリを構築している人が多いだろう。いくら録音が早いといっても、もう一回、自分のCDライブラリを車に持ち込むのは面倒だと思う人は多いはず。
CN-HW830Dでは、自分のMP3/WMA音楽ライブラリをSDカードに保存すれば、これをCN-HW830D側のハードディスクにコピーすることができる。すなわち自分のPC上の音楽ライブラリをCN-HW830D側にクローニングすることができるのだ。やり方は簡単で「情報/設定」メニューから「データ」タブ-「SD読み込み/保存」からMP3/WMAフォルダを選んでコピーするだけだ。これも嬉しすぎる機能だ。
音楽環境をiPodに構築しているというユーザーであれば、iPod側の音楽を中心に楽しむことも可能だ。オプションは不要で、本体付属のUSBケーブルとiPodを繋ぐだけでOK。USB接続なのでデジタル再生になるため音質面でも不安はない。
筆者も実際に自分の音楽ライブラリの一部をCN-HW830Dへ移して、色々な楽曲を再生してみたが、愛車のスピーカーシステムは元のままなのに、自前旧カーナビの時よりも音質がいいことに気がついた。
実はCN-HW830Dはデジタル素子の要塞であるカーナビでありながら、アナログ素子…具体的にはサウンド再生に関連したアンプ部に良質部品を使用しており、アナログ面の音声回路の素性もいいのだ。その結果、粒立ちのよい明瞭感のある、スピーカーランクが1段上がったような聴感をもたらしたというわけだ。
なお、車内が静かなタイプの車であれば、CN-HW830Dに搭載されたこだわりのオーディオモード「音の匠」モードを利用するといい。これは音楽エンジニアリングのプロ集団MIXER'S LABが手がけた特別なサウンドプログラムで、CN-HW830Dの高品位音楽再生機能のホットトピック機能として訴求されている。
しかし、筆者の車はスポーツカーで走行音が大きかったため、この機能よりも、ちょっと前に触れたSRS CS Autoを活用した方がしっくり来ていた(※SRSと「音の匠」は排他使用をパナソニックは奨励している)。また、筆者の愛車のようなスポーツカーの場合、スピーカーがドアの下部にあるため、再生音が走行音と混じって聞きづらくなるのだが、このSRSプログラムに含まれるSRS FOCUSという「音像を聴感上上に持ち上げて定位させる」機能が便利に活躍した。低いエンジン音の中に埋もれる低音をスピーカーをビビらせず増強するSRS TruBass機能も、RX-7とは相性がよかった。ややマニアックなアドバイスで恐縮だが、スポーツカー乗りにはこのSRSの一連の機能は効果が大きかった事も報告しておく。
そうそう。CN-HW830DにはスタンダードモデルとしてCN-HW800Dが存在する。きっとCN-HW830Dとの違いはどこにあるのか気になった人も多いと思う。
実は、両者は、ここまで述べてきたナビやエンターテインメント関連の機能は全く同じで、違いはBluetooth無線インターフェースに対応しているか、いないか、だけ。
CN-HW830Dが対応しているモデルで、CN-HW800Dの方が未対応のモデルとなる。CN-HW830DにおけるBluetooth機能とは具体的にいうと、Bluetooth対応機器を無線接続する機能のこと。
音楽ライブラリをBluetooth対応の携帯型音楽プレイヤーや携帯電話で構築している人は、ワイヤレスにCN-HW830Dと接続して再生することができるのだ。
CN-HW830Dにはマイクも付属してくるのでこちらの声は車内にセットしたマイクが拾ってくれるし、電話相手の声はスピーカーから鳴るので、イヤホンなどをせずに通話ができるのだ。これはハイテク&セレブ気分。
さらに、Bluetoothワイヤレス接続した携帯電話経由でインターネットを利用した各種データ通信も行える。具体的にはHDD MUSICに録音したCDDB情報を取ってきたり、自宅にセットしたホームセキュリティカメラの映像を確認したりすることが行える。
CN-HW830DとCN-HW800Dの標準価格での価格差は10,500円。Bluetooth機能はCN-HW800Dに後付けできないので、ちょっとでもこの機能が気になるのであれば上位モデルのCN-HW830Dを選択した方がいいだろう。
最上位モデルであるFクラス譲りの充実したナビ・AV機能を搭載しながら、Fクラスとの価格差は約10万円(標準価格で)。この価格でこの機能を実現したのは素晴らしいことだと思う。また、現在CN-HW830DおよびCN-HW800Dを購入し、Webを通じてユーザー登録をすれば、2010年度更新版もしくは2011年度更新版の地図ソフトが無償でもらえるキャンペーンがパナソニックサイト上で実施されている。キャンペーンは2009年3月31日までとなっているので、この機会を見逃さないようにしよう。
次回は、インターネット上のStradaユーザー向けポータルサイト「おでかけストラーダ」で行楽プランを立てて、これをCN-HW830Dに転送して実際にドライブを実践してみたいとおもう。
果たしてどうなるか…乞うご期待!
(トライゼット西川善司)
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