ソニー サウンドバー開発陣が語る「HT-ST7」の“凄さ”
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ソニーがその力を結集して完成し、「お手軽なオーディオシステム」というサウンドバーのイメージを打ち破るオーディオ機器として登場した「HT-ST7」。AVライターの鳥居一豊が設計に関わった面々を直撃し、その優れた音質と音場再生の秘密を解き明かす。
なお、HT-ST7の「映画の音」について迫った前編記事も是非、併読されたい。

ダブルモノコック構造をはじめとし サウンドバーの枠を超えた筐体設計

鳥居HT−ST7はサウンドバータイプの常識を超えたサラウンド音場を再現できる凄い製品です。その音を体験するほど、「これは、ユニット構成や電気的な制御だけではなく、あらゆる面で徹底的に音にこだわって作っているな」と実感します。そこで今回は、HT-ST7の開発に関わった面々に集まっていただき、その秘密をすべて聞き出してしまおうと思っています。 まず筐体に関してなのですが、設計担当の榎本さんと、音質全般に関わった三浦さん。HT-ST7はサウンドバーとしては他と比べて大きめの筐体となっていますね。どうしてこのサイズになったのでしょうか?

ホームエンタテインメント&サウンド事業本部 サウンド2部 榎本正樹氏。主にHT-ST7の筐体設計を担当した
ホームエンタテインメント&サウンド゙事業本部 サウンド開発部 アコースティックマネージャー 三浦宏司氏。主にHT-ST7の音質全般を担当

榎本大きさは、まず横幅ありきです。よく使われている40V〜50Vクラスの薄型テレビと組み合わせることを想定し、108cmの横幅としました。高さや奥行きは、ユニット構成やオーディオ基板を組み込んでいった結果こうなったものですが、実は試作の段階ではさらに大きく、そのままでは商品として成立しないサイズでした。材料と構造の工夫で、音質を向上させつつ、コンパクトになるようにしました。

三浦なぜそこまで大きくなったかというと、ひとえにHT-ST7の「構造」に起因します。一般的なサウンドバータイプの製品は、外側のボディ=シャーシとなっており、そこにユニットやオーディオ基板を直接取り付けます。ですが、そうするとユニットの振動が基板に直接伝わり、音に影響を与えます。それは絶対に避けたかったので、HT-ST7では「ダブルモノコック構造」を採用しました。

榎本まずスピーカー部分は、左右の2ウェイスピーカー、中央の5つのスピーカーアレイの3つのスピーカーがそれぞれ独立したエンクロージャーを持っています。そして、基板は剛性を強化するビーム(梁)となるサブシャーシを介して取り付けました。サブシャーシはスピーカー部分とオーディオ回路部分を仕切る役割も果たしていますので、構造的には独立しています。つまりHT-ST7のボディ内部は、3つのスピーカーボックスと独立した基板の空間を持つ4室構造なのです。さらにスピーカー部にある表示基板はゴムブッシュを使ってフローティングマウントすることで、振動が伝わらないようにしています。筐体の天地面は平行面を作らない角度とし、前後面はフローティング構造を採用することで、基板への振動を抑えています。

4室の独立したユニットがボディの中に収まる、特徴的なダブルモノコック構造で振動を徹底的に抑制

鳥居メインスピーカー部にある穴はバスレフポートだとばかり思っていたのですが、穴が空いていないですね。

榎本はい。これはスピーカーボックスの強度を高めるための支柱でポートではありません。あえて筐体のデザインとして活かしています。エンクロージャーは密閉型です。

鳥居サウンドバーで密閉型というのは珍しいですね。

三浦バスレフ構造は低域を伸ばすための手法なのですが、原理的に、低域で位相が回転します。このモデルは、サブウーファーとの音質的な繋がりを最優先としましたので、あえて密閉型を採用することにしました。

HT-ST7のスピーカーユニットをよく見ると、スピーカーが前面に直接取り付けられているわけではないことがわかる。スピーカーユニットは内部のエンクロージャーに固定されているのだ。また、左脇の一見バスレフポートのようにも見える穴は、強度を高めるための支柱をデザイン処理したもの

榎本こうした構造ですと、どうしてもボディが大きくなってしまいますので、ボディにはアルミを採用しました。剛性を確保しつつ肉厚を薄くできますので、サイズの小型化に貢献します。さらにデザイナーと相談して、より小さく見えるデザインとしました。左右の側面や天面は後ろへ向かって絞り込むような形状にしています。

鳥居多面体デザインをうまく活かしながら、引き締まった形にしているのですね。

三浦こうした形状は、ボディ内部の平行面が減って定在波の影響を軽減できますから、音質の点でも貢献しています。

鳥居構造も素材も、単品コンポーネントのような贅沢な作りですね。

榎本僕自身はサウンドバータイプだけでなく、単品コンポーネントの筐体設計なども一通りやっていますので、ソニーのオーディオ製品の設計のノウハウをすべて投入しました。ほかにボディで工夫したのは、冷却ですね。

ホームエンタテインメント&サウンド事業本部 サウンド2部 寺町和彦氏

寺町小型化をすると内部に熱が貯まりやすくなります。AVアンプのように天面にたくさんの放熱穴を空けるというのはデザイン的にも好ましくなかったので、空気の流れをコントロールし、下部から冷えた空気を採り入れ、上部後方の放熱穴から排出されるようにしています。

鳥居本当だ。上部の放熱口は後方に少しあるだけですが、底面にはかなり空気穴が空いているのがわかります。オーディオ機器で冷却ファンの内蔵はありえませんから、放熱の設計は大変ですね。

寺町実はこのために放熱用のヒートシンクも新開発しました。

鳥居山形に放熱板の長さが変えられていますね。これも共振をなくすためのものですか?

寺町はい。最初は長さが揃っていたのですが、放熱設計に余裕があるとわかったので、ギリギリまで削りました。この形もいくつかの種類を試聴して比較し、音質的にもっとも優れたものを選んでいます。

ヒートシンクは端になるほど高さが短くなった山形の形状になっている。形状も含めて、HT-ST7のために開発されている

7個のスピーカーユニットは「全部同じ」ではない 磁性流体スピーカーの秘密

鳥居続いては、磁性流体スピーカーユニットお聞きしたいと思います。ソニーでは4Kテレビをはじめ、さまざまな製品で磁性流体スピーカーを採用していますが、もちろん、HT-ST7のスピーカーは専用開発されたユニットですよね。

ホームエンタテインメント&サウンド事業本部 サウンド開発部 アコースティックエンジニア 簗輝孝 氏

ボイスコイルを磁性流体で支えるダンパーレスの構造は同じですが、振動板にグラスファイバーを採用しています

三浦センターキャップはスピーカーの中央にある盛り上がった部分のことですが、この部分で高域の特性をコントロールしています。

センターキャップもグラスファイバーですが、編み目の細かさが振動板とは違っています。これも高域特性を考慮してさまざまな形状や編み目の細かさのものを組み合わせて試作しました。グラスファイバーは剛性の高い素材ですが、加工が難しいのでセンターキャップに採用するのは難しかったですね。

三浦当初はシルクや紙などの素材で試していたのですが、どうしても高域にクセが出てしまっていました。同じグラスファイバーとしたことで中高域のバランスが整い、高域まで芯のある音が出せるようになりました。

HT-ST7のために専用開発された磁性流体スピーカーユニット

実は、このセンターキャップの形状は、左右のメインスピーカーと、中央5個のスピーカーアレイでは異なっています。中央5個のスピーカーのセンターキャップは少し尖った形状で、高域特性が伸びるようにしたものです。一方、メインスピーカーはトゥイーターを組み合わせた2ウェイですから、高域特性を伸ばしてしまうとトゥイーターとのつながりが悪くなります。ですので、センターキャップは高域特性を抑えたものになっています。

各スピーカーユニットのセンターキャップはそれぞれ微妙に形状が異なっている

鳥居7個すべてが同一のユニットというわけではなかったのですね。とは言っても、2ウェイのメインスピーカーとフルレンジのスピーカーアレイの特性が揃うように、あえてそうしているわけですね。

三浦2ウェイとフルレンジでは周波数特性の違いが大きく、そのままでは音がつながりませんから。フルレンジのスピーカーアレイを2ウェイにするのはサイズ的にもスピーカー配置としても難しかったので、こうしたセンターキャップの工夫でバランスを取っています。このスピーカーユニットが完成して、ようやく製品として良い物になるという見込みができましたね。開発では信号処理なども平行して進めるわけですが、スピーカーユニットが未完成ですと、信号処理の効果も半減してしまいますから。

振動板とセンターキャップの組み合わせは膨大な数になりましたし、かなり苦労しましたね。このほか、メインスピーカー脇のソフトドームトゥイーターは周囲のガイドを偏心させています。より音が左右に広がるように工夫しています。

鳥居本当だ。音を外側に放射するような形になっていますね。これは気付かなかったな。

左右両端のソフトドームトゥイーターはユニット周囲も外側に微妙に曲げている

グラスファイバー振動板は編み目の模様が出ますので、どのユニットも編み目の向きが揃うように組み付けるなど、見た目にも気を使っています。

三浦このほか、目立たない部分ですが、保護用のグリルもかなりこだわっています。パンチングメタルを折り畳んだ作りで、周囲にフレームがないのです。一般的にフレームはグリルの変形を防ぐためにつけるのですが、フレームの共振で音を汚してしまうので、なくしてしまいました

鳥居パンチングメタルを折り畳んで剛性を確保しているわけですね。真四角ではなく六角形のグリルですから、加工も手間がかかっていますね。でも、こうした音の良い製品だと、多くの人はグリルを外して使うでしょうから、ある意味、そこまでこだわる必要はなかったのでは?

三浦はい。私どもも視聴時はスピーカーグリルを外すのがお薦めです。ですが、小さなお子様のいる家庭で使われることもありますし、保護用のグリルをなくすわけにはいきません。ならば、グリルをつけたままでもなるべく音の良さをキープできるものにしたかったのです。

鳥居徹底していますね。頭が下がります。

付属するスピーカー保護用のグリルは、フレームが存在しない。パンチング加工された金属板の周辺を折り曲げて強度を確保している。

単品発売できるほどの出来? 作り込まれた専用サブウーファー

鳥居つづいてはサブウーファーについてです。一般的なサウンドバー用のサブウーファーは実際のところ結構高い周波数も出ていて、サブウーファーの音の位置がわかってしまうこともあります。ところが、HT-ST7だとサブウーファーは本当に「低域だけ」を担当しているので、低音だけ別の場所で鳴っているという感じがしませんね。よくできたサブウーファーだと思います。単品で発売しても良いかと思うくらいです。

ホームエンタテインメント&サウンド事業本部 サウンド2部 増田英樹氏。機構設計を担当。手に持っているのがサブウーファーのパッシブラジエーター

増田このサブウーファーの帯域はかなり下まで伸びていて、30Hzくらいまでは出ています。普通の設計だとそこまで低音域をかせぐには筐体をもっと大きくしないと無理です。コンパクトな筐体ではバスレフポートを使ってさえも重低音をかせぐのは難しい。そこで、パッシブラジエーターの採用を決めました。サブウーファーユニット自体は18cmユニットを前面に取り付け、パッシブラジエーターは20×30cmの楕円形ユニットを底面に配置していますね。パッシブラジエーターは円形ユニットも検討したのですが、低音のために口径をかせぎたかったのです。そのため楕円形を採用しました。これだけ大きな振動板ですからパルプ(紙)ではどうしても強度が不足します。そのため振動板にリブを設けて補強しています。歪み感の少ない低音再現を可能にしています。また、ユニットを支えるエンクロージャーも徹底的に補強を加えて強化しています。特に基板を取り付ける面は厳重に強化し、基板が振動しないように気をつけました。

底面にパッシブラジエーターを装備したサブウーファー

鳥居大きな円形の板を貼って補強しているのがわかります。円形の板というのも、音質を考慮して決めたのですか?

増田いいえ。スピーカーユニットを取り付けるために空けた穴の板を再利用しています。エンクロージャー用ですから厚みのある強い板材ですし、ユニットの口径が大きいので面積もあります。廃材にするよりも補強に使った方が有効なんです。エコですし(笑)。

ホームエンタテインメント&サウンド事業本部 サウンド2部 高松睦氏。HT-ST7の電気設計を担当

鳥居良い材料を使い、しかもムダなく使っているわけですね。

高松こうしたアコースティックな設計に加えて、デジタル処理も組み合わせています。「デジタル モーショナル フィードバック機能」では、ウーファーユニットの動きを検出回路と信号処理LSIで検知し、アンプ回路に戻してやることで歪み成分をキャンセルします。デジタル処理ではありますが、仕組みとしてはアンプのNFB回路と同じものです。

サブウーファーに搭載されたDSPがサブウーファー自身の振動を制御する「デジタル モーショナル フィードバック機能」

鳥居出力信号の一部をDSPに戻すというNFBの原理からすると、信号の遅れ(位相回転)が気になりますが・・・。

米田そのために、信号処理用のLSIは、ヘッドホンで採用しているデジタルノイズキャンセリング用のものを応用しています。デジタルノイズキャンセル技術も周囲の信号をマイクで拾い、ノイズとは逆相の信号を作り出すことでノイズを相殺します。周囲のノイズは常に変化しますから、リアルタイムで処理ができないとノイズを低減できません。そのため、処理速度は極めて高速です。こうした高速処理が可能なLSIを使うことにより、ここでの遅れは低音での位相回転にほとんど影響しません。

R&Dプラットフォーム情報技術部門 シニアエンジニア米田道昭氏。サブウーファーの信号処理を担当

鳥居ヘッドホンのノイズキャンセル技術を駆使して、サブウーファーの音質を向上しているのですか。あらゆるところにソニーのオーディオ技術が入っていますね。

米田ソニーの技術を総動員しています。デジタル処理ですから、歪みをキャンセルするだけでなく、デジタルフィルターのパラメーターの変更が容易です。最終的な音質のチューニングだけでなく、好みに合わせて3つの音質を選べるようにしました

鳥居「サブウーファー トーン」のモード切替ですね。音楽用のタイトな低音の「TONE 1」から、標準状態の「TONE 2」、映画用に量感を加えた「TONE 3」となっていますが、もっと派手に音質が変化しても良いとも思いました。それはやはり、全体的な音質的なクオリティーのためですか?

米田はい。低音の音色はもっと派手に変えることもできるのですが、トータルでのクオリティをキープできる範囲にとどめています。

鳥居製品を設置するときに気付いたのですが、サブウーファーの脚部にはもう1枚底板が追加されていますが、これは何のためでしょうか?

増田この板は低音を拡散させるためのものです。サブウーファーが置かれる場所がどこであっても、低音に変化が出ないようにする工夫です。底面のパッシブラジエーターから出る低音は、床面に反射して広がるわけですが、硬いフローリングの床とカーペットを敷いた床では低音感が変わってしまいます。それをこの板で変化が出ないようにしています。

サブウーファーの底面には、巨大な一枚板。どんな場所に置いても変わらない低音を響かせるための工夫

鳥居それでこんなに板厚があるのですね、強度も高いですし。低音の反射板のこだわりも驚きますが、室内の環境に左右されないところまで配慮するのは立派ですね。その点では、ユーザー自身が十分にケアする単品コンポーネント以上に誰でも高音質が楽しめるように工夫されていることがわかります。手軽に使えるサウンドバーらしい心遣いも忘れていないのはうれしいですね。

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