ソニー クリエイティブセンターCPD統括部パーソナルオーディオデザインチーム プロデューサー/シニアデザイナー 小宮山 淳氏

モバイル機器の機能が多様化する中、Bluetoothによる通信機能を搭載する製品はいまやポピュラーとなった。もともとケータイのBluetooth機能はヘッドセットを使ったハンズフリー通話を実現するためのものだったが、ケータイに音楽プレイヤー機能が搭載されるようになると、ステレオでのオーディオ伝送も規格化されるとともに、音楽を聴くためにも使われるようになっていった。

ソニーも2006年にBluetooth対応のステレオヘッドセット製品をリリースし、それ以降様々な装着スタイルのものを製品化してきましたが、さらにコンパクトで使いやすく、ビジネスシーンにマッチしたBluetoothヘッドホンを作ろうというプロジェクトが数年前から動いていた。

「余計なコントロールボックスがなく、耳元の本体だけでコンパクトに収まるBluetooth製品を作りたいと思い、方向性を模索していました。でも、単に小さいというだけでなく、ビジネスマンのライフスタイルそのものをデザインすることを考えていたのです」と語るのはデザインを担当する小宮山 淳氏だ。

小宮山氏のいうライフスタイルというのはビジネスマンの24時間をイメージしながら、そこでBluetoothヘッドホンをどう使ってもらうかをストーリー仕立てに考えたものだ。朝の通勤中に音楽を聴くのに利用し、職場についたらケースにしまって充電し……といった流れに合う製品作りをしようとしていたのだ。

ソニー パーソナル イメージング&サウンド事業本部 パーソナルエンタテインメント事業部1部 2課 シニアエンジニア 高橋 敏氏

この考え方にマッチしたBluetoothヘッドホンは、実は2年ほど前にすでに試作も終え、ほぼ製品に近いものが出来上がっていたが、最終的な製品化はなされなかった。この試作も行ったエンジニアである高橋 敏氏は語る。

「コンセプト的にもデザイン的にも非常にいいものができていたのですが、“大きさ”の面で問題があったのです。ボックスレスにはなったものの耳への装着性という点で納得いかない部分がありました」と当時を振り返る。

その試作品に使用されていたのはダイナミック型のドライバーユニットで、これが製品の小型化においてひとつの障壁となっていた。

ドライバーユニット、ICチップ、アンテナ、そしてバッテリーを本体にすべて詰め込んだ「XBA-BT75」

しかしあるとき、社内でバランスド・アーマチュア・ドライバーユニットを開発中という話が舞い込んだ。また、ハンズフリー通話用のマイクとして従来よりも小型・高感度を実現可能なMEMSマイクロホンも検討にあがることとなった。さらに追い風となったのは、Bluetoothの通信においてさらに低消費電力のチップが登場したことだ。ドライバーユニットの小型化、そして消費電力の抑制が可能となれば、本体のさらなる小型化が可能となる。いよいよ理想的なBluetoothヘッドホンができそうだ、ということになり、プロジェクトが再始動したわけだ。

小宮山氏が「ライフスタイルをデザインする」ヘッドホンと語るXBA-BT75。ここには、とてもユニークなアイディアが隠されている。キャリングケースに大型のバッテリーが搭載されており、これがヘッドホンへの充電器であり、外部バッテリーともなるのだ。

「ヘッドホンが小さくなることは誰もが歓迎してくれるでしょう。同時に、本来は小型化とトレードオフである、長いバッテリー駆動時間もやはり求められるのです。そこで、ヘッドホンを使用していないあいだに手軽に充電できるよう、キャリングケースからヘッドホンへ、外部からの電源供給なしに直接充電できるようにしたのです。」(小宮山氏)

キャリングケースは、本体をはめこむことでキャリングケース内蔵のバッテリーから充電が開始される。ヘッドホンを組み込んだときに美しいアールがあらわれるケースのデザインもこだわった部分だという

ヘッドホン本体のバッテリー駆動時間は約4時間。一方、キャリングケースに内蔵されたバッテリーは、ヘッドホン本体を2.5回分充電できる容量を持つ。つまり、トータルのパッケージとして駆動時間は約14時間となる。

小宮山氏が語る「ライフスタイルのデザイン」において中心的な役割を果たすのが外部バッテリーを兼ねるキャリングケースだ

もちろん、ソニーのBluetoothヘッドホンとなると、ユーザーが期待するのはその音質だ。

「Bluetoothのヘッドセットというのは一般的にはハンズフリー通話が主用途とされますが、ソニーのBluetoothヘッドセットは音楽聴取ための総合的な音質を重要視していますし、アウトドアでのアクティブな動きに対する安定した装着性の確保など、さらにエンターテインメント精神を注ぎ込むのがわれわれの使命だと考えています。」そう高橋氏が語るように、フルレンジのバランスド・アーマチュア・ドライバーユニットを採用したXBA-BT75は、バランスド・アーマチュア・ドライバーユニットならではの音作りと優れた遮音性により、快適なハンズフリー通話はもちろん、音楽鑑賞時にも満足行くクオリティを提供してくれる。

スマートフォンやタブレットデバイスでは、ハンズフリーになることで画面の回転やタッチ操作などをストレスなく行なうことができるので、Bluetoothヘッドセットの利便性を享受できる。

XBA-BT75はいわゆるBluetoothヘッドセットという製品カテゴリーではあるが、通常の音楽鑑賞用のヘッドホンの延長線上に存在する製品でもある。ワイヤレスでより快適に音楽を楽しめるインナーイヤーヘッドホンと考えてよい。「Bluetoothってこんなにいい音が出せるのか、と驚いていただけると思いますよ」高橋氏はその音質に対する自信を示す。

バランスド・アーマチュア・ドライバーユニットによる高音質、小型化、そして専用キャリングケースによってバッテリー駆動時間の問題も克服したXBA-BT75は、まさに使用者のライフスタイルを変えてくれる製品と言えるだろう。

【藤本 健】