かつて”次世代”と言われたブルーレイディスクも、今やすっかり市場に定着してきた。市販パッケージソフト含めて現在のブルーレイディスクの基礎が完成したのは2006年のことだ。
あれから4年。アナログ放送停波を控え、デジタルハイビジョンテレビへの買い替えが進む中、同時にそれまでのアナログレコーダーを買い替える消費者が多くなっており、レコーダー市場最盛期だった2004年の438万台をピークに減少していた市場は、ブルーレイディスクレコーダー発売を契機に増加へと転じ、昨年は462万台と2004年の数字を突破。※
今年はさらに増え、業界全体で550万台前後のレコーダーが売れると予想されている※。おそらくこの追い風はアナログ停波後も余韻として続いていくだろう。アナログ停波後、はじめて自分の持っているレコーダーでは番組録画さえできなくなったと気付くユーザーも少なくないと考えられるからだ。
こうした流れの中で、全デジタルレコーダーに対するブルーレイディスクレコーダーの構成比も大幅に伸びてきた。2008年は5割だったブルーレイディスクレコーダーの構成比率は、昨年7割、今年は8割を実績値で超えてきている※。今や日本で販売されている光ディスクレコーダーの大半は、ブルーレイになってきたのである。
順調に成長してきた市場だが、ブルーレイディスク規格開発の主役でもあるソニーは、なかなか上昇気流に乗れなかった。その内側には他社にはないユニークな長所があるというのに、その長所を知ってもらう機会が少なかったからだろう。使い込まなければ分からない、レコーダ自身がユーザーの嗜好や行動パターンを学習したり、より詳細な設定で「x-おまかせ・まる録」をカスタマイズしたり、あるいは画質設定を細かく行えたりといった機能も、単純なスペック比較の影に隠れて見えづらくなっていたのだ。
※JEITA発表の数値による
しかし、熟成の時を経てソニーにも飛躍のときがやってきたようだ。これまでの大きな懸念は払拭され、ソニーのレコーダー本来の良さが活かせるようになった。いよいよ、ソニーの実力を発揮するときである。
マルチタスク性の低さについては、ブルーレイディスクレコーダーがこれまで長らく指摘され続けてきた点だった。番組録画中にブルーレイディスクソフトの再生が行えなくなるという制限は、ユーザーにしてみるととても残念。たくさんの予約を毎日入れているヘビーユーザーならなおさらだろう。
しかし、今年のソニーのブルーレイディスクレコーダーのラインアップなら、心配する必要はない。上位モデルから下位モデルまで一貫して高い機能性が提供されており、懸念材料と言えるほどの問題はなくなってしまった。
従来は2番組同時録画時にブルーレイディスクの再生が行えないだけでなく、録画1(従来機にはチューナーごとに役割があり、どちらを使っているかで機能制限が変化していた。現行機では解消されている)の実行時も同様の制限があった。また、録画1動作時にはチャンネル切り替えが行えないというのも、ユーザーにストレスを感じさせていた部分だろう。また、同時動作の制約が複雑に入り組み、どんなときに何ができなくなるのかを把握するのも大変だった。
しかし新モデルでは録画1/2の区別はなく、2番組同時録画時でもブルーレイディスクの再生、早見再生、録画番組へのチャプター作成、ブルーレイディスクへの高速ダビングなどが行える。これだけマルチタスク性が高まったのであれば、“最大の弱点を克服した”と断言できる。
この制約が取れただけで、次はソニーのレコーダーを使ってみようか?と思う人もいるだろう。が、もうひとつ特記しておきたい点がある。それが、「0.5秒瞬間起動」だ。
どんな製品でも、使いたい時スグに使えないというのは気持ちの良いものではない。ここで画期的な仕組みをソニーは提供した。主に二つの使い方に対して現実的で快適かつスマートな解決策を用意したのだ。
まず省電力と高速起動の両方を求めるユーザーに対しては「通常起動モード」を高速化することで対応した。従来、「通常起動モード」では画面が表示されるまで約40秒かかっていた。ところが新製品ではわずか6秒※1。これはなんと従来機種の「高速起動モード」(9秒)よりも速い。しかも待機消費電力は0.2ワット(HDMI機器制御「切」、BS/CSデジタルアンテナ出力「切」時)と低く抑えられているのである。
とはいえ、起動までに6秒“も”かかるのでは、とても軽快ではないという方もいることだろう。そんなユーザーには「瞬間起動モード」をすすめたい。このモード時、待機消費電力は18ワット※1(従来機種の「高速起動モード」は17ワットだった)まで増えるものの、0.5秒で画面表示されるようになる。ここまで来ると起動時の待ち時間のストレスは全くなくなったといえる。
※1 BDZ-AT300S使用(HDMI機器制御「入」、BS/CSデジタルアンテナ出力「入」時)
しかし、“これだけ待機消費電力が大きいのでは……”と、「瞬間起動モード」が頻繁にレコーダーを使う人だけのマニア向け特殊機能と捉える読者もいるかもしれない。確かにこのままならばその通りだが、ソニーは利用パターンを自動学習する機能を設け、「瞬間起動モード」をさらに“使える”機能に仕立て上げた。
「瞬間起動モード」を“学習”に設定しておくと、ユーザーがどのようなパターンでレコーダーを起動し、終了させているのかを自動学習する。学習パターンは曜日ごとに記憶する。こうすることで、ほとんどの場面において瞬間起動で快適に利用しつつ省電力も実現できるのだ。私も“学習”のおかげで快適に使えている。
もし、“学習”で「瞬間起動モード」設定されていない時間帯であっても6秒で起動するのだから、これで不満という人はごく少数だろう。さらに「瞬間起動モード」に設定する時間帯をマニュアルで選んでおく機能も備えている。※2
※2 1日のうちに「瞬間起動モード」に設定できるのは6時間まで
このように自動的に学習しながら、ユーザーに何らかの価値をオファーする手法は、ソニーのブルーレイディスクレコーダーの“十八番”といっていい。もともと、ソニーのレコーダーには“インテリジェンス”があり、痒いところに手が届くきめ細かなサポートもある。
ソニーのブルーレイディスクレコーダーのユーザーなら、すっかりお馴染みの「x-おまかせ・まる録」などは、その最たるものだ。キーワードやジャンル、放送波の種類など、様々な条件から自動録画を実行してくれる。しかも、ユーザーが何を録画予約し、どの番組を実際に見たのか、ブルーレイディスクやDVDにダビングしたのか、といった番組に対するアクションに応じて好みの番組を学習し「こんな番組はいかがですか?」と、料理に合わせたワインを勧めてくれるソムリエのように、気がつかなかった番組も紹介してくれる。たとえば私は映画と音楽ライブ、それに海外ドラマをよく録画している。それらを録画し、実際に再生して最後まで見ていると、私がその番組を好きなんだなと認識してくれ、知らない番組を自動録画してくれるのである。特定の俳優が好きならば、それをキーワードに登録しておくと、さらにレコーダが選定する番組の“精度”が高まるはずだ。
きめ細かく設定を使いこなすマニアにも、面倒くさいからとにかく使いっぱなしという人にも、どちらにも優しいインテリジェンスを備えている。さらに使い込んでいくと、見ている番組が気に入ったときに、その番組情報からキーワードを抽出し、簡単に「x-おまかせ・まる録」のキーワードとして登録する機能があることに気付くはずだ。
さらにこの機能は、「My!番組表」にも活用され、あなただけの番組表として見たい番組をすばやく探し出して簡単に録画できる、テレビ番組のソムリエなのである。
このほかリモコンがコンパクトかつ使いやすいボタンレイアウトになったことなど、色々と書き続けたい事もあるのだが、長さにも限りがあるため、画質・音質についても言及しておきたい。
今年のラインアップ中、最上位となる「BDZ-AX2000」は、奥行きを詰めたデザインとすることで筐体の強度を高め、アルミ天板によるレゾナンスのコントロールやIEC電源インレット、φ10極太電源ケーブル、高品質な部品、それにHDMIのジッターコントロールやAVピュアモードなど、オーディオ機器的な手法で品位を高めている。
中でも音質に関してはここ数年の改良により、かなり大きな改善が図られてきているが、今年は画質面で大きな進歩があったように思う。従来よりナチュラルで強調感の少ない画質設定、滑らかかつ情報量豊富な映像は従来のソニー製BDレコーダーやプレーヤーには見られなかったものだ。
しかし、さすがソニーと感心したのは、細かく繊細な画質設定の項目と多様なプリセットモードを用意してマニアを唸らせるだけでなく、BD-ROM再生専用に通常の設定と独立した画質設定が可能なのである。
私自身、「BDZ-AX2000」をシステムの中に迎え入れたが、所有する映像機器、音響機器の実力をいかんなく発揮させる能力は、レコーダーというカテゴリーの中では突出していると評価したい。AV機器のファンを自認するならば、レコーダーとプレーヤーの間に再生品質の大きな断絶があると感じているかもしれないが、本機に関しては画質はもとより音質面でも、高いポテンシャルがある。
とくに中域から高域にかけての歪み感の少なさや情報量の多さは、HDMIのセパレート出力を備えるブルーレイディスクレコーダーが増えてきた中にあっても際立っている。
また個人的にはリモコン操作時のレスポンスの良さを喜びたい。このスピード感、軽快さこそがクロスメディアバーを用いたユーザーインターフェイスの美点だ。全く同じように作られているのに、スピードとレスポンスが改善されるだけで、ここまで愉しく使いこなせるようになるものかと、目から鱗が落ちた。
その上で、ソニーのブルーレイディスクレコーダーには他社レコーダーにはない、様々なアイディアが詰まっている。今一度、その機能性、機動性、インテリジェンス性をチェックしてみてはいかがだろう。
(本田 雅一)