IGZOが開けるディスプレイの新たな扉 西川善司が最新4K2Kディスプレイをレポート

IGZOとは酸化物半導体技術である

2012年、シャープは「IGZO(イグゾー)技術」を実用化したことを発表。IGZOとは酸化物半導体の新技術であり、汎用プロセッサから撮像素子に至るまで様々な応用が期待されている先進技術で、シャープは、まず、自身の得意分野である液晶パネル技術に応用した。

この辺りのIGZO技術の背景や基礎知識についての詳細は前回記事を参照して欲しい。

シャープは「IGZO技術を応用した液晶パネル」(以下IGZO液晶パネルと記する)の採用製品としてdocomo向けスマートフォン「AQUOS PHONE ZETA SH-02E」、KDDI向けタブレット端末「AQUOS PAD SHT21」を製品化し発売しているが、11月28日、これまでの小型パネル採用製品とは種類の異なる注目の新製品の発売を発表した。

それが32V型の4K2Kディスプレイ「PN-K321」だ。

発売は2013年2月15日と告知されているが、今回、その発売前の試作機に触れる機会を得たので、先行インプレッションの形でレポートをお届けしたい。

32V型IGZO液晶パネル採用の意義

今回発表されたPN-K321は、製品化されたIGZO液晶パネルとしては最大サイズの32V型になる。

「PN-K321」の発表会の様子

IGZO液晶パネル採用の4K2K解像度の液晶ディスプレイ「PN-K321」が登場

現在、IGZO液晶パネルには、アモルファスIGZOと新結晶構造のC-Axis Aligned Crystal(CAAC)IGZOの2タイプが存在することは前回でも触れたが、それら2種のIGZO液晶パネルは適材適所の形でそれぞれ応用が進んでおり、予想以上に製品展開が早い。光配向技術を応用したUV²A液晶パネルや4原色液晶パネルのクアトロンが、いつの間にか多くの主力AQUOS製品に採用されているように、IGZO液晶パネルもかなり早いペースで我々にとって身近な存在になってしまうかもしれない。素晴らしいことだ。

さて、32V型という大きめのIGZO液晶パネルを採用したPN-K321だが、ただ「IGZO液晶パネルを採用しています」という製品ではない。

このPN-K321は、なんと4K2K(3840×2160ドット)解像度のIGZO液晶パネルを採用した製品なのだ。

PN-K321の画素密度は140ppi(Pixels per Inch)。

この数値に、あまりピンとこない人も多いかも知れない。しかし、一般に普及している27〜30V型サイズで2560×1440ドット〜1600ドットの高解像度PC向けディスプレイ製品群が画素密度にして100ppi前後だと知れば、その凄さが実感として伝わってくるのではないだろうか。

試作レベルではIGZO液晶パネルは驚きの約500ppiを達成しているので、140ppiは、まだまだ序の口…といったところなのかもしれない。

CEATEC2012で公開された6.1V型の2560×1600ドットのIGZO液晶ディスプレイ。ドットピッチにして約500ppi!!

ここで、ちょっとだけ脇道にそれて、半分現実、半分妄想の話をしよう。今回の32V型(16:9)で500ppiクラスの液晶パネルを製造したとすると13440×7560ドット(482ppi)、12800×7200ドット(459ppi)という約1億ピクセルクラスのものができることになるのだ。昨今、話題になることも多いスーパーハイビジョンと呼ばれる8K4K(7680×4320ドット)解像度を32V型で製造しても275ppi。IGZOにとっては余裕綽々のピクセル密度なのである。

閑話休題。

妄想話が長くなったが、32V型で140ppiという超高解像度パネルが実現できたのは、液晶を駆動するためのTFT回路をIGZO技術によって微細化できたためだ(この辺りの技術背景についても前回を参照して欲しい)。

おそらく、IGZOでなくても、それこそ現行のシリコン系のTFTでも、32V型ならば4K2Kパネルの実現はできなくはないだろう。ただし、たとえそうだとしても依然とIGZOのメリットはある。

それは開口率の高さだ。

筆者は映像パネルフェチなので、常日頃から30倍ルーペを携行しており、目新しい映像パネルに接近してはこのルーペを当てて拡大された画素を見て日々ニヤニヤしているのだが、PN-K321の表示面を覗き込んだときにはニヤニヤどころか、顔面蒼白になってしまった。

RGB(赤緑青)の各サブピクセルを仕切る格子筋はブラックマトリクスであり、その裏にTFT回路が隠されているわけだが、30倍ルーペで拡大して見ても、そのサブピクセルの格子筋がほとんど見えなかったからだ。

RGBのサブピクセルの存在は確認できるので各サブピクセルごとに境界はあることは確かなのだが、境界線自体は30倍ルーペ程度では確認できなかったのである。

30倍ルーペをPN-K321に当てて、デジカメの11倍ズームで撮影してみた。つまり330倍に拡大した状態ということ。1ピクセルあたりの大きさは1辺がわずか182μm(1μmは千分の1mm)。ここまで拡大して、やっと横方向の格子筋がやっと見えてきた…というレベル。恐るべき微細度だ。

画素数自体を上げていっても、格子筋自体が従来の太さのままでは、表示画素面積の割合が小さくなり(開口率が低くなり)、遠目に見ると、画素が鱗のようにブツブツとした粒状感を伴って見えてしまう。

IGZO液晶パネルのPN-K321は、140ppiという高密度画素パネルなのに、そういったことがない。それこそ、表示画素面積と格子筋の大きさの関係は、そこら辺にある一般的な40〜50V型のフルHD液晶テレビよりもいいくらいに見えたのだ。

IGZOによる液晶パネル搭載4K2K対応ディスプレイ「PN-K321」

このPN-K321、ディスプレイ部のみのサイズはW750×H441×D35(mm)で、バックライトにエッジ搭載の白色LEDを採用している恩恵か、意外に薄い。シャープによれば30V型以上の4K2Kディスプレイとしては業界最薄を実現しているとのことだが、4K2K括りで限定しなくてもかなり薄い。

公称輝度は250cd/m²で一般的な液晶ディスプレイと変わらない。標準コントラスト値は800:1。GTG(Gray to Gray)の平均応答速度は8msと発表されている。

液晶の配向モード(TN,IPS,MVA)は非公開とのことだが、視野角は上下左右が176°と必要十分な値となっている。

接続端子はDisplayPort(DP)が1系統、HDMI端子が2系統という構成。

DPはVer1.2に対応しており、DPケーブル一本で3840×2160ドット映像を60Hzで伝送可能だ。一方のHDMIは1.4aに対応しており、一本のHDMIケーブルで3840×2160ドット映像を30Hzで伝送できる(2系統あるHDMIを両方使って3840×2160ドット映像を60Hz伝送する手段も提供される。)。なお、DP、HDMI共に、RGB各10ビットのDEEP COLOR伝送に対応していることも特記しておこう。

そして、PN-K321は、ケーブル一本で接続して4K2K映像を出力できる、数少ない先駆け的な製品だということも強調しておきたい。

というのも、これまで発売されてきた他社製の4K2Kテレビや4K2Kディスプレイは接続にHDMI4本を使用したり、あるいはDPを2本使って接続したり、はたまた高価なインターフェースボックスを別途購入しなければならなかったりと、敷居が高かったのだ。

しかし、PN-K321はそうした"関門"がない。4K2K解像度自体が新しい存在なので、4K2K出力が可能なグラフィックスカードが必要な点には留意しなければならないが、「ケーブル一本で繋いで4K2Kが映る」という当たり前の作法が通用するということは、4K2Kを身近なものにする上で非常に重要なことだ。もしかすると、今後、PN-K321は、4K2Kディスプレイのベンチマーク的存在となり、さらには4K2K時代の本格到来を呼び込む大使的な存在となっていくかも知れない。

DPケーブル一本で、4K2Kがかつてない手軽さで映し出せる

PN-K321は、ゲーム制作、CGデザイン、映像編集などを行うマルチメディアクリエイター達にも訴求される製品であるため、業務用ディスプレイ製品という位置づけながらステレオスピーカーを内蔵しているのも特徴の1つだ。小口径の「2W+2W」ビルトインスピーカーとはいえ、映像とサウンドの同期を確認するようなマルチメディアコンテンツ制作においては、DPやHDMI経由で伝送されてきたサウンドをPN-K321本体のみで再生できるのはなにかと便利だろう。

なお、φ3.5mmの音声ミニステレオジャックを入力・出力1系統ずつも備えている。入力端子は、HDMIやDPでサウンドを伝送できないPCと接続する際に、PN-K321の2W+2WスピーカーをPCスピーカー的に活用するのに利用できる。出力端子は外部スピーカーとの接続や、ヘッドフォン等を接続するために利用するものだ。

今回、シャープ東京支社にお邪魔して、実際にPN-K321に触れる機会を得たので、その様子をプレビュー・インプレッションの形でお伝えしたい。なお、使用した実機は試作品のため、各部の形状等、製品版とは異なる可能性があることをお断りしておく。

まず、セットアップ済みのPN-K321デモ機とご対面しての最初の感動は、そこに映し出されているWindowsデスクトップ画面を見た時にやってきた。

発表会では高精細写真のスライドショーや高密度表示が行われていたDCCツールやオフィスアプリケーションの画面だったので、むしろ"何の変哲もない"Windowsデスクトップ画面の表示は新鮮に見えたのである。

Windowsのデスクトップ画面の広大さにまず感動

4K2KというとフルHD解像度の4面分の大きさだ。これが32V型の大きさに表示されるというと「文字やアイコンが小さく見えてしまわないか」と心配する人もいるだろう。

ちょっと待った。考えてみて欲しい。

32V型で4K2Kということは、16V型あたりにフルHD表示ということだ。今やミドルクラスのノートPCでも、このくらいの画面サイズでフルHD液晶パネルを採用しているモデルは珍しくない。なので細かすぎると言うことはないのだ。

むしろ、そうしたノートPCの4画面分を1画面に集約して広く使える…と考えると、かなり便利そうに思えては来ないだろうか。

筆者は普段から30V型の2560×1600ドットの液晶ディスプレイを愛用しているので、32V型・4K2K解像度のPN-K321の前に座って適当なPCオペレーションをしてみて感じたのは「画面サイズ的に"一回り"大きく、デスクトップ空間としては"二回り"以上広い」という印象だった。"4K2K"デスクトップ空間の感動は確かに大きいのだが、「広すぎ」「細かすぎる」という印象はなく、むしろ「今よりもデスクトップをよりかなり広く使えそう!」という使用感が想像できてワクワクさせられた。恐らく実際に見た者の多くは筆者と同じ感動を抱くことだろう。

現在、PN-K321の接続対応が確認できているビデオボード(GPU)はAMD製だとFire Pro W9000/W7000/W5000/W600やSouthern Islands世代のRADEON HD7000系など。NVIDIA製だとKeplerアーキテクチャベースのNVIDIA Quadro K5000やGeForce GTX600系などだ。いずれもDP端子(Ver.1.2)を利用することで3840×2160ドットの60Hzの映像伝送が可能で、HDMI(Ver.1.4a)では3840×2160ドットの30Hzの映像伝送が行える。なお、3860x2160ドットの60Hzの映像伝送は、ドライバソフトの仕様制約により、AMD系GPUの方は動作できているが、NVIDIA系GPUはMosaic機能を有するQuadro K5000でしか現状は利用ができない(2012年12月時点)。接続性確認については、ドライバーのセッティングやアプリケーション評価も含め、製品発売に向けてビデオボードメーカーとの調整を行っているとのことだ。

一通り、高解像度写真コンテンツ等を見せて頂いた後、今度は、PCゲームをプレイさせてもらった。

ゲームタイトルはアメリカで大ヒットした正統派のオープンワールド型アクションRPG「The Elder Scrolls V : Skyrim」(Bethesda Game Studios,2011)だ。

最新世代のハイエンドPCゲームは、実はテクスチャー等が、かなりハイレゾでデザインされており、また、3Dキャラクター自体も超多ポリゴンでモデリングされている。PS3,Xbox360のような家庭用ゲーム機とは違って、ハイエンドPCゲームはレンダリング解像度をフルHD以上に設定が可能なので、レンダリング解像度を4K2K(3840×2160ドット)に設定して、4K2K解像度のPN-K321で表示すれば、そのオーバーキルな3Dゲームグラフィックスを余すことなく堪能できるのだ。

実際にプレイしてみてまず驚かされたのが映像にジャギーがほとんど見えないと言うこと。グラフィックス設定メニューで「アンチエイリアス=オフ」としているのに…だ。

140ppiの高精細表示となっているため、角度の浅い斜め線であっても階段状にはみえず、滑らかな斜め線として見えるのだ。4K2K時代では、もしかしたらゲームグラフィックスにアンチエイリアス処理は不要…なんてことになるかも知れない。

続いて感銘を受けたのが、遠景のきめ細やかさ。

フルHD解像度程度では、遠景の3Dオブジェクトは1ポリゴンが1ピクセル以下に落ち込むマイクロポリゴン化現象が起きがちだが、4K2Kでは遠景までもが「それ」と分かるオブジェクトの形状でレンダリングされてちゃんと見えるのだ。

実際にハイエンドPCゲーム「The Elder Scrolls V : Skyrim」をリアル4K2K解像度でプレイ。その美麗さは4K2Kでしか表現しえないものだった!

また、遠景にもきめ細やかにテクスチャーが適用されて、それらのディテールが潰れずクリアに見える。なんというか、まるで「視力が向上したような視界でゲーム世界を見ているような感覚」…と言えば伝わるだろうか。

一般的に流通している4K2Kの映像コンテンツがほとんどないという現状では、最新のハイエンドPCゲームは、もっとも身近なネイティブ4K2Kコンテンツであるといえるかもしれない。

PN-K321に触れる機会があれば、ぜひとも見てほしいと思う。

発売前のPN-K321のプレビュー・インプレッション、いかがだったろうか。

最初は業務用製品と言うことで、実勢価格は45万円前後になるとみられているが、オンリーワンの存在ということになれば、プロフェッショナルシーンにおいてはむしろ「安い」という声すら出てきそうだ。これまで4K2Kディスプレイというと、200万円超も当たり前だったので、45万円という実勢価格はむしろ「4K2Kが現実味を帯びてきた」と前向きに捉えてもいいくらいかもしれない。

今回新製品を体験したのはシャープ東京支社(浜松町・シーバンスS館)のBtoBショールーム。IGZO以外にも様々なディスプレイ・ソリューションを体験できる場所だ(BtoB向けショールームのため、残念ながら一般には公開されていない)。

60インチの狭額縁液晶ディスプレイを27面(3×3×3)、視界の約180度にサラウンド設置しているデモルーム。解像度にして12294×2304ドット(2833万ピクセル!)。写真は4K2K映像をスケールアップして3面に表示しているデモの様子

60インチ×27面・180°サラウンドで「FORZA MOTORSPORT4」(マイクロソフト,2011)をプレイ。選択した車は当然赤いGT-Rだ。現実を超越したプレイ感。荷重移動までが体感できているような錯覚に陥った!

マルチタッチ対応のマルチディスプレイ。ただのハイレゾ写真かと思いきや、拡大していくと実はその映像を構成していた画素のそれぞれが、実は別の映像だった…という衝撃を体感できるリアルタイムデモ

(トライゼット西川善司)

関連リンク

■ 未来は、IGZOで進化する。〜IGZOテクノロジーのご紹介〜:シャープ
http://www.sharp.co.jp/igzo/

■ 【AV Watch】シャープ、32型/3,840×2,160ドットの4K IGZO液晶
業務用に展開し、実売45万円。4K最薄の35mm
http://av.watch.impress.co.jp/docs/news/20121128_575601.html

 

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