しかし〔iA〕は、Webとの連動性において、既存のサービスとは方向性が大きく異なる。セガの木岡氏が〔iA〕を「Webと連動する3Dの壁紙」と表現するように、もっとも大きな違いは“Web閲覧と同時に楽しむサービス”である点だ。
〔iA〕はInternet Explorer用のツールバー(プラグイン)としてインストールされる。Internet Explorerの〔iA〕ツールバーから〔iA〕を起動すると、3D空間がデスクトップ上に広がり、プレイヤーのアバターがあらわれる。これが、〔iA〕の基本画面だ。
〔iA〕においてプレイヤーキャラクター(アバター)が活動できるフィールドは「アイランド」と呼ばれ、ユーザーがWebブラウザで閲覧しているWebページのドメイン(またはURL)にひも付いて個別に生成されている。たとえば、ユーザーがhttp://www.watch.impress.co.jp/をWebブラウザで開くと、デスクトップ上のアバターが自動的にhttp://www.watch.impress.co.jp/アイランドへと移動する。ユーザーはそのアイランド上で自由にアバターを動かしながら、同じサイトにアクセスしているユーザーのアバターと交流できるという仕掛けだ。
これは当然のことだが、同じアイランドに集まるユーザーは、自然と趣味趣向が共通するようになっている。セガの公式サイトのアイランドにいるユーザーなら、ゲームに興味のある人だろうし、「PC Watch」のアイランドには、PCに関心がある人たちが集まるはずだ。つまりアイランドにおいては、興味関心を共有できる一種のコミュニティが形成され、プレイヤー同士の「出会いのきっかけ」が数多く生まれる。そうして出会ったユーザーたちとは、チャットしたり、自分のおすすめページを教えあったり、あるいは一緒にWebページを閲覧してまわったり…。〔iA〕は、これまでの「Webブラウジング」という行為を3D空間に拡張することで、様々なユーザーとコミュニケーションが図れるプラットフォームなのだ。
そんな中で渡辺氏がたどり着いた1つの結論は「ネットワーク上に家庭用ゲーム機を再現しつつ、それをプレイする人も含めて仮想化する」ということだった。家庭用ゲーム機をエミュレートする意味での仮想化ではなく、仲間が集まってプレイする場も含めて仮想化し、さまざまな方向への応用可能になる“プラットフォーム”を作ることが突破口になると考え、これが〔iA〕にとっての大きな目標になっている。それゆえに〔iA〕上で何らかのゲームを提供することも視野に入っていると渡辺氏は語る。
また近年はオンラインゲームに限らず、Webサイトなどでもアバターの概念が導入されている。自身の分身といえるアバターの体つきを自分好みにデザインしたり、着飾らせるのは定番的な楽しみだが、しかしアバターは各サービス内で単なるシンボルとしてしか機能しないケースがほとんど。
一方で〔iA〕のアバターは単なるシンボルではなく、Webという、いわば巨大な仮想空間を探索する際の、「本来は見えないはずの」ユーザー自身といえる。〔iA〕のアバターはあらゆるサイト、あらゆるWebへのアクセス時に〔iA〕利用者間で可視化される、いわば真の意味でのユーザーの「化身」なのだ。これは、〔iA〕を形づくる重要なコンセプトの1つだ。
また、アバターによってWeb閲覧者自身のボディが顕在化することで、Webサイトの「にぎわい」も、いままでとは違ったかたちで可視化されることになる。これまではページビューという数字でしかサイト人気度が分からなかったが、〔iA〕ではアバターの活動によって、その場ならではの“空気感”も産み出すことになるだろう。
渡辺氏はこれらの目標を達成するために「Webの世界をゲームで拡張する」という未来図を描く。ネット利用者の生活に根付いているWebブラウザという存在を浸食することなく、連動した3D空間にユーザーの姿をアバターを通じて可視化させることで、あくまでも拡張することに具体的な道筋を見いだしている。〔iA〕では、デスクトップに表示される自分のアバターがWebブラウザの裏に隠れてしまわないよう、注視点が自動的に調整される仕組みがあるが、これもWeb閲覧を浸食しないための工夫。〔iA〕をインストールする際のファイルの軽量化や、要求スペックの抑制という方針も同様だ。渡辺氏は「キャラクターのポリゴンが1頂点増えると、潜在ユーザー100人単位で減ってしまう。担当デザイナーさんにお願いして泣く泣く削ってもらっています」と冗談交じりを明かす。
とはいえ渡辺氏自身も「〔iA〕にゲームを載せたくてたまらないのをグッと我慢している」と漏らすほど。〔iA〕には現状でも、アイランド上のモンスターとの戦闘によるレベル上げ要素が盛り込まれているが、さらにアトラクション的なゲームも追加していきたいという。現状の〔iA〕はいわば「プラットフォーム」、土台であり、その上に載る「コンテンツ」の整備がこれからの課題であるというわけだ。ゲームを含む娯楽要素が融合されるという〔iA〕の将来性にも期待が高まる。
クローズドβ2テスト中の現在も、〔iA〕利用時にインストールする専用ツールバーのファイルサイズは約62MBと、オンラインゲームなどに比べればかなりコンパクト。またツールバー単体は数MBで、このうちの大半は3D表現に必須となるDirectX関連のファイル。PC初心者にもわかりやすいようあえてセットにし、1回ダウンロードするだけで済むようにしているのだという。
そして初回動作時には約300MB前後のデータファイルが自動アップデートのかたちでインストールされる。渡辺氏はこの際の容量を抑え、可能であれば100MB程度に減らし、プレイする上での敷居をさらに下げたいという。
そんな現状もあって波打ち際の水しぶきといったビジュアル表現全般についても、凝った処理をあえて省略。1つのアイランドにユーザーが集中した場合には、アバター表現を3Dから2Dへシームレスに切り換えてユーザー側PCへの負担も減らしている。渡辺氏は「もっともっと軽くすることが最優先課題。それが実現した上で楽しさを追求できれば」と、誰でも楽しめるサービスという方向性を強調している。
ユーザー間のコミュニティ形成については特に注意を払っている。機能面ではクローズドβ1テスト段階で可能だった家やオブジェクト作成機能をβ2テスト時点では省略している。木岡氏は「〔iA〕のサービス自体がまだまだ目新しいため、多くのことができすぎてしまうことは結果的にユーザーを混乱させる心配があった」とし、段階的に機能を追加することでユーザー自身のスキルにあわせて〔iA〕もともに成長していく方向性を打ち出したいと話す。
またプレイに必要な「iA ID」の取得には、携帯電話が必須となっているのも大きな特徴だ。登録手続きスタート時にはPCを使うが、途中で携帯電話アドレスにメールを送信。さらに携帯電話のWebブラウザからの操作で携帯電話の製造番号を送信するという、かなり徹底した本人確認が行われている。木岡氏は「どなたでも遊べる、健全なコミュニティを提供したいと思いがあります。この点はぜひご理解いただければ」と説明。幅広い世代のユーザーが安心して遊べる3D空間こそが、〔iA〕の目指す道であることを強調していた。
まず必要動作環境についてだが、WebブラウザとしてはInternet Explorer(IE) 6.0以降が必須となる。動作OSであるWindows XP(SP3) または Windows Vista(SP1)であれば問題なく利用可能なはずだが、一方でFirefoxなどIE以外のWebブラウザには非対応となっている。またグラフィック環境はIntel 865G以上のオンボードグラフィックチップ以上と、数世代前の製品でも動作可能。ハードディスク容量はキャッシュ保存の関係などもあり、1.5GB以上の空き容量が必要になる。
〔iA〕の動作に必要となるツールバーは、インストール感覚含めて一般的なアプリケーションと変わらない。ソフトウェア使用許諾などを確認の上、「OK」「次へ」などをクリックしていくだけで完了する。この際、DirectXのインストールも同時に行われる。インストールが完了するとIE上に青地のツールバーが追加表示される。最新メンテナンス情報の確認や設定機能の呼び出しがここから可能だ。
続いては「iA ID」を取得作業が必要だ。現段階では〔iA〕公式サイトから申し込んでクローズドβ2テストに当選することが前提となる。当選通知メールの内容に従って個人情報などを登録していこう。その際、前述の通り携帯電話メールを使って、携帯電話のWebブラウザから登録作業を済ませることになる。基本的には記述内容を確認の上、Webブラウザ上の送信ボタンを押すだけなので難しい点はないだろう。あとはツールバー上の「internet Adventureをスタート!!」ボタンを押してiA ID、パスワードを入力すればいよいよ3Dインターネットの世界がスタートする。なおクローズドβ2テストに申し込んでいない、あるいは落選してしまったという人は毎週金曜日から土曜日の時間限定で行われるお試しユーザー制度を使うと良いだろう。この時間帯はツールバーから呼び出せるログインメニュー自体が変化し、ユーザー登録することなく一通りの操作などを体験することができる。チャットなどの機能は一部制限されるが、〔iA〕の雰囲気を味わうことは十分可能なはずだ。
iA ID取得後、最初のログイン時にはプロフィールの登録を行う。生年月日や年齢などは一度決定すると変更できないので注意しよう。そして最初のお楽しみといえるのがアバターの作成だ。
iA IDのアバターでは顔型、髪型、体つき、肌の色に始まり、10種類の項目を選択できる。特に充実しているのが目や鼻、口といった顔のパーツ類で、種類に加えて大きさや位置をもかなり詳細に調整できる。例えば眼鏡もその1つで、眼鏡フレームの形状はもちろんサイズも変えられる。顔の大きさをはるかに超えるような一風変わった眼鏡も作れるので、ユーザーの腕の見せどころといえるだろう。ちなみにアバターは、ツールバーのメニューからいつでも自由に調整できるので、ゲームに慣れてきてからじっくり決めるのもアリだ。
〔iA〕ではアイランドを訪れたユーザー同士の交流はもちろん、フレンドと一緒にWebサイトをめぐったり、はたまたユーザー自身がアイランドを作成・カスタマイズして遊ぶ要素が盛り込まれている。次回はより具体的に〔iA〕の楽しみ方をチェックしていこう。 (Reported by 森田秀一)http://game.watch.impress.co.jp/docs/20080306/ia.htm
■ネットサーフィンをアバター同士で共有、セガが「iA」のデモ
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/event/2008/10/10/21135.html
■セガの3D空間「iA」でネットの一般化狙う〜夏野剛氏インタビュー
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/special/2008/10/16/21205.html
■セガの3D空間「iA」、新機能追加とβテスト参加者追加募集
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/10/27/21323.html