2004年11月、ローランドからリニアPCM録音が可能なモバイル・レコーダーことR-1が発売された。いろいろな音を録音する機材ですな。
R-1のコンセプトは“CDを超える高音質”で“手軽”に“デジタル録音”するということ。身近にある音───野鳥のさえずりや生演奏、あるいは講演や会議の声、さらにはカセットテープやレコード等の音を、高音質でデジタル記録・再生するべく生まれたポータブルレコーダーである。
R-1に関する裏話をプチご開帳すると、何でも開発陣(もちろんローランドの人たちだヨ!!)が自分たちのバンド演奏を“とにかく手軽に”かつ“できるだけ高品位に”かつ“容易にやり取りできるカタチで”録りたいと思ったそうな。手軽に録音できる機材は多々あるが、生演奏の迫力をそのまま録音するには力不足なものが多い。かと言って高音質を追求すると、マイク等まで含めて録音機材が大ががりになる。小型で扱いやすいDATもあったが、しかし、テープメディアに記録すると、その後の扱いがちょいと大変───例えばバンドメンバーに配布する場合は、録音時間の実時間を使ったダビング作業が(何度も)必要になる。
う〜ん、なかなか良い録音機材がないなぁ……だったら作っちゃえ!! というわけでR-1が登場。“ラクに高音質で録る”ってコトを心底願った人々の手で作られた機材だけに、他にはちょいとナイ製品となった。ハンドリング、ポータビリティ、対応音声データ形式、そしてもちろん音質!! その実力はすぐに話題となり、R-1は多くのユーザーに愛されることに。
そんなR-1の登場から一年少々が経った現在、またもや高音質録音派のハートを鷲掴みにする機材、ローランドのEDIROL R-09が登場した。登場した瞬間、俺とか猛烈にコーフンした。R-1激使用中である拙者の友人(←ビンテージシンセの音とかR-1で録音してるヤツ)も大興奮。キャーッ!! そんなん出されたら買うしか!! という魅惑の録音機材なのである、R-09は。
てなわけで、早速R-09を使い、その実力を試してみた。ので、以下、R-09のアレコレを紹介しつつ、その実使用感をレポートしていきたい。
R-09は“ポケットサイズ”のデジタル録音・再生マシ〜ン。内蔵の高品位ステレオマイクにより、様々な音をデジタル録音できる。録音される音声は、SDメモリカードに記録され、その形式はWAVEおよびMP3。電源はACアダプターと単3形電池(アルカリ乾電池またはニッケル水素電池を2本使用)の2Wayで、パソコンとUSB接続することもできる。
R-09の外形寸法は幅62.6×奥行き102×高さ29.1ミリで、質量は145グラム(電池、SDカード含む)。手のひらにスッポリ収まる軽いガジェットで、その携帯感はケータイと近い感じですな。しかし、そんな小ささ軽さからは想像できない驚きのスペックを持つ。
例えばですね、24bit/48kHzでのリニアPCM録音がデキちゃうんですよ。音楽CDは16bit/44.1kHzなので、R-09はデータ形式的に音楽CDを遙かに超えたクオリティの音を生成することになる。CDより高音質でデジタル録音・再生するメディアとして知られるDATは、16bit/48kHz。すなわちR-09はDATも超えちゃってるのであり、業務用機器クオリティーでの録音を実現したりなんかしつつポケッタブルという点がスゲい。
ちなみに、R-09ではWAVE形式に加えてMP3形式でも録音・再生ができる。WAVE・MP3録音時に設定できるサンプリング周波数等は以下の表のとおり。
モード | 最大録音時間 | ||||
64MB | 128MB(別売) | 512MB(別売) | 1GB(別売) | 2GB(別売) | |
MP3 64kbps | 125 | 253 | 980 | 1960 | 3986 |
MP3 128kbps | 62 | 126 | 490 | 980 | 1,993 |
MP3 192kbps | 31 | 63 | 245 | 490 | 996 |
MP3 320kbps | 25 | 50 | 196 | 392 | 797 |
WAVE (16bit/44.1kHz) | 5 | 11 | 44 | 88 | 180 |
WAVE (16bit/48kHz) | 5 | 10 | 40 | 81 | 166 |
WAVE (24bit/44.1kHz) | 5 | 7 | 29 | 59 | 120 |
WAVE (24bit/48kHz) | 5 | 7 | 27 | 54 | 110 |
最大録音時間は、もちろん試用するSDメモリカードに依存するが、1GBのものを使い、WAVE形式・最高音質で録音すると、54分録音できることになる。
で、気になるバッテリーの持ちだが、メーカー公称の連続録音時間は約4時間、連続再生は約5.5時間となっている。実際に録音したり再生したり、あるいは録音レベルを調整したりフォルダを作成したりの準備を含めても、電池交換ナシで1GBのSDメモリカードいっぱいに最高音質録音ができる感じですな。
ポケットにR-09を忍ばせ、いろいろな音を録ってみた拙者なんですけど、録音して再生するたびに、その音質に目を見張ったっつーか耳からの情報に脳味噌がテンパった。音、イイんですよこれが。
R-09には専用設計の高品位アナログ回路IARC(Isolated Adaptive Recording Circuit)やアナログ/デジタル回路別専用電源等、さまざまな高音質化技術が使われているが、単純に、R-09の内蔵マイクが“十二分に使える性能を持っている”と感じる。これはもー百聞は一見に如かず、というよりも、百読は一聴に如かずなので、このページにある音声ファイルを再生してみて欲しい。内蔵マイクでここまで録れちゃうんだから、耳&脳にとってちょいとした衝撃と言えよう。
またこの内蔵マイク、右・左チャンネルの音の分離もなかなか良い。本体上部左右にあるマイクユニットは、120度の角度で左右方向に向いている。また、本体内部で完全に分離された状態=マイクがある空間が隔てられているので、音声がよりクリアに分離されるとのこと。マイクの感覚は40ミリないのだが、でもしっかりとステレオ感のある音声を録音できるってわけですな。
ちなみに、R-09ではもちろん外部マイクも利用できる。そのサイズから、さすがにXLR接続のマイクなんかは無理だが、ミニ・プラグのマイクに幅広く対応する。電源供給不要のダイナミックマイクも使えるし、プラグインパワードあるいは電池内蔵タイプのコンデンサマイクも使える。また、モノラルマイクにもステレオマイクにも対応する。接続するマイクのタイプにより、R-09背面のスイッチ等を設定する必要はあるが、市販の多彩なマイクにほぼ全対応しているのが有り難い。
ポケッタブルで超高音質という時点で既にオーケー感の高いR-09だが、その扱いやすさも特筆モノであった。
何しろ良かったのが、その液晶表示。デバイスとしてはモノクロ有機ELディスプレイとなるが、これがヒジョーにイケてる。コントラストが高く視野角が広いので、目線と水平に近い角度でも表示を読めたりする。またその明るさを10段階に調整できるので、例えば暗めの場所で明るすぎることがないし、逆に晴天下で(暗く見えて)表示を読みづらいということもない。
あとですね、録音レベル調整時に“見やすさが必須となる”レベルメーター表示も非常に快適。前述のように視認性が非常に高いことに加え、入力音量に対する表示(レベルメーターの動き)の追従性も高い。例えばドラムやハンドクラップの音のように、断続的に高いレベルの入力がある場合でも、レベルメーターがテンポ良くその音に追従して動く。
またこのレベルメーター表示では、過大入力を示すピークも表示されるが、ピークインジケータとしては赤色LEDの専用PEAKインジケータが別途設けられている。見やすく追従性の高い有機ELディスプレイとPEAKインジケータにより、録音レベル調整をかなりスムーズに行えるのだ。ちなみに、録音レベル調整のためのボタンは、[+]と[−]の二つのボタンで行い、レベルは31段階に設定できる。設定レベルも逐一数値表示される=適正レベルを数値として頭に入れられるので、よりクイックに録音の前準備を済ませられる。
それから、細かいコト考えないで単純明快に使える録音機材としても良くできているR-09だ。結論から言えば、録音・再生時はほぼ片手で使いまくれるのと、機能等切り替え用のボタンが独立して用意されている点がスゲく実践的。
例えば、基本的な設定準備が済んだ後、つまり録音段階では、本体前面下の4方向ボタン&RECボタンを使って手早く操作していける。具体的に、録音を行う場合はRECボタンを押下して録音待機状態にする(RECボタン周囲が赤く点滅する)。次いでRECボタン(もしくは再生・一時停止ボタン)を押せば、録音が始まる(RECボタンが赤く点灯する)。次いで停止ボタンを押せば録音が終わる。再生・一時停止ボタンを押せば、録音を一時停止も行える。
てな感じで、まずは片手(しかも実際には親指のみの操作程度)で使えること。これが快適。また、特殊だとか説明書読まないとわかんないとかいう操作はほぼナシっす。普通一般のテレコとか録再型MDなんかが扱えれば、R-09で迷わず録音・再生ができると思う。ヒジョーに簡単で敷居が低いのだ。
他にも録音機材的手軽さが多々ある。それは本体上部の適切な位置に配置されたライン・イン端子やマイク端子、あるいはボリュームや録音レベル調整ボタンでもあるが、R-09の背面のボタンがちょいと便利。背面には4つのスライドスイッチ──AGC、EXT MIC TYPE、LOW CUT、MIC GAINが並ぶが、これが扱いやすくて実践的なのだ。
それぞれのボタンは、AGCが入力レベルの自動調整機能のオンオフ用、EXT MIC TYPEがマイクタイプ(ステレオ・モノラル)切り替え用、LOW CUTはローカットフィルタのオンオフ、MIC GAINがマイク感度切替用となる。
で、例えば外で録音してたりすると、風吹いたりするんですな。時として風による「ボフッ」とかいう音(音圧による音割れ;クリッピングノイズにつながる)に悩まされる。こんな場合はLOW CUTスイッチをオンにすると、いわゆる“吹かれノイズ”を回避できる。あるいはMIC GAINスイッチ。これをスライドさせれるだけで、対象が大きな音の場合でも小さな音の場合でも、より手っ取り早く録音レベルを調整できる。音量変化が大きくかつ予測できない場合は、AGCスイッチを使うことで、クリッピングノイズ対策にもなる。
つまり、こういったボタンが物理的なスイッチとして使えると、録音時に臨機応変&素早く準備ができて快適なんですな。前述の有機ELディスプレイの見やすさと本体前面の操作性の良さ、これに加え、実践的な背面のボタン類があるので、様々な場面でヒッジョーにフットワーク軽く録音しまくれるR-09なのである。
ちなみに、本体の機能設定やファイル形式の決定、フォルダ作成やファイル操作等は、本体前面のFINDER/MENUボタンからメニュー表示を辿って行う。この操作も基本的には本体前面の4方向ボタン&RECボタンのみで進められるので、細かな設定をする場合においても容易に扱えると感じた。
R-09と同時期に発売されるオプション類も、一足お先に試してみた。
R-09用オプションとしては、R-09用カバー・スタンド・セット OP-R09C、R-09用マイク・スタンドアダプター OP-R09M、R-09用キャリングケース CB-R09Sがある。それからR-09専用ではないが、例えばステレオ・マイクロフォンのCS-15やモニター・ヘッドホンのRH-300もある。一連のオプションものを一通り使ってみたが、R-09用カバー・スタンド・セット OP-R09Cが意外にかなり非常に便利であり、R-09用マイク・スタンドアダプター OP-R09Mも良かった。
特にR-09用カバー・スタンド・セット OP-R09Cは実用的。R-09用のケース(というかカバーですな)とEDIROLロゴ入り小型三脚なんですけど、ケース裏面に三脚取付用のねじ穴があって、OP-R09Cをケース部に取り付けられる。つまり、R-09と三脚が合体する。OP-R09Cを使うことで、手からR-09に伝わるノイズをなくせたり、あるいはより自由度の高いR-09の設置を行える。床や机の上にR-09を直に置いて録音すると床面等から音が反射して不自然な録音結果になるケースもあるので、よりイイ音で録音するためのオプションとしてナイスですな。あと、このケース、R-09を(腰の)ベルトに装着することもでき、外部マイク使いつつ歩きつつの録音にもイイ感じ。
R-09用マイク・スタンドアダプター OP-R09Mは、上記ケース(の三脚ネジ穴)に取り付けるアダプター。OP-R09CとOP-R09Mを併用すると、R-09を汎用のマイクスタンドに取り付けることができる。ので、実質上、OP-R09CとOP-R09Mとマイクスタンドのセットで使うわけだが、この組み合わせにすると、R-09の内蔵マイクだけで、いろ〜んな状況下にて録音できまくり状態となる。ピアノやドラムの音を、その振動を避けつつ最も良い位置からの録音ができるようになる。
というわけで、R-09に加え、ちょいと良さげなオプション品にもプチ垂涎モードの拙者である。
前述のとおり、R-09はSDメモリカードに音声をデジタル録音するポケッタブルレコーダー。でまあ、多くのケースで、録音した音声をパソコンに転送して利用することになると思うが、これも難なく快適に行える。
R-09とパソコンとはUSB接続できる。USB2.0対応なので、ケーブル接続してのデータ転送速度も十分に高速だと感じる。転送速度は使用するパソコンにも若干左右されるが、100MBの音声データ(16bit/44.1kHz;音楽にして10分ほど)の転送は1分弱で終わる。テープメディアに録音し、これをパソコンに取り込んだ場合、録音の実時間がかかる。これと比べると、やはり、いかにメモリカードへのデジタル録音がナイスであるかがよくわかる。
なお、R-09はUSBマスストレージクラス対応のハードウェアで、パソコンからは単なる外部ストレージとして認識される。R-09とパソコンを接続するとは言っても、特殊なドライバソフトウェア等をインストールする必要はない。また、R-09の中の音声ファイルを専用ソフトを使って取り出す、みたいなコトもナシ。外付けHDDやカードリーダ&メモリカードと同様の感覚で扱える。
てなわけで、向かうところ敵なしっていうか、使ったところ特に文句なしって言うよりも、コレを使わずして何を使うのかーッ!! と思えるR-09だが、その利用範囲はメチャ広いと言えよう。
まずR-09の王道的使い方として、生録ですな。電池駆動でポケッタブルで軽い。抜群の携帯性は生録野郎を魂を揺さぶるであろー。内蔵マイクだけでかなりイイ音なんで、生録野郎の魂は揺さぶられついてに燃え上がるとも言える。けっこーシッカリした外部マイクとセットで持ち歩いても、非常に軽いフットワークで生録を楽しめますな。
会議や講義・講演の録音にも良さそうだ。それだけに使うのはビミョーにモッタイナイという気はするが、比較的に低ビットレートのMP3で録音することもできるR-09。例えば64kbpsのMP3でなら、64MBのSDメモリカードに125分、512MBなら980分も録音できる。駆動時間も長いので、ボイスレコーダとしても活躍してくれる。ていうかマイクが高品位でありかつ左右チャンネルの分離もしっかりしているので、正直、ヘタなボイスレコーダよりずっとイイ音で会話等を録れますヨ!! R-09はWAVE/MP3対応の録音マシーンであり、もちろんそれらの音声ファイルを再生できるので、WAVEやMP3対応のポータブルオーディオプレイヤーとしても使える。
で、使ってみたが、多量の曲を持ち歩いたり、MP3のIDタグの利便を求めないなら十分に再生専用用途にも使える。ポータブルオーディオプレイヤーとして考えると、実はヘッドホン端子から光デジタル信号が出力されていたりするので、例えばEDIROL MAシリーズ等の光入力端子実装のアクティブスピーカーと繋いでWAVEファイル鳴らしちゃったりすると、もの凄く高音質。
ただ、R-09の有機ELディスプレイでは日本語表示ができない(日本語ファイル名のファイルの再生はできる)こと、MP3のIDタグには非対応である(曲順はファイル名順になる)ことなど、オーディオプレイヤーとして活用する場合はユーザー側に若干の工夫が必要になるかもしれない。
あと、オススメなのが、アナログメディアからの音声救出。例えば手持ちのカセットテープ等から、愛着のある音楽等々をR-09に録音して、これを音楽CD化する。テープデッキ等をR-09を接続し、音を再生して、R-09側で16bit/44.1kHzのWAVE形式で録音するわけですな。で、録音したファイルをパソコンに転送。この“16bit/44.1kHzのWAVE形式”なら、音声ファイルを変換することなく、即、音楽CDとして焼けるから、非常に手っ取り早く音楽CD作成ができるというわけだ。
てなわけで、まずは録音機材として品質抜群であり、ポータビリティも超高いR-09。生録野郎にとって垂涎的装置だが、ボイスレコーダーとしても音楽プレイヤーとしてもアナログ音声のデジタルサルベージマシンとしても、その活用幅は広い。
これほどの性能と使い勝手をもってして、この価格帯で入手できる製品、他にちょっとナイんではなかろうか?“プロ・クオリティの音質で手軽にデジタル録音”というキーワードにビビッとキちゃう人は、ぜひ一度触れてみて欲しいと思う。
※ 24bitは、対応ソフトをご用意のうえ再生してください
■関連リンク
・ローランドのホームページ http://www.roland.co.jp/
・EDIROLのホームページ http://www.roland.co.jp/DTMP/index.html
・製品情報 http://www.roland.co.jp/products/dtm/R-09.html
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・ローランド、24/48 PCM録音対応SDレコーダーEDIROL「R-09」、重さ145g。実売38,000円 http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20060419/roland.htm
・EDIROLのリニアPCMレコーダ「R-09」が正式発表
〜 RolandがNAMM2006出展製品を国内発表 〜 http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20060213/dal223.htm
スタパ齋藤
1964年8月28日デビュー。中学生時代にマイコン野郎と化し、高校時代にコンピュータ野郎と化し、大学時代にコンピュータゲーム野郎となって道を誤る。特技は太股の肉離れや乱文乱筆や電池の液漏れと20時間以上の連続睡眠の自称衝動買い技術者。収入のほとんどをカッコよいしサイバーだしナイスだしジョリーグッドなデバイスにつぎ込みつつライター稼業に勤しむ。