◆http://www.quanp.com
◆専用クライアントソフトウェア「quanp.on」
 「quanp(クオンプ)」。まだ耳に新しいこの言葉は、リコーがローンチを開始したインターネット上の新サービスの名称だ。

 まだ見たことがないというのであれば、ぜひ「http://www.quanp.com」にアクセスしてみて欲しい。ルーペを思わせるような「q」の文字をかたどった印象的なロゴがあしらわれたウェブサイトが表示されるはずだ。Web2.0的などと言うと、もはや言い古された感もあるが、いわゆるイマドキのデザインのページは、どちらかと言うと”堅い”イメージがあるリコーのサービスとは思えない印象だ。

 では、肝心の「quanp」とは何のサービスなのか? この答えは、単純なようで、実は奥が深い。

 一般的なカテゴリで考えるとすれば、”現状の”quanpはオンラインストレージと考えるのが適切だろう。詳細は後述するが、印象的な3Dのインターフェイスを備えたクライアントソフトウェア「quanp.on」を利用することで、画像や映像、文書など、PC上のデータを手軽にオンラインにストックしていくことができる。アップロードしたデータの共有機能も搭載されているため、単純なストレージとしてだけでなく、データの共有やコメントによるコミュニケーションなどにも活用できるようになっており、単純なオンラインストレージとは異なり、情報をよりスマートに使いこなすためのサービスとなっている。

 ここ最近、さまざまなサービスの登場でオンラインストレージサービスがにぎわいつつあるが、そのひとつの応用例と考えると、まずは理解しやすいだろう。

◆MFP事業本部 CPS-PTリーダー 生方秀直 氏
 とは言え、一般ユーザーから見れば、なぜオンラインストレージサービスをリコーが? という疑問を持つはずだ。リコーと言えば、コピー機などのビジネス製品を扱う企業というイメージが強く、コンシューマー向けのWebサービスとは少々縁遠い印象も受けなくはない。

 この点について、社内でquanpを統括する株式会社リコー MFP事業本部 CPS-PTリーダーの生方秀直氏に話を伺ったところ、「これからのリコーの成長を考えたときに必要なのは顧客の拡大と新たな顧客価値の提供です。従来のB2Bからコンシューマーへと顧客を拡大し、ハードウェア+サプライというコピー機などの従来ビジネスモデルだけでなく、新たなビジネスモデルを確立する必要があります。その具体的な方策として社内の検討チームの中から生まれたのが今回のサービスとなります。」とそのサービス誕生の背景を語ってくれた。

 同社はコンシューマー向けの製品としてデジタルカメラなどを扱っているが、やはり事務機器、ハードウェアというイメージの強い企業だ。実際、生方氏によると、quanpのプロジェクトが開始された当初はサービスの内容もビジネスよりだったとのことだが、「いろいろサービス内容を検討していくうちに、ビジネスだけでなく、もっと面白いこともできるという話になり、最終的に現在の形態へと進化しました(生方氏)」とのことだ。

 前述したように、同社は次の成長分野として、Web上でのコンシューマーとのダイレクトビジネスにより顧客拡大を目指している。リコーは創業以来70年にわたり「紙に情報/知識を載せる」というテクノロジーを核として、顧客の「情報/知識の活用」に大きく貢献してきた。今後の更なる成長のために、このDNAを受け継ぎつつ、あちら側(Web上)での情報やデータをベースとし、顧客の「知識創造」に貢献する、ということがquanpに込められたミッションである。

◆「file your life.」 このコピーこそ、quanpのコンセプトが他とは一線を画すことを物語っている
 このように誕生したquanpだが、実は非常に興味深いのはそのコンセプトだ。「file your life.」、quanpのサイトにアクセスすると表示されるこのコピーは、quanpが一般的なオンラインストレージサービスとは一線を画すコンセプトを持っていることを物語ってる。

 quanpのコンセプトについて、生方氏は「インターネット上にさまざまなサービスが増えてきて、生活の中の情報やコミュニケーションがネットの世界に“染み出す”ようになってきました。この染み出す情報を自分の人生の片割れとして捉え、それを蓄える場としてquanpを提供していることになります」と語り、これを「Life Memory」という簡潔なコンセプトとして言い換えてくれた。

 現状のquanpはインターフェイスに特徴があるにせよ、基本的にはオンラインストレージの一形態だ。しかし、そこに何を蓄えるかという提案として、リコーは「Life」、つまりその人の人生を提案していることになる。

 これはなかなか面白い考え方だ。デジタルカメラの写真、ビデオ、作成した文書、やり取りしたメール、これらは単純なデータという側面だけでなく、そのデータが作成された時のストーリーを持っている。同社の「file your life.」に習えば「slice your life.」とでも言ったところだろうか。

 要するに、あらゆるデータをquanpにアップロードして蓄えるということは、自らのLifeをそこに刻み込んでいるのと等しいことになるわけだ。

 現在、quampのサイトでは「Discovery」という原田大三郎氏の手によるプロモーションムービーが公開されているが、このムービーを見ると、そのコンセプトの一端を垣間見ることができるだろう。

◆原田大三郎氏の手によるプロモーションムービーが現在公開中(ページ中ほど左下のバナーより)。quanpのコンセプトの一端を垣間見ることができる
 個人的には、quanpに蓄えられたそれぞれの“Life”がお互いに関連づけられるようになると面白いのではないかとも思えるところだ。たとえば、同じ運動会の同じ競技の写真でも、そこには徒競走で1位になった子と残念ながら最下位になった子の別々のストーリーが存在し、それぞれの保護者が撮影した別々の写真が存在するはずだ。これらの写真がお互いに関連づけられてネット上で見られるとしたらどうだろうか。あなたが映っている写真、そこから無限に広がる数々のストーリーを体験できるとしたら、さぞかし面白いことだろう。

 もちろん、いろいろな制限があることで、現在のquanpはデータを蓄えるという方向性でしかサービスが提供されていないが、このような人生の蓄積、そしてそこから将来的に広がるであろう発展の世界こそが、リコーがquanpというサービスによってコンシューマーに提供したい「新しい価値」なのだろう。

◆「quanp.on」プレイスマップでは、プレイスの一覧が表示される
◆並べられたデータは、時系列に奥から手前へと並べられており、見下ろす角度や、サムネイルの大きさなど自由に変えられる
 さて、このようなコンセプトの一端を理解すると、quanpのユーザーインターフェイスが、なぜユニークな3Dの形態となっているのかも何となく理解できるようになってくる。

 quanpではファイルのアップロードに「quanp.on」と呼ばれる専用クライアントを利用する。このクライアントでは、レイヤーと呼ばれる横割りのジャンルに区別されたプレイスと呼ばれる場所にファイルが分類され、さらにプレイス内のファイルが3Dで表示されるようになっている。

 3Dで並べられたデータは、時系列に奧から手前へと並べられ、タイムライン(スライダーバー)を操作することで保存された時間ごとに表示を切り替えることができる。これにより、たとえば前述したfile your life.の考え方で、撮影した写真を次々にストックしていけば、奧から自分の人生を振り返るように写真がズラリと並ぶというわけだ。

 このユーザーインターフェイスは、生方氏いわく「emotional」というコンセプトで開発されたもので、とにかくユーザーが操作していて気持ちいいと思わせるような工夫が各所でなされているとのことだ。確かに、3Dビューで方向ボタンをクリックすることで、別のレイヤー、別のプレイスのデータへとスッと移動するような感覚で表示が切り替わるのは直感的であり、気持ちが良い印象だ。

◆MFP事業本部CPS-PT 平田聡 氏
専用クライアントの技術面を担当
 しかしながら、使う側の立場からすると、印象的なインターフェイスであると同時に、どうして専用クライアントなのかという疑問も持つはずだ。オンラインストレージという使い方を考えれば、ブラウザなどから利用できた方が使い勝手は良い。

 この点について、クライアントの技術面を担当するMFP事業本部CPS-PT 平田聡氏は、現状の理由として「これから次々に発展していくサービスなので、機能の追加などが迅速にできる開発スピードの速さ、さらにデザイナーとの連携も重視してWPFを選択しました」と語った。

 また、専用クライアントを利用するのは、将来的なサービスの発展を考慮した場合に有利だという理由もあるとのことだ。生方氏によると、「現状の自動アップロードツールなどもその例のひとつですが、将来的にたとえばデジタルカメラやスキャナなどの連携して自動的にquanpにアップロードするといったハードウェアや他のアプリケーションとの連携を考えると、専用クライアントを使う強みもある」と言うことだ。

 このような他の機器やシステムとの連携というのは、quanpが目指す将来の姿のひとつでもあるようだ。具体的な計画については未定とのことだが、たとえばAPIを公開するなどして参加者がマッシュアップできるような環境も視野に入れているようだ。

◆MFP事業本部CPS-PT 荒海雄一 氏
サーバー側の開発を担当

 実際、サーバー側の開発を担当するMFP事業本部CPS-PT 荒海雄一氏によると、「quanpの環境はなるべくオープンな環境を利用するようにしています。Ruby on Railsなどもそうですし、外部との認証はまだできませんがOpen IDを利用したりと、内部的にはオープンソースをかなり利用しています」という。

 つまり、quanpは単純なオンラインストレージではなく、将来的にはプラットフォームという広い存在にもなり得るサービスということになる。リコーが自らサービスを拡張していくのはもちろんのこと、利用者がAPIを利用したサービスを提供したり、他のサービスと連携したサービスへと発展してく可能性もありそうだ。

 このように、リコーのquanpは非常に興味深いコンセプトの元に開発されたサービスと言える。現状サービスは開始されたばかりだが、今後さらなる発展が期待できるサービスと言える。なお、サービス体系は、Trial(1GB:無料) / Standard(10GB:300円/月) / Quantum(100GB:980円/月)となっている。

 現状はデータをアップロードして保管するという使い方が中心になるが、便利な共有機能も利用できるうえ、将来的にはビジネスでの利用に適したサービスなども展開されることが予想できる。また、Webブラウザや携帯電話など対応プラットフォームも順次拡大されていく予定であり、急な時に出先でファイルをダウンロードして利用したり、ふとした瞬間に携帯電話で撮った写真をアップロードするなど、場所や時間に縛られず気軽に使えるようになってくると、quanpはさらに魅力的で便利なサービスになるだろう。

 今回、話を伺った生方氏、平田氏、荒海氏が所属するプロジェクトチームでは、quanpにデータをアップロードすることを「quanpする」と言うことが多いそうだが、まさにそんな言葉が一般化するようなサービスへと成長することを期待したいところだ。

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清水理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるブロードバンドインターネット Windows XP対応」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ


関連リンク
■quanp
http://www.quanp.com/
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■リコー、写真や文書などを1GBまで無料でアップロード・共有できる“quanp”
http://www.forest.impress.co.jp/article/2008/05/12/quanp.html
■リコー、無料で1GBのオンラインストレージ「quanp」。有料サービスも
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/news/21841.html
■リコー、新タイプのWebサービス「quanp」のフィールドテストを開始 3,000人規模の参加者を募集
http://www.watch.impress.co.jp/headline/article/20080303/ricoh.htm