最大15倍速BD記録が可能な、パイオニアの据え置き型BDドライブのハイエンドモデル「BDR-S08J」。このモデルが、ソフトウェアアップデートにより新機能「リアルタイムPureRead」に対応するという。CDに記録された音声データを忠実にリッピングする「PureRead」機能は、パイオニア製ドライブの定番機能だが、「リアルタイムPureRead」を使えば、リッピング時だけでなく、CDのリアルタイム再生時でも、高精度な信号読み取りが可能になる。今回は開発スタッフに話をうかがいつつ、その実力を実際に試聴体験レポートする。
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PureRead生みの親のひとりである大下氏
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PCオーディオの流行もあり、今や多くの人が、音楽用CDを直接CDプレーヤーで再生するのではなく、PCでリッピングしてデータをPCやNASに保存し、PCやネットワークプレーヤー、あるいはiPodなどの携帯プレーヤーで再生するのが一般的になってきた。パイオニアのBD/DVD/CDライターで利用可能な機能「PureRead(原音再生)」は、高精度なデータ読み取りアルゴリズムを備え、CD特有のエラー訂正やデータ補間によって音質を損なうことなく、ディスクに記録されたデータを正確に読み取る技術だ。まずは、おさらいとして、この「PureRead」について、産みの親のひとりであり、「PureRead」のアルゴリズム開発に携わってきた、パイオニアデザインアンドマニュファクチャリング株式会社 技術統括部 第6技術主事の大下貴宏さんに、CDのデータ読み取りの重要性について聞いてみた。
【大下】 1980年代初期に登場した音楽用CDは、アナログ媒体の代替として生まれた当時としては十分に実用的なエラー訂正能力を備えたフォーマットでしたが、現在のレベルからすると決してエラーに強いとは言い切れません。なにせリッピングという行為そのものが存在しなかった時代であり、ストリーミング再生(データをメモリーなどに貯め込まず、リアルタイムで再生すること)を前提に作られていますから、読み取った信号にエラーが発生した場合は再度信号を読み直さず、その場でエラー訂正を行います。エラー訂正でも復元できない音声データは、前後の情報を元に補間します。この補間されたデータは元の信号とは異なるものですから、音質に違いが生じる原因になります。
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キズのあるCDを再生すると、このようにエラーが発生し、CDのエラー訂正機能によって補間が行なわれる。上のCDのキズはわざとつけたもので、これは極端な例だが、日常的につくキズでもエラーは発生する
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CD読み取り時にエラーが発生する原因は、ディスクの傷や汚れ、盤面の変形など、さまざまだ。さらには、新品のCDであってもプレスの精度が悪く、エラーが発生しやすいものもあるという。
【大下】 新品のディスクでエラーが発生しやすいというケースは稀ですが、一見するときれいなディスクでも、エラーは発生します。例えば、レンタルCDや中古CDの場合、傷や汚れを研磨している場合があります。クリーニング用品としてもCDの傷を治す研磨剤がありますね。すべてのクリーニング用品が悪いわけではありませんが、人間の目には研磨でキズが消えたように見えても、逆に細かいキズが大量に発生していることがあり、信号を読み取るレーザーピックアップにとって読み取り精度が向上するとは限りません。
研磨剤によるCDのキズの修復は、人間の目では判別できない細かいキズで覆い隠してしまうようなものだという。もちろん、普通に使っているCDでも目に見えない細かなキズがどんどん増えていく。指紋などの皮脂汚れは、ついつい乾いた布やティッシュペーパーなどで拭き取りがちだが、これもキズの原因になる。薄めた中性洗剤で洗い流し、水気を柔らかい布で拭き取り、きちんと乾燥させるといった、デリケートなケアが欠かせないそうだ。
このほかにも、CDディスクの素材であるポリカーボネートの太陽光による劣化、自動車内など温度の高い場所に置かれることによる変形など、さまざまな要因でCDはエラー発生率が増えていくという。
【大下】 つまり、ほとんどのCDはかなりのエラーが発生しており、多くの場合は訂正された信号を聞いているわけです。また、訂正しきれないデータは、データ補間で音が変化してしまっています。CDは、データ補間によってとりあえず音が出てしまうところがやっかいで、エラーが発生しているとは思わなくても、実際には音質に影響が出ている、ということがあります。「PureRead」はこうしたエラーの発生を抑え、記録された信号を可能な限りそのまま読み出し、忠実な再生を実現する技術です。
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読み取りエラーと、それに付随する補間処理を回避するため、CDの元データに忠実に「原音再生」するための技術が「PureRead」だ。その効果は、さきほど登場したキズだらけCDもパーフェクトに読み込めるほど。上図オレンジ〜赤色の部分がエラー発生箇所、グリーンが正常に読み込めた箇所だ
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大下さんは自身の演奏を録音したCD-Rを聴くことで「実際に演奏した音」と「補間された音」の違いに気付いたという
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CDのエラーによる音質の劣化は、音にこだわりのある人はもちろん、自分でも音楽を演奏する人などは敏感に気付いてしまう部分。実際、自身もピアノ奏者である大下さんが、エラー訂正/補間されたCDの音質に感じた「違和感」が、「PureRead」誕生のきっかけにもなったという。
それだけに「PureRead」は、登場以来多くのユーザーに好評で、BDR-S08Jには最新のアルゴリズムが盛り込まれた「PureRead3+」が搭載されている。一方で、そのPureReadを、リッピング時だけでなくリアルタイム再生でも利用したいという声が徐々に増えていた。
というのも、PCによるオーディオ再生が一般化した現在、熱心に音楽を聴く人はすでにライブラリーのCDのほとんどをリッピング済みだが、そんな人があとから「PureRead」の存在を知り、「もしかして自分のリッピング音源にもエラーが!?」と思っても、改めてリッピングし直すというのは大変だからだ。それに、すべてのディスクではなくても、昔から愛聴しているお気に入りのディスクは、ストリーミング再生で聴きたいという人は少なくないだろう。
ただ、PureReadは読み取りエラー発生時にリトライを行うので、リアルタイム処理は難しいと考えられていた。
【大下】 例えば、エラーが発生するとリトライを繰り返し、一定回数以上エラーが続くと読み取りを中止する「パーフェクトモード」では、ストリーミング再生時には音飛びが発生したり、再生途中で信号読み取りが中断してしまうことがあり、リアルタイム処理には使いにくいのです。
CDはもともとストリーミング再生を行うことを前提としたメディアで、それゆえにどれだけエラーが発生しても問題なく再生を続行できるエラー訂正や補間能力を持っている。だが、そのエラー訂正や補間の精度は、高音質を望むオーディオファンにとっては決して十分なものとは言えない。とはいえ、高精度な読み取りを優先すれば、ストリーミング再生が難しくなってしまう。
【大下】 「リアルタイムPureRead」の開発はかなり難しく、初期段階では「ちょっと無理じゃないか」という声も上がりました。そこに実現のためのアイデアを思いついたのが、石原です。
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これまでPureRead自体には関わってこなかったという石原氏
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石原氏のアイディアにより、リアルタイムPureReadが実現。ポータブルドライブのフラッグシップ「BDR-XU02JM」にて初実装
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技術統括部第6技術部 2グループ リーダーの石原完治さんは、もともとは「PureRead」の開発には関わっておらず、ディスクドライブ全般を統括する立場にいたが、ここ最近になって「PureRead」に関わるようになり、まずは基礎から「PureRead」を理解するようにしたという。だからこそ、開発者が気付かなかった部分にも目が届き、「リアルタイムPureRead」を実現できるアイデアにたどりついたという。
【石原】 僕は当時BDR-XU02JM(Mac用ポータブルドライブ)の開発に参加していたのですが、その目玉として「リアルタイムPureRead」が実現できそうだということで、搭載を決めました。要望が多かった機能だけにとても好評でしたね。そして、据え置き型のハイエンドモデルであるBDR-S08Jにもソフトウェアアップデートでの実装をすることに決めました。
上級機であるBDR-S08Jにもアップデートで搭載できたのは、ユーザーにとってはうれしいところだろう。他のモデルのユーザーは、すべてのモデルで対応してほしいと思うだろうが、残念ながら「リアルタイムPureRead」は、バッファーメモリーの容量や制御用LSIなどの要求スペックが高いので、すべてのモデルで対応するのは難しい。現状は、上級モデルのみの対応となるようだ。
実際のところ、「リアルタイムPureRead」はこれまでの「PureRead」とはどう違うのだろうか。
【石原】 「リアルタイムPureRead」は、ストリーミング再生時のみ動作するもので、BDR-S08Jの場合、CDのリッピング時に使われる「PureRead3+」とはまた違ったラインの機能という位置づけです。
「リアルタイムPureRead」では、読み出した信号を貯めておくバッファーメモリーを最適化し、エラーを検出した場合にストリーミング再生が途切れないようにバッファーの容量をチェックしながらリトライを行うところがポイントだ。余裕のあるときはきちんとリトライを繰り返し、余裕のないときだけエラー訂正に任せるという判断をしているわけで、賢いアルゴリズムと言える。
【石原】 ストリーミングが途切れないことが優先ですから、「PureRead」のパーフェクトモードのような精度はとれません。しかし、エラーのない読み取りができなければ意味がありませんし、音質的にもきちんと効果が得られることも大事です。実際の開発では、プログラムが意図通りに動くかどうか、結果として再生音質の向上が得られるかといった検証が大変でしたね。サンプルが大量に必要でしたし、しかも部屋の温度など、外部的な要因によっても読み取りの結果が変わってきたりもします。
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とにかく「状態の悪いCD」のサンプルが大量に必要ということで、あの手この手(?)を使って集められた。上の写真は秘蔵(?)の「自動車内で長時間放置されたCD」
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その開発では、動作検証用に膨大な数のCDを集めてテストしたという。レンタルCDや中古CDはもちろん、カーオーディオで酷使されたCDなど、さまざまな使われ方をしたCDが集められ、その結果として、見た目はきれいなのにエラー発生率が多いCDもあることに気付いたそうだ。
どうやら、きちんとプレスされた新品CDを手袋をはめて取り扱うというレベルで使っていない限り、普通に扱っているつもりでも長年の間に30%程度のエラー発生率になるケースもあるらしい。この事実はなかなか精神衛生上よろしくないが、「リアルタイムPureRead」があれば、そのエラーはほとんどが解消できる。ひんぱんにCDをストリーミング再生することが多い人ほどありがたいだろう。
ちょっと意外なことだが、等速で信号を読む一般的なCDプレーヤーと違って、PC用ドライブでは高倍速で読み取るというのもポイントだという。高速で読むからリトライの余裕が確保できるわけだ。言われてみれば納得だが、PCでCDをリッピングする再生スタイルが始まったころは、CDの読み出しは等倍速かなるべく低い読み出しの方が音が良いという認識が広まっていたことを覚えている人も少なくないだろう。その当時でも等倍速で読み出しができるドライブは少なかったので、中古市場で古いドライブが高騰していた覚えもある。
だが、それは昔の話で、現在は高速読み取りの方がメリットは多いようだ。読み出しの光学ピックアップにとっても、ディスクのキズを見ている時間が高速読み取りの方が短くなるので、光学ピックアップの動きを制御するサーボの負担が減り、読み取り性能に貢献するという。
リアルタイムPureReadの効果を実際に耳で確かめるため、パイオニアの試聴室にてインプレッションの機会を得ることができた。PC上でごく普通にWindows Media Playerを使ってCDを再生するのだが、読み取りエラーを視覚的に把握できるアプリケーションが表示されている。こちらはパイオニアドライブユーティリティの機能追加で実現した機能だという。
【大下】 「リアルタイムPureRead」の追加にあたって、ドライブユーティリティに再生中CDのエラー率をモニターできる機能も追加しました。エラーを検出してリトライを行っている頻度をグラフでおおまかに確認できます。
「リアルタイムPureRead」に合わせて、インターフェースのデザインを一新した「ドライブユーティリティ」に追加されたモニター機能がそれだ。ディスク再生などを行うと、エラーの発生セクタ数や発生率をビジュアルで表示するほか、「Good」「Bad」などの評価も表示してくれる。
ちなみに、グラフが真っ赤になるほどエラー率が高くなる「Fatal」評価の場合、「PureRead3+」でも完全復旧は難しいレベルだという。また、CD再生時には前面のランプが点滅することがあるが、これもリトライを行っていることを示すものだそうだ。
いろいろなサンプルディスクを試させてもらったが、見た目には新品同様のCDでも意外なほどエラーが発生していたのには驚いた。もちろん、「リアルタイムPureRead」では、エラーはすべてリトライで読み直しされ、再生時ではエラーの発生はゼロだった。
ここで、僕が持参した見た目にもキズが目立つディスクでその効果を試させてもらった。ずっと昔に紛失したと思っていたディスクで、なんとディスク棚の裏にケース無しで裸のまま埃にまみれていたものだ。細かなキズも多いが、中性洗剤で洗ったものの盤面はうっすらと曇っているし、カビと思われる拭いても落ちないシミのようなものもたくさんある。
まずは、「リアルタイムPureRead」オフで聴く。音飛びなどもなく、問題なく再生できてはいるようだが、エラーモニターではかなりのエラー率となっていた(真っ赤になるほどではなかったが)。
次に「リアルタイムPureRead」をオンにして聴いてみる。エラーモニター上では、見事にエラーがなくなっている。また、数値上のエラーゼロ以前に、音の違いが明らかだ。音の響きのヌケの良さ、音場の見晴らしの良さは聴いてすぐにわかるほど。まさに薄膜を一枚剥いだような音になる。また、個々の音も芯が出て実体感を増し、音楽が表情豊かに再現されると感じた。
そして、テスト用にわざとキズをつけたディスクも試してみた。データとしては36258セクタ中、882セクタでエラーが発生し、評価は「bad」。 こんなディスクでも「リアルタイムPureRead」はエラーゼロで再生できてしまった。こちらも、ピアノ演奏の運指のリズム感や音量を抑えたピアニッシモの静寂感などがしっかりとわかり、ダイナミックレンジの広い再現になっているとわかる。
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わざとキズをつけたCD-R。余談だが、収録されているのは大下氏のピアノ生演奏
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上のCD-Rを普通に再生してみたところ、評価は「BAD」。グラフ的には「Fatal」一歩手前か!?
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ところがリアルタイムPureReadをオンにしてみたところ、見事エラー/補間無しの「Perfect」評価に
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また、正直なところ、一般的なタワー型筐体のPCをプレーヤーとして使った音とは思えないレベルの音質だ。試聴では、決して高価ではないUSB DACを使用し、ミドルクラスのオーディオコンポを使用。スピーカーだけはパイオニアのハイエンドモデルだが、スピーカーの実力に見合うしっかりとした音が聴けた。
専用機であるCDプレーヤーも、実力の高いものは読み取り用のLSIなどをチューニングし、高精度な読み取りができるものもあるが、現在ならばBDR-S08Jの方が読み取り性能に関しては上だと思える。しかも、読み取った信号はUSBでデジタル出力するのだから、ノイズなどの影響も少ないだろう。これはもう、立派なCDトランスポートだと言っていい。
パイオニアのBDドライブは、CDドライブ時代からの長い蓄積があり、さらにはLDディスクやオーディオCDプレーヤーなどのディスク再生のためのノウハウも膨大に盛り込まれ、高精度な信号読み取りや純度の高い音楽再生が楽しめることで定評がある。「リアルタイムPureRead」のおかげで、ディスクを直接再生する場合でもその音質効果が得られるようになったのは、実にありがたい。
以前からパイオニアのBDドライブを愛用している僕自身、PCはあくまでもリッピング用で、ディスク再生はオーディオプレーヤーを使っているが、そろそろその認識も古くなってきたのかもしれない。所有するディスクをすべてリッピングするのはちょっと面倒だが、「リアルタイムPureRead」があれば、よく聴くCDを思い立ったときに、エラーゼロの高精度で再生ができるのは実にありがたい。ふだんは気軽にリッピングしたデータで音楽を聴き、「今日はじっくりと音楽を聴くぞ!」 というようなときは、昔のようにディスクを取り出して、ストリーミング再生で最高の音質でCDを楽しむ。こんなスタイルが同じPCで使い分けできるというのもなかなか贅沢だ。
BDR-S08Jユーザーは音質にこだわりのある人も多いそうだが、そんなユーザーの声に応える今回の無料アップデートは実にうれしいプレゼントだろう。CDだけでなくBDやDVDを含めたAV再生のためのドライブを探している人にとって、BDR-S08Jはまさしく理想的なモデルと言える。
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BDR-S08Jは3色のカラーバリエーションで発売中だ
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(鳥居一豊)
特報!
“十和田モデル”BDR-208JBK/TOWADA 発売が決定!
パイオニアのBD/DVD/CDライター「BDR-208JBK」は、同社ラインアップの中ではメインストリーム向けといえるドライブで、「BDR-S08J」に比べると一部オミットされた機構や添付ソフトウェアの違いはあるものの、その基本性能はフラッグシップ譲りであり、購入しやすい価格帯の高品質ドライブとして人気を集めている。
そんなBDR-208JBKだが、BDR-S08Jとの、ある意味重要な違いは「生産地」。BDR-S08Jは青森県十和田市の「十和田パイオニア」で生産される日本製であるのに対し、BDR-208JBKは日本製と中国製が混在しているのだ。
一方で、購入しやすい価格帯での「日本製」を望む声は非常に大きく、そんなユーザーの熱い声に応えた商品が、今回限定販売される「BDR-208JBK/TOWADA」だ。
BDR-208JBK/TOWADAは、十和田工場生産の日本製BDR-208JBKを、専用の限定梱包箱にパッケージングした2500台限定商品。通常のBDR-208JBKとの違いは生産地のみだが、日本製の高品質なドライブが欲しい、でもBDR-S08Jほどの機能やソフトウェアは不要……というユーザーにはうれしい商品だろう。市場想定価格は15,000円前後だ。
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