パイオニア株式会社 モーバイルエンタテイメントビジネスグループ 国内営業部 マーケティンググループ マーケティング課 主事の山崎 豪 氏にお話しをうかがった

 知っている人も多いと思うが、カロッツェリアブランドとしてのカーナビ製品は、「楽ナビ」以外に「サイバーナビ」「エアーナビ」を発売しており、大別すると3つのシリーズラインアップからなっている。

 価格的な比較をすれば明確な差があるために、製品ラインアップの上下関係は分かりやすいが、漠然とカーナビを使用したいと考えたユーザーが、自分にはどれが適しているのか、迷ってしまうことも確か。

 そこで、まずは基本情報の整理として、各シリーズに込められたコンセプトの違いからお話を伺ってみた。

1990年に発表された世界初の市販GPSナビゲーション「AVIC-1」。サイバーナビ、そしてカロッツェリアの歴史はここから始まった
「サイバーナビ」の最新フラッグシップ
「AVIC-VH9900」
日本初のDVD採用カーナビ「AVIC−D909」。1997年5月に登場
パイオニア初のHDD搭載ナビ「AVIC−H09」。発売は2001年5月
PC連動機能は最新のサイバーナビでももちろん対応。最新型では、「リビングキット」を用いてPCとブレインユニットの接続をおこなう
高性能なCPUによる処理速度を活かした機能も、サイバーナビの持ち味。上の「ソリッドシティガイド」は、実際の建築物を3D表示して案内する

 サイバーナビは、カロッツェリアカーナビの最上位ハイエンド機に相当する製品だ。なにか革命的な機能の搭載はこのサイバーナビシリーズから行われることが多く、毎年、その製品発表の際には、熱い視線が送られている。

「サイバーナビは、走る実験室とでも申しましょうか。カーナビとして、その時代の最先端技術を提供するフラッグシップモデルです。これはカロッツェリアカーナビのフラッグシップであると同時に、カーナビゲーション業界全体としてもフラッグシップ的な位置づけであると考えています。つまり、その時代の最も進んだ、カーナビとしての『新しい価値』を、お客さまに体験してもらえる商品といえます」

 カロッツェリアのカーナビは、スマートループしかり、HDDしかり、製品に最先端の技術を他社にさきがけて実装しているように感じる。その時代時代のカッティングエッジな技術を体験したい、そんなユーザーの期待に応え続けてきた所以である。

 しかもサイバーナビは、ユーザー自身が最先端技術のイノベーションに「参加」してきたという側面もある。スマートループに関していえば、当初は道路情報の配信が少なく、ユーザーからの走行情報を収集することで、ひたすら完成度を高めていったという経緯があるのだ。

 とはいえ、山﨑氏の言う「実験室」とは、サイバーナビが試作品という意味ではない。サイバーナビは、その時代の最新カーナビの完成形でありながらも、他社においては研究室レベルの次世代技術の一部を、先行して取り入れている…という意味だ。もしかすると、今、パイオニア製品の中で、もっとも社名のパイオニア(先駆者)を具現化しているのがサイバーナビかも知れない。

 ここまで聞くと、なるほどサイバーナビは最先端の技術をとにかくゴッタ煮的に取り入れてるのだな、と思ってしまうかも知れないが、実際には、闇雲に技術を詰め込んでいるわけではない。

 「なんでも新しいものを詰め込めばいいか…というとそういうわけでもないんです。例えば、Blu-rayドライブやXGA液晶採用などは、他社の製品の方が先行しています。我々はユーザーの利便性を向上させる最先端技術をいち早くサイバーナビに搭載するようにしていますが、技術の最先端を寄せ集めているわけではなく、そこはあくまで「お客様にとって必要かどうか」を採用基準として重視しています。ドライブを例にすれば、弊社がカーナビにDVDドライブやハードディスク(HDD)をいちはやく採用したのも、ユーザーにとっての利便性を重視した結果です。DVDは、カーナビに求められるデータ量の増加に対応するソリューションとして。HDDは、高速性とデータ書き換えによる利便性を実現するため。現状、採用していないBlu-rayドライブについても、2009年時点で最先端のカーナビを考えたときに、採用は今でなくてもいいという判断があったまでのことです」

 「PC連動機能」も、カロッツェリアがいちはやくサイバーナビで実現させた機能のひとつだ。ブレインユニットと呼ばれるカーナビのコアユニットをPCと接続し、音楽などのメディアやドライブ情報をPCと連動できるようにしたのだ。これは、車載コンピュータであるはずのカーナビが、普及が進むPCと比較して、最新の情報にアクセスする機能がとても遅れていることに気がついたのが出発点だという。

 当時は「カーナビなのにHDDを採用するなんて」「カーナビとPCを繋げてどうするの」という冷やかしのような声もあった。しかし、今やカーナビにHDD採用は当たり前だし、PCとの連動といったアイディアは、徐々に他社が断片的にマネしてきているという状況。携帯電話をカーナビにつなぐという機能は、他社製ナビでは最新機能のように紹介されているが、実はカロッツェリアカーナビではすでに20世紀から実現されてきた機能だったりする。

 パイオニアは、カーナビ開発において、遠い未来を先取りしていることに躍起になっているわけではなく、時代やユーザーが求めているものを実現するためにこそ、常識にとらわれない技術選択をしているだけなのだ。技術志向のイメージのあるサイバーナビだが、その開発は意外にも、足を地に着けた状態で行われているのである。

初代エアーナビ「AVIC-T1」。世界初の通信モジュール内蔵型カーナビ。あらゆる機能を外部のサーバーに依っていた
エアーナビの最新型「AVIC-T20」。通信機能やWVGA液晶など、競合のPNDに比べてもクラスの違うスペックを誇る、ある意味特異な機種

 カロッツェリアのラインアップの中で、「エアーナビ」シリーズの存在は特異だ。カテゴリー的にはPND(Portable Navigation Device)に分類されるようだが、実際のところ、他社製品のどのPNDにも似ていないユニークな存在となっている。だからこそ、ユーザー達がどういった製品なのかイメージを掴みにくいという側面もある。

「エアーナビは初登場したときの『AVIC-T1』と現行の『AVIC-T20』とでは若干コンセプトが変化してきた感じがあります。AVIC-T1はPNDの先駆け的な存在となった製品で、通信機能を備え、地図情報を含めあらゆる情報をリアルタイムにサーバーから取ってくるシステムを採用していました。AVIC-T1ではルート検索もサーバー側で計算していたんですよ」

 読者の中にはピンと来た人も多いかもしれない。そう、AVIC-T1は2002年の登場時点でクラウド・コンピューティングの考え方を実用化していたのだ。それも、カーナビのシステムとしてである。まさに技術の先駆者(パイオニア)ならでは試みだといえよう。

「AVIC-T1はシステムデザインとしては優れていたんですが、サーバーシステムの一新、インフラの再整備などを行う関係でAVIC-T1のシステムは2009年5月にて一旦終了させていただきました。2008年に発売した第二世代モデルともいえるエアーナビは、「AVIC-T10」を経て、いまは後継の「AVIC-T20」が登場しています。これら第二世代モデルでは、地図データなどは本体に内蔵し、ルート探索など基本的なナビゲーションはエアーナビ本体だけで行えるようになっています。もちろん、エアーナビ特有のネットワーク機能は継承されていて、装着した通信モジュールにより、スマートループ情報を初めとしたリアルタイム情報を取得することが可能です。また、AVIC-T1にはなかった基本的なAV機能も備えています」

 エアーナビ初代のAVIC-T1は、通信サービスに加入しなければ単体では一切の機能が使えない特異な製品だったが、第二世代機ではスタンドアローンでは標準的なPNDとして利用でき、なおかつ通信サービスに加入すれば常時リアルタイム情報の取得が可能(パケット料金は使い放題で月額最大2079円)で、携帯電話を接続すればオンデマンドでリアルタイム情報を取得できる製品へと変化したのだ。

 PNDでありながら、スマートループ情報を取得できるのは非常に強力だ。さらにポータルサイトである「ナビポータル」へアクセスして現在位置周辺のオススメ店舗をはじめとしたお得な生活情報の取得ができ、さらにガソリン価格情報、駐車場満空情報といったドライブに有用な情報の取得までも行えるというのは、PNDの機能の常識を越えている。

 このように、AVIC-T20はカーナビでありながら「新情報端末」という側面を持つ。確かに、競合ひしめくPND製品群の中でも一際、存在感がある。

前回記事のレビューで使用した楽ナビのフラッグシップ機「AVIC-HRZ900」
ユーザーにとっての「使いやすさ」を第一に設計されている楽ナビシリーズ。その最たるものが、メニュー画面などを自分好みにカスタマイズできる「マイセットアップ」

 メインストリーム機となっている「楽ナビ」は、一般ユーザーにもっとも浸透したカーナビブランドだ。ただ、度重なる進化の中でサイバーナビとの機能差が縮まっているようにも思える。

「楽ナビは、カロッツェリアカーナビの主力製品です。開発の際には、ただ単に高機能を詰め込むというよりも、まず第一に“使いやすさ"に配慮しています。楽ナビの”楽"にはその意味が込められているんです。我々には『走る実験室』とも言うべきサイバーナビでつちかった最先端技術、革新的な機能があるわけですが、このサイバーナビのユーザーさん達から得られたフィードバックが数多くあります。楽ナビでは、それらをもとに、サイバーナビの技術や機能を"楽"に使えるようにリファインして実装しています。およその目安ですが近年の楽ナビには1〜2年前のサイバーナビと同等の機能がリファインされて搭載されることが多いですね」

 サイバーナビの機能の全てが楽ナビに降りてきているわけではない。”楽"に使いやすくするために、サイバーナビの高機能が楽ナビ搭載時には簡略化されることも多い。サイバーナビにはサイバーナビだけの「プレミアム感」が、楽ナビにはサイバーナビで熟成された最新機能が降りてくるという「安心感」があるというわけなのだ。

ちなみに楽ナビには、よりコストパフォーマンスに優れたお買い得なモデルとして『楽ナビLite』もラインアップされている。フラッシュメモリーを使っているのが特徴で、楽ナビのミュージックサーバー機能などは省略されているものの、CD/DVD/地デジTVのほか、iPodなどの多種多様なメディアや圧縮フォーマットに対応するなど充実のAV機能が備わり、カーナビ機能もスマートループに対応するなど、機能面では『楽ナビ』に負けず劣らず優秀だ。

     
 
楽ナビlite「AVIC-MRZ90」
 
ラインアップ中、楽ナビliteにだけ搭載されている機能が「ナビチャージ」だ。PCでダウンロードした最新地図や各種データをSDメモリーカードに「チャージ」し、さらにそれを楽ナビliteのSDメモリーカードスロットに挿すと、カーナビに最新の情報が「チャージ」される
 
曲がり角などで、「まさにここ」というタイミングで右左折指示を出してくれる「ジャスト案内」。正確無比な自車位置検出機能を活かした機能だ(画面はサイバーナビのもの)
正確かつなめらなかナビゲーションを支える「10Hz測位」。1秒間に10回というスピードで自車位置の測位をおこなう

 カロッツェリアカーナビを一度でも使うと分かるのだが、案内ガイドのタイミング、地図の見え方と実風景の一致感などが秀逸だ。カーナビとしてのトータルな機能としてみれば些末な部分に思えるかもしれないが、とはいえ、この部分こそカーナビに求められる機能の根幹部分である。

 「他社製品の性能に対して、我々が今でも絶対的に自信があるのが自車位置精度です。我々は『IQ高精度』と呼んでいる技術なのですが、『それは一体なんなのか』と聞かれると確かに返答は難しいんです。『IQ高精度チップ』というものがあるわけではなく、20年間積み上げてきたトータルな自車位置検出技術の総称なので…」

 複数のGPS衛星からの電波情報を元に自車位置を算出するのが自車位置検出の基本だが、ここでまず問題となるのが、トンネル内や高層ビル群に入ったときなどにGPSを見失うケース。これに対応すべく開発されたのが、方位ジャイロ、車速パルス、加速度センサーを組み合わせた自律航法ユニットだ。当初はGPSを見失ったときにだけ稼動させて自車位置を推測していたが、後にこの自律航法ユニットを常時稼動させて自車位置精度を向上させる技術が開発される。さらに2000年にGPSのSA(※)が解除されるまでは、これを補正する独自の技術も開発されたという。

(※)米国によって打ち上げられたGPS衛星は当初、軍事上の目的で、民生用の機器に対しては、最大100m、意図的に測位を狂わせる仕組みが導入されていた。これをSA(Selective availability)と呼ぶ。これは2000年5月1日に解除された。

 そうした一連の自車位置検出技術の進化の中で、各社は精度を上げてきており、現在では、道路に対して自車位置が左右横にずれてしまうエラーはほとんど見られなくなっているという。これは、何らかの要因で自車位置検出をミスしたときに、自車位置を一番近い道に寄せて補正するマップマッチング技術というものが一般化したからだとのこと。

平坦な道と傾斜のある道は、GPSから見ると同じ距離に見えても、実際に車が走る距離には差が出てくる
カロッツェリア上位機には、2基のセンサーからなる「 クリスタル3Dハイブリッドセンサー 」を搭載、自社の傾斜を正確に検知する
立体駐車場における測位精度は、まさにカロッツェリアの真骨頂

「ただ、自車位置の「横のズレ」は補正できたとしても、こんどは「前後」のズレが発生します。この前後ズレの少なさに関して言えば、弊社が業界トップだと自負しています。
前後のズレがなぜ起きるかというと、地球が丸くて、しかも道は上ったり下ったりの傾斜があるからなんです。印刷された地図を見たとき、道の傾斜までは分かりませんよね。空から見たら真っ直ぐな道でも実は上ったり下ったりしているわけです。
空から見たら同じ距離でも、坂の傾き具合で実走行距離は増減するわけです。タイヤの回転数などで取得する車速パルスを元にした走行距離算出では当然誤差が出ます。その誤差が、単位時間あたりたった数%だったとしても、走行距離がある程度かさめば誤差は蓄積されていきますから、最終的には大きな前後ズレとなっていきます。
これを解決するため、坂の傾き具合を検知するセンサーが必要となります。それが傾斜センサーです」

 とは言うものの、現在、他社製品でも傾斜センサーを取り入れて、その道の傾斜角を把握できているものもある。そうした他社製品と比べても、前後ズレがパイオニア製カーナビで少ないのはなぜなのか。

「弊社の関連会社にデジタル地図制作やカーナビ関連サービスの開発を行なうインクリメントP株式会社があります。実は、我々の使用しているインクリメントP株式会社製の地図データには、全網羅で道の傾斜情報が組み込まれているのです。このため、カーナビ本体側の傾斜センサーと組み合わせることで、正確に道のトラッキングと正確な自車位置が検出できるのです。
カーナビ本体のほうに傾斜センサーがあっても、地図側に傾斜データがなければ、自車位置の検出の誤差が出てしまうケースは多いです。前後ズレはもちろん、高速道路と一般道路が重なっていたり隣接している時や、一般道でも本線と側道で分岐している場合などに測位のズレが発生しやすいのです。そうしたケースでは、傾斜センサーが搭載されていても、地図側に傾斜データがないと正確にどの道を走行しているかの追従が困難です。
今ここで挙げた例はIQ高精度技術のほんの一例ですが、要は、そうした細かい技術の積み重ねによって実現されているのが他の追随を許さないカロッツェリアカーナビの『IQ高精度』というわけなんです 」

例えば、4車線の高速道路の長いカーブで、どの車線を走ったかで走行距離がだいぶ変わってくる。他社製品では時々入る補正でつじつまを合わせるだけだが、カロッツェリアのIQ精度技術では正確に追従するという。

 他にも、GPSが全く取得できない複数階からなる駐車場内をらせん状にグルグルと移動したケースで、他社製品ではその駐車場出口から道に出た瞬間、自車位置がどこでどの方向に向いているのかが把握できず、そこからのルート案内に支障が出てしまうことが多い。しかし、カロッツェリアのIQ精度技術では駐車場出口を出た瞬間から正しいガイドができるという。筆者も、サイバーナビ・ユーザーだが、地下駐車場を走っていて駐車場内の自車位置までを捉えている画面を見て「凄い」と思ったことがある。

「GPSからの電波を用いた自車位置算出も、我々はビル群に反射した電波への配慮なども行なっています。『20年積み上げてきた自車位置検出技術の総称』というのはそういうことなんですよ」

 IQ精度技術とは、GPS技術、自律航法ユニット精度、そしてインクリメントP株式会社の地図データ量、それらの総合力によって実現されているものなのである。

大きな交差点での複雑なレーンチェンジも、イラストでわかりやすく指示。実地調査の賜物だ

 カロッツェリアのカーナビは、とにかくナビゲーションの精度が非常に高い。東京都内やその他の大都市では、カーナビ業界にとってのいわゆる「難所」というものがあり、その場所を経由するルートが検索されるときには、「難所」専用の特殊な処理が入るような工夫がなされているそうだが、カロッツェリアカーナビは、筆者が住むさいたま市のような、都心部でないところ、つまり、「難所」でないルート探索の精度が高いように思う。

 例えば、2006年、筆者がテストした某社のカーナビでは、筆者宅の前の道から国道に導くまでのルートが、どうしても実際には通れない道をルートに含めていた。筆者の愛用しているサイバーナビは、2001年モデルですらそういうことがない。

 カロッツェリアのカーナビは、自車位置精度も高いが、案内精度も高いのだ。

「それはやはり、地図データの情報量の差ですね。カロッツェリアカーナビの地図データを手がけているインクリメントP株式会社では、日本全国延べ200万キロを実際に走行し、道路上のほぼ全ての交差点で資料写真を撮ったり、様々なデータを取得するなどして、実測データの蓄積を長年に渡っておこなっています。たとえば、地図上では明らかに公道なのに、なぜか道に杭が打たれて通行不可にされているところがあったりするんです。そういうところにはルートに引かないようにします。また、地図上は道が曲がっていたり、交差点になっていたりするのに、実走行してみると”道なり"にしか感じられない場所があります。他社製品ではそうした道で”曲がれ"という指示をしてしまうところを、我々の製品ではドライバーの感覚を重視して、それがなかったりします。これもやはり現場に行って確認しています。もちろんお客様からのフィードバックなどもあるのですが、とにかく実際に手作業というか、足を使って情報を集めています」

VICSとスマートループの道路情報カバー率比較。左のVICS 7万kmに比べると、右のスマートループの70万kmがどれほどの規模かわかる
カロッツェリアとサーバーのあいだでリアルタイムに情報のやりとりをおこなう「リアルタイムプローブ」
ドライブ後に実装データを一括してサーバーに送信する「蓄積型プローブ」

 スマートループ機能は他社カーナビにはない、カロッツェリアカーナビだけの特徴的な機能だ。

これは道路交通情報通信システムが提供する道路状況情報、いわゆるVICS情報とは別に、実走行している車両からリアルタイムな道路情報を取得し、ルート案内や効率の良いドライブ提案に活かそうとする技術だ。

 前回のレポートで評価した楽ナビの最新モデル「AVIC-HRZ900」でも、このスマートループ機能は実装されており、その技術世代はサイバーナビと同等のものとなった。

 前回でも触れたようにスマートループは、「AVIC-HRZ900」をはじめとする上位機種では、日本全国120万キロの車両走行可能な道路のうち、道幅5.5km未満を除いたほぼ全域に近い70万キロのリアルタイム道路状況をカバーできるシステムへと進化した。VICS情報は幹線道路のみ7万キロのカバー率なので、スマートループはそのおよそ10倍の網羅性があると言うことになる。

 網羅性という意味では、ほぼ行き着くところまで行ったという印象があるわけだが、今後、スマートループはどう進化していくのだろうか。

「今後の焦点は、やはり情報としてのより一層の"質の向上"があります。確かに数値上の網羅性はかなりのところまで来ましたが、スマートループのようなプローブ型の情報収集システムというのは、いかに多くの情報を集められるか…、そしていかにその情報を解析してサービスに活かしていくか…といった点が重要になるのです。例えば、我々のスマートループに参加していない車両で渋滞している道路と、誰も走っていない空いている道路があったとしますと、スマートループで取得される情報は共に『走行車無し』となるわけです。これは正確ではありませんよね。スマートループでは、リアルタイムな情報だけではなく、走行後にまとめて転送される蓄積型の情報もありますので、そうしたデータを元に高度な渋滞予測情報が構築できます。スマートループへの参加者が増加すれば、システムが取得する情報が累積的に構築されていきますから、今後、そうした状況に対しても信頼性の高い情報がお客様に還元できると思います」

 このスマートループが展開しているプローブシステムは、実は一部自動車メーカーも独自に同種技術を開始している。自動車メーカーが展開するプローブシステムは、自動車メーカー純正カーナビに仕込まれるため、車種によっては潜在的にプローブシステムに参加できている車両はかなり多いのだという。

 現在、カロッツェリアのスマートループはホンダのインターナビ・プレミアムクラブと提携を行い、それぞれが得たリアルタイム走行履歴データを共有している。そして、先頃、日産のカーウィングスもこの相互連携に参加することが決定した。こうした連携により、今後、ますますプローブシステムの質が向上するだろう。

 なお、各社でやりとりするのはプローブ情報の生データであり、そのデータをどう料理するかという部分については各社が開発した技術やサービスに依存するという。パイオニアとしては、利用できるデータが他社と同一であっても、より優れたサービスを提供するための、新たな応用技術の開発に意欲を見せている。

 スマートループの今後の展開がますます楽しみになってくる。

「これからさらに重要視されるのはリアルタイムの情報をいかに正確に早く取ってこれるか。道路って言うか、地図って毎日変化している生き物なんですよ。例えば建物の名義変更、お店の移動なんてのはリアルタイムで起こっているわけです。通信機能を活用したリアルタイム機能はこれからますます力を入れてゆくべきところでしょうね」

 現在、急速にモバイル通信網の整備が進んでいる。携帯電話を利用したデータ通信の浸透はもとより、WiMAXといった新世代ネットワーク技術の整備も進んできている。

こうしたネットワーク技術の進化の中で、カーナビはどういった進化を成し遂げていくのだろうか。

「今後、ますますリアルタイムな情報活用が進むと思います。ただ、それがお客様にとって面倒と感じられるようではダメだと思うんです。普段のドライブで、日常的にカーナビを使っているだけなのに、裏では高度なリアルタイム情報のやりとりがおこなわれ、カーナビにそのときの最新情報が反映されている…。こういった感じで使えないとダメでしょう」

 筆者は、カーナビとGoolgeストリートビューが連動するようなモードがあったら、初めて行った施設の駐車場の入り口とかが分かりやすくていいのに、と考えたことがある。カーナビからインターネットなどに常時接続ができるようになれば、決してできなくはないはずだ。このアイディアが実現可能かどうか伺ってみた。

「技術的に可能かどうかといわれれば可能でしょうし、エンタテインメントとしては良いかもしれません。ただ、カーナビが提供するリアルタイム情報として適切かどうかは、議論の余地があるかも知れませんね。道路の交差点の風景の写真を活用するのは問題になりませんが、施設の入り口となると民間の建物となるので倫理や権利の問題もありますから。ただ、今の高速道路入り口の案内CGイラストのように、写真を元にCGに起こしていく…というアプローチはアリかも知れません」

 ただ、一般ユーザーの意見として「駐車場の入り口が分かりにくいことがある」というのは寄せられる意見としては多いのだそうだ。

パイオニア 山崎氏と筆者。いちばん気になるのは、ナビ子さんの今後!?
カロッツェリアの音声コマンド機能を利用する際に登場する「ナビ子」さん。日時や時間帯によってありえないくらい多彩に衣装が変わる、こだわりキャラクターだ

「人間の目的地はある施設だけれど、車の目的地はそこから離れた駐車場…というような、人間と車とで目的地が不一致となるケースは確かにありますし、この問題は重要なものとして我々も捉えています。現在は、我々はスマートループでそうした課題について取り組んでいますよ。
例えばお客様が百貨店を目的地に設定して、その付近の駐車場で車を停めて、買い物をし、一定時間の停車のあと、再び動き出してそこから出たとします。こうした情報はスマートループ技術によってサーバー側に反映され蓄積されていくと、そこが『百貨店に関連した駐車場である』という推測情報として構築されます。こうした情報が蓄積された頃に実地検証して、地点更新データとして提供することはできます。今よりも一層、ネットワーク技術の整備が進んでリアルタイム情報のやりとりが一般化すれば、どんなに小さい施設についても、こうした情報を短期間で構築できますし、お客様にもスピーディに提供できるようになります」

 さらに、スマートループは今後のネットワーク技術の整備と、それに合わせてカーナビが進化することで、全く新しい車内体験をも提供できるようになるかも知れない、と山﨑氏は予見する。

「車の走行状態と関連した情報を集積・活用すれば、いまよりももっと面白いことが実現できるかもしれないですね。
最近は、『車がつまらない』なんてことが言われ始め、ついには『若者の車離れ』なんていう現象も起こりつつあるようです。自動車そのものの開発は自動車メーカーさん達におまかせしますが、我々としては、車に乗ることが楽しくなるような車内体験をどんどん提供したいと考えています」

 カロッツェリアのいちユーザーである筆者としては、カロッツェリアカーナビのガイド・キャラクタの「ナビ子さん」の進化も、次世代の「楽しい車内体験」として期待しているわけだが、次世代機でナビ子さんが3Dグラフィックス化されたりはしないのだろうか。

「ははは。秘密です。要望として受け止めておきますね(笑)」

(トライゼット西川善司)

carrozzeria | カロッツェリア
http://carrozzeria.jp/

パイオニア、カロッツェリア HDD楽ナビ4機種 - エコドライブ支援機能を装備し、カスタマイズ性を強化(Car Watch)
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20091001_318735.html

 

パイオニア、地デジ対応の7型HDDナビ「HDD楽ナビ」新製品 -40GB搭載4モデル。SD/USB再生対応の「楽ナビLite」も(AV Watch)
http://av.watch.impress.co.jp/docs/news/20091001_318775.html