今回のドライブで個人的にもっとも興味があるのが、「新空気循環メカニズム」である。こういうエアフローを使った冷却設計というのは、以前からあったのだろうか。メカ機構系を担当した谷本克彦氏に伺った。
谷本:以前世界初のBlu-rayとDVDコンパチブルドライブを出したんですが、その時が空気循環メカニズムの第一世代になります。当時はファンモーターも併用してましたが、今回は循環メカニズムの見直しと電気部品の消費電力低減、そして騒音の低減をやりまして、ファンを不要にしました。第一世代の弱点は、ディスクの低回転時に内部温度上昇抑制効果が薄れるところだったんですが、第二世代ではディスクの低回転時に少ない回転で発生する風を効率よく集めて、レーザーダイオードなどピックアップ部の熱いところに当てるわけです。
- そもそも平たい円盤が回転させることで、そんなに風が起こるものなんでしょうか?
谷本:ディスクを回すと、ディスク内周の空気が外に向かうので、中心部の気圧が下がるんですよ。内部は密閉されてますので、その足りなくなった空気をどっからか拾い集めなきゃいけない。そこで図の@から吸い込んでAのスリットから吹き込みます。一方ディスクの回転で外に向かった空気は効率よく集めらめて、Bのようにピックアップ部にある熱源や、そこから分かれて下部の基盤部に吹き付けます。
- この真ん中にスリットが5つありますが、これは奇数のほうがいいわけですか?
谷本:このスリットの数は、ディスクの回転速度により発生する4,6,8分割のディスク共振と合致しないように設定しました。これはディスクの共振を避けるという目的があります。ディスクが共振するときにはいくつかのうねりのパターンがあるわけですが、偶数だとディスク共振を悪化させてしまい、そのうねりにはまってしまう。このスリットの数というのは、結構重要なんです。
ファームウェア・メカ制御系担当 大野憲一氏
ファームウェアとメカ制御系を担当した大野憲一氏は、その難しさをこう語る。
大野:Blu-ray2層読み出しの難しさは、今読んでる層じゃない別の層からの光が戻ってくるところです。我々は迷った光、「迷光」と呼んでいますが、これがトラッキング用の制御信号を乱してしまうんですよね。その迷光の中で、いかにレーザーの焦点を今読み出しているトラックの真ん中に乗せるか。迷光が混じったトラッキングの制御信号から本来の信号を電気的に検出する技術ですとか、ピックアップでもなるべく迷光が入らない工夫をしました。
ピックアップ光学系設計担当 川村 誠氏
川村:記録内容の信号を受けるのがメインビームですが、トラッキングサーボ信号の読み出しに使うのはサブビームです。サブビームはメインビームよりも弱い光を使うわけですが、その弱い光に迷光がかぶってしまって、S/Nが悪くなってしまうわけです。そこでメインビームとサブビームの比率を変えてやり、また迷光の影響を受けづらい位置にサブビームの照射位置を調整しました。こういうことは従来の赤系メディア、DVDやCDでは余り考えなくてもよかったことなので、ただでさえ精度が必要なBlu-rayのピックアップで、さらに気を使った点ですね。
ファームウェアのシステムコントロール設計担当 松本訓生(くにお)氏
松本:再生が止まってしまう原因として、やっぱり傷、汚れっていう問題はよくありますね。パワーリードは、読めるか読めないかぎりぎりの汚れとか傷に、効果を発揮します。通常はデータを間違いなく一生懸命読もうとするので、そこで映像がふっと止まったりするんですけど、パワーリードを使えばそのストレスがまったくなくなる。おそらくユーザーさんも、ほとんど動作したかどうかは気づかないでしょう。ただこの機能の効果を確認するというのが、非常に難しくて。我々もテストでわざと傷を付けたりして読みづらいディスクを作るんですけど、我々が作ったディスクだと傷つけすぎて全部エラーになってしまうので、パワーリードがONでもOFFでも関係なくなってしまう(笑)。そういう難しさがありましたね。ただ本当に自然にできたディスク傷っていうのは、一部エラーになってもまたすぐに読めるといった繰り返しになりますので、その読めないところを「0」で補完してあげることで、再生が先に進むというわけです。
安全性という意味では、さらにディスクそのものを守る仕組みにまで心血を注いでいる。Blu-rayの場合は、ディスクと対物レンズの間が0.3mm程度しかない。もし何か問題があってぶつかってしまったら、ディスクもレンズも無事では済まないだろう。だがPioneerには、ユーザーのディスクを絶対に傷つけないというポリシーがある。
大野:たとえばディスクに大きな傷がある時など、通常は焦点が合わなくてレンズがディスクに近づこうとします。ですがレンズとディスクがぶつからないように、焦点が外れたことをすぐに検出して、アクチュエータでレンズを下に引っ張る工夫をしています。
- 当たりそうというのは、やっぱりレーザーを照射してみて反射を見ながら距離を測っていくということになりますか?
大野:そうですね、まず当たる寸前には合焦点から外れるので、外れた瞬間にすぐ引く。合焦点がどういう信号なのかというのをチェックしたり調整するような時も、外れたらすぐ引くという工夫をしていますね。
- しかし再生時には合焦点であり続ける必要があるわけですよね。
大野:フォーカスサーボがちゃんと入っていれば、ディスクが揺れてようが常に同じ距離で動いてくれます。合焦点で居続けてくれればディスクに当たることは絶対にないですね。ですが傷とかがあって光が戻ってこなくなったりすると、制御信号がとれなくなる。フォーカスサーボが外れたなと思った瞬間に、アクチュエータのコイルに掛けられるだけの最大の電圧をハードウェア的にドンと掛けて全力で引っ張るわけです。
コリメータレンズとは、綺麗な平行光を作り出すために使われるレンズで、通常は固定されているものである。これまでPioneerのドライブでは、様々な収差を独自技術である「液晶チルト」で補正してきた。これはDVD時代から、将来Blu-rayになったときに絶対有利と言われてきた技術だが、さらに今回はコリメータレンズまで動かして補正するのだという。
川村:ピックアップではいくつか問題になる収差があるんですが、その代表的なのが球面収差です。従来の赤系のピックアップはコリメータが動かないので、それを液晶チルトを使って補正していました。今回はこれまで液晶に持たせていた球面収差の補正をコリメータで行なうことで、今度は別の収差補正に液晶が使えます。もちろん液晶だけでもやろうと思えばいくらでも収差の補正はできるんですけど、それをやろうとするとどんどん回路規模とか、液晶パネルの規模が大きくなってしまう。必要最小限の部品構成でいろんな収差を補正できるようにするパターンを新たに考案しまして、コリメータレンズを動かすという設計にしました。これで、PUやディスクで問題となるほぼすべての種類の収差を液晶素子と可動コリメータで補正できるようになり、どんな状態でも良好なビームスポットを作り出すことができるようになっています。
もちろん問題は、球面収差だけではない。光軸外の斜めから来た光が上手く結像しないコマ収差、ディスクのソリから来るラジアルチルトといった現象も起きる。これらの補正には、初期段階でのキャリブレーションが重要になってくる。このあたりの回路設計と記録制御を担当したのが、吉田 満氏だ。
吉田:球面収差の補正は、ディスクを入れた直後のセットアップ時に調整します。内周の半径位置で25mmの位置、最初のユーザーデータの開始位置近くです。一方ラジアルチルトによるコマ収差は、そこだけ見ていてもわからないので、記録を開始するときに、内周から外周までを測定して、すべての半径位置で最もコマ収差が少ない状態のプロファイルデータを取っていきます。そして記録中は常に最適な補正を行ないながら、動いていきます。ですからディスクのコンディションが1枚1枚違っても、どのディスクでも最も収差の影響が少ない状態で記録していけるわけです。
- 再生用と記録用の青色レーザーダイオードって、価格も含めそれほどまでに違うものなんですか?
川村:全然違いますね。出力も10倍とか20倍とかそのぐらいのレベルで変わってきます。まだまだ青のレーザーの世界って始まったばっかりなので、ダイオードメーカー側でこなれてないようなことが結構あって、まだコストは高いですね。今もピックアップの部品の中では、レーザーダイオードってダントツに高いんですよ。これが下がらない限り、お手頃な記録ドライブというのはご提供できないかなという状況にあります。
- ですが量産効果が出れば、もとの値段が高いだけに下げ幅も大きいですよね。
川村:あと最近になってレーザーメーカーさんが徐々に増えつつありまして、市場競争というのが出てきています。これから徐々に安くなってきて行くのかなとは思いますね。
そもそもDVDが普及したプロセスを思い返してみると、やはり最初はPCユーザーの間で浸透し、再生のクリアさ、そして記録のおもしろさや便利さが世の中に認められていったという流れがあった。卵が先か鶏が先かという論争は常にあるわけだが、まずそこに至るまでには、最初に再生環境が整うところがスタート地点だろう。
そういう意味では、安定したBlu-rayの再生機能、そして現ドライブをリプレイスしても十分な能力を持つ記録系を備えたBDC-S02Jは、来るべきBlu-ray普及ポイントを想定よりも手前に引き寄せる製品なのかもしれない。
ハイビジョンは一度体験してしまうと、もうSDには戻れなくなってしまう。「ハイビジョンが基準」の時代に向けて、PC世界の最初の一歩が始まったわけである。
= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。 |
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